サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~ 作:ヤットキ 夕一
壁が穴があくように崩れ、そこから人影が飛び出す。
梅里とかずらだ。
それを追うようにして赤い脇侍が姿を現す。
紅蜂隊。紅のミロク直属にして特別な脇侍であり、一般的な脇侍よりももちろん能力は高い。
「くッ!」
「隊長!!」
かずらを庇うように立つ梅里は、あっという間に追いつめられ、振りかざしてきた刀を自らの刀でどうにか捌いた。
「ホッホホホホ!! 朝早くから今まで、本当に長い間ずいぶんと手こずらせてくれたけど、これでようやくおしまいのようだねぇ」
ミロクは心底楽しそうに言う。
梅里とせりがミロクに発見されたのがまだ朝だったが、とにかく逃げ回ったおかげですでに午後にまでなっている。
諦めずに追いかけ続けたミロクも随分としつこいが、あの二人についてミロクが「もういいだろう」と思いかけたころに見つかるものだから
ここまで苦労したのだから気分も高揚するのも無理はなかった。
「勝手に、終わらせるなよ!!」
しかし、梅里はあきらめない。紅蜂隊の猛攻を、梅里はどうにか捌き続ける。
「おやおや、強がりだけは一人前だねぇ。後ろに人を庇ったその状態で、いったいいつまで保つかしら」
「隊長! 私のことはいいから、戦ってください!!」
かずらが必死に叫ぶ。
自分の目の前では梅里が傷ついていく。その光景はあまりに残酷だった。
反応が致命的に遅れかけ、叩きつけるように庇った手の甲から、シルスウス鋼製の籠手がちぎれ飛んだ。
掠めた切っ先が、戦闘服どころか中に着込んでいた鎖衣を裂いて、その下の体を傷つけて戦闘服を赤く染める。
「愉快愉快。おお、そういえば貴様の名前、聞いておらなかったな」
「帝国華撃団夢組隊長、武相 梅里……」
「おやおや、意外に大物じゃないか。そして素直に言うとは、死ぬ覚悟を決めた、ということかしら?」
「違うね。悪いが、簡単に命を投げ捨てないって最近、約束したもんだから、そう簡単にあきらめられないんだよ!」
梅里が話している間も、紅蜂隊の猛攻は続く。それをことごとくを捌いていくのだが、それでも捌ききれなかったものが体を傷つけていく。
「隊長! 隊長ーッ!!」
かずらは必死になって叫ぶ。自分を庇わなければ、その位置という縛りがなくなれば、この目の前の人は、きっと赤い脇侍なんてあっという間に倒せるのに。
「名前を名乗ったのは、おまえを倒す相手の名前くらい、あらかじめ知っておいた方がいいと思ってね!」
「オーッホッホッホ、それは親切にどうも。お礼に──」
言葉を切ってミロクが手をかざす。
するともう一体、赤い脇侍がミロクの前に生まれた魔法陣から這い出るように姿を現す。
「もう一体だなんて、そんな……」
かずらの顔が青ざめる。
勝てるわけがない。だが──
「──奥義之弐、半月
前に横に並んだ2体を相手に、梅里は刀を瞬時に逆手に持ち替え、自らの前の地面を切っ先で半円を描くように刀を振る。
それを追って地面に沿った半円型の光の障壁が生じるや、押し寄せたそれは2体の赤い脇侍を巻き込む。
「なにッ!?」
そのうちの、先に梅里と戦っていたものの方が、くらったダメージが限界を超えて動きを止める。
梅里はかずらから見れば防戦一方だったが、それでもきっちり反撃を加えていたのだ。
「おのれ、小癪な……やれ!!」
残った一体が再び襲いかかる。
今度は先ほどよりも攻撃の鋭さ、早さが上がった。
「ぐッ! はがッ! ──ぅッ!!」
そして今度こそ防戦一方の梅里。
さっきの技を放った消耗や、今まで蓄積したダメージもあって、捌ききれない攻撃が増えている。
「隊長! もういいです! 私なんかのために、隊長が傷つくだなんて!!」
「なんか、なんて言うもんじゃ、ない……」
構えた刀で圧倒的に大きな敵の刀を受け、それを弾く。
梅里はまだ抵抗の意気を見せた。
「隊長、あきらめてない……」
その姿勢に驚かされる。
守られているだけの自分が、先にあきらめていいのか。
そんなはずがない。
(守られてるだけなんてイヤ! 私も、隊長と一緒に戦って……)
そこで気が付く。そう、自分はあの上野での戦いで、本当にただ助けられただけだった。
幼い子供を助けたことは間違いない。しかしかずらは梅里には助けられただけでなにもできなかった。サポートさえ満足にできなかった。
梅里にとってはかずらは、かずらにとってのあの子供たちと一緒なのだ。
並び立ち共に戦う者ではなく、庇護すべき対象。
それならば戦場に連れて行ってもらえないのも無理はない。
そして今も足を止めて必死に庇っている。まるで雛を外敵から守る親鳥のように。
それを見て、心が震えた。
自分は、そんな立場で我慢できない。
あの人の横で、一緒に戦いたい。
その力が、私にはあるはず。
乙女組で皆に言われた。「かずらはすごい」「あなたの霊力は強い」「その力で帝都を守れる」と。
だから──
