サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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「ウメくんって強いから、きっと軍に入っても活躍間違いないよね」
「俺が?」

 初日の出を見に行き、そのまま初詣に参拝した大洗磯前神社の長い階段を下りながら四方(しほう) 鶯歌(おうか)は笑顔で言った。
 言われた武相(むそう) 梅里(うめさと)は戸惑い、首をかしげる。

「だって、剣術ならお兄さんにも負けないんでしょ?」
「兄さんは跡取りだから。料理ばかり鍛えられてるし、剣術はたしなむ程度でしかないよ」
「でも、あたしはウメくんより強い人、見たことないよ?」

 そこまで言われれば梅里も悪い気はしない。
 なぜ剣術を鍛えているのかまでは彼女に言えなかったが、それでも日頃の努力の成果を認められるのはうれしいことだった。
 それが、梅里も思いを寄せている幼なじみなら、尚更だ。

「……あ、でも、ウメくんの御爺様はもっと強かったわね」
「上げておいて落とさないでよ!!」

 突然の手のひら返しに梅里は抗議する。
 それを笑って誤魔化そうとする鶯歌。

「ゴメンゴメン。でも、強いと思ってるのは間違いないよ」
「そう言って、また落とすんだろ?」

 憮然とする梅里に、彼女は首を横に振った。

「そんなことないよ。ウメくんはあたしのことを守ってくれるって思ってる」

 そしてもう一度、笑みを浮かべる。

「そんなウメくんが軍に入ったら、もっとたくさんの人を守れるとも思ってるよ。だって……」

 鶯歌はじっと梅里を見つめる。

「ウメくんは、誰よりも強いから……」


 ──その言葉が、今の梅里には深く深く突き刺さるのだった。




最終話 この命、賭して
─1─


「夢組、本部勤務員及び私を除き、花やしき支部へ帰投しました」

「……御苦労」

 

 定刻華撃団夢組副隊長、(たつみ) 宗次(そうじ)の報告に、同司令である米田(よねだ) 一基(いっき)はねぎらいの言葉をかけた。

 だが、それもどこかもの悲しい。普段なら彼の傍らに立つはずの人がそこにいないからだろうか。

 

「お前はこれからどうするんだ?」

「報告が終了次第、花やしき支部に向かい他の者と合流予定です」

「そうか……」

 

 米田が気落ちしているのは間違いない。宗次もそれは実感していた。この支配人室の重苦しい空気がなによりも如実にそれを語っていた。

 

「あやめがいねえと、どうにもしまらねえな」

 

 そう言って寂しく笑う米田。

 それに宗次は肯定するわけにもいかず、否定するのも白々しく、答えることができずにいた。

 だが、気落ちしているのは米田だけではない。帝国華撃団の主力である対降魔迎撃部隊である花組のメンバーはいなくなった藤枝あやめが集めたと言っても過言ではない。

 その彼女が、敵となった。

 それを眼前で見せつけられた彼女達にとってはあまりに厳しい現実だろう。早々に心の整理をつけろというのが酷というものだ。

 宗次自身も、夢組支部長という肩書きがあり、華撃団の支部長であるあやめには色々と世話になったし、相談したこともあった。

 思えば自分が夢組隊長心得だったときには部隊が上手く回らず、夢組内でも軋轢を生んでいたので、その解消のために大きな迷惑をかけていただろう。もっとも彼女のことだからそれを「迷惑」とは絶対に言わないだろうが。

 その夢組内での動揺ももちろん大きい。花組よりも大所帯で多くの隊員が支部にいる夢組にとって、彼女は支部長として皆の面倒を見ていたからだ。

 だがそれらはあくまで「動揺」レベルだ。もっと深刻な影響を受けている者が2名いる。

 一人は、華撃団内部での「裏切り」を予知していながら防げず、地元で迫害を受けていた自分に居場所を与えてくれた人としてあやめを慕っていたティーラ。

 もう一人は、やはりその勧誘に関わり、予知のことを知っており、そしてなによりも目の前で降魔にされるという心的外傷(トラウマ)を思いっきりえぐられた梅里である。

 思えば、降魔にされかけたという梅里の幼馴染同様に、あやめもまた「降魔の種」を植え付けられていたのかもしれない。

 それこそ6年前の「降魔戦争」のときに。

 

