サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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─3─

 

「……僕が来たのは、特殊部隊への入隊のはずだったよな」

 

 塙詰しのぶに案内されて大帝国劇場に入った梅里はそうつぶやいていた。

 入ってすぐ横を見れば、舞台役者のブロマイド等が並んだ売店があり、快活そうな娘

が売り子をしている。

 今は客足がちょうど途切れたようで、彼女は入ってきた梅里達を見たようだが、しのぶが軽く頭を下げると売り子の娘もまた会釈を返していた。

 

(よく来るお得意さん的な扱い? それとも……この人も劇場関係者ってこと?)

 

 続いて売り子が梅里を見たので目があった。そばかすが印象的な茶色いセミロングの髪の娘だった。

 

「いらっしゃいませ?」

 

 戸惑ったように言う彼女に対し、しのぶは手を横に振って「違う」と言わんばかりにジェスチャーを送ると、売り子の娘はさらに困惑したかのような顔を浮かべた後、それを苦笑に変えて梅里を見送り、梅里も思わず軽く会釈を返しながらしのぶとともに先へと進んだ。

 そこからエントランスと抜けると、そこにあったのは食堂だった。

 多くの白いテーブルが並んでおり、それに合わせてイスが設置されている。

 さらには上が吹き抜けになっており天井が高い上、奥は大きな窓ガラスになっており、今までよりも圧倒的に明るい上に開放感を感じさせられた。

 その食堂の脇を抜けるように通路を通過している最中、声をかけられた。

 

「あ、しのぶんさん。ちょうどよかった」

 

 そう言いながら近づいてきたのは、肩付近までの長さの髪の毛を後頭部で左右二つにまとめた髪型をした女性だった。

 年の頃は梅里と同じくらいだろうか。エプロンのようなものを付けた彼女は食堂の給仕のように梅里の目には映った。

 

「あら、せりさん。どうかなさいましたか?」

「支配人からの伝言なんですけど、急用ができたからこっちじゃなくて支部の方に連れてきてくれって」

「ということは浅草、でしょうか」

「そういうことらしいわ。ごめんなさいね。こっちまで無駄足かけちゃって……」

「いえいえ。せりさんは伝言頼まれただけでしょう? 謝る必要なんてありませんよ」

 

 そういうしのぶに対し、せりは申し訳なさそうに苦笑を浮かべ、それからは不満を爆発させた。

 

「そうよ、一番悪いのは支配人なのよね。支配人ったらしのぶさんが出かけた直後に来るんだもの。もう少し早ければ……」

「まぁまぁ、今から行けばいいんですから」

「……私としては、しのぶさんに早く戻ってきて欲しいところなんですけど」

 

 少し意地悪い笑みを浮かべる給仕に対し、しのぶは苦笑を浮かべる。

 すると今度は梅里をチラッと見てその給仕はしのぶに声を潜めて尋ねた。

 

「で、そちらが例の?」

 

 潜めたところで梅里もすぐ近くにいるのであまり意味はなく、聞こえてしまっている。

 それに気づいているのか、しのぶは困惑した様子で答えた。

 

「ええ、まぁ……案内を頼まれている方で間違いありません。武相 梅里様です」

 

 それからしのぶは梅里を振り返る。

 

「武相様、こちらの方は大帝国劇場食堂に勤務してる白繍(しらぬい)せりさんです」

「どうも、初めまして」

 

 紹介され、梅里は頭を下げる。が、ふと「なんで紹介されたんだろう」と疑問が浮かぶ。梅里は特殊部隊に入るはずで、その案内を受けているはず。劇場の食堂の給仕を紹介されるような場面ではないような気がするのだが。

 

「こちらこそ初めまして、武相 梅里さん。ふーん……」

 

 一方、その給仕は梅里のことを値踏みするように見てから、

 

「やっぱりティーラの言ってた服装で当たってたのね。それなら支配人の予定変更まで見てくれればよかったのに……」

 

 と、ポツリとつぶやいた。

 

(当たっていた? 服装が?)

 

 なにか引っかかる言い方だった。

 

(合っていたではなく、当たっていた? まるで予想みたいな……)

 

 そうこうしているうちに、しのぶはせりという給仕に別れを告げて、食堂から再び売店のあるエントランスへと戻ろうとしていた。

 

(そういえば、今まで全く気にしなかったけど……)

 

 梅里はあることに気がつき、しのぶに声をかけた。

 

「塙詰さん、一つお聞きしたいんですが……」

「なんでしょう?」

 

 歩きつつこちらをわずかに振り返ったしのぶに問う。

 

「なんで、僕が武相 梅里だってわかったんですか?」

 

 梅里が華撃団の関係者で会ったことがあるのは藤枝あやめと米田一基のみだ。

 それ以外に面識はないし、知り合いが入隊しているという話も聞かない。

 

「あの辺りにいた他の人にも同じように聞いて回ったわけでもなさそうですし──」

 

 華撃団が特殊部隊であるならそんな目立つことはできないだろう。

 

「──初対面だったのに、よく分かったなぁと思いまして」

 

 資料にあった写真を見たから、とも思ったがしのぶが声をかけてきたのは背後からだ。近くで顔を確認したわけではないだろうし、もちろん背後からの写真までは資料にないだろう。

 言わば手がかりがまったく無かったはずなのに、しのぶは迷うことなく一回で正解を捜し当てている。梅里が待っていた上野公園にはそれなりに人がいたのだから、偶然だというのならあまりに幸運をあてにしすぎた行動と言えるだろう。

