サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~ 作:ヤットキ 夕一
ミロクの孔雀を倒した一連の流れを聞いて、花組追従部隊に入っていたせりとかずらはすぐさま行動を開始する。
かずらは手にしたバイオリンで霊力を乗せた旋律を奏で、その反響に耳を澄ませる。
せりもまた己の霊感を研ぎ澄ませて探索にあたる。
その他、【千里眼】の遠見 遙佳がその能力をフル稼働させて探し回り、釿哉も念写用のカメラを持って走り回る。
それは陰陽寮派の面々も同じで、彼らもまた様々な術式を駆使して、しのぶと梅里を探し回った。
やがて──
「ここで、間違いないな」
複数の結果が合致して示したのは、大きな瓦礫が積み重なったその下だった。
それはあまりに生存が絶望的な光景であり──
「──ッ! 梅里さぁん……」
「かずら、泣くんじゃないの! 最後まで諦めちゃダメでしょ!!」
絶望のあまり泣き始めたかずらを、せりが励ます。
そして錬金術班頭の松林 釿哉もまた、瓦礫をみて途方に暮れていた。
「しかし、現実問題として、これをどうする? こう瓦礫が多いんじゃ……」
発破を仕掛けたくなるほどだったが、それをやったらこの下にいるという梅里としのぶのトドメを刺すことになる。
どうしたものかと悩んでいると──
「ホラホラ。邪魔だぜ、みんな。そこをあけてくれ!」
「事情は聞いていましてよ。その瓦礫の下に取り残された人がいると……」
「こんな時こそ、科学の出番やで」
「霊子甲冑なら、人力の何倍もの力が出せます」
「アイリス達にまかせておけば大丈夫だよ」
「夢組のみなさんには、いつもお世話になってますからね。あたしにも手伝わせて下さい」
色とりどりの霊子甲冑が集まってきた。
「花組のみんな……」
せりが呆然と見ている中で、白い霊子甲冑が、陣頭指揮をとって瓦礫の撤去を始める。
「全員無事に帰還してこそ作戦成功だ。花組、武相隊長を助けるぞ!!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
作業が始まるや、霊子甲冑の誇る馬力によって瓦礫は次々と撤去されていく。
ある時は、紅蘭と釿哉が話し合い、計算された精密な発破作業によって瓦礫を破壊する。
そして──
「こ、これは……」
梅里としのぶは発見され、無事に救出された。
「う゛め゛さ゛と゛さ゛ぁぁぁぁん゛」
真っ先に涙で目をはらしたかずらが飛び出し、梅里の胸に飛び込んだ。
出遅れたせりは近づきながら不満げに、しかしどこか安堵した様子で梅里達を見る。
「まったく……心配させるんじゃないわよ」
花組の霊子甲冑たちが、夢組隊員たちに気を使って道をあけるようにそこから退く。
そんな中、駆け出したい思いを周りの目を気にして我慢しつつ梅里の元までやってきたせりは、ふと気が付いた。
「……かずら、あなた泣いてないじゃないの。離れなさい!」
「な、なにするんですか? せりさん!」
泣き止んでいると気が付いたかずらを梅里から引きはがした。
そして梅里を見る。戦闘服の前は、さっきまで本気で泣いていたかずらの涙やら乙女が残したものとしてはどうかと思う鼻から出たであろうその液体やらで汚れたそこへ、自分の顔を埋めようとは思えなかった。
(やってくれたわね……)
かずらに呆れつつ、そして梅里の無事な姿を見てほっとしたのもあり、ため息が自然と出た。
「それにしても、どうやって助かったのよ」
そんな疑問が浮かび、二人がいた場所をよく見てみた。
瓦礫の中には、まるで古墳の石室のように、くり抜かれた空間が存在していた。
「これは……いったいどういうこと?」
せりが眉をひそめる。
そして、陰陽寮派のトップであるしのぶを心配し、近づいてきた封印・結界班の男副頭はそれを見て何が起こったのか、理解していた。
「御嬢、さすがや……」
思わずそうつぶやいてしまう。
瓦礫に埋もれそうになりながら、しのぶは『覇王の魔眼』を全力で使い、落ちてくる瓦礫さえ支配して、しのぶと梅里が安全な空間を確保していたのだ。
瓦礫がどけられるやすっ飛んできたかずらがせりによって排除され、梅里は強い光にまぶし気に目を細めた。
それから周囲を見渡す。
目の前にはせり。なにか言いたいことやらいろいろ我慢しているようだが、とりあえず安心しているようだ。
その横にはせりに首根っこを押さえられたかずら。それでも懲りずに笑みを浮かべている。
