サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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 しのぶを説得した梅里が彼女と共に宗次のところへと戻ると、陰陽寮派の面々がいた。

 それに驚いたしのぶは思わず梅里の後ろへと身を隠しかけてしまう。

 かばう形になった梅里が、その代表である封印・結界班の男副頭から話を聞くと、全員、帝都に残って夢組として戦ってくれることを約束した。

 その様子にしのぶも安堵し、そんな彼女に男副頭以下一同は改めてひざまづいた。

 

「陰陽寮の意向に背いた以上、わたくしはもはやあなた方の代表ではありませんよ?」

 

 そんなしのぶの言葉に、男副頭は「それでも、私たちのリーダーはあなた様です」と退かず、困り果てたしのぶが梅里を見たので「元に戻っただけなんだし、いいんじゃない」と楽観的な意見で納得させた。

 ちなみに、この場に戻ってくる前に、もちろん魔眼は“力”を抜き、しのぶの目はいつもの開いているのか閉じているのかよくわからないような線のように細い目に戻っていた。

 こうして今までとは違って一枚岩となった夢組は、未だ意識の戻らぬさくらを欠いた花組の支援で共に出撃する。

 しかし出撃したものの圧倒的な数の脇侍の前に、苦戦する花組。

 そこに意識を取り戻したさくらが合流して告げた。「敵は日本橋にあり」と──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「さて武相隊長、お前はどう思う?」

 

 機動性を重視した忍び装束のような月組戦闘服を着込んだ月組隊長の加山 雄一に尋ねられ、同じように夢組戦闘服を着た梅里は腕を組んで答えた。

 

「霊子レーダーで見たけど、確かに六破星降魔陣の中心に強い魔力がある。そこに首領の天海がいると思う」

 

 その時のことを思い出しながら答えた梅里だったが、その霊子レーダーがとらえていたもう一つの強い魔力が気になってはいた。ただ、それは魔法陣の中心から外れている。だから陽動の可能性が高いという判断をしたのだが──

 

「場所は日本橋。真宮寺さんが聞いたお告げとも合致しますし」

「お告げって……あれを判断材料に入れるのか? まぁ、夢組はそういうオカルトを信じるのも当然か」

 

 思わず苦笑する加山。

 とはいえ、その情報を信じているのは花組も同様だし、司令も副司令も同じ意見のようだ。

 そしてその情報をもとに立てられた作戦が──

 

「日本橋への一点突破で、敵首領・蘆名天海を討って大逆転……あまりにギャンブル性が高いと思わないか?」

「でも、この物量差を考えたら、それくらいしか手がないと思います」

 

 梅里の返しに、加山も腕を組んで考えるが、これ以上の名案は浮かばなかった。

 

「それはたしかにそうだが……一つ穴があるな、この作戦は」

「ええ……夢組はそのフォローをしようと思っています」

「具体的には?」

「部隊を二つに分け、一つは花組に追従して戦術の補佐を行い、残りは殿(しんがり)を務め、侵入口に結界で(ふた)をしようかと」

 

 何の対策もせず、花組が天海のもとへたどり着く前にどこかで苦戦をした場合には完全に挟み撃ちになってしまう。それを防ぐためにも、結界で脇侍の侵攻を止めなければならない。

 

「わかった。お互い、死力を尽くそう」

「はい。帝都の未来のために」

 

 お互いに敬礼し、夢組と月組の隊長は分かれた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 それから数刻後、梅里は、日本橋にある黒之巣会の本拠地へとつながる洞窟の入口に、その姿があった。

 花組に追従するのを調査班と予知・過去認知班を中心とし、その指揮は支部付副隊長の巽 宗次に任せた。短時間で花組を天海の下へとたどり着かせるために霊視や未来視で危険をできるだけ回避させるためである。

 一方、梅里は封印・結界班や除霊班、錬金術班とともに、ほとんど無駄になった日比谷公園の結界用の資器材をできる限り流用して、洞窟の入口に結界を張って殿(しんがり)を務める側へと回った。外を徘徊している無数の脇侍がなだれ込むのを防ぐ側の指揮官だ。

 当然のようにせりとかずらがゴネたのだが、彼女たちという優秀な目や耳を花組から外すのは余りにもったいなく、逆に基本的に迎撃がメインになる殿組にとっては探査・調査といった役割は必要最低限で十分だ。

 そうして戦端は開かれたのだが──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 コーネルが構えた小さめの円盾(バックラー)が一瞬、目を眩ませるほどの輝きを放つ。

 目というものがあるのか不明だが、それに吸い寄せられるように脇侍が3体、彼へと狙いを変えて迫る。

 

