サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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─3─

 四人がやってきたのは明治神宮──ではなく、湯島神社だった。

 その理由は──

 

「さすがに、まだ咲いてないか」

 

 そう言ってせりが苦笑いして見上げたのは梅の木だった。

 湯島神社──後の世では湯島天神と呼ばれるようになるその神社は「天神」の名が示すように菅原道真であり、太宰府天満宮と同様に彼が愛したされる梅の花のために、境内には梅の木が数多く植えられているのだ。

 早い品種によっては正月過ぎから咲き始める梅の木ではあるが、ここに植えられた白梅は開花まではまだまだ先、といった様子である。

 三人の想い人の名前が入ってるその木で有名なこの神社を選んだのは、このメンバーでの初詣であれば当然とも言える。

 

「初詣、か……」

 

 しのぶ、せり、かずらの三人に連れられてやってきた梅里は、まだつぼみさえないその梅の木を見ながらふと思い出していた。

 自分の名前の一部であるその木を見ると、梅里はどうしても水戸を思い出す。

 昨年の初詣はほとんど記憶にない。たぶん妹に半ば強引に連れられて毎年恒例の地元の神社──水戸の東照宮にいったのだろう。

 しかしその前の年、一昨年のことはよく覚えていた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

「ウメくん、初日の出を見に行こう」

「は? なにそれ?」

「元旦の朝の日の出を見るのは縁起がいいって、最近、流行ってるみたいよ。あたし達も行こう」

 

 彼女が突然の思い付きで行動をし始めるのはよくあることだった。

 それに慣れていた梅里は鶯歌に連れられて、年越しで水戸から太平洋に面した隣の大洗へと行ったのだ。

 夜明け前に無事到着し、寒い中で日が昇るのを待ち続け──

 

「「おぉ!!」」

 

 海辺の岩場にあった鳥居の向こう、明るくなった水平線から太陽が姿を現したとき、思わず声がでてしまった。

 鶯歌と二人、あわてて手を合わせて拝み──そのまま、大洗磯前神社へ初詣へ行き、そして水戸へと帰ってきた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「あれが一昨年……たった二年前か」

 

 そのたった二年前、鶯歌は確かに生きていた。

 それから間もなくして、降魔が騒動を起こし……約一ヶ月半後、鶯歌は偕楽園の梅の木の下で息を引きとった──梅里の腕の中で。

 こうして思い返せば早い二年だった。特に、去年の三月からは、本当に早かったと思う。

 しかし、そんな矢のように過ぎた季節の中で──

 

 

「「「梅里!」様!」さん!」

 

 

 赤、青、緑の振り袖を着た娘達が、ぼーっと立っていた梅里に気が付いて手を振る。

 あのとき、かけがえのないものを失った梅里だったが、今はその傍らに三人の娘がいた。

 彼女らの下へ、梅里は歩き出していく。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 一方、偶然出会った釿哉とヨモギもまた、湯島神社にいた。

 彼らがいた理由はなんてことはない──

 

「あれって、大将達じゃねえか?」

「む、本当ですね……」

 

 それを見て困り顔になるヨモギ。

 釿哉の言うとおり、梅里はしのぶ、せり、かずらの三人を連れて境内を歩いている。

 そのうち、せりがふと視線を向けてきて──

 

「──あ」

「これは気づかれましたね」

 

 ヨモギが言うや、逃げる暇もなく四人がそこへとやってくる。

 

「……これは隊長、あけましておめでとうございます」

「ヨモギ、おめでとう……」

 

 せりとしのぶには会ったヨモギだったが、年が明けて初めて出会った梅里に新年の挨拶をする。

 だが、ヨモギと釿哉に対してせりが噛みついた。

 

「おめでたくないわよ! 二人とも、どういうつもり?」

「どうもこうも……オレたちがいたところにおまえ達が来ただけだろうが」

「まさかあなた方を私達が尾行しているとでも? まったく自意識過剰でイヤになりますね」

 

 やれやれ、と肩をすくめるヨモギ。

 

「あなた達のドロドロ四角関係なんて、今さら新鮮味もありませんし、どうぞ好き勝手にやってください、というのが忌憚のない感想です」

「し、四角関係……」

「ドロドロ……」

 

