サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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 ──話は少しばかりさかのぼる。

 深川で武相(むそう) 梅里(うめさと)が仲間を庇い、ミロクの誇る紅蜂隊を倒したところで力つき、花やしき支部へとかつぎ込まれたその夜のこと。
 深手を負っていた彼は花やしき支部にも設置されている治療ポッドに入れられることとなった。傷の深刻さから医師の大関(おおぜき) ヨモギが真っ先に指示を出したのである。

 ──で、医療ポッドは当然、服を着ずに全裸で入ることになるわけで……

白繍(しらぬい)嬢、隊長の裸体に興味津々なのはわかりますが──」
「──ッ!違うわよ! 私が気にしているのは隊長のケガの具合ッ!!」

 医療ポッドの前で、隣のヨモギの方を見て猛然と抗議しているのは白繍(しらぬい) せりである。彼女のトレードマークである髪を後ろでまとめている左右の短いお下げも抗議するかのようにあわせて揺れていた。
 出動からそのまま来たので、巫女服からデザインされた夢組戦闘服に身を包んだまま。幹部クラスを示す彼女専用に染められた袴の色はシアン色で、帝国華撃団夢組を構成する班の一つを任された、調査班頭(ちょうさはんがしら)が彼女の役職である。
 その彼女から抗議を、普段通りの半眼の目を全く変えようともせずに受けているヨモギの袴は、せりと同様に幹部を示す専用色。錬金術班副頭(ふくかしら)である彼女の袴は深緑色に染められていた。

「そうですか? そちらの伊吹(いぶき)嬢は興味津々で見つめており、探求心で負けてますけど大丈夫ですか?」
「はいぃッ!? な、なにをおっしゃってるのかよくわかりませんッ?」

 せりとは逆側の、ヨモギの隣に立っていた伊吹(いぶき) かずらがビクッと肩をふるわせた後、顔を真っ赤にしながらあたふたと答える。
 彼女の両手は恥ずかしさを体現するかのように両目を覆っていた。
 しかし好奇心に負けたその手のひらは指と指が離れていてスカスカで、顔が赤かったのはヨモギから指摘される前の「うわぁ……」と感嘆していたころからである。
 そんな彼女もやはり夢組調査班副頭であり、二人いる調査班副頭の本部(づき)の方である彼女の夢組戦闘服の袴は萌木色という黄緑だった。
 ただしかずらだけはその白い上位の所々に赤い飛沫が飛んでいる。目の前の梅里が彼女を紅蜂隊から庇ったときに傷を負った時のものだ。

「さすがは調査班の頭と副頭。いったいどこの調査をしているのやら……」
「「なッ!?」」

 二人が抗議の目を向けるが、ヨモギは素知らぬ顔で続ける。

「人が一生懸命治療してお二人の(いと)しい(いと)しい人を救っていたというのに、そのお二人は性的な知的好奇心を満足させているとは」
「ちょ、ちょっとヨモギさん。その言い方は……」
「かずらはともかく、ありもしない事実を捏造しないでもらいたいわね」
「せりさん!? それでは私が興味津々だったみたいじゃないですか」

 そんなかずらの二人への抗議は無視され、言い争うせりとヨモギ。

「ふむ。では愛しくないと?」
「違うわよッ!!」

 即答するせり。

「「──え?」」
「──え? あ!! 違う。今の無し!! ちょっとヨモギ!!」

 慌てて否定するせりである。
 ──と3人が騒いでいられるのも、傷は思った以上に深くとも命に別状はなく、医療ポッドの集中的な治療と、その後のベッドでの養生を行えば早々に復帰できるというヨモギの診断結果があればこそ、であった。

◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 ──しかし、その夢組の「目」である調査班の、本部に常駐しているはずの頭と副頭の片方が花やしき支部にいて本部ががら空きになっている隙をつくように、東京銀座の大帝国劇場付近にある建物の上には不振な人影があった。
 その影へ近づく小さく獣のような──しかし、その姿に該当する動物は存在しない──ものが、体を伝って手元に至ると、その影はそれを握りつぶす。

「──見つけた」

 女の声がそうつぶやいた。
 赤い着崩したような着物と、その髪型は花魁を思い起こさせる。
 巷を騒がせる黒之巣会幹部である黒之巣死天王の一人、紅のミロクであった。
 先の深川での戦いの際、花組との戦いで敗北を悟ったミロクは撤退寸前に使い魔を花組の光武に潜ませていた。
 その成果が今、ミロクの元にもたらされたのであった。



第4話 弱り目、祟り目、台風の目
─1─


 ──さて、話は進んで養生していた梅里が、その花やしき支部の医務室ベッドを離れて復帰した日のことである。

 

 その足で梅里は帝国華撃団の本部がある東京銀座の大帝国劇場にやってきた。

 薄黄色のシャツの上に相変わらず濃紅梅(こきこうばい)の色をした羽織をかけた彼は、自分の職場である食堂を素通りする。

 そのまま支配人室まで進むと、その扉をノックした。

 部屋の主から入るように促されると、梅里はそれに従って中に入り、大帝国劇場の支配人にして帝国華撃団司令である米田(よねだ) 一基(いっき)の前に立つ。

 

「ご迷惑をおかけしました」

「うむ。無事……とはあの時はいかなかったが、命あっての物種だ。こうして復帰できてなによりだな」

 

 米田が笑顔をする横で、副司令である藤枝あやめが複雑な表情を浮かべていた。

 

「梅里くん、かずらを庇っての負傷とは聞いてるけど、無茶をしては駄目よ? もちろんかずらもかけがえのない隊員だけど、それは梅里くんも同じよ」

「はい。せり……いえ、白繍からも散々言われました。それと今回は思い知らされました。自分の勘違いを」

 

