サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~ 作:ヤットキ 夕一
帝都の港湾部に、帝国華撃団は帝都に残っていた戦力のうち、花やしき支部の維持と防衛に必要な最低限の人員をのぞいて集めていた。
【千里眼】の遠見 遙佳たちに霊子砲を霊視させてその出力を予想し、それに対抗できるだけの障壁をつくり出そうという作戦だった。
すでに障壁を強化する資材を雪組が中心となって設置を始めている。
月組は周辺の降魔の探索と排除を行い、梅里たち夢組は核となる障壁の準備をしていた。
そして──そこに帝都に残った降魔の最大戦力がやってきた。
「こざかしくあがこうというのか、華撃団」
赤地に黒い文字が書かれた札を額に付け、頭には陣笠、それぞれ花札の「松」「梅」「桜」が描かれた外套をまとった人影が三つ、そこに現れていた。
それと対峙する梅里が口を開く。
「暁の三騎士も全滅し、十丹も残るはお前たち三人だけだぞ!」
「そろいもそろって惰弱なヤツらだったということだ。だが……来るべき我ら降魔の世の
「松」が言うと、残りの「梅」と「桜」がスッと傍らによる。
「
三人が構えをとり──
「「「融合!!」」」
同時に声をあげると、そこを中心に妖力が一気に爆発した。
その余波が突風となって一帯を駆け抜け──その後には、子供のようだった体躯が成人を越えるそれへと変化させ、顔に三枚の文字が書かれた赤い札を張り付けた、一体の上級降魔へと変貌していた。
「我ら赤丹・菅原に貴様らの攻撃が通じると思うなよ」
自信をみなぎらせ、不敵にそう言い放つと、赤丹・菅原は地面に片手を付ける。
「
ついた手を中心に、大地に魔法陣が浮かび上がると、そこが一気に隆起する。
まるで卵から孵化するかのように、隆起した地面を吹き飛ばし、一体の魔操機兵が出現した。
外見は今までの風巻、激流の両童子とほとんど同じ。
その頭頂部に立つ赤丹・菅原が溶けるように姿を消し、頭部に不気味な暗く赤い光が灯る。
「ではゆくぞ、華撃団!!」
背部の蒸気機関の回転が上がり、勢いよく蒸気を吹き上げる。
帝都に残った華撃団と、同じく残っていた上級降魔の最後の戦いが幕を開けるのであった。
「……口ほどにもないな」
赤丹・菅原の声が周囲に響く。
その尊大な態度が示すように、その強さは今までの風巻童子や激流童子の上をいっていた。
動きこそ鈍重だが、とにかく固い。
その装甲は梅里の斬撃はもちろん、宗次の槍も受け付けず、コーネルの
遠距離攻撃も、釿哉の長銃による狙撃を弾き、しのぶの霊力を込めた『花地吹雪』も涼風のように真っ向から受けとめ、そして受け付けなかった。
装甲が金属ならば、と放ったせりの『
紅葉も善戦したが、その頑強さを腕に宿した一撃で殴られて吹き飛ばされ、ヨモギ達衛生班が慌てて駆け寄り、治療している。
そのように高い防御力だけでなく、岩骨童子は近づかれれば強力な一撃を、離れればその腕を解放して地面へと刺し、岩塊をつくり出して飛ばしてくる。
その猛攻の前に、夢組は壊滅しかけていた。
「近づいても離れても死角が無く、斬、突、打も効果がない。弓矢も弾丸も、霊力による攻撃も効かない……」
地面に倒れた梅里は愛刀の『聖刃・君子』を杖代わりにして立ち上がろうとしていた。
立ち上がっても打つ手があるわけではない。
しかしここで止めなければ、霊子砲の着弾阻止という目的を達成できず、帝都が灰燼に帰すことになってしまう。
「ほう、立ち上がるか人間。だが、立ち上がってどうする? この岩骨童子に通用するような攻撃手段が貴様らには無かろう」
「それでも、諦めるわけにはいかないんでね。お前ら降魔によって不幸にされる人を一人でも少なくするために……」
梅里が立ち上がり、武器を構える。
「心意気はかうが、その心意気だけで我らを倒すことはできぬぞ。霊子甲冑とかいう貴様らの武器でもあれば多少はマシになったかもしれんが、な」
岩骨童子が腕を地面に刺して次弾を準備する。
「お前を倒すのに……霊子甲冑なんて、必要ないさ。僕ら夢組は……そうやって戦ってきた」
