サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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 瞬くように時間は過ぎ、その年の暮れのこと──

 大晦日のその日、武相(むそう) 梅里(うめさと)は大帝国劇場の厨房から出てきてため息をついた。

「なんとか終わりそうだけど……それにしてもこんな量、作ったこと無いよ」
 と思わず愚痴がでるのも無理はない。
 それほど、梅里と食堂の面々は大量の食事を作っていた。
 そんな中で調理が一段落して食堂から出てきたのだが──

「あら、主任さん」
「あ、藤井さんじゃないですか」

 梅里と会ったのは、事務局の藤井かすみである。
 食堂と事務局という職場の違いがあってあまり接点のない二人だが、意外とよく話をする。それは──

「そういえば、藤井さんは実家に帰らないんですか?」
「できればそうしたいのですが、仕事が終わりませんので……主任さんは?」
「僕もちょっと無理かな……」

 顔を見合わせてため息をつく二人は共に茨城県出身だった。
 そのため感覚や価値観に共通点やそれで話題があるので、年齢こそ少し離れているが話しやすい。今回のように帰省するような話題も、似たような距離──とはいえ、茨城でも南北に距離はあるし、鉄道沿線か否かによってもだいぶ変わるのだが──なことでお互いの行動が参考にもなる。
 そして、お互いに正月休みにはまだ入っていなかった。
 帝劇の食堂としては数日前に営業を終えている。そして次の営業は三が日を過ぎてからで、そのあたりはこの時代のどこの店とも変わりないのだが、あいにく大帝国劇場には花組のスタア達が住み込んでいるので、彼女たちの食事を用意する必要があった。
 もっともそれは事務局も同じ。むしろ事務局こそもう少し早めに正月休みに入れるはずなのだが、昨年中の混乱と華撃団としての仕事に忙殺されて、この大晦日まで仕事をしなければならない事態になっていたのだ。
 どこも料理店が閉まっていても、食堂勤務員が花組のついでに食事を作ってくれるからこそ残って仕事ができる、というのもあるが。

「大変ですね」

 そんな事情を知っている梅里が苦笑すると、かすみもまた苦笑で返す。

「主任さん達こそ、正月中のみなさんの食事ですか?」

 かすみの言葉に頷く梅里。
 厨房で作っていたのは、花組の面々のために残していく予定のお節料理だった。
 いかに黒之巣会との戦いが終わってからこちら、花組が出撃するような事態が無いとはいえ有事に備えており、故郷に帰ろうという者はいなかった。
 ──もっとも、そのあたりの事情には夢組も絡んでいる。予知・過去認知班が「未ダ危機ハ去ラズ」との予知を出しているからだ。
 それに加えて、黒之巣死天王の生き残った一人、黒き叉丹の行方を月組と夢組調査班が合同で追っているが未だに足取りがつかめていないというのもある。黒之巣会残党やそれらの施設等を押さえてもなお、その影すら掴めない。

(それがものすごく気になるんだよね。喉の奥に刺さった魚の骨みたいに……)

 梅里は、なんともイヤな予感がしていた。だが、それがどうなるのかまでは、見えていない。漠然とした不安だけがあり、それもモヤモヤとさせる。
 とはいえ、梅里も今年は忙しく動き回った夢組隊員達に対して「三が日くらいは休ませてあげたい」と思って米田に具申した。すると意外にも許可が出たのだが──その条件として「三が日分のお節料理をつくっていくこと」を言い渡された。
 この時代を考えれば、花組の正月分の食事くらいなら、田舎の普通の農家のお節料理くらいの規模でいけそうだが──

「桐島さんがいますからねぇ……」

 梅里は苦笑を通り越して乾いた笑みを浮かべる。
 実際、桐島カンナのことを考えずに通常量で準備したら、3日くらいには花組が飢えているという事態になりかねない。

「……でも僕らの方はもう少しで終わりそうですけど、そっちはどうなんです?」
「わたし達もできればいい正月を迎えたいですから。スッキリと終わらせて帰りたいものです」

