サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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─3─

 帝国華撃団の本部がある大帝国劇場へと降魔を引き連れてやってきたのは上級降魔「蝶」であった。

 それを阻むべく出撃した花組を援護する夢組だったが、その動きにはどこかぎこちなさがあった。

 あるべきものが欠けている故に起こる違和感。

 そのあるべきものの名前は、この場にいる夢組の全員がわかっていた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 周囲に結界を展開し、戦場の拡大防止に務める夢組は、それを阻もうとする降魔との戦いを行っていた。

 上級降魔「蝶」が駆る紫電不動は大帝国劇場を目指し、花組の神武と戦いを繰り広げているが、それが従えている降魔の別働隊がおり、そのような状況になっている。

 

「釿さん、そっちにいきました!」

「わかってる。任せとけ!!

 

 松林(まつばやし) 釿哉(きんや)が構えた長銃から赤い光弾が放たれ、空中にある降魔を貫く。

 おぞましい悲鳴をあげながら堕ちていく降魔。

 それを見届けて釿哉は「ふぅ」と息を吐く。

 

「オレの『金』属性の霊力を駆使して作り出した、“磁”力場を“利”用して飛ばした弾丸で“遠”くの敵を倒す……ふむ、()()(オン)とでも名付けようか……」

「バカなこと言ってないで、敵見ろ敵!」

 

 強い口調で宗次から突っ込みが入り、視線を戻す。

 狙撃された降魔が墜落しながらも釿哉の方へと襲いかかっていた。

 構えていた長銃をそのまま手にして振りかぶる。

 

「さすが降魔、しぶてえな!! 霊想錬金、秘陽鋳炉(ヒヒイロ)(カネ)!」

 

 彼の霊力がつくり出す仮想の炉が、仮初めながらも理想の金属を生み出し、具現化する。

 先ほどの弾丸と同じ赤く──緋色の金属光沢を持つそれは、今度は銃身の下で刃となった。

 その銃剣で墜落してくる降魔を切り裂き、釿哉はもう一度「ふぅ」と息を吐いた。

 

「さすがですね! 頭!」

 

 錬金術班の女性隊員から通信が入る。

 

「おうよ。ざっとこんなもんよ」

「で、さっきの狙撃の名前ですけど、赤い光弾(ルビーバレット)の方がいいんじゃないですかね?」

「あ~、それは幻想(ファンタシー)(スター)回線接続(オンライン)な感じだから、却下だ」

「頭……全然意味が分かりません」

 

 そんな会話を無線でやり取りをしていると

 

「余計な通信をするなッ!!」

 

 通信機から大音量で宗次の怒鳴り声が聞こえる。

 それに中断された釿哉は指で耳をほじりつつ──

 

「──なんか調子が出ねえな、アイツがいねえと」

 

 釿哉はため息をつくと再び長銃を構え、次の獲物を求めた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「ここは任せて下がって!!」

 

 せりの指示が飛ぶと、調査班の一般隊員たちが飛来した降魔から距離を取り、慌ててその場から去ろうと試みる。

 そうはさせじと迫る降魔。そこへ矢が飛び降魔に刺さり、それを妨害する。

 

「今のうちに!!」

 

 せりがさらに声を出す。

 軽く頭を下げて礼を示しつつ、彼女たちは降魔からさらに離れた。

 そのころには、降魔のねらいは一般隊員たちから、自分を傷つけた憎き相手──せりへと変わっている。

 

 ──そのとき、せりの心理状態はいつもとは違っていた。

 

 通常であれば、せりは弓兵であり、援護や狙撃こそ役目だと分かっていた。ましてや相手は降魔、それに真っ向から立ち向かうなど無謀でしかない。囮になるなど論外だ。

 だが、彼女の頭にあったのは──梅里の穴を埋めなければならない、という思い込みと焦りだった。

 

(本当なら、アイツを引きずってでも連れてこなきゃいけなかったのに……)

 