「私は、私は、守られているだけじゃなぁぁいッッ!!」
──かずらは叫んだ。その喉に、声に、霊力を込めて。
そしてかずらの大声に呼応して、彼女の霊力が一気に爆発し、強烈な衝撃派となって放たれた。
「なにィィッ!!」
それに思わずミロクが声を上げる、
梅里の前にいた紅蜂隊が吹き飛ばされ、廃屋の壁へと叩きつけられてその動きを止めたのだ。
その紅蜂隊の後ろで戦いを、高みの見物をしていた当のミロクもまたその波をまともに喰らい、廃屋の壁へと叩きつけられている。
「おのれぇ、小娘がぁ!!」
鬼の形相へと変わるミロク。
だが──
「む、準備が整ったか」
冷静さを取り戻したらしく表情が元に戻り、叩きつけられた壁からふわりと離れると、地面に降り立つ。
「自らトドメをさしてやりたいものだが、
打って変わって余裕の表情で、先ほど同様にミロクが手をかざす。
新手の紅蜂隊が姿を表す。
その数、今度は2体。
そしてミロクは高笑いと共に、その姿がかき消すように居なくなった。
「マズい……」
焦る梅里。おそらくミロクは幽霊屋敷に戻ったはずだ。
あの屋敷自体が持ち、ミロク達を邪魔していた霊力をどうにかしたのだ。
そうなれば、ヤツらの行動を止められる者はいない。
「くそッ!!」
気持ちは焦るが、目の前には紅蜂隊が2体いる。
先ほどは梅里自身で一体を倒したが、あれは傷つきながらも長い時間かけてようやく倒せたという話だ。状況的にはほぼ1対1の状況で。
先ほど吹っ飛ばされたもう一体が動きを止めているのは不幸中の幸いだが、無傷の2体を相手に、今の梅里では倒すどころか、どれだけ戦えるかさえ分からない。
「……隊長」
梅里の戦闘服の端をギュッと握られる。
「かずら、ちゃん?」
そっと様子を伺えば、かずらが立っていた。
先ほどまでとはうって変わった雰囲気をまとって。
「隊長、私も戦います。私、守られるだけの存在じゃありません。私だって、帝国華撃団なんです! 夢組の、一員なんです!!」
「そっか……いや、そうだよね」
梅里がかずらを見る目が変わった。
守るべき弱い者を見るそれから、共に戦う強き仲間を見る目へと。
「隊長、やりましょう!」
「ああ。今ならあんな奴ら、一気に倒せる」
梅里は確信できた。
そして刀を構え、かずらはバイオリンを構える。
「──武相流剣術、奥義之参・満月陣」
梅里が霊力による銀色をした球状のフィールドに包まれた。
「我、奏でるは清めの調べ──私の想い……穏やかに、でも高らかに……響きわたって……」
一心不乱に旋律を響かせるかずらが美しい声を出し──
「満月陣・
それに呼応して、梅里が纏うフィールドが色をそのままに細かく振動する。
かずらの霊力が込められた演奏と共鳴しているようであり、さながら音叉のようでもあった。
「「
梅里とかずらの霊力が同調したとき、梅里の姿がゆらりと残像を残して消える。
流れるように、2体の赤い脇侍──紅蜂隊に近づくと、その反撃を舞うようにかわしながら「キン!」と甲高い音が鳴り響かせつつ、通り抜け──戻りざまに再び同じ音を立てながら2体の間を抜け──かずらの元へと戻ってくる。
バイオリンを奏でるかずらを背に、きちんと直立した梅里が刀をクルッと一回転させて腰の鞘に納める。
すると、2体の紅蜂隊はそれぞれ二本の太刀筋によって十字に切り裂かれて瓦礫となり──機関が爆発した。
梅里とかずらがお互い構えていたものを戻し、「ふぅーッ」と息を吐く。
そうしてお互いに顔を見合わせ、笑顔を浮かべた。
──が、梅里の限界はそこまでだった。
ガクッと力が抜けて、意識が飛ぶ。
「きゃあああ!! 隊長!? 隊長!!」
倒れてきた体を慌てて支えるも、さすがに小柄なかずらではそれを支えられるはずもなく、一緒に倒れ込む。
倒れ込んだ際に、梅里の顔がかずらの顔に近づき──
「キャッ!──ッ!?」
その唇と唇が一瞬触れあう。
バタンと倒れ、かずらの上に多い被さるようにして倒れた梅里。
「あ……うぅ……」
かずらは突然のその事態に呆然としながら、自分の唇に指を這わせ──しばらくそのままで固まっていた。
駆けつけて発見した夢組隊員達が、梅里がかずらを押し倒したように見えるその光景を、「ちょっと、なにしてんのよー!!」という大きな叫び声が響きわたるまで呆然と見続けていた。
【よもやま話】
戦闘シーン。
霊力の爆発は、サクラ大戦3の花火が覚醒してコルポーを吹っ飛ばすシーンを思い浮かべていた──はずが、大声で敵を吹っ飛ばすワギャンランドのスーパーワギャナイザーになってました。
ちなみにかずらも霊力は強いですが、梅里同様に霊力の質の関係で霊子甲冑を動かせません。
例によって合体必殺技は「満月陣・響月
「あなたのための小夜曲」もしくは「小夜曲をあなたに」という意味です。
ちなみに「serenade」はセレナーデのこと。サクラ大戦3の敵、さっき挙げた花火覚醒のシーンで吹っ飛ばされたコルポーが乗っていた蒸気獣・セレナードの名前の元になった音楽です。