 米田とあやめがそろって無言でその先を促す。

 

「かずらがか弱いと思いこんでました。守らなければいけない相手だと。でも彼女は……他の隊員もそれぞれが強く、悪に立ち向かえる力と勇気を持つ者たちだと改めて思い知らされました」

「ま、お前は水戸では一人で戦ってきたからな。仲間って感覚が分からなかったんだろうが……どうだ? いいもんだろ」

「はい」

 

 素直に頷く梅里に、米田とあやめは笑みを浮かべた。

 これでこそ、梅里を帝都に、帝国華撃団に呼んで良かったと思えた。

 それから梅里は真剣な面持ちへと変え、話を切り出す。

 

「──それで、すでに書面では提出している件ですが」

「六破星降魔陣、のことか?」

 

 米田の問いに梅里は頷く。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 梅里も養生中、ただ単に安静にしていたわけではない。

 先の深川での一件で、「楔」を使おうとした紅のミロクが真言を唱えているのを聞いた梅里は、この「楔」が(まじな)いに使うものだと確信できた。それは花組の大神、すみれ、カンナが敵幹部であるミロクから時間を稼ぎつつ聞いた話からも明らかだった。

 それから指示していた調査結果等、仲間の集めた情報を整理し、さらには月組からの情報を加えて、「楔」が上野の寛永寺に保管されていたものということを突き止めた。

 しかも、それが4月の黒之巣会の襲撃以降に無くなっていたことが分かった。寛永寺が黒之巣会首領の天海がかつて建立した寺であることを考えれば、「楔」の存在をあらかじめ知っていたのだろう。

 そしてその「楔」が設置されているのを芝、築地、九段下、浅草、深川の5カ所で確認し、同時に地脈の流れが歪められているのもわかった。

 京都の陰陽寮出身である夢組副隊長の塙詰(はなつめ) しのぶに地脈のゆがみについて確認したが、かなり深刻な状態になってしまっているという。

 陰陽寮から夢組に来ている隊員たちの力を持ってしても、それを元に戻すのは「楔」という原因をなんとかしないと不可能であり、さらには「楔」が一度設置されてしまえば破壊も除去も相当の時間と手間をかける必要があるとのことだった。

 その地脈のゆがみや打ち込まれた「楔」の場所を参考に、これまた部下の隊員たちによって集められた文献を梅里が読みあさった──養生中で時間が余っていたという幸運もあった──結果、行き着いたのがパトリアーカル十字型、またの名を『六破星降魔陣』と呼ばれる魔法陣である。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「──おそらく当たりだろうな。お前の報告書からそれを前提にこっちも動いてる。よくぞ見つけてくれたな。他の隊長たちも見直していたぞ」

 

 そう言って米田がニヤリと笑う。正直なところ梅里を隊長にしたのは、民間人出身者に囲まれて前任の隊長も梅里同様に軍出身ではなかった大神や、思考が柔らかい加山を除いて、風組や雪組の隊長からはあまりいい顔をされていなかったのだ。

 それが目に見えるハッキリとした成果を上げられたことで、面目躍如となっていた。

 

「でも、それを防がなくては意味がありません」

「そいつはもちろんそうだ。予想される残り一カ所のポイント……代々木だけは絶対に死守しないとな」

 

 米田の言葉に梅里とあやめが大きく頷く。そして梅里が口を開いた。

 

「代々木公園に結界を張るしかないと思います。大規模な作業で目立つことになりますが、最後の一手を防ぐには背に腹は代えられません」

「そうだな。だが直前まではできる限り目立たないように注意しろよ」

「わかりました。結界の規模や強さは深川で「楔」の邪魔をしていた幽霊屋敷の霊圧を参考にしようと思います」

「なるほど、妥当だな。で、すでに打ち込まれちまった「楔」の排除、こいつはどうなってる?」

 

 米田の確認に顔をしかめたのはあやめだった。

 

「難しいところですわ、司令。私たちの知識や技術ではほぼ不可能です。古来から地脈に通じていて、それに関する技術もある陰陽寮へ協力要請をしているのですが……」

 

 それを聞いて米田もまた悔しげに顔を歪めた。

 陰陽寮は夢組の設立時に世話になっているが、夢組の隊長に陰陽寮を取り仕切る家の一つの出身である塙詰しのぶではなく米田の知己である梅里を就けたことで関係は悪化していた。

 軍の部隊を言い訳に軍属の(たつみ) 宗次(そうじ)を隊長にする前提でいたのに、民間人の梅里を隊長に就けたことで「それならば塙詰しのぶでも問題なかったではないか」と反感をかったのだ。

 

「へそを曲げちまってる、と言ったところか? 帝都──いや、この日本の命運がかかっているというのに。暢気(のんき)な連中だぜ、まったく」

 

 陰陽寮からは協力中止や隊員の引き上げ等の表立った行為はないが、すでに所属している隊員はともかく、このように組織として非協力的な姿勢をたびたび見せている。それが米田には歯がゆくて仕方がない。

 

「今はそれを愚痴っていても仕方がねえな。ウメ、代々木の結界、頼んだぞ」

「了解しました」

 

 そう言って敬礼する梅里。

 3月からのこの期間で、梅里の敬礼もだいぶ板に付いてきたのであった。

 




【よもやま話】
 なにげにサクラ大戦の医療ポッドってセクハラマシーンだよな、と思う。全裸で入るのにガラス張りとかあまりにひどい。
 指摘されてムキになるせりもパッと浮かんだけど、手の隙間から見てるかずらもパッと浮かんでしまう。
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