 それは本来正しくはない。戦う意志を失った梅里をこんな場所に連れてきたところで降魔に殺されてしまうのがオチだ。

 そんな簡単なことさえ気が付かないほど、彼女は思い詰めていた。

 それが正常な判断力を阻害し──普段なら、やらない無謀へ走らせていた。

 襲い来る降魔に対し。せりは矢筒から次の矢を取ろうとして──いつもとは感覚が異なっている右手が矢を掴み損ねて地面へと落とす。

 

「え──」

 

 その違和感は、あまりにも右手で何度も叩いたことによる手のしびれだった。

 先ほどのあれが、こんなことに響くなんて──せりに後悔と、焦りの気持ちが生まれる。

 そしてそのミスが、矢を拾うべきか、あきらめて次の矢を矢筒から出すかを迷わせ──迫った降魔の鉤爪は目の前にまで迫っていた。

 

「しまっ──」

 

 必死の間合いに詰められて、初めて冷静になった。

 なぜ降魔と一対一という夢十夜作戦のときには三人にしか許されなかった状況に、自分から踏み込んでいったのかと愕然となる。

 だが後悔してもすでに遅い。鉤爪はせりの命を刈ろうと──

 

 

 ──横から割り込んだ白刃に斬り飛ばされた。

 

 

 せりの顔の横をものすごい勢いで鉤爪が飛んでいき、思わず目を丸くする。

 降魔の腕を斬り飛ばした彼は、返す刀で降魔に深手を負わせ。三度目の太刀でほとんど口しかないその頭を跳ねつつ振り返り、血糊を飛ばして刀を納める。

 唖然としたままのせりの目の前に、今し方、降魔を倒したその人が立っていた。

 

「……なんで、いるのよ」

 

 帝国華撃団夢組の男性用戦闘服。狩衣のような形をしたその服、隊長を示す白色で、それに金色の装飾が入った特別なもので──

 その彼が、せりの顔に手を伸ばしてくると、ついさっき鉤爪が近くを通り抜けていった左頬を優しく撫でた。

 

「傷は……付かなかったみたいだね。よかった」

 

 そう言って笑みを浮かべる彼を見る視界が(にじ)む。

 

「──僕の頬を叩きすぎて手の感覚失うとか……せりって結構ドジだよね」

 

 そんな彼の言葉はいつもの調子に戻っていて──

 

「ズルいわよ、あなたは……もう、ホントに!」

 

 左頬にあてられた手を思わず掴み、両手で包む。

 涙を隠すように、その手の甲に自分の額をあててうつむく。

 

「言うこと、あるでしょ?」

「遅れて、ゴメン」

「遅くなったのが悪いんじゃないでしょ、まったく。どんな顔してここまで来たのよ」

「……ゴメン」

「許さない」

 

 頑ななせりの態度に、彼は戸惑い、残った手で頬を掻く。

 

「許して欲しかったら、もう二度と迷わないと誓いなさい。そして……付近の降魔をすべてやっつけてきないさよね、梅里!」

 

 そう言ってせりは顔を上げ、涙に塗れた勝ち気な笑みを彼に見せた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 欠けていたパーツが埋まった夢組は動きが格段によくなり、質の高いサポートで花組を支援、見事に上級降魔「蝶」の魔操機兵・紫電不動の撃破を補佐したのであった。

 その戦いが終わり──

 

「梅里様ッ!!」

 

 しのぶが梅里へと駆け寄る。

 すでに夜明け前となり、徐々に闇の色が薄くなりはじめている。そんな中、足下を気にしながらしのぶは梅里の側までやってきた。

 

「しのぶさん──って、ちょっと!?」

 

 目の前まできたしのぶは、そこで止まることなく、そのまま梅里へと抱きつく。

 戸惑う梅里の胸に顔を埋めるようにして、しのぶは思いを告げる。

 

「わたくしは、しのぶめは信じておりました。梅里様が立ち直ってくださると。また、刀をとって帝都の人々のために戦ってくださると……」

「心配、かけちゃいましたね。すみませんでした」

「心配なんて、そんな!」

 

 顔をあげるしのぶ。彼女の細い目がすぐ近くにあるが、その距離だからこそ彼女の睫毛(まつげ)や目元が濡れているのに気が付く。

 それで彼女が涙を流すほどに心配をかけていたと思い至り、梅里はよりいっそう申し訳なく思った。

 