そんな二人の後ろで居並ぶ霊子甲冑に気づいた梅里は、その力を使って瓦礫をどけて救助してくれたことに気づいて、光武から下りてきた大神に対してお礼を言った。同じく助けられたしのぶもまた梅里に付き従うように頭を下げる。
「本当に無事でよかった」
それに対して大神は心底安心した様子で言ったのが印象的だった。
それから次々に隊員たちが下りてくる。色とりどりの花組戦闘服が梅里たちの前を通り過ぎ、そして助かった梅里をねぎらう言葉をかけていく。
最後に残った大神が──
「
そう言って差し出された大神の手を──
「大神少尉にそう言っていただけるなんて光栄です。でも……やっぱり本当にすごかったのは、この逆境をひっくり返した花組、あなた方です」
──梅里はしっかりと握りしめた。
それからお互いに互いの健闘を称えて敬礼をする。梅里がした敬礼に対して、大神が敬礼を返した。
敬礼のまま、引き締めていた表情をお互いに笑みへと変え、そして別れた。大神は花組隊員たちの後を追って、司令や副指令たちが待つ場所へと駆けていく。
梅里はその背中を見送り、それからしのぶを振り返り──
「あれ?」
「どうかなさいました、梅里様?」
梅里がしのぶの顔を不思議そうにのぞき込んでいた。
「いや、しのぶさんの眼……また細くなってると思って」
「それはそうです。そう簡単に使っていいものではありませんよ、あの力は」
苦笑するしのぶの眼は、やはり線のように細くなっていた。
そこへ──
「う~め~さ~と~さ~まぁ~?」
「し~の~ぶ~さ~ん~?」
せりとかずらがそれぞれジト目と恨みがましい涙目で梅里の下へとやってきた。
「どういうことよ!」
「そうです、どういうことですか? なんで、お互いに名字で読んでいたのが名前で呼ぶような間柄になっているんですか!!」
二人に問いつめられる梅里。
「せりさんみたいなチョロい人ならともかく、大人なしのぶんさんにまで粉をかけるなんて、梅里さんはとんだジゴロです」
「……かずら? それどういう意味?」
「ジゴロの意味ですか?」
「違うわよ! 私がチョロいとかなんとか……」
「私、そんなこと言いましたっけ? せりさんの聞き間違いじゃ……」
「言ったわよ! 私、聞いたもの!」
「はぁ、せりさんってばもうお耳に弊害がくるようなお歳に……」
「私はまだ17歳ですッ!!
協力していたはずが勝手に言い合い始めるせりとかずら。
そんな彼女らをどうしたものか、と思い──梅里はふと空を見上げる。
闇が祓われ──そして秋を迎えて高く澄んだその空を。
すると梅里に倣って、しのぶも空を見上げた。
そしてポツリと言う。
「あんなにも闇に包まれた空をこんな空にできたのですから、もうわたくしは、善人ですよね?」
「ええ、もちろん」
笑顔で確認するしのぶに笑顔で頷く梅里。
「それにしても……しのぶさんのおかげで助かったよ。まさか魔眼であんなことができるなんて」
支配を無機物に及ばせるのは、よく考えれば脇侍を操って混乱させていたのでできるのだろう。しかししのぶが瓦礫を制御するまで思い至らなかった。
「いえ、わたくしの発想ではありませんよ」
「え? じゃあ、誰が……」
あのとき、瓦礫に巻き込まれたときは梅里としのぶの二人しかいなかったはず。
しのぶはスッと指を指す。
梅里──の隣、人を一人分あけたその横の場所を
「まさか。しのぶんさんも、ポニーテールの幽霊が見えるとか……」
「ええ、よくご存じで……梅里様の守護霊でいらっしゃるようですが?」
相変わらず、梅里には彼女が見えない。
でも、ここまでくれば、間違いではないだろう。しのぶにもまた、鶯歌の姿が見えていることが。
「ハァ……」
なぜ自分には見えないんだろうか、とこっそりため息を付く。
そんな梅里にしのぶがそっと近づく。
「あの、梅里様……」
「ん? どうかしました?」
「わたくし、陰陽寮にも逆らってしまいましたし、実家に居場所がないでしょうから、これからどうしようかと思いまして……」
「しのぶさんの居場所なら、華撃団にあるじゃないですか。帝国華撃団副隊長という居場所が。そして普段は大帝国劇場の食堂に」
梅里が銀座の方を見る。
今回の黒之巣会が起こした六破星降魔陣の破壊の爪痕は、しばらく残るのは間違いない。
それでも大帝国劇場は、公演を行い、歌い、踊り、舞台から夢を送り続けるだろう。その片隅にある食堂もまた、そこから夢を提供できればいいと思うし、それができるよう努力し続ける。帝劇の食堂とはそういう場所だ。