「クッ!!」

 

 振り下ろされる得物に対し、コーネルはそれを盾で受けることなく、一つ目を避け、二つ目を円盾をあえてぶつけて軌道をそらし、三体目は攻撃の出始めをあえて盾とは逆の手に持った柄が長めの矛槌(メイス)を叩きつけてつぶす。

 そこへ──

 

「上出来じゃ、コーネル!!」

 

 飛来した分銅が、最初の脇侍へと巻き付いてその動きを封じるや、直後に飛来した赤い影が手にした大鎌を一閃し、真っ二つに切り裂いた。

 うねるように動く鎖はガラクタとなった脇侍を手放すと、次の獲物へと襲いかかる。

 鎖が敵を絡みとり、それが縮む勢いを乗せた影──帝国華撃団夢組除霊班頭、秋嶋 紅葉の次なる一撃で、さらに脇侍が倒される。

 立て続けに二体をやられ、動揺したような動きを見せた最後の脇侍は──

 

「ハアアァァァァァァッ!!」

 

 気合いの声を乗せたコーネルのメイスが頭部に直撃し、陥没させた。

 よろめくよろめく脇侍に、今度は矢や弾丸、投石といった飛び道具が集中してやがて動きを止める。

 

「フゥ……」

 

 大きく息を吐くコーネル。だが休んでいる暇はない。見ればまるで波のように脇侍たちが押し寄せてきている。

 除霊班副頭を務めるコーネルは、その除霊班と共に脇侍を片っ端から倒している。

 囮役と攻撃役を分担し、組織だった行動でどうにか倒しているのが現状で、その中を除霊班でも抜きん出た最強の実力を誇る紅葉が、自由に動き回って数を減らしていっている。

 それでも押し寄せる脇侍の数は減ることはなく、厳しい状態が続いていた。

 彼ら除霊班の背後には、黒之巣会の本拠地へと続く洞窟の入り口があり、封印・結界班が結界を張って侵入を防いでいる。

 当初の予定ではその結界を突破しようとする脇侍たちをそこで撃破する予定だったのだが、あまりに数が多くて事前に数を減らさなければ突破されてしまうということで、除霊班の精鋭部隊が結界の前方で戦っていた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 塙詰しのぶは除霊班達が倒しきれなかった脇侍が、突破しようとする結界に張り付くのを倒していた。

 しのぶが持つ『深閑扇(しんかんせん)』という三本一組の霊扇のうちの一本、晴天から雷雨へと移り変わる天の様子が描かれた『~(ひかり)~』という名の扇を、閉じたまま右手に握りしめて霊力を通し、作った巨大な写し身を脇侍の頭上へと振り下ろす。

 その威力は鉄扇をも越える威力を示し、胴の半ばまで陥没して動きを止めた。

 だが、すぐに次の脇侍の攻撃がくる。

 

「くッ──『樹神(こだま)』!!」

 

 左手に持った『深閑扇~樹神~』を広げて霊力を込め、写し身を具現化する。開いた状態の巨大な扇は壁となり、脇侍の放った砲撃からしのぶを守っていた。

 写し身を解除して砲撃をした脇侍を見れば、別の誰かが加えた攻撃によってすでに動かなくなっており、しのぶはため息を付いた。

 

「かなり、厳しい状況ですね……」

 

 霊力の消費が激しく、すでに息が上がっている。

 とにかくキリがない。

 結界の維持のために念を振り絞っている者達以外は、誰もが忙しく動き回っていた。

 しのぶの視界の片隅で、梅里もまた愛刀を手に脇侍を倒している。

 

「でも、このままでは……」

 

 敵は、帝都に出現した千単位の脇侍が全てこの場に押し寄せているのではないか、という錯覚になるほどの規模。

 だがそれを全て倒さなければいけないと言うわけではない。花組が敵の首領である天海を討つまでの間、この場を死守するという期限付きの作戦だ。

 しかし、その時がいつやってくるのかまではわからない。次の瞬間にはそうなっているかもしれないし、逆に花組が倒されてしまう可能性もある。

 だが一つ言えるのは、長くは保たないということだ。

 

(除霊班の疲労がかなり激しいようですし、それに飛得物の矢弾の数も、だいぶ減っている様子……)

 

 今はコーネル等の実力の高いものが囮となり、その隙をついた離れた場所からの攻撃という作戦が効いているが、矢弾が尽きればそれも不可能となる。

 

(使うのは──ここしかありません)

 