「今まではそれで勝てたのだろうが……我らにはそうはいかなかったようだな」
魔操機兵の中で、赤丹・菅原がニヤリと笑みを浮かべ、岩塊を梅里に向けて放つ。
その速度は弾速は早く、傷ついた梅里は避けることができず──そこへ割って入る人影があった。
両手に持った扇を写し身として霊力で具現化し、開いた扇で二枚の盾をつくり出す。さらに──見開いた金色の目で迫り来る岩塊をしっかりと見つめ、その速度を少しでも遅くする。
その魔眼支配による減速と、地面に対して斜めにした二枚の扇に阻まれ岩塊はその軌道をそらされ、後方へと弾かれていった。
「梅里様には……手出しさせません」
肩で呼吸をしながら、梅里の前にしのぶが立つ。
だが、その呼吸で分かるように彼女もまた限界寸前だ。
「なるほど、大したものだ。今のを防がれるとは思わなかったが……次を防ぐ力が残っているかな?」
岩骨童子が再び地面に腕を刺している。
それにしのぶは怯むことなく、ヒビの入った写し身を一度解除して、再び写し身を具現化しようとしていた。
そこへ──
「ん?」
赤丹・菅原が何かに気がつく。
搭乗している岩骨大輪に正面から、その男は駆けることもなく、しっかりとした足取りで向かってきていた。
手にした棍を握りしめ、それに全力の念を込めつつ。
「雑魚が一人、か……」
大勢の者が着ている戦闘服の中で数人だけ色が違っており、近づいてくるこの男もまた他と違う赤茶色という一人のみにしか与えられていない色だった。
そういう意味で気にはなったが、赤丹・菅原の警戒はその男には向けなかった。
それよりもこの対峙している部隊の中核である白い戦闘服の男だ。これを倒せば部隊の士気がガタガタに落ちるのは明らかだ。
こうして赤丹・菅原は近づいてくる男──
山野辺 和人という男は一言で言えば地味な男だった。
自分のできること、やるべきことを愚直なまでに繰り返す男である。
だからこれまでの戦いで黒之巣会の幹部が乗っていた魔操機兵だろうとも、暁の三騎士が乗っていたものであろうとも、大型魔操機兵相手に捕縛結界を仕掛けて動きを止めようとした。それが今までまったく通じていなくとも。
なぜなら、それが封印・結界班の頭としてまずやるべき仕事だからだ。
このときの和人もまた、自分に与えられた役割を果たすことしか考えていなかった。
──生物界には天敵というものが存在する。
それは例えばカエルがヘビに勝てず、睨まれただけで動けなくなるように、そもそもの強さがまったくかなわない、というもの。
そしてそれ以外に、その相手に対して特化した能力を持ち、それにしか通じないほどにまで研ぎ澄ませ、特定の相手にのみ無類の強さを発揮するというものだ。
例えば特定の種類の蛾の雄のみという異常なまでに獲物特化したナゲナワグモという蜘蛛が自然界には存在する。
その類の天敵が存在していることに、赤丹・菅原はまったく気がついていなかった。
「また役にも立たぬ捕縛結界を、仕掛けるつもりか?」
赤丹・菅原は彼を一瞥しただけで、警戒さえしない。
たとえその手にした棍で何度も叩こうと、元々の固さに加えて自分の妖力によって強化された岩骨童子の装甲には凹み一つ付けられないだろう。
そして、その絶対の自信があった。
なにやら霊力を練って棍に込めているようだが、強化の度合いなら自分の妖力による装甲強化の方がけた違いに上回るはずだ。
だから、その虫けらがどんなに噛みつこうとしていても、するに任せて完全に無視した。
一方、和人は分かっていた。
相手がこちらを歯牙にもかけておらず、注意をまったく払っていないことを。
そして己の防御力の高さに絶対の自信を持ち、それが突破されることはないという油断を。
何よりもこの敵に対して──自分が天敵であるということを。
手にした棍の片側を長くして両手で握る。
そして自分の目の前で絞るように握りしめ、それからそれを体の片側へと動かし、次の瞬間、反動を付けて全力で棍を振った。
「
それは野球でいうことろの、打者のスイングとほぼ同じ動きであり、和人が念を振り絞ってありったけの霊力を込めたバットにあたる棍は、そのまま岩骨大輪の正面へと直撃した。