 はっきり終わらせると言えないほどの量が残っているのだな、と梅里はさすがに気の毒に思った。

「ああ。そういえば支配人から聞きましたけど、終わったら忘年会だそうですね」

 かすみが言ったので、余計申し訳ない気持ちになる。
 そんな梅里の雰囲気を察したのか、かすみはあわてた様子で──

「あ、いえ。別に責めているわけではないんですよ」
「本当にスミマセン。お騒がせするかも知れませんが……」

 とはいえ集まるのは夢組の幹部クラス。
 人数も少ないし羽目を外すような人もいなさそうだし、しかも最年少のかずらはもちろん梅里さえも未成年だから、大騒ぎのようなことにはならないだろう。


 ──と、梅里は思っていた。

 このときは、まだ……



第5話 そして、危機になる
─1─


『今年も、お世話になりました!!』

 

 夕方になり、大帝国劇場内にある食堂に複数の声が一致して響きわたり、こうして食堂の忘年会は始まった。

 さすがに大晦日なので早く終わるように、また未成年も複数いるので開始時間は早めになったのだ。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 声の主たちはこの大帝国劇場食堂で勤務する面々と、他数名。

 食堂の主任である武相 梅里と、副主任である白繍(しらぬい) せり、さらには厨房担当の男性陣、松林(まつばやし) 釿哉(きんや)、コーネル=ロイド、山野辺(やまのべ) 和人(かずと)の三人と、給仕係の二人、塙詰(はなつめ)しのぶ、秋嶋(あきしま) 紅葉(もみじ)の合計7人が食堂勤務のメンバーだ。

 そしてそれ以外は、いずれもこの全員が所属する帝国華撃団夢組に所属している者達で、普段は華撃団の本部でもある大帝国劇場の楽団に所属している才能あふれる若き演奏者・伊吹(いぶき)かずら、華撃団の支部である花やしきに常勤している(たつみ) 宗次(そうじ)とアンティーラ=ナァム、それに医者の「ホウライ先生」こと大関(おおぜき) ヨモギの4人がこの場所に集まっていた。

 

 正月は今日の昼間に作った日持ちするお節料理が大量にあるので三が日の間は休みになる。

 そのためにも花組には「絶対に食べ過ぎるな。3日いっぱいまで保たせるように」と厳命している。特にカンナに。

 そういう経緯から梅里たち厨房陣の男4人とそれを手伝ったせりは、仕事納めが給仕担当よりも数日遅ればせながらの今日になっている。──なお、本人が強く希望した紅葉の手伝いは丁重にお断りしていた。

 それを知った米田支配人が「なら夜に忘年会でもやれよ」と気を利かせてくれたため、厨房陣に加えて、実家に帰省しなかった宗次、ティーラ、しのぶと、実家から来たヨモギとかずらが参加した、という経緯があった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「──そういえば、塙詰は実家に帰省しなかったのか?」

 

 料理を食べながら、釿哉が訊くとしのぶは「はい」と頷いた。

 

「あれ? 実家とは仲直りしたよね?」

「はい、梅里様のおかげで……」

 

 梅里の問いに、しのぶは彼をじっと見る。

 黒之巣会との戦いが終わり、少し落ち着いた晩秋に、しのぶは一度、京都へと戻った。今回の件の顛末の報告のためである。

 また華撃団から「協力の感謝」という皮肉の効いた名目で、代表で梅里が共に随行することとなったのだ。もちろん実質的には抗議であり、またしのぶを戻されないようにするため、でもある。

 苦々しい表情で送り出した米田の反応から、どうなることかと思ったが、陰陽寮の態度は意外にも好意的だった。

 もっとも、それは先行して京都入りしていた陰陽寮出身の封印・結界班の男性副頭のおかげだったのだが……。

 だいぶ皮肉も言われたが、それでもしのぶは今まで通り、華撃団に残ることが決まり、それは他の隊員たちも同様だった。陰陽寮からはさらなる協力体制の構築についてまで申し出があったのは意外だったが。