 しのぶとかずらが複雑な表情を浮かべる。

 

「ま、ヨモギの言うとおりだ。オレたちが追っていたのは──アイツだ」

 

 そう言って釿哉がコッソリと指さした先にいたのは

 

「……和人?」

「と、誰ですか? あの人」

 

 梅里とかずらが訝しがりながら目を凝らす。

 そこにいた男女のうち、片方は間違いなく夢組隊員にして食堂勤務の山野辺 和人だ。もう一人は──

 

「あれ? あの人って、うちの常連さんじゃないの?」

 

 そう言ったのはさすが食堂副主任のせりである。

 弓の名手は目もいい。おかげでハッキリ見えて気づいたらしい。

 帝劇の食堂は観劇をせずとも入ることができる。最近は食事のみを目当てに大帝国劇場にくる客もいるそうで、その女性はそのうちの一人だ。

 

「お前らが京都に行って食堂が修羅場になっているころ、和人が接客に回ってた時期があったんだよ。そのときにあの客と知り合ったらしくてな」

 

 言われてみれば、あの客を目にするようになったのは、確かに最近になってからだ。

 

「あら、山野辺様も意外と隅におけないじゃないですか」

 

 少し楽しそうに言うしのぶ。

 そんな風に少し空気が弛緩したところで──

 

 

(──これは、こんなところで会うとはなんと奇遇ってヤツですねえ)

(──いやいや、彼奴らめとは、それほど縁深いわけではありませんよ。今はまだ)

(──ともあれ、我らは役目を速やかに果たすのみ)

 

 

 ゾクリと、悪寒が走り抜ける。

 しかもそれはこの場にいる夢組全員──少しでも霊感が強ければ、その氷を背中に突っ込まれたような感覚は不快という以上に、恐ろしさを感じさせた。

 

「な、に……今の?」

「恐ろしいまでの力……わたくしも、今までこのような感覚を味わったことはありません」

「気持ち悪い。すごく気持ち悪いです……」

 

 不安げに周囲を見渡すせり、しのぶ、かずらの三人。

 その近くで釿哉は、自分の(ふところ)に隠した短銃を探っていた。

 

「ヨモギ、お前さんは戦闘がからっきし駄目なんだから、矢面に立つんじゃねえぞ」

「言われなくても分かっています。少なくともこんな恐ろしい気配の前に、立とうなんて思いません」

 

 油断無く周囲を見渡す。

 それは和人も同じようで、離れた場所で突然の感覚に戸惑いつつも耐え、一緒にいた女性に不審に思われながら、彼女の機嫌をとりながら周囲にも気を配りつつ、そしていざというときは庇えるような姿勢になっている。

 

「……アイツ、意外と器用だな」

「バカなこと言ってないで集中してください」

 

 釿哉が強がるように軽口を叩いてヨモギに叱られる中──その中で、一人だけはこの感覚に覚えがあった。

 その体が小刻みに動く。

 

「梅里……? あなた、震えて……」

 

 せりがその様子に愕然とする。

 夢組でこと戦闘能力に関して、梅里は間違いなくトップである。条件を限定すれば紅葉に軍配が上がるときもあるかもしれないが、普通にやれば梅里の方が強い。

 その梅里が震えている、ということは、夢組の誰もが勝てないような相手ということになってしまう。

 だが──

 

「違うよ、せり。これは震えてるんじゃない……」

 

 梅里の落ち着き払った言い方は決して強がりではないと如実に語っていた。

 それを示すかのように梅里の言葉に怯えや恐怖は感じられない。

 実際、梅里がこの気配を感じて抱いた感情はそんなものではない。怒り──そして憎しみだ。

 

「──ッ」

 

 その感情を噛みしめ、歯がギリッと鳴る。

 そして──それは境内に姿を現した。

 二本の足で大地に立ち、その手には鋭い鉤爪があり、頭の半分以上が大きく裂けた口で目さえない。

 大きく延びた尻尾と、空を飛ぶための大きな翼が生えた異形の化け物。

 

「……」

 

 梅里が睨むと、姿を現した“それ”が気持ち悪い奇声をあげる。

 

 

(さて、帝国華撃団夢組とやら、実力を──)

 

 

