サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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 ──話は再び一月に遡る。

 

 

 

「で、ウメ坊は入隊を了承したってことかい」

 

 あやめから報告を受けた米田はホッとしていた。

 降魔戦争が終わって間もなく、そのころから親交のあった武相 梅雪から様々な犠牲を払っての勝利に「次は武相からも人を出す」という申し出があった。

 今となってはだいぶ昔の約束ではあるが、その約束をどうにか果たすことができそうだ、と思ったからだ。

 もっとも本来なら一年前にはまとまっていた話であり、スムーズに進む予定だった。

 米田が組織した、対降魔部隊の後釜ともいうべき帝国華撃団に武相家が出仕させるのは梅雪の孫で本家の次男坊の梅里。

 米田も会ったことがあり、明るく真面目な子供だったと記憶している。そのまま素直に育ったとも聞いていて、何も問題がない──はずだった。

 

 が、入隊を前にした一年前に事件が起きた。

 

 水戸藩で霊障を対応する役目を帯びた一族である武相家は水戸藩がなくなった後も政府や自治体の依頼を受けて解決していた。

 それは危険を伴うためにだいたいの場合は嫡子を避けており、次男坊である梅里が当時はその役目を引き継ぎいでいた。

 だからこそ梅里なら即戦力になるだろうという華撃団側の目論見もあった。そして軍へと出仕するならその前に結婚させようと梅里の祖父や親は考えていたらしい。

 そんな梅里の幼なじみである婚約者が霊障に巻き込まれて命を落としたのだ。それも梅里が担当していた霊障に巻き込んだ形で、だ。

 ゆえに華撃団入団は白紙にしてほしい、そう梅雪に言われては米田は了承するしか無かった。

 

 その時、米田は嘆いた。

 それは“優秀な優秀な隊員候補を逃した”というよりは幼い頃から自分が知る「ウメ坊」を襲った余りに過酷な運命にだった。

 だからその後も気にしていて、事件直後は無気力な状態にまで落ち込んでいたものの、時をかけてどうにか持ち直した様子ということを把握していたのだ。

 そこで米田は梅里を思って「水戸で霊障対応をしていてもまた思い出してしまうかもしれない。それなら水戸から離れた場所で環境を変えてみよう」と考え、一度は消えた華撃団入隊の話を復活させ、それを武相家から了承されたのである。

 そんな事情で、あやめを水戸へ向かわせて最終的な確認を行ったのが、先の水戸での話である。

 花組候補のことごとくをスカウトしてきているあやめの人を見る目の正確さには米田は全幅の信頼を置いており、そのあやめから梅里について「大丈夫」というお墨付きが今まさに出たのはとても喜ばしいことだ。

 米田にとって知己であり、懸案事項だったのでその報告はまるで自分の子供や孫のことのように純粋に嬉しく思う。

 

「ただ……」

「……ん? なんだ、あやめ。気になることでもあるのか?」

 

 ホッとしたのもつかの間、あやめがなにやら難しい顔をしていたのだ。

 

「はい。つきましては人事で一つお願いがありまして……例の彼、武相 梅里クンについて、ですが」

「ウメ坊……いや梅里のヤツに関してか。なんだ?」

 

 今までのクセでついウメ坊と呼んでしまったが、正式な隊員となれば他に示しがつかなくなるから気を付けないとな、と米田が内心で思っていると──

 

「梅里クンを、夢組の隊長にしたいと思うのですが」

「はぁッ!?」

 

 米田の口から思わず素っ頓狂な声が出た。

 

「オイオイオイオイ、そいつは無理ってもんだぞ、あやめ。それがどれくらい無茶なことか、お前にも分かるだろうが」

 

 帝国華撃団の目玉となる部隊はもちろん量子甲冑で戦闘を行う花組だが、それに次ぐのが霊能部隊という珍しい存在である夢組だ。

 その夢組は前例がなく参考にできるものがないために様々なやっかいごとを抱え込むような事態になっている。その一つが花組よりも人数が必要ということで生じた問題だ。

 例えば梅里のような、代々、鎮魂や除霊を行ってきたような家(仏門や神社に多い)を探すこともしたし、スカウト活動もして人材を集めもしたのだが、それでも予定の人数には足りなかった。

 そのため華撃団は平安の御代から続く日本最大の魔術結社とも言うべき組織の協力を仰がなくてはならなくなったのである。その組織とは京都にある陰陽寮だ。

 陰陽師の組織である陰陽寮の助力を得て、どうにか結成した霊能部隊だったが、しかしそのせいで陰陽寮の口を出す隙を与えることになってしまった。

 具体的に言えば、人事に口を出してきたのである。優秀な陰陽師である塙詰しのぶを送り込んでくると、彼女を隊長にすべしと声高に要求してきたのだ。

 しかし帝国華撃団はあくまで軍の特殊部隊。主導権を掌握されるわけにはいかず、海軍出身の若い軍人を夢組隊長心得として暫定的におき、部隊を組織することで先手を打ったのだ。

 

(たつみ)のヤツが隊長を前提として隊長心得(たいちょうこころえ)になっているんだ。陰陽寮への牽制も含めてだから覆せねえぞ」

「その巽クンのためでもあるのですが……」

 

 とあやめに言われて米田は思わずため息をつきかけ、どうにかこらえる。

 隊長心得を指名するまではよかった。しかし今度は別の問題が起きたのである。

 

「……アイツに罪はねえんだがなぁ」

 

