サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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 暁の三騎士の最後の一人、上級降魔「蝶」の撃破にわいた帝国華撃団だったが、その空気は一気に吹き飛ばされた。

 夜明けと共にその姿を東京湾上空に現した、宙に浮いた巨大な大地に騒然となった。

 封印された降魔の城である『聖魔城』が存在する、失われた大地──それこそ降魔城の封印が解かれて姿を現した『大和』だった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「花組は、出撃準備に入っている」

 

 米田が夢組隊長の梅里と、月組隊長の加山、それに雪組隊長を前にして口を開いた。

 

「風組も、あの『大和』に翔鯨丸で届けるべく、準備をしている」

「それにしては少しばかり大掛かりすぎやしませんか、司令。この場に風組隊長がいないのは、不自然に思うんですがね」

 

 翔鯨丸一隻動かすのに、風組隊長が掛かりきりになるわけがない。

 そう思っていた加山が言うと、米田は苦笑を浮かべた。

 

「ああ、加山の言うとおりだ。花組の出撃後に、こっちも切り札を切る」

「切り札? しかし司令、魔神器は……」

 

 首を傾げたのは梅里だった。

 他の二人は預かる隊の性格の違いで、その存在自体を今まで知らされていなかった。

 

「そいつも切り札だった、というのが正しいがな。で、切り札が一つだけなわけねえだろ」

 

 苦笑する米田。

 

「魔神器は奪われたときのリスクが高いが、こいつは大掛かりで使う度に被害で出ちまう。それに、時間がかかる」

「花組は囮、ということですか?」

 

 加山の容赦ない言い方にさすがにまずいのでは、と梅里は困惑して思わず隣の加山を見てしまう。その向こうにいる雪組隊長は眉をピクッと動かしていた。忍耐強い人なので我慢したのだろう。

 実際、米田は顔をしかめていた。

 

「降魔の邪魔を受けるわけにはいかねえからな。月組にも同じことをやって貰うつもりだが……不満か?」

「いえ。全力を尽くします」

 

 無礼は百も承知でも、仲加山はがいい同期である大神のことを考えると、言わずには居られなかったのだろう。

 

「他の二人も聞いての通りだ。夢組は広範囲の結界の展開、雪組は他の支援を頼む」

「「了解」」

 

 二人が応えると、米田は夢組が張るべき結界展開範囲を地図で示し──

 

「司令……本当にこの範囲ですか?」

 

 (かたち)こそ長方形だが、その指定された範囲がとんでもなく広い。

 梅里はさすがになにかの手違いやミスではないか、と恐る恐る尋ねた。

 軍人ではない梅里には軍の常識に疎く、軍隊で上の命令に疑問を表に出す時点で礼を失するのだと思って迷ったのだが、さすがにこの範囲は無茶だと思ったのか、加山も雪組の隊長も眉をひそめることさえしなかった。

 

「ああ、間違ってねえ。ちょっと無茶な範囲だが……夢組総員であたれば可能だろ?」

「それは、もちろん」

「というわけで、夢組の連中は身動きがとれなくなる。この範囲に降魔が近づかないように月組が敵の誘導と攪乱。雪組が支援と護衛をやってもらう」

 

 米田が指示を出し、三人の隊長が敬礼をする。

 帝国華撃団にとって史上最大の作戦が始まろうとしていた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 帝都内を華撃団員が走り回る。

 巫女服を模した夢組のものや、動き易さと目立たなさを重視した月組といった、三種の戦闘服を着た者たちが入り交じっている。

 夢組は広大な範囲を取り囲むように隊員たちが等間隔に配置されていく。

 

「発動のタイミングは、千波(ちなみ)の念話で一斉に送る。結界は壁として組成。屋根は作る必要はない。絶対に間違えないように」

 

 夢組総動員ということで、各幹部たちもその班員たちと共に配置され、結界の要所要所を担当する。梅里の周辺には特別班の者たちが固めていた。

 

「配置完了した者は精神集中に務めつつ待機。防御や警戒は必要ない。他の組を信じろ!」

 

 梅里の指示に「了解」の言葉が返ってくる中、梅里もまたその中に加わる。

 やがて──

 

「夢組、配置完了したッス」

 