 それを申し出たしのぶの兄の目線には、梅里もすこし驚いている。

 何はともあれ、そんな京都出張はそれほどの苦労もなく、無事成功した。

 ──しかしそれは梅里達に限って言えば、の話。

 残された者達にとっては──

 

「待て……あのときのことは、思い出したくもない」

 

 当時のことを思い出して疲労感をあふれさせた釿哉の言葉だった。

 

「あれにはさすがに自分も……」

「オォ、神ヨ……」

 

 和人とコーネルまでそんなことを言い出す始末。

 そんな3人の姿に、梅里も人差し指で頬をかきながら困惑する。

 

「なんか、トラウマになっているみたいだけど……」

「そうだよ!トラウマだよ!! 塙詰とお前だけだとオレたちも思っていたさ。それが……」

 

 釿哉がビシッとせりを指さす。

 

「白繍までついて行くなんて、誰が思うよ!?」

「あ、あれは! あれは、その……非常事態というか、危機というか……」

 

 しどろもどろになるせり。

 釿哉の指摘したとおり、梅里としのぶの京都出張になぜかせりがついてきたのだ。

 おかげで食堂は大混乱である。主任と副主任が二人ともいないというのはあまりに大きかった。副主任のせりが普段からいろいろと仕切っているが、せりがいないだけなら、本来ならばやらなければならない梅里がやるか指示を出せばすむ話。しかしその梅里さえもいない。

 人的な応援だけは支部からヨモギと、八束(やつか) 千波(ちなみ)遠見(とおみ) 遙佳(はるか)近江谷(おおみや) 絲穂(しほ)絲乃(しの)の合計5人が来てくれた。

 しかし、それでも万全ではなかった。普段は夢組の連絡役を務める千波がそもそも口と耳を使った普通の会話が苦手だったり、絲穂がやたらとテンション高く失敗してくれたりとした上、しかもせりとしのぶというそれをフォローできる人員がおらず、かといって厨房組にも余裕はなく、本当に、本当に大変だったのだ。

 それこそトラウマになるほどに。

 

「えぇ!? せりさん、そんなひどいことしてたんですかー?」

「かずら、あなたねぇ……」

 

 ()()()ちょうどその時期に休みを取っていたかずらが大げさに驚いた様子でせりを見る。

 それから「あなたがそんなだから──」とか「なにをおっしゃているのかっぱりわかりません」というせりとかずらの口喧嘩が始まるのだが、他の皆は慣れっこになりつつあり「またいつものが始まった」と言わんばかりに食事や飲み物に口を付けるのだった。

 やがて話題は移り変わり──

 

「ああ、白繍。思い出したんだが……このまえ乙女組の指導に行って見かけたが、お前の妹、あれはかなりできるようだな」

「え? なずなのこと? あの子、弓矢は全然ダメなはずだけど?」

 

 ふと宗次が、かずらとの口喧嘩が一段落したせりに話を振ると彼女は眉をひそめた。

 

「なるほど、そっちはそうなのか。だが、長柄に関してはかなり才能がある。槍はどこまで延びるか分からないが……杖術や棒術には特に適正があるな。間違いなく」

「へぇ……あの子にそんな才能がねぇ」

 

 思い浮かべるのは自分の直下の妹、なずなのこと。なんでも自分の真似をすることが多かったので、弓矢を得意にしていたせりを真似て同じように挑戦していたのだが、いかんせんこの才能が欠如しているのは、姉から見ても明らかだった。

 

「来年から、オレや和人が機会があれば鍛えてやりたいんだが、構わないか?」

「それは構わないと思うけど……乙女組の先生次第じゃない?」

 

 半信半疑で答えるせり。さすがに乙女組のことなので勝手に判断できなかった。

 そして、なずなは武術の心得ではなく、姉以上の高い霊力があるのを見いだされて養成機関の乙女組に所属しているのを知っていたからだ。

 