 米田は苦々しい顔でため息をついた。

 軍人である隊長心得の(たつみ) 宗次(そうじ)少尉は着任するとさっそく動いた。人数の多い夢組を、軍の一部隊として組織して活動ができるように、である。

 しかし、それが反発を招いた。

 軍の部隊なのだから、霊子甲冑を動かせないまでも霊力のある軍属の者を探して配属してはいたが、それはやはりごく少数。だからこそ陰陽寮に頼ることになったわけであり、それ以外の大半も民間人登用者が占めている。そして陰陽寮もまた規律だった組織ではあるが軍隊ではない。

 そんな軍の教育を受けてない者らに対し「軍のやり方で動け」と言ってもできるわけが無かった。

 そして霊力による特殊能力は本人の精神状態に左右されやすい。

 あれこれと指図され、軍のやり方を強要された民間登用組はすっかりやる気をなくしてしまい、世界的に珍しいという霊能部隊は早くも瓦解しかけていた。

 

「かといって巽を外せば、今度はアイツらを止められん」

 

 軍の力が弱くなれば間違いなく陰陽寮が主導権を奪いに来る。そこで争いが起こってしまえばもはや取り返しがつかない。

 

「ですから、巽クンでもなく塙詰さんでもなく、司令の身近な人を隊長に据えればよろしいのではないですか。幸い梅里クンは軍属でもなければ陰陽寮の息もかかっていない。その上、中将とも顔見知りの仲ですから両勢力から守ることもできます。これ以上に良い条件が重なる人は考えられません。それに──」

「それに?」

 

 米田の問いに、一度ためらったもののあやめは続ける。

 

「──梅里クンは今のままでは危ういと思われます」

「危うい? どういうことだ? さっきは大丈夫って話だったじゃねぇか」

「はい。能力的には申し分ありませんし、事件のことが尾を引いて戦えないということもないでしょう。けれど……」

 

 一度言葉を切り、キッパリと言う。

 

「彼は死に場所を探しているような様子があります」

「なんだって? おい、あやめ。そんな状況なら入隊させるわけにはいかねぇぞ」

 

 米田は驚く。聞き捨てならない話だ。

 戦いの中で決死の思いが必要なときがあるのは間違いない。だが、決死の覚悟と死を望むのは全く別だ。死を覚悟した者は恐れを抱かなくなるが、同時に生きようと精一杯のあがきを見せる。それが強さにつながるのだ。

 しかし死を望むものにはそのあがきがない。そして一人の死が戦線の崩壊を生じさせることもよくある。

 死線をくぐり抜けてきた米田には幾度も見てきた光景であり、その危さは誰よりも知っていた。

 しかしあやめとて軍人である。そんな人を入隊させるのが危険なことは百も承知だった。だがそれ以上に梅里のことを一人の人として放っておけないと思っていたのである。

 

「梅里クンは自暴自棄になって自ら死を望んでいるわけではないように見えます。でも大切な人を急に失ったことで、生に対する執着が極端に弱くなっているように見えるんです」

 

 直接会った梅里からは積極的に死のうとするわけではないが、死ぬなら死んでも構わない。そんな気持ちが見え隠れしていた。

 

「…………私にも、そういう時期がありましたから」

「悪ぃな」

 

 同じ対降魔部隊だった山崎真之介が降魔戦争の最後で姿を消している。恋仲だったあやめがショックを受けていたのはその部隊の生き残りの一人として米田も知っていたし、その古傷をえぐるような話だったと気づいている。

 

「いえ……だからこそ、梅里クンを隊長に、と推薦したいんです」

「隊長になれば指揮を執らなきゃいけねぇからな。危険な場所にいく可能性は低くなるか。しかしそれだけの理由でやらせるわけには──」

「隊長ともなれば多くの隊員たちと接します。そういう立場になれば気がつくはずです。絆というものの存在と、その尊さに。それが明日を生きる力になることにも」

「……なるほど、な」

 

 米田は頷く。理解したのだ。あやめの言う可能性を。

 しかしそれ以上に、あやめが梅里のことを真剣に心配していることを。

 

(公私混同になっちまうが、ありがとうよ)

 

 それは米田にとっては、友の孫を思いやってくれたことにうれしさを感じていた。

 

「わかったぜ。アイツを隊長にしてやろうじゃねぇか。オレの全責任で、よ」

「ありがとうございます、米田司令」

「気にすんな。今言ったろ。オレがオレの責任でやることなんだからよ。まぁ、巽には悪いことになっちまうが……民間登用の隊長なら先例があるし、どうにか押し通せそうだな」

 

 そう言って米田はニヤリと笑った。

 

「はい。それと巽クンを外す以上、海軍には見返りが必要になるかもしれませんが……それが例の彼を呼ぶ口実になりませんか? 花組の隊長として」

「オイオイ、そこまで考えてたのか? 恐れ入るねぇ、まったく」

 

 米田は少しあきれ気味に、微笑を浮かべるあやめを見た。

 




【よもやま話】

 回想シーン。時期的にはあやめが梅里に会いに行ったのが年明けくらいで、その直後と思ってください。
 『2』の途中から梅里を「現役では唯一の民間人登用された隊長」として設定した(マリアという前例があるので許されてないわけではない、という解釈)のですが、途中から出した設定だったので、リメイクで最初から出すことにしました。もちろんその理由も付けて。おかげで宗次に泥をかぶってもらうことになりましたが。
 その宗次を夢組隊長から外す代わりに海軍から引っ張ろうとしているのは、もちろん花組の隊長になるあの人です。
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