 しのぶが決意を固め、付近で戦っていた近江谷(おおみや) 絲穂(しほ)絲乃(しの)の二人を見つけてその側へ近づく。

 

「絲穂さん、ちょっとよろしいですか?」

「はい! 副隊長どの、なんでしょうか?」

 

 疲れた素振りも見せずに絲穂が敬礼をしてみせる。

 しのぶは自分の要望を伝えたが、それに対して快活で気前のいい絲穂が珍しく難色を示した。

 

「……さすがにそれは……無謀ではありませんか?」

「いえ、問題はありません。それにあなた方姉妹はわたくしを送ったらすぐに戻ってくださいませ」

 

 しのぶに言われ、思わず姉妹で顔を見合わせる。

 二人とも、「それは余計にダメではないだろうか」という顔だ。

 

「あの……私たち特別班は隊長直属ですので、隊長の指示でなければ……」

 

 恐る恐るといった様子で絲乃が申し出る。

 そんな妹の機転に絲穂は心の中で絶賛した。

 

「隊長の、許可ですか?」

 

 それを聞いたしのぶは戸惑った。彼女の考える策は危険なものだ。梅里が許可を出すとは思えない。

 だからこそ彼を通さずに絲穂と絲乃のもとに来たのだが──

 

「──構わないよ。絲穂、絲乃、準備して」

 

 そんな背後からの割り込むような声に驚き、思わず振り返る。

 

「梅里様……」

「しのぶさんの覚悟、よくわかりました。作戦を許可しますが、一つだけ条件を付けさせてください」

「なんでしょうか?」

 

 恐る恐る尋ねるしのぶ。だが──

 

「「隊長、準備完了です!!」」

 

 近江谷姉妹の重なった声がそれを遮った。

 見れば二人は同調を完了しており、いつでも瞬間移動が可能なほどに霊力を高め終えている。

 

「よし、跳んで!!」

 

 しのぶが二人の間に入り、瞬間移動する。

 移動した先は、除霊班達が迎撃しているさらに先の、脇侍の群れのど真ん中。

 それを確認したしのぶが近江谷姉妹に声をかけようと振り返り──

 

「二人とも、すぐに戻るんだ」

「はい! 了解しました、隊長殿!!」「御武運を……」

 

 しのぶが言うよりも先に続けざまに声がして、絲穂と絲乃が瞬間移動で姿を消した。

 そして──そこには梅里がいた。

 

「……梅里様?」

 

 自分一人でここにくるつもりだったしのぶは想定外のことに驚いていた。

 

「ちょっと伝える順番が狂ったけど、これが条件。僕も一緒にいくことがね」

 

 そんなしのぶに対して、梅里は笑みを浮かべる。 

 

「使うつもりなんですよね? 魔眼を」

「そうですけど、どうして……」

 

 素直に頷いたしのぶだったがおずおずと尋ねる。なぜそれが梅里にわかったのか、が疑問だったのだ。

 

「わかりますよ、そりゃあ。だってそんなに思い詰めた顔してるんですから」

 

 苦笑する梅里とは対照的に、しのぶは呆気にとられた。

 基本的に目を閉じているように見えるしのぶは、感情が読みにくいと人によく言われた。自身の魔眼のせいで幼い頃にしみついた臆病で引っ込み思案な性格から、感情表現が苦手というのもある。

 表立って言われるのはまだ良い方で、裏で陰口として「何考えてるのかわからない」と言われた経験も少なくはない。

 そんなしのぶの表情を、梅里はあっさりと表情を読んだことに驚き、そして自分を理解してくれているという喜びが溢れる。

 

(この方のためなら、わたくしはどんな力でも振るってみせましょう!)

 

 もう迷いはなかった。

 そしてなぜ梅里がここに来てくれたのかもわかる。自分を守るために来てくれたのだ。

 それならば、自分はその梅里の気持ちに応えるのみ。

 数刻前に梅里の前でやったように、自分の目に意識を集中し、そして“力”を込める。

 いつも薄目にしている視界が一気に(ひら)け──しのぶの金色の目が解放された。

 




【よもやま話】
 あれ? 梅里が─9─であんなこと言っておきながら絲穂と絲乃を名前で呼んでる。……多分、特別班のことは全員無意識に名前で呼んでます。
 それと、ここまで書いてきてなんですが、初めて同じシーンで出てきたおかげで絲乃(しの)としのぶがいることに気が付く。
 漢字とひらがなな上、二人が同じシーンに出ることが無かったからスルーしてたけど……ま、いいか。今更しょうがない。
 しのぶの『深閑扇』は3話掲載始まったあたりで、ひそかに登場人物紹介の加えてました。
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