 瞑想し、【千里眼】で俯瞰的に状況を見ていた。遠見(とおみ) 遙佳(はるか)が報告を入れる。

 それに「分かった」と簡潔に応えた梅里が通信機を手にする。

 

「……こちら夢組隊長。準備完了しました」

「了解しました。その状態で待機を願います」

 

 返してきたのは風組隊員にして大帝国劇場の売店の売り子、高村 椿だった。

 

「了解」

 

 梅里はチラッと側に控える八束(やつか) 千波(ちなみ)を見る。彼女は結界展開に参加しない数少ない例外だ。

 梅里自身もその配置内へ入り、念をこらして準備に入る。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「夢組の結界準備、完了です」

 

 と、高村 椿が報告し──

 

「甲板上の市民の避難、完了しました」

 

 さらに、榊原 由里の報告が続く──

 

「最終安全装置、解除……発進準備、完了!」

 

 そう言って、藤井かすみが後ろを振り返り──

 その先に座した帝国華撃団司令、米田一基がその報告を受け──

 

「よし、メインエンジン始動! 帝都全域に緊急警報発令……」

 

 米田が手をかざし、高らかに宣言する。

 

 

「空中戦艦ミカサ──発進!!」

 

 

 米田の命令で、帝都の中心部では地震のように地面が揺れていた。

 そんな中、梅里は念話と共にあえて声を出して指示を出す。

 

「超広範囲結界障壁、展開!!」

 

 その声に応じて、長い方は8キロ以上、短い方でも3キロを越える広大な長方形の範囲を包むように、障壁が取り囲む。

 不可視のその障壁の内部では、地面が割れ、それがスライドして格納される。

 その巨大な溝から、常識外れの巨体を誇る物体が、浮き上がってくる。

 

 全長8047メートル、全幅2907メートル、全高4121メートル。

 超弩級空中戦艦ミカサ。帝国華撃団の切り札がその姿を見せたのだ。

 

 発進後、間もなく、その鑑首に備えられた主砲の93サンチ砲が轟音とともに火を噴き、浮遊する失われた大地『大和』にある聖魔城へ繋がる門へと直撃、破壊したのであった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 その様子を帝都地面から見守っていた梅里は、ほっとため息を吐いた。

 

「あとは……アイツらに任せるしかない、な」

 

 そんな梅里に声をかけてきたのは月組戦闘服をまとった隊長の加山 雄一だった。

 共に見上げた上空では、離れてもなお巨体と分かるミカサと、それに比べるとだいぶ小さく感じてしまう翔鯨丸が並んで飛行していた。

 

「その戦いを支援できないことに、もどかしさを感じますけどね」

「それについては同感だが……今さら追いつけないからなぁ」

 

 梅里の言葉に苦笑する加山。

 彼はポンと隣の梅里の肩を叩いた。

 

「夢組の障壁があったからこそ、ミカサは発進できた。発進の瞬間こそミカサに十全の準備が整っていない弱点だからな」

「そう言っていただけると、少しでも気が紛れます」

 

 梅里も笑顔を返し、再びミカサを──その向かう先にある『大和』を見つめる。

 そしてそこに居るであろう、上級降魔・殺女を思い浮かべる。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「──オレは、あやめさんを元に戻す」

 

 翔鯨丸で出撃する前に、花組隊長の大神は梅里にそう話した。

 出撃前に声をかけ、話が上級降魔・殺女(あやめ)に及んだとき、彼はそう言ったのだ。

 あやめの思いを遂げるため、その不本意な破壊を止めるために、殺女を斬ることしか考えていなかった梅里にとっては意外な言葉だった。

 それが本当に可能なのか、それは梅里の知識にもなく、分からないことだったが……。

 

「わかりました。参考になるか分かりませんが……」

 

 そう言って梅里は自分が幼なじみを失った経験を大神に話した。

 驚いた様子でそれを聞いていた大神に、梅里は最後に付け加える。

 

「僕は……彼女を助けられませんでした。あやめさんを止めることも。ですから、あやめさんのことは大神さんに任せしますが……」

 

 梅里もあやめに世話になったが、実働部隊であり、大帝国劇場で寝起きしていた大神の方が関わりが深い。その思いは梅里以上に強いだろう。

 