「ええ、そうですね。そうでしたね……それがわたくしにはうれしくて仕方がありません」
そう言ってしのぶは改めて梅里を振り返る。
「でも梅里様、わたくしもいつかは霊力の限界がきて戦えなくなるでしょう。そうなれば華撃団には居続けられません」
「あ……」
不覚にもなにもいえなくなる梅里。
花組には死活問題でよく知られているが、年齢による霊力の弱体化で霊子甲冑が動かせなくなるのは避けられない運命らしい。
それに比べれば、霊子甲冑という絶対的な試験紙がない夢組はハードルが低そうだが、それでも衰えれば引退は避けられないだろう。
「もしわたくしがそうなった時……わたくしの居場所になってくださいますか?」
「え?」
思わず狼狽える梅里。
その反応に、しのぶはショックを受けたように悲しげに目を伏せた。
「そんな、わたくしを騙したんですね。なんてひどいお方、わたくしをあんなに情熱的に誘ったのに……」
しのぶが言うと、梅里の背後にゆらりと影が現れた。
「こぉら! あなたはしのぶさんに、いったいなにを言ったのよ?」
「あ、それ、私も気になります。梅里さん、ちゃんと話してくださいよ」
梅里を取り囲むように三人の娘が騒いでいる。
そんなことができるのは、帝都に平和が戻ったからだ。
これから復興に追われることになるだろうが、それでも明るく笑いあえる世が戻ってきたのは間違いないことだった。
半年前、死に場所を求めて帝都にきた青年は、黒之巣会との戦いを通じて様々なものを得て、いろんな人と心を通じさせた。
一人は、他人の痛みがわかる、世話焼き好きな優しい娘。
一人は、自分の弱さを知り、強くなりたいと憧れ、それに努力できる娘。
一人は、重い自分の運命に自身を押しつぶしてまで耐えてきた、忍耐強い娘。
そんな彼女達に囲まれた彼を見て、今まで人知れず彼を見守ってきたもう一人の彼女はうれしく思う。彼の良さを理解できる人がこんなに増えたのだから。
そして不安に思う。
黒之巣会とは戦った彼だが、まだ彼は帝都にきて一度も遭遇していないのだ。
真なる敵である降魔と。
そしてそれと戦うとき、彼の心はまた傷つくのだろうか、と。
でも、今は──
「あの、梅里様。わたくし、以前いただいた特別なオムライスをまたいただきたいのですが……」
「だ、ダメよ。あれは……そ、そう、コスト。コストがかかりすぎるんだから人様にお出しできるようなものじゃありません! 梅里も作っちゃだめだからね!」
「なんでせりさんが決めるんですか……あ、でもそれなら余計にお金払えばいいってことですよね。はい! はい! 追加のお金も払うので私に是非食べさせて下さい、梅里さん!」
──勝ち取った優しい日常を満喫してね、ウメくん。
─次回予告─
ティーラ:
黒之巣会を退け、帝都は平和な日常を取り戻します。
そしてそんな激動の一年を締めくくろうという大晦日の夜、隊長は今年一番のピンチを迎えることになるのです。
消えていく仲間達。
カズラを
次回、サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~ 第5話
太正桜に浪漫の嵐。
次回のラッキーアイテムは「魔神器」……え? これ出していいんですか? 予告内容とも関係ないような……
【よもやま話】
前半最後なんで、花組全員に出てもらいました。一言ずつですが。
しのぶ回なんだから、もう少ししのぶに寄った最後にしてもよかったのですが、前半最後の色を強くしたかったので、最後は公平に。
もう少し良い終わり方ができたらよかったと思うので、後で加筆修正するかもしれません。
【第4話あとがき】
第4話、いかがだったでしょうか。
サクラ大戦は伝統的にメインヒロインのヒロイン回は最後の方に回ってくるので、一応メインヒロイン(ということになっている)しのぶもその例にならって、3人では最後になったのですが……もう前半最後の話ですね、これ。
魔眼は──さすがにやりすぎたかな、という感想は持ってます。ただ、やはり核となるようなエピソードが欲しかったもので、やむなく出しました。正直、読んだ方々がどう思ってるか、今でも不安です。
とりあえずヒロイン全員そろって、これからってところな感もあるわけですが、黒之巣会は壊滅してしまいました。
この後はいよいよ後半です。ゲームでは3話のところを2話でやろうと思いますので、あと残り2話となりましたが、よろしければ最後までお付き合いください。