「ティーラとウメは、どうだ?」

「正直、現状では無理です。ティーラが能力を発揮できるとは思えませんし、梅里も戦いに出すわけにはいきません」

 

 なによりも、あの茫然自失とした梅里を一般隊員達に見せることさえ志気に関わる。

 本来ならば『魔神器』を奪われたことで警備する必要が無くなっている上、気落ちしている花組隊員達を気遣って全員花やしき支部に引き上げたかったのだが、梅里を他の夢組隊員に見せないためにあえて本部に残しているほどだ。

 

「……そうか。お前は支部に戻ってティーラのフォローを頼む」

「了解しました。が、梅里に関しては、どうしますか?」

「そいつはお前が心配しなくても、世話焼きが好きなヤツやそのライバルが放っておかねえだろ」

 

 米田は苦笑しつつ、コップを煽る。

 その中に入っている透明な液体から、独特の匂いがしたとしてもそれを責めることは宗次にはできなかった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そのころ、梅里は厨房にいた。

 置いてある椅子に腰掛け、呆然とうつむいている。

 出撃からそのままの格好である男用の白い夢組戦闘服のまま。それも激しい戦闘をしてきたので汚損もあったが、それもそのままだった。

 それを隠すかのように、その上に濃紅梅の羽織を着ている。この寒い厨房から動こうとしない梅里を気遣ったしのぶが持ってきて着せたもので、その様子はいつもとはかけ離れていた。

 そんな彼にピタリと寄り添っているのは、やはり同じように夢組戦闘服──こちらは巫女服のような女性用で、幹部に許されている個人を示す専用色である鮮やかな赤紫の袴を履いている──に身を包んだ塙詰(はなつめ) しのぶだ。

 

「梅里様……」

 

 彼女は梅里の頭をそっと優しく抱き抱える。

 彼の気持ちは推し量って余りあるほど、心に深い傷を負っているのをしのぶは理解していた。

 彼女自身、あやめがいなくなった──降魔となったことは心理的にダメージを受けている。

 しのぶの入隊は陰陽寮からの推薦なのであやめは関わっていない。だが入隊後は当初、夢組内の軍派と対立する構図になった陰陽寮派の中心として、また黒之巣会との戦いの最終局面で離脱しようとしたり、と多大な迷惑をかけてしまった。それでもしのぶが華撃団に残れるように尽力してくれたのは彼女だ。

 さらにその後は陰陽寮と接触して態度を軟化させることにまで尽力して、そのおかげでしのぶは実家を訪れて和解できている。その恩を忘れることはできない。

 さらには、生まれついての能力のために忌避されたり人を遠ざけたりしていたせいでコミュニケーション能力がポンコツである上、陰陽寮派のトップであり、年齢的にも上の方に分類されるという悪条件が重なったしのぶにとって貴重な相談相手であった。

 黒之巣会との戦いが終わって以降が中心ではあったが、特にこの目の前にいる相手についての相談は、恋愛経験がゼロに等しいしのぶにとっては本当に頼りにしていたのだ。

 

(ですから、だからこそわたくしも……あやめさんのようにとはいかないのは理解していますが、それでも、少しでも支えたいのです)

 

 自分がポンコツなのはわかっている。あやめとは比べるのも失礼だろう。

 そう考えるしのぶの優しさは、決してあやめに劣るものではなかった。

 まるで赤子を抱きしめるような、言葉を必要としない無償の抱擁は、梅里の心を少なからず癒しただろう。

 だが──彼の心の傷はそれでは立ち直れないほどに、あまりに深すぎた。

 




【よもやま話】
 短くてすみません。自分の感覚ではいつも通りくらいだったのですが、編集してみたら文字数の少なさに驚きました。
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