「ぺんちゃん……じゃなくてなずなちゃん、将来的には霊子甲冑を動かせるくらいに霊力が延びるんじゃないか、って言われてますから、いいんじゃないでしょうか」

 同じように乙女組に所属していたかずらが言う。

 なずな=ぺんぺん草で「ぺんちゃん」という愛称が乙女組では付いていた。あまり良い印象がないペンペン草だが、本人も気に入っている様子なので定着している。しかし、さすがに実の姉の前でその愛称を言うのは躊躇いがあった。

 

「え? あの子、そんな状態になってるの?」

 

 あからさまに顔をしかめるせり。

 

「あまり嬉しそうじゃないですけど……」

 

 それに戸惑うかずら。それを受けて釿哉がフォローする。

 

「霊子甲冑に乗るってことは花組所属になるだろ。そうなれば最前線で体を張ることになるからなぁ……身内としては複雑だろ。なぁ、白繍」

「ええ、まぁね。それもあるんだけど……」

 

 そう言いながらせりは曖昧にうなずいた。

 もちろんその心配をしてはいる。しかもせりは花組の戦闘を間近で見ているのだから危険だということは余計にそう思っていた。

 とはいえ華撃団の隊員として体を張っているのは自分も同様なので、心配かといえばそうでもなかった。

 自分やなずなにもしものことがあっても、実家にはさらにもう一人、妹のはこべがいるし、跡取りになる予定の護行(もりゆき)もいるので代々神社を守っている白繍家的にも心配する必要はない。

 だが──

 

(花組に入るってことは、あの隊長の下で戦うってことでしょ?)

 

 ひそかに不安になり、この食堂の上の2階で休んでいるであろう花組の面々のことを思い浮かべた。

 そのことごとくが、花組隊長・大神一郎のことを慕っているという現状を考えれば、その表情も苦々しくもなる

 

(大神少尉が悪いってわけじゃないのよ、決して。でも、その戦いに参加する、それも後発で……というのはさすがに、ねぇ)

 

 そんな調子で勝手に妹の心配をするせり。

 苦戦必死の戦いに妹が参戦するような可能性は避けたいのが姉心というものだろう。

 もちろん、自分のことは完全に棚に上げているが。

 そんな心配をせりがしている横で、梅里は宗次が指導しに行ったことに少し驚いていた。

 

「宗次は乙女組の指導に行ったんだ?」

「ああ。たしか隊長クラスも一度呼びたいと言っていたが……まぁ、なかなか難しいのだろうな」

 

 梅里の問いに腕を組んで答える宗次。

 隊長クラスの話を聞かせて、まだまだ幼さの残る少女達に心構えを伝えたい、と教官達が言っていたのを思い出したのだ。

 とはいえ副隊長である宗次。そんな彼が直々に指導しに行っている上に、他隊(よそ)の隊長が忙しいのなら、自分が行ったらいいんじゃないか、とも梅里には思えた。

 

「へぇ、じゃあ僕でもいいのなら。今度、行ってみようかな」

「「「ダメ!」です!」」

 

 それを口に出すや、鋭い声が三つ飛んだ。

 

「乙女組の生活とかについて知りたいのなら私が説明しますよ?」

「梅里様。わたくし小耳に挟んだのですが、年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せと言われるほどに珍重されるらしく……ですから年下の女学生に手を出すのそれはさすがにどうかと──」

「あなたねぇ、今度はなずなにまで手を出すつもり?」

 

 かずら、しのぶが言い寄り、せりにいたっては今まで自分が考えていたのとごちゃごちゃになって妹にまで手を出すなと怒り出す始末。

 

「え? こんなに責められるようなこと言ったかな……」

 

 三人に言い寄られ、困惑する梅里だった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──さて、宴もたけなわとなり、数人がこの会場から姿を消していた。

 真っ先に席を立ったのは和人だった。なにやら「明日は正月。早いので申し訳ない」と言って去ると、それに続いてコーネルも「ワタシも、お祈りがアリますノデ」と言って席を立った。

 続いて、「私もそろそろ……」と言ったティーラを見て、「それなら送っていこう」と宗次が付きそう形になり、二人が去る。

 そうなると残っているのは、梅里、しのぶ、せり、かずらと釿哉、ヨモギといったメンバーだった。

 