 直後、猛烈な殺気が辺りを支配した。

 

『────ッッッ!!!』

 

 ヨモギやかずらといった本来戦闘に不向きな者たちは思わず首をすくめていた。

 その衝撃は、瞬間的にはさっきの悪寒を通り越していた。

 だが、殺気は夢組メンバーに向けられたものではない。

 

「──え? いつの間に」

 

 降魔の傍ら──その影を踏むように、人が一人立っていた。

 手にはいつの間に抜いたのか刀を手にし、深い踏み込みと共に繰り出された斬撃はそれに深い傷──致命傷を与える。

 そして──

 

「キシャアアァァァァァァッッ!!」

 

 次にあげた奇声が、その断末魔の声となった。

 

 

「はい?」

 

 

 あまりの呆気なさに、一同、唖然とする。

 それは、皆の頭の中に響いていた声も同じらしく、二の句を継げないでいた。

 

「また、僕の前に現れたのか……」

 

 ポツリとそう言って、梅里は消え去ったものがいた場所をにらみ続けていた。

 激しい怒りが、深い悲しみが梅里の体を揺さぶっていた。それが震えの原因だ。

 

「オイ、今の何だ? 何が起きた?」

「わかりません。しかしあれでは、まさに瞬間移動のような……」

 

 見ていた釿哉もヨモギも、その動きは理解を超えていた。

 

 

(凄まじい憎悪でござんすねえ、華撃団)

(しかし此度は、小生らの油断が過ぎました──それを認めるからこそ、此度は退きましょう)

(次の我らにそれはない。努々(ゆめゆめ)それを忘れるな……)

 

 

 頭にそんな声が響くと、すぐにこの付近を覆っていたプレッシャーが消えていた。

 空気が戻り、一同は大きく呼吸を一度する。

 それは梅里も同様で、大きく息を吐き、そして刀を鞘に収める。

 

「梅里さん、なんだか怖い……」

 

 そんな梅里を見たかずらの素直な言葉だった。それが偽りのない反応だろう。

 しかしその梅里の様子にしのぶは近づくと苦言を呈した。

 

「梅里様、今のはなんですか? あまりに危険な戦い方……無謀すぎます」

「え? 圧倒的だったじゃないですか。怒るようなことじゃないと思いますけど」

 

 かずらが怯えながらも言う。彼女の感じた通り、その戦いは一方的な瞬殺だった。

 せりがそんなかずらを安心させようと抱きしめながら言う、

 

「違うわ。あんな切羽詰まったような、余裕のない戦い方、今のあいつなら絶対にしない」

 

 せりが梅里を見つめる。それは問いつめるような視線だった。

 

「無謀な戦い方はしないって約束じゃなかった?」

「ゴメン……取り乱した」

 

 目を合わせずに、梅里が言う。そんな彼にせりはさらに問う。

 

「あれは、いったい何なの? あんな化け物……」

 

 思い出すだけでも身が震えそうになる。

 そんなせりの問いに、梅里は答える。

 

「二年前、僕が水戸で対し、殺しきれず……大事なものを失って倒したヤツだよ」

「ッ! それって……」

 

 せりの言葉に梅里は頷く。

 

 

「──あれが、降魔だ」

 

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 湯島神社に出現した降魔は幸いなことに一匹のみで、それを梅里が文字通り憎悪にまかせて瞬殺した。

 が、それ以外にも明治神宮に現れていた。そちらは黒之巣死天王の生き残りである黒き叉丹──葵 叉丹が引き連れ、集団で現れたそれを出動した花組の光武によって辛くも撃退することができたが──無理を重ねた戦いによって、光武は限界を迎え、ついには動かなくなってしまったのだった。

 




【よもやま話】
 梅里と鶯歌が初詣に行ったのは、劇場版のガルパンでも出てきた大洗磯前神社。とりあえず出したかったので出しました。ある意味、水戸よりも有名な気がすると思ってしまう。
 ──ちなみに、今回は当時どれくらいかかるのかは全く調べてません。どうにかして二人でいったのでしょう。
 また降魔との初戦闘ですが、梅里が恨みのあまり禁忌に足を踏み入れてます。これは「2」で出す予定の技でしたが、ちょっとだけ先行登場です。
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