サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~ 作:ヤットキ 夕一
代々木公園で準備を始めた夢組だったが、それを最初に阻んだのは天気だった。
突然暗くなった空からは雷を伴う大雨が降り出した。
事情が事情だけに作業を強行しようと副隊長の巽 宗次から意見が出たが、それに対抗したのは錬金術班の松林 釿哉だった。金属製の大型機材は落雷の確率が高く、人も危険だし、最悪の場合には故障もあるとのことだった。
夕立と判断した梅里は、作業の一時中断を決断する。その後、落雷が落ち着いてから作業を再開をし、いよいよ花組を呼ぶ、という段になって、異常が発生した。
黒之巣会の襲撃である。
「本部への連絡はどうなってる!!」
「通じませんッ!!」
「ならば支部経由で花組の出動要請を──」
夢組が敷いた現地本部の中で錯綜する情報。それを聞いた宗次が怒号をあげる。
「それでは遅い!! 八束ッ!!」
(妨害が酷く、断片的ですが繋がりました。本部も奇襲を受けている模様)
「それが原因か!!」
宗次が思わずその場にあったテーブルを叩く。「ダンッ!」と大きな音がして周囲の者が思わず肩をすくめた。
(二面作戦……状況は敵と同じでも戦力差がまるで違う!)
魔操機兵・脇侍への対応は基本的に花組の霊子甲冑が行う。その花組が本部に釘付けにされている今、代々木公園の戦力で対抗するには余りに分が悪い。
本部にいる花組を半々に分けて欲しいところだが、奇襲を受けている現状ではそれは不可能だろう。
(あまりに厳しい状況だ……)
思わず拳を握りしめる。そこへ──
「申し上げます! 公園中央に敵幹部の魔操機兵出現!! 現在、隊長と除霊班頭が中心になり応戦中とのことです!!」
「そいつが本命だ!! 絶対にくい止めろ!!」
宗次の叫ぶような指示が響きわたった。
代々木公園の地脈ポイントに結界を張る目的で来ていた夢組の封印・結界班が、念をこらし霊力を高める。
「オンッ!!」
その頭である
──だが、その動きは多少鈍っても動きを止めるには至らない。
「バカなッ! 我々の
悔しげに顔を歪める和人。
今なお全力で念をこらしているが、やはり動きを止めらなかった。
魔操機兵が刀を振り上げる。
「南無三ッ!!」
それが振り下ろされようとしたとき、銀の光球が魔操機兵へとぶつかり、それを阻止する。
「隊長殿!!」
和人が快哉の声をあげる。他の封印・結界班の面々もその救援に声援を送った。
梅里が満月陣を発動させて、魔操機兵へと体当たりをしたのだ。
「──ッ! こいつは確か、上野で目撃された……」
この黒い魔操機兵が神威と呼ばれていたものだということに気づく。梅里は離れた場所にいたせいで直接目撃はしていないが、上野公園での戦いで花組と戦ったという記録が残っている。
それが振るう巨大な刀を避けて、避けて、避ける。
魔操機兵と生身の人のサイズ差では受けることは死を意味する。
「生身の体でよくやるものだ! 誉めてやるぞ」
搭乗者である黒之巣死天王の一人、黒き叉丹の嘲笑するような声が響く。
「だが、頼みの霊子甲冑もなしにどこまで戦えるかな」
「どこまでも抗って見せる。お前を倒すまで!!」
避け続ける梅里だが、その動きも徐々に精細を欠いている。
やがて神威の刀が梅里を捉えようとしたそのとき──刀を握る神威の腕に向かって分銅が飛来した。
まさに火を噴いている分銅は、周囲の気流を操作して自在に飛び回り、その後ろに付いた鎖を神威の腕へと巻き付けて、動きを制限した。
「なにッ!?」
突然襲ってきた乗機の腕を引っ張られる感覚に、叉丹は戸惑う。
次の瞬間、鎖を構成する金属の輪が、それぞれの大きさをみるみる縮めた。結果、うねる程の長さを誇っていたそれが、瞬く間にピンと張りつめる。
そして──
「らあああぁぁぁぁぁぁッッッ!!」
雄叫びとともに、縮む鎖に導かれた赤い影が神威を襲撃する。
「くッ!!」
振り下ろされる大鎌の一撃を辛うじて防ぐ神威だが、足に炎の翼をつけたその人影の勢いに押され、バランスを崩す。
そこへ──
「ハアアアァァァァァァァッッッ!!」
満月の光を纏った梅里がそれに続く。
「小癪な!!」
攻勢に転じた梅里と、神威の刀がぶつかり合う。
そのぶつかり合いを背景に──
「こら和人!! ちゃっちゃと縛界を解きんさい!! 戦いの邪魔じゃ!!」
まるで炎のように髪が赤くなった紅葉が叫ぶ。戦闘服の緋色の袴とあわせて、まさに炎の化身のようであった。
その剣幕に押され、和人達封印・結界班は慌てて神威に向けていた捕縛結界を解除する。神威にはさほど効いていない上に、その余波が梅里や紅葉の邪魔をしていたのだ。