「……思ったより、食事が残っちゃったなぁ」

 

 テーブルの上に残った料理を見て、梅里が少し困り顔で苦笑すると──

 

「なに、まだまだ食えるだろ? 飲み物もあるし……」

 

 釿哉がドンと新たな飲み物をテーブルに置く。

 その釿哉はもちろん、しのぶやせりがそれを飲んだりしていたが、梅里は作った者の責任として飲み物よりも食べ物を片づけるのを優先し、それには手を付けずにいたのだが──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「……どうして、こうなった」

 

 釿哉が飲み物を追加して数十分後、梅里はその惨状に頭を抱えたくなった。

 気が付けば、釿哉とヨモギはいつの間にか「あとは若い者に任せた」と謎の書き置きを残して姿を消しており、残された者達といえば──

 

「あはははは~! 梅里、楽しいわね~!!」

 

 ──やたらテンションの高いせり。

 

「梅里様……わたくし、酔ってしまったようです……」

 

 ──梅里にしなだれかかるしのぶ。

 

「あの……お二人、どうなされてしまったんでしょうか」

 

 ──困惑しているかずら……は正気らしく、ひそかにホッとする。

 梅里が二人が飲んでいた飲み物を嗅いで、思わず顔をしかめた。

 

「……やっぱりだ」

 

 未成年の彼ではあるが、料理の調味料でもあるそれは匂いでを嗅げばすぐわかる。

 どうやら幸いなことに、かずらもそれを飲まなかったようだ。

 

「でもおかしい……これは出さないようにって話だったはずなのに」

 

 大元は米田の指示だ。未成年もいるこの席でそれを出すのはよろしくない、と。

 それを受けて指示を出したのは成人の責任者である宗次であり、彼が指示を出した以上、徹底されていたはずだ。

 実際、この二人以外に態度がおかしくなった人はいなかったわけで──

 

「……ッ!! 釿さんめぇッ!!」

 

 タイミング的にあの時に置いた飲み物以外にあり得ない。

 しかも、二人の様子を見て「これはヤバそうだ」と判断した瞬間に帰ってしまったのだ。それにちゃっかりついて帰るあたりはヨモギも要領がいい。

 

「な~に怒ってんの~ 梅里~? 飲みましょうよ~」

 

 滅多に見せない満面のニコニコ顔で、コップ片手に迫ってくるせり。

 その反対側では、梅里の腕にしっかりとしのぶがしがみついている。

 親戚の集まる会合やら、実家の料亭でこの手の酔いすぎてしまった人を見たことがある梅里だが、とてもではないが、かずらと梅里でこの二人の相手をするのは手に余る。

 そう判断した梅里はかずらをそっと呼び寄せた。

 

「かずらちゃん、とりあえず誰か……大神少尉あたりを呼んできてもらえないかな」

「は、はい……わかりました」

 

 かずらと話していると、梅里の顔が両手で捕まれて強引に振り向かされた。

 

「ちょっと~、な~にかずらとイチャイチャしてるのよ~」

「べ、べつにイチャイチャだなんて……」

「そ~お~? なら私とイチャイチャしましょ~」

 

 迫ってくるせり。それをなんとか手で止める。

 かずらに早く、と催促しようとしたが、なにやら彼女は不満そうに頬を膨らませて梅里とせりを見ている。

 すると逆に位置していたしのぶがスッと立ち上がり──

 

「梅里様。わたくし、なんだか暑くなってきてしまいましたわ……」

「え!? しのぶさん、なにするつもり!?」

「暑いので、服を脱ごうかと……」

 

 梅里の問いに微笑んで答えると着ていた和服に手をかける。

 

「って、ちょっとまった!!」

 

 必死に止める梅里。だが、それに同調してくれると思っていた声が裏切った。

 

「あれ~? しのぶさんが脱いだところで~、だ~れも喜びませんよ~?」

 

