サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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 『覇者の魔眼』の力を完全に解放し、金色の眼を輝かせるしのぶ。

 その魔力によっておびただしい量を誇る脇侍は、たちまち同士討ちを始めた。

 だが、完全に片っ端から狂わせているというわけではない。

 これが人であれば魔眼で一度魅了──つまりは「心を掴んで」しまえば、あとは心酔して味方で居続けるが、脇侍にはそのような心はないので、支配し続けなければならないという手間がかかった。

 脇侍は怨念のような妖力によって動いている。人のような様々な感情や思考がないために支配することそのものは簡単だったので多数を掌握できた。

 しかしそれでも一度に操れる数には限りがある。

 そしてそれを管理するのはしのぶは一人。

 個々にそれぞれ操るのは不可能であり、ただ混乱させて暴れさせてなるべく多くの魔操機兵を同士討ちさせていた。

 その効果はすぐに現れた。

 後方が混乱状態となったために、結界に押し寄せる脇侍の圧は確実に下がった。それで除霊班や封印・結界班にもわずかばかりの余裕が生まれ、まだやれるという気持ちが広まり始めた。

 そこに現れたのは──

 

「どうにも脇侍の動きがおかしいと思えば──まだ諦めていなかったのかえ?」

 

 まるで脇侍の波が分かれるように彼女に道を譲り、梅里としのぶの前にそれは現れた。

 髪と赤い着物こそ乱れているが、妖艶ともいえる顔立ちと強い妖力は忘れもしない。

 

「紅の、ミロク……」

 

 梅里が呻くようにその名を呼び、睨みつける。

 紅のミロクに関しては六破星降魔陣が完成した際に地割れに飲み込まれて落下したという目撃情報があったのだが、生き延びていたらしい。

 しかし、そんなにらみ合いを邪魔するように、脇侍がミロクへと襲いかかった。しのぶの魔眼によって狂わされている個体だ。

 

「フン……」

 

 それをミロクが一瞥する。

 次の瞬間、その脇侍は足下から這い出るように現れた紅蜂隊によって、即座に排除される。

 

「く……ッ」

 

 しのぶが悔しげな表情になる。紅蜂隊のコントロールを奪おうとしたが、できなかったのだ。

 紅蜂隊はミロク直属の脇侍であり、その繋がりが強かったのだろう。

 だが、その干渉でミロクはしのぶの力に気が付いたようだ。

 

「おやおや、随分と珍しい力を持っておるな、小娘。その眼、くり抜いて有効に使ってやろう」

 

 さらに3体、ミロクの前の地面から赤い影が姿を現す。先程ミロクを守った紅蜂隊と同じ姿である。

 しのぶが扇を手に身構える。

 

(かくなる上は……)

 

 ミロクを魔眼で捕らえようと試みるが──

 

「おや、(わらわ)にばかり注力すると、他が疎かになるぞ?」

 

 ミロクの指摘通り、混乱させたはずの脇侍が元に戻り、足並みを揃えて押し寄せようとする。

 

「いけません!」

 

 あわてて力を脇侍の混乱へと戻す。だが、今のを見てミロクがニヤリと笑みを浮かべる。しのぶの力の限界を見られたのだ。

 

「ホッホホホホ!! この状況では手も足も出まい。やれ!!」

 

 ミロクの指示で紅蜂隊の一体がしのぶへと迫る。

 扇を握りしめたしのぶが霊力を込めて写し身を出そうとしたとき──

 

「ハッ!!」

 

 割り込んだ梅里が刀を一閃して、紅蜂隊の行く手を阻む。

 刀を数合打ち合わせ、突破できないと見るや、紅蜂隊は退いて元の位置へと戻った。

 

「梅里様……」

「それをさせないために、僕がいるんでね」

 

 しのぶの表情がパッと晴れ渡った。

 油断なく構える梅里を、ミロクが憎々しげに睨んだ。

 

「貴様、見覚えがあるぞ。確か……華撃団夢組の隊長とか抜かしていたな」

「そりゃどうも。でも、お前なんかに覚えられても全くうれしくないね」

「フン、連れてる女がこの前と違うようだが……いいのかえ?」

「……梅里様?」

 

 そんなミロクの言葉で、梅里を見つめるしのぶの目が一瞬でジト目になった。

 

「それは誤解だよ、しのぶさん! 深川でかずらちゃんと逃げたときの話ッ!!」

 

 焦って叫ぶ梅里。こちらの和を乱そうとは、なんと恐ろしい手を使ってくるのか。

 

「心得ておりますわ。でも、そんなに焦って言い訳されなくとも……」

 