そして──岩骨童子の正面装甲が砕けた。
「なッ!?」
赤丹・菅原は呆気にとられた。
絶対の自信を持った岩骨童子のもっとも固く、もっとも厚い正面装甲を、上級降魔集・十丹の最強である自分達、赤丹・菅原がその妖力で強化していたものだ。
敵である帝国華撃団が誇る霊子甲冑の一撃にも耐える自信があった。
それが生身の男、たったの一振りでそれがひっくり返された。
そのことに愕然とさせられる。
「な、なにが……起きた!?」
その一撃は正面装甲を砕いただけではなかった。
魔操機兵内部には深刻なダメージが与えられており、操縦系統にも支障をきたしている。
まるで波紋のように広がったその衝撃は、背部の蒸気機関にさえ深刻なダメージを与えている。
和人はその一撃を加えても折れていない棍を手に、厳かに告げる。
「我が一撃は──顛末を
防御力が高いからダメージが少なくなる、という顛末を防御力が高いからダメージが多くなるという逆のものにする──まるで呪いのようなその一撃は、防御力を自慢とする岩骨童子にとってはまさに劇薬ともいうべき毒であり、それを操る和人はまさしく天敵だったのだ。
「おのれ、おのれぇ……我らの油断であった。なんという失態……」
悔しげに和人を睨む赤丹・菅原。
こんな落とし穴が仕掛けられてあったとは、完全に想定外だ。
だが、今の一撃で装甲を破壊された岩骨童子には今までの防御力はない。防御力が高ければ高いほどダメージを与える今の一撃では、先ほどまでのダメージを与えることはできないはずだ。
自分の妖力を防御力向上以外に向ければさらにそれは顕著になる。
目の前のこざかしい敵に対して怒りを覚えていた赤丹・菅原はその妖力を攻撃へと注力する。
が──
「──満月陣・花月!!」
「なにッ!?」
注意を和人に向けていた赤丹・菅原はそれまで自分が注意を向けていた人物に対する警戒を完全に忘れていた。
気がつけば、その男は刀を構えて光の球体を帯びており、その傍らには岩骨童子の砲撃をしのいだ女が立って、霊力を同調させていた。
男がまとった光が淡紅色を帯びると、二人を中心にしてピンクや白の花となって霊力が具現化する。
男が握った刀を掲げると風が巻き、花びらを舞いあげ、そして吸い寄せていく。
刀へと宿った霊力が強い淡紅色の光を発し、刀身を染め上げていく。
「小癪な!!」
岩骨童子は警戒をそちらへ向ける。
そちらへ振り向き、妖力を再び防御に振ろうとしたところで──足下にいる男への警鐘が響いた。
──もしここで防御力をあげれば、再びあの攻撃がくるのではないか。
その疑念がためらいを生む。
その隙をつくように──花びら舞う風が渦となって岩骨童子へとたたきつけられる。
「くッ! 動かんだと!?」
風の渦はまるで先の男──梅里から続く花びら舞う隧道のようであり、それを通り、風をまとったその男が飛来する。
「「急々如律令──
突き刺さる刀。
岩骨童子の砕けた正面装甲にそれを防ぐだけの防御力は残されていなかった。
梅里としのぶの二人の同調した霊力は、岩骨童子を×字に切り裂き──その後方に梅里が着地する。
それと同時に──
「クッ……だが、我ら降魔が破れたわけではない!
叉丹様、我らが大願をッ──」
岩骨童子の蒸気機関が暴走し、爆発を起こす。
そうして十丹──叉丹配下の上級降魔、最後の生き残りとなっていた赤丹・菅原はその爆発の中に消え去った。
【よもやま話】
赤丹・菅原との決戦。岩骨童子の役割はデコイなので打たれ強いのが特徴なわけで、霊子甲冑なしで戦うと向こうの攻撃は痛いのに、こっちの攻撃は通じないという事態になりました。本来なら、タゲをとっている間に紫電不動が雷で攻撃する、というスタイルなんですけどね。
そんな防御力高い敵への特効技を持って、和人が輝きました。
──ちなみに、『花懲封月』もモーションが変わってます。
今回のイメージは『熱血最強ゴウザウラー』から、花吹雪の隧道つくって動きを封じるまでは「ザウラーマグマフィニッシュ」。飛んでいってトドメを刺すところは「ザウラーキングフィニッシュ」。「マグマフィニッシュ」のプテラノドンのブレスで溶岩の隧道ができるのは最高だと思います。