 笑みを浮かべながらせりが言うと、しのぶの手が止まった。

 目はいつも通りの瞳が見えない細い目。そのぶん感情が分かりづらいのだが、明らかに怒っているように見える。

 

「それはどないな、意味でっしゃろか?」

「いえいえ、そんな貧相な胸を見ても誰も喜びません~って。見せ損ですよ~?」

「って、なに言ってんの、せり!?」

 

 梅里はあわててせりを止めようとするが、彼女の煽りは止まらない。

 

「そもそも~、女の胸にはですね~、男の人の夢がぁ詰まってるんですよ~? だからぁ膨らむわけで~」

「……そうなんですか、梅里さん?」

 

 ジッと見てくるかずら。もう勘弁してほしい、と梅里は心の底から思った。

 

「で~も~、しのぶさんの胸には~」

 

 そういってこの場の3人の女性陣の中では一番立派な──それでも世間的には普通サイズなのだが──自分の胸に手を当てる。

 

「夢も──」

 

 そしてかずらの発展途上の胸を指さし──

 

「希望も──」

 

 さらにスレンダーなしのぶの胸をトンと触って煽り──

 

「ま~ったく無いんですから~、無理しない方がいいですってば~」

 

 そういってプーと吹き出してクスクスと笑う。

 一方、しのぶの肩はワナワナと震えていた。

 梅里は「あ、これはダメだ」と完全に自分の手に負えない事態になったと判断した。

 

「かずらちゃん、急いで誰か呼んできて!!」

「え? あ、はい」

 

 梅里の焦った様子に、かずらはあわてて食堂から飛び出す。

 

「もう! 許せまへん! わたくしの胸があるかあらへんか、梅里様に見ていただくしかあらしまへん!」

「なッ!?」

 

 いよいよ激高したしのぶが、勢いよく自分の服に手をかける。

 

「いいじゃな~い? 見せてみたら~? その残念なものを見て~、それで~梅里にため息つかれても、知りませんよ~?」

 

 そう言ってケラケラと笑うせり。

 

「はぁッ!? ちょ、ちょっとしのぶさん、やめて! せりも煽るなッ!!」

「梅里様がため息を付くのは、わたくしの美しさへの感嘆のせいどすッ!!」

 

 いよいよ本格的に服をはだけ始めたしのぶを、梅里が止めようとするが、それをなぜかせりが止め、さらには「脱~げ! 脱~げ!」と煽る。

 そのうちに、しのぶは本当に全部脱いでしまい、梅里はその目にそのスマートな裸体を焼き付け──

 

 

「なにをしているのッ!!」

 

 

 大きな声で怒鳴られて3人がそちらを向く。

 見れば本気で怒った様子のあやめと、それに彼女に付いてきたらしいかすみ、それに二人を連れてきたかずらが立っている。

 

「かすみ、早くしのぶに服を着させなさい。かずらはせりの面倒をお願い。それと梅里くんはすぐにこっちに来て、食堂から出なさい!!」

「……はい」

 

 かすみとかずらに二人を任せて、あやめの方へと向かう。

 内心、この状況から逃れられてホッとしている梅里だったが──

 

「……あとで支配人室まで来なさい」

 

 すれ違いざまにあやめにささやかれ、ガックリとうつむくのだった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──とはいえ、この後の支配人室での事情聴取の結果、梅里にはさほど罪はなく、さらには梅里が未成年だったのもあり、「もっと早く誰かを呼びなさい」というあやめからの厳しい注意のみとなった。

 その咎めは完全に釿哉に行くことになるのだが──それは正月明けてからの話、となり、宴はお開きとなった。

 




【よもやま話】
 ゲームだと新年正月開始で「あけましておめでとうございます」からはじまるのであえて「今年もお世話になりました」から始めようと思っていたら、1シーン追加されて後回しになってしまいました。
 はい、前回の次回予告はこの─1─でのことでほぼ終了しています。(笑)
 とりあえず今までと違うのはヒロイン全員をヒロインとして動かせるのはかなり楽になりましたね。
 しのぶの京都弁も変換サイトを使ってますので、もし変でもご容赦を。
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