 しのぶが気を取り直して再び扇を構える。

 手にしたのは四季を表す()緋鯉()紅葉()千両()を題材に花鳥画が描かれた『深閑扇~(のぞみ)~』。

 それを広げつつ、梅里にささやく。

 

「……梅里様。わたくしは脇侍の制御が手一杯で攻勢には回れません。ですので、よろしくお願いいたします」

 

 そう言って、最大限の支援を行う

 

「大地に宿りし育む力よ……咲き誇れ!!」

 

 梅里を中心に、芝桜のような霊力の花が地面に開花し──。

 

「──花地吹雪・(えん)ッ!!」

 

 振り上げた扇に呼応して舞い上がった花は梅里の力を引き上げる。

 今までの戦闘で感じていた疲労感がなくなり、さらなる力がわき上がる。同時にまだまだやれるという気力もわいてきた。

 

「──奥義之参、満月陣!! いくぞ、ミロク!!」

「小癪な! やれ、紅蜂隊!!」

 

 互いに突っ込む梅里と紅蜂隊。

 先頭の一体をすれ違いざまの一閃で片を付ける梅里。しのぶの支援を受けた満月陣は、紅蜂隊をも凌駕する力を見せつけた。

 返す刀でもう一体を倒し、次は刀を合わせること三合で、隙を見つけて一気に片づける。

 だが、最後の一体はやられた一体を影にして、梅里の死角から切り込んできた。

 

「──ッ!」

 

 これまで三体を相手にしていた梅里の反応はさすがに出遅れてしまう。

 迫りくる紅蜂隊の一撃をどう避けるか迷い、そこに生まれた隙を突かれた──が、飛来した分銅がその赤い体に巻き付いた。

 

「そうはさせん! 隊長の“第一の家来”……秋嶋 紅葉がおるかぎり!!」

 

 直後に鎖を縮小して一気に距離を詰めた紅葉が紅蜂隊へ大鎌の一閃をたたき込む。

 ガラクタとなり果てた紅蜂隊は、その一部がミロクの足下へと転がっていく。

 

「おのれ! おのれぇ!! 私の魔操機兵があれば、孔雀があればァァァッッッ!!」

 

 口惜しげに叫ぶミロク。

 ミロクは六破星降魔陣最後のポイントに「楔」を打ち込むための陽動で大帝国劇場を奇襲したとき、花組の活躍によって自分の魔操機兵を失っており、自分の乗機がない状態だった。

 そのミロクの表情が、突然豹変する。

 

「──ッ!? 天海様?」

 

 それと同時に、周囲の脇侍もまた様子がおかしくなった。突然動きを止めたり、力なく崩れ落ちたりし始めている。

 

「……まさか?」

 

(隊長、そのまさかです。花組、敵首領・蘆名天海を討ち取りました)

 

 頭に響いたのは特別班に所属する【念話(テレパシー)】の八束(やつか) 千波(ちなみ)からの連絡だった。

 その報告はいつも冷静な彼女にしては珍しく、興奮している。

 

「紅のミロク、天海は倒された。あなたも大人しく(ばく)につくんだ」

 

 梅里がミロクに呼びかける。だが、ミロクは呆然とした様子でそれに応じるような気配はなかった。

 

「……まだよ」

「え?」

「まだ、妾は負けておらぬ。まだ妾は負けておらぬ。一度は捨てた命、天海様の大望である徳川幕府の再興がならぬとあれば、この命尽きるまで破壊の限りを尽くしてくれよう!!」

 

 ミロクが叫ぶや突如、彼女を渦巻いて妖力が高まっていく。

 

「なんだ! なにが起こった!!」

「妖力です! 六破星降魔陣から溢れた妖力が、紅のミロクを中心に集まって……」

 

 その妖力が、紅蜂隊4体の残骸をミロクのもとへと集め、まるで解け合うかのように融合し、彼女が望む姿へと形を変えていく。

 

「あれは!?」

 

 魔操機兵・孔雀。ミロク専用の魔操機兵であり、帝劇の地下で失われたはずのものが復活していた。

 さらには、力を失っていたはずの脇侍が再び動き出している。

 

「死なば、諸共よォォォッッッ!!」

 

 ミロクが孔雀へと乗り込み、魔操機兵が起動する。動き出した脇侍もまた破壊活動を再開しようとしていた。

 

「花組は……いや、待っていたらそれだけ破壊が大きくなる」

 

 梅里は考え込む。

 その間に、結界維持が必要なくなった封印・結界班が念をこらしてそれを孔雀に向けるが──

 

「こざかしいわ!!」

「くッ! 縛界が効かないとはッ!!」

 

 その動きを封じることはかなわなかった。

 そんな中──

 

「梅里様」

 

 梅里の肩にそっと手が置かれる。振り返ると自信に溢れた表情のしのぶがいた。

 