「失敗ばかりの僕が、こんな偉そうに言うのは恥ずかしいのですが……後悔をするような結果にだけはしないでください」

 

 それは心からの言葉だった。

 そのとても大きな失敗を梅里は引きずり続け──

 

 

「「「梅里」様」さん!」

 

 

 梅里を見つけた三人が駆け寄ってくる。それぞれシアン、マゼンダ、萌木色をした袴の夢組戦闘服を身に着けて。

 

 ──そんな彼女たちに梅里は救われた。

 

 見れば大神のもとにも、やはり色とりどりの、こちらは花組専用服に身を包んだ6人が駆け寄っている。

 彼女たちがいれば梅里のようなことにはならないだろうが、それでも、願わずにはいられなかった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そんな大神とのやりとりを思い浮かべていた梅里だったが──

 

「──隊長ッ!」

 不意に通信が入った。

 その女性の声はティーラのそれだった。口調は切羽詰まっているように思える。

 

「どうかした?」

「緊急案件です。予知で──」

 

 ティーラの連絡は予知を、未来を見たというものだった。

 聖魔城にあるという、その一撃で帝都を破壊できると試算されている霊子砲という兵器。

 ティーラはそれが帝都に向かって放たれる未来を予知したという。

 

「確かに緊急の案件だけど──」

 

 考え込む梅里。ティーラの予知、それも突然に頭に降ってくる『天啓』と言われるものはかなり高確率で現実のものとなる。

 それを避けるために行動をつくせば避けられることもあるが、それは実現まで時間がある場合だ。

 今回の霊子砲が放たれるという予知は──おそらくそうは時間がない。

 

「──どうすれば防げる?」

 

 腕を組み、考えにふける梅里。

 これを防げなければ、いくら聖魔城を落とし、元凶である葵 叉丹を倒したとしても勝利したとは言い難くなる。

 

「武相隊長。スマン、聞こえてしまったんだが……ちょっといいか?」

 

 傍らにいた加山月組隊長が軽く手を挙げる。

 

「確認だが、その予知っていうのはどれくらい信用できるんだ?」

「何も手を打たなければ間違いなく実現します。かといって絶対に防げないものでもありません。ただ……今回は時間がなさ過ぎます」

「ああ、確かに。その霊子砲とやらが準備でき次第、敵は撃ってくるだろうからな」

「おまけに、華撃団にはもう打つ手がありません」

 

 未来予知を覆す要素が今の華撃団にはない。

 すでにミカサという特大級の切り札を切ってしまっている。それでも防ぐことができないと突きつけられているのだ。

 少なくともミカサや魔神器級の切り札が残っているのを梅里は知らない。そして加山も把握していない。

 

「撃たれるのを防げないのなら……撃った砲撃を防げばいいんじゃないのか?」

「え?」

 

 加山の言葉に唖然とする梅里。

 

「いや、撃たれた砲撃を着弾するまでにどうにかできないのか、と思ってな。そっちの隊員の話では、『撃たれた』というところまでしか見てないんだろ?」

 

 それを聞いて、梅里はティーラに確認をとる。彼女の話では確かに『霊子砲が砲撃する』ところは“視た”が、それが着弾して甚大な破壊を受ける帝都の姿は見ていない、とのことだ。

 

「ということは……」

「防げる可能性は残っている……いや、それに賭ける以外に道はない」

 

 梅里の視線にうなずいて応える加山。

 遙佳に【千里眼】で聖魔城の霊子砲の向きを確認させ、その弾道を予測する。

 そして梅里はその最寄りの海岸への移動を指示する。

 そのサポートを、帝劇本部がミカサと共に『大和』へと去り、臨時の本部となった花やしき支部を通して依頼する。

 

「封印・結界班を最優先で移動!! いつ霊子砲が放たれるか分からない、一刻も早く現地に迎え!!」

 

 梅里が指示を出し、残された風組の支援を受けて夢組以下の華撃団は移動を開始した。

 




【よもやま話】
 ミカサ発進シーンは、台詞を完全にムービーに合わせました。(初代バージョンに)
 ただし、帝劇三人娘の中でなぜか一人だけ台詞がなかった椿にオリジナルで台詞付け加えました。
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