「梅里様。わたくしが居るべき場所は陰陽寮でも、華撃団でもありません」

「え?」

 

 しのぶの言葉に驚く梅里。

 

「あなた様の傍らこそ、わたくしが心から願う居たいと思う場所なのです。梅里様のいらっしゃらない華撃団になんの価値がありましょうか。あなた様が迷われるなら、わたくしも共に迷いますし、あなた様が去るとおっしゃるのならわたくしもそれについて行く所存です」

「そ、それは……」

 

 彼女の立場は華撃団と陰陽寮のいわば架け橋であり、おいそれと華撃団を辞められるような立場ではないのでさすがに焦る梅里。

 

「ですから、もし次また悩まれるようなことがあれば、わたくしにも相談してくださいまし。慕う殿方が悩んでらっしゃるというのに、なにも力になれないということがこんなにもどかしく、悲しいものだとこの(たび)は思い知らされましたので」

 

 ジッと見つめてくるしのぶ。

 彼女に圧され、梅里はうなずくしかなかった。

 

「わかったよ、しのぶさん。でも盲目的に付いてくるなんて言わないで。後ろについてくるだけだと僕にはしのぶさんの姿は見えないし、しのぶさんも僕の背中しか見えないでしょ? どうせなら横に並んで、一緒に歩きましょう。きっとその方が、楽しいです」

「梅里様……」

 

 しのぶの顔がぱっと華やぐ。

 目は相変わらず閉じたように細いままだが、浮かべた笑みは先ほどよりも明るさを感じさせた。

 その目が、何かに気がついたように心配そうなそれへと変わる。

 

「あの……お顔、大丈夫でしょうか? 先ほど厨房で、せりさんに何度も叩かれていらっしゃったので……」

「あ、うん。それは、まぁ……」

 

 しのぶに言われて思い出す。思えばけっこう、何回も叩かれていたように感じる。

 苦笑しつつ頬を掻こうとして──触れた痛みで手が止まった。

 そんな梅里の頬に、しのぶは手を伸ばして触れる。

 その目は閉じたように細いままだが、眉根が寄せられひどく悲しんでいるように見える。

 

「痛かったでしょう?」

「それはやっぱりそうだけど……でも、せりも僕のことを思ってやったことだし──ッ!?」

 

 その途中で梅里は口を塞がれていた。

 突然、頬に触れていた手でそのまま顔を掴み、自分の唇を合わせてきたしのぶによって。

 しばらくして唇同士が離れる。

 

「な……どうしたんです? しのぶさん」

「ご、ごめんなさい。梅里様が、あまりにせりさんを庇うものですから、つい……」

 

 顔を真っ赤にしてうつむくしのぶ。

 彼女がチラッと視線をあげて梅里の表情を伺おうとしたとき、突然、寒気におそわれ、思わず両手で自分の体を抱いた。

 

「い、今の悪寒は──」

「しのぶさん、大丈夫?」

 

 異変に気づいた梅里が、しのぶの肩を掴んで心配そうに声をかける。

 

「しのぶさんも感じたの?」

「はい……ということは梅里様も?」

 

 その確認に梅里もうなずく。

 

「寒気が走るようなイヤな感覚。いったい今のは……」

 

 つぶやいたとき、ちょうど朝日があがってきた。

 明るくなってきたその光に照らされて、見えたその威容に梅里だけではなく、夢組、いや華撃団員たちがどよめいていた。

 

 

 遠くに見える──浮いた大地。

 

 

 まるで城のようなそれが、東京湾上にあった。

 




【よもやま話】
 この話も、編集最初のアップ段階の初期稿では文字数少なすぎて加筆しました。そういう時に便利なのが釿哉ですね。
 せりも、梅里の叩きすぎでうっかり死にかけるという……かずらが体張って立ち直らせてなかったら、このシーンで死んでましたな。
 結局、『暁の三騎士』は名前だけしか出しませんでした。いや、なんか扱い辛くて出し辛かったから……
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