 はっきり言って不自然だった。

 だが、それに対するしのぶの答えは余計に梅里を混乱させるものだった。

 

「そのことでしたらティーラさんから武相様の今日の服装を聞き及んでいましたので」

「今日の服装?」

 

 それこそあり得ない。

 今日、汽車に乗る際にも上野に着いてからも連絡を入れていないのだから、もちろん服装を伝えられるわけがない。

 

「ええ。洋装のシャツとズボンに和装の羽織姿とその色まで。赤色──濃紅梅(こきこうばい)の羽織は珍しいですからすぐわかりました。ティーラさんの予知、百発百中なんですよ」

 

 しのぶはそう言ってにっこりと笑った。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 再び場を変えて、今度は浅草へと移動した梅里としのぶ。そしてまた二人は場違いな場所にやってきていた。

 帝都の浅草という土地柄、広大な面積はとれなかったものの、限られた敷地内にアトラクションがひしめくここは「花やしき」という遊園地だった。

 さすがに一度、大帝国劇場にいっていたのと、その劇場で浅草に行くような話をしていたので最初のような驚きはなかったが、やはり「特殊部隊への入隊」という当初の目的からはかけ離れているようにしか見えず、戸惑いは増すばかりだった。

 

(しかしそれにしても、さっきは予知って言ってたよね)

 

 梅里の服装を予知して知っていた人がいたらしい。

 仮に霊力を使ったものであれば、それはかなり珍しい才能を持ったものがいるのだと梅里は思った。自分も家の役目で霊力を使う者として培った経験がそう教えてくれる。

 しかもそれを漠然としたものではなく、『濃紅梅(こきこうばい)』という服の色まで見通すのはもはや異常だった。

 

「あれ? しのぶさんじゃないですか。どうしたんですか?」

 

 梅里がそんなことを考えながら歩いていると、敷地に入ってまもなくの場所でまたもしのぶが声をかけられた。

 今度は梅里よりも年下な雰囲気の女の子だった。髪を後ろでまとめ一本の三つ編みにしている。その服装は緑の袴を履いた女学生といった出で立ちだった。

 人懐っこそうな笑みを浮かべてしのぶの方へやってきた彼女は、すぐそばにいた梅里を見て、軽く会釈する。

 

「えっと……しのぶさんの、彼氏さん?」

「「違います」」

 

 奇しくも梅里としのぶの否定の声が重なった。

 

「わッ、息ピッタリ……」

「支配人のところへ案内している最中なんです。かずらちゃんこそ、どうしたんですか?」

「私は、正式に乙女組から昇格が決まったので。それで支配人から辞令を受けまして」

「あら、それはおめでとうございますね、かずらちゃん。そしてこれからよろしくお願い致しします。やはり今まで通りウチへでしょうか?」

「ええ、そうなんですよ。ご指導ご鞭撻よろしくお願いします。それと、どうやら本部勤務みたいなので」

「あらあら。ということは食堂ですか?」

「いえ、私は特例で楽団所属みたいなんです。演奏は私の唯一の取り柄みたいなものですから助かりました。給仕って言われていたら困っていたところですよ」

 

 そう言って苦笑を浮かべるかずらという娘。

 

「そんなことありませんよ。かずらちゃんならあの服、きっと似合っていたと思いますよ」

「いえ……服はちょっと着てみたかったとは思ってますけど……私、おっちょこちょいですし……」

 

 梅里を置いて話を続ける二人。だが、緑の女学生は梅里が気になるようでチラチラと見ている。

 

「あの、しのぶさん。それで、こちらの方は?」

「武相 梅里様です。今日付けで華撃団に配属になった方なんですよ。武相様、こちらは伊吹かずらちゃんです」

「「どうも、はじめまして」」

 

 今度は梅里と女学生の声が重なる。その状況に当の本人である梅里とかずらは思わず笑ってしまった。

 

「わ、私も、今日から華撃団の隊員に正式になったんです。よろしくお願いします」

「そうなんだ? 奇遇だね」

 

 梅里が笑顔で応えると、かずらという名の女学生は慣れていないのかちょっと顔を赤くしてさっと距離をとるとペコペコと頭を下げた。

 

「こ、これからよろしくお願いします」

 

 挨拶を交わすと、かずらと別れ、彼女がやってきた方へと向かう。

 関係者以外立ち入り禁止の事務所の中に入り、さらにはその奥へと進む。

 その間、誰にとがめられることもなく進み、やがて下り階段を下りて地下へと向かう。

 その施設の奥の扉の前でしのぶはようやく足を止め、扉をノックした。

 

「支配人、しのぶですが……武相梅里様をお連れしました」

「おう、やっとかい。入んな」

 

 応対したぶっきらぼうな声に従ったしのぶに促されて、梅里は扉の中へと入る。

 その部屋にいたのは、梅里も会ったことがある米田一基その人だった。




【よもやま話】
 せり&かずらの登場シーン。初期好感度にけっこう差が出ていて現時点ではかずらの方が好感度が高い。
 ちなみに、梅里の服装がここで初めて説明されていますが、濃紅梅の羽織は幼なじみの鶯歌のチョイスという設定。赤系統の上着の下に黄系統のシャツ、青系統(濃紺)のズボンをはいているのは勇者シリーズ主人公のオマージュです。
 それとサクラ大戦外伝ですので、ちょっとだけ椿を出してみました。帝劇に入ったら真っ先に出迎えるのが彼女ですからね。
 濃紅梅の色がイメージできない方はネットで調べていただけると助かります。正直、色の表現は文字では難しい。
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