縛界を解かれ、神威が速さを増すが、梅里はそれ以上に速くなった。
「ウチも負けていらりゃぁせん! いくんじゃ!!」
解いていた鎖を再び振り回し、分銅を飛ばす。
火を噴出する分銅は蛇の頭のように動き、うねる鎖はその胴のように、神威を翻弄する。
分銅が胴体の一部に巻き付くと、再び紅葉が鎖を縮めて距離をつめる。
「二度も三度も同じ手が通じるものか!!」
動きを読み、それに合わせるように刀を振りかざす叉丹。
だが──紅葉から爆発するように炎が噴出して軌道を変える。鎖を使って神威を中心にして弧を描くように接近し、また途中で炎を爆発させると一気に距離を詰め──
「ここじゃあああぁぁぁぁぁぁッッ!!」
まるでコマのように自身を回転させつつ、紅葉が赤熱した鎌の刃を神威の背中にある機関へと叩き込んだ。
「なにッ!?」
叉丹が焦りの声を出す。
そここそ霊子甲冑で言えば蒸気機関にあたる動力部分だ。停止させるほどのダメージではないが、そこに深手を与えたのは間違いない。
もちろん強固に守られている部位だが、その中でも比較的弱い部分を的確に貫いたのは紅葉の戦いの勘によるものだった。
──だが、
「調子に乗るなよ、霊子甲冑も乗れぬ半端者共がッ!!」
神威のまとう妖力が跳ね上がった。
その余波だけで梅里と紅葉が吹っ飛ばされて距離をあけられる。
着地したものの体勢が崩れている梅里に向かって神威が迫る。
それを庇うように、割り込む人影──
「急々如律令!!」
鮮やかな赤紫色をした袴の夢組戦闘服を身にまとった塙詰しのぶだった。
彼女は手にした山水画が描かれた扇をかざす。それを核にして霊力で具現化した、写し身である巨大な扇が壁となって神威の攻撃を受ける。
たった一撃で砕け散る扇。
だが、それで十分時間は稼げた。
「大地に宿りし浄化の力よ──咲き誇れ!!」
しのぶがもう片方の手に持った閉じた扇をかざし、開く──こちらは晴天から雷雨までの天候が描かれているのが見える──と、それに併せて神威の足下に、一気に白や薄紫色をした霊力でできた花が咲き乱れた。
まるで芝桜のようなそれは──
「舞い上がれッ!! 花地吹雪ッ!!」
しのぶの扇を振り上げる動作に応じるように、生じた猛烈な風が吹き散らすように花を舞い上げ、その浄化の霊力を宿した花びらが神威を包む。
「ぬぅッ!!」
無数の花びらは神威に触れるや爆発的な衝撃となってダメージを与える。特に紅葉が傷つけた場所へ吸い込まれるように花びらが殺到した。
そして、梅里や紅葉が与えていたダメージが重なり、ついには神威の背部にある機関が異音とともに煙が吹き出すと、その機体に火花が散り始める。
「やったか!?」
梅里が、髪を真っ赤にした紅葉が、細い目を険しくしたしのぶがその様子を見つめる。
「クハハハ……思ったよりやるではないか」
「強がるな! お前を止めた以上、貴様達の野望は──」
「オレだけを止めて、それで終わりでいいのか?」
叉丹の言葉は梅里に猛烈な不安をもたらした。気が付けば叉丹との戦闘で地脈のポイントからはだいぶ動いている。
そのポイントの方へと振り返り──愕然とした。
そこにいたのは──
「ふはははは……我が野望を止めようとは、百年、早いわぁぁぁッ!!」
額に赤い瞳のような石が埋め込まれた老人──蘆名天海。
勝ち誇るように笑った天海の傍らには「楔」が浮いている。
「させるかッ!!」
梅里が満月陣を使い、三度光に包まれる。
「させんッ!!」
紅葉が鎖鎌の分銅を飛ばす。
「やらせはいたしません!!」
その横でしのぶが
「──御嬢ッ!!」
突然あがった、付近にいた封印結界班副頭の警告の声に、しのぶはハッと我に返る。
彼女がまとっていた霊力が霧散している間に──梅里の刀が、紅葉の鎖鎌の分銅が届く前に──最後の「楔」が発動した。
そして──帝都に破壊がもたらされた。
【よもやま話】
おお、紅葉が活躍してる……というわけで今まであまりなかった戦闘シーンです。
旧作だともう少しあったので紅葉は活躍できると思っていたのですが、戦闘シーン激減でヨモギの方が出番が多くなってしまっている現状。
ちなみに戦い方は立体軌道装置と炎々ノ消防隊のシンラを合わせた感じです。まったく書き切れてませんけどね。
広島弁はまったく自信がないどころかわからないので『ソーシャル達川君』のお世話になりました。
──そして、ついにしのぶも力を振るう。なにげに単独での必殺攻撃のシーンって梅里と宗次以外では初です。(せりは技の名前が出てますが、発動直後に話が始まったりで使うシーンが出てないのです)