「しのぶさん……」

「あの闇を祓いましょう。あなた様とわたくしが力を合わせればできるはずです。それに、おっしゃったではないですか──帝都を救い善人になろう、と」 

 

 そう言って微笑むしのぶ。

 それに梅里は──

 

「そうだね。確かに僕はそう言った。なら……約束は守らないとね」

 

 笑顔で応じる。

 今のしのぶと二人なら、怖いものはなかった。

 二人並んで、紅孔雀と対峙する。

 だがそこへ横から脇侍が──来たものの、鎖付きの分銅が巻き付いて阻む。

 

「紅葉?」

「ええ……ここは、脇侍はウチらに任せんさい。隊長としのぶは気にせずドーンとやってしまいんさい!」 

 

 紅葉の周りには、コーネルをはじめとした除霊班の面々がいた。彼らは次々と、襲い来る脇侍に対抗していく。

 

「しのぶさん、いくよ!!」

「はい。かしこまりました、梅里様。お任せくださいませ」

 

 梅里は刀を抜いて構える。

 

「──奥義之参、満月陣」

 

 奥義の発動によって銀色をした光球に包まれる梅里。

 その横では、扇を持った両手を、絡み合うように頭上に掲げたしのぶが霊力を高めていく。

 

「大地に眠りし数多(あまた)の力よ、月の光を浴び、悪を(ちょう)し封じる百花(ひゃっか)となりて……咲き乱れやッ!!」

 

 そしてしのぶが持っていた扇──深閑扇~希~と~暉~──を開くと、二人を中心に霊力で生まれた芝桜が地面を覆い尽くす。

 彼女が手を動かすと、渦巻く風が起き、それによって咲き乱れた花が巻き上げられるように舞い上げる。

 

「──満月陣、花月(かげつ)ッ!!」

 

 梅里が右手だけで持った刀をあげると、それを中心に収束するように風が巻き花びらが刀へと殺到する。

 そして両手で握り直し頭上にかかげ──刀身が鍔のほうから切っ先へと鮮やかな赤紫色の光を帯びていく。

 光が刀身を覆いつくすと、梅里はその切っ先を孔雀へと向けて構える。

 直後、強烈な風が吹き、梅里は構えた姿勢のまま風に舞い上げられ、地面を滑るように一直線に進んだ。

 敵の直前で刀を振りかぶり──

 

 

「「急々如律令! 花懲封月(かちょうふうげつ)ッ!!」」

 

 

 振り下ろしざまに、一気に切りつけ、駆け抜ける。

 その一撃は、強固な孔雀の守りを貫き、その機体を完膚無きまでに切り裂いていた。

 梅里が刀を振るうとまとった霊力はマゼンダ色の花びらとなって舞い散る。

 

「グハ……バカな……天海、さま……」

 

 孔雀にスパークが走り、その活動が止まる。

 そして、溢れた妖気が収束するように一カ所へと集まり──

 

「天海様ァァァァァァ────ッ!!」

 

 ミロクの絶叫とともに、孔雀は爆発四散する。

 そして、あまりに強大だったその妖力を祓う力は大きな力となって吹き荒れ、周囲の建物を瓦礫へと変え、崩落させる。

 

「なッ!? 隊長!! しのぶーッ!!」

 

 紅葉が気が付いたときには、二人の影は崩れ落ちる瓦礫が生んだ土煙へと消え去る。

 

 ──天海を討った花組と、それを支援していた各隊が戻ってきたのは、そのときだった。




【よもやま話】
 ゲームだとミロクってあくまで六破星降魔陣の発動で足下崩壊→生死不明なんですよね。そんなわけで生き残っていたということで再登場。
 というのも、この作中では叉丹は「神威壊れちゃって出撃できません。テヘペロ」をやっている最中なので、他に人がいませんでした。
 そんなわけで神威が─3─で壊れたのはわざとなのですが、紅葉の攻勢は完全に予想外で正直焦ってたみたいです。
 恒例の合体必殺技ですが、「満月陣・花月 花懲封月(かちょうふうげつ)」。
 名前の由来はもちろん「花鳥風月」からなのですけども……しのぶの属性が花と風なんで、梅里の月……「鳥」は無いかな、と探し、取り憑いてる鶯歌で「鳥」とも考えたのですが、さすがに霊体でも他の女を入れた合体必殺はいかんと、こうなりました。
 モーションのイメージは概ね、『太陽の勇者ファイバード』のフレイムソード・チャージアップから。剣の唾から火が吹き出る代わりに、刀の鍔からマゼンダ色に輝いてく感じで。その後の、構えたままのホバー移動が好きです。
 ──ミロクなんですが、あのショックで新サクラ大戦の時代に時間移動したら……なんてネタを考えたり。
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