サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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 激戦を終えた梅里はその場に崩れ落ちかけたが、どうにか踏みとどまった。

 そして振り向きざまに指示を出す。

 

「総員、急いで結界の準備を!!」

 

 その指示に「了解」という声が聞こえ、梅里はホッとした。

 同時に今度こそ、膝がガクリと落ちる。

 崩れ落ちた体を支えてくれたのは、戦いが終わり近くにまでやってきた副隊長の巽 宗次だった。

 

「梅里、少しでも休め。霊力も体力も保たないぞ」

「そうも言ってられない状況でしょ」

 

 かなり霊力を使って消耗しているが、霊子砲はいつ放たれるかまではわかっていない。

 一刻も早く準備を整える必要がある。

 

「巽の言うとおりだぞ。少しでも休め、武相隊長」

 

 同じく近くへやってきた月組隊長の加山がそれに同調し、さらに続ける。

 

「そんなに霊力を消耗した状態で、結界を張れるのか? なぁ、巽」

 

 加山の問いかけに宗次も深くうなずいた。

 

「でも、だけど……」

 

 反論しようとする梅里を加山がさらに強く言う。

 

「とにかく夢組はこれ以上消耗するな。配置だけ済ませてそれ以外の準備──増幅用の資機材はこっちと雪組で準備する」

「なら、その微調整を……」

 

 あくまで休もうとせずに申し出た梅里に、割って入る別の影。

 

「それはオレがやっておく。大将は休んでろ。悔しいが、さっきの戦いでオレはろくに役に立たなかったからな」

 

 今度は釿哉が申し出て、加山の前に立った。

 

「夢組錬金術班頭、松林 釿哉と言います。セッティングの指示と調整はお任せください」

「よろしく松林隊員。巽、お前はその働き者の隊長をどうにか休ませて次に備えさせてくれ」

「了解」

 

 宗次が答えると苦笑混じりに釿哉と共に去る加山。

 残された梅里と宗次の周囲はあわただしく人が動き回っているが、人が減りつつあった。

 夢組隊員達は配置場所へと移動を始め、他の組も資機材設置や人員の輸送に動き始めている。

 

「他の隊が動いているのに、夢組隊長の僕が休んでいたら他に示しがつかないでしょ」

 

 加山が去ったのをいいことに苦笑を浮かべた梅里は動こうとする。だが巽は強引な手段に出た。

 

「それはオレや塙詰でフォローする。オレ達が動いていれば他の隊に示しはつく……白繍!!」

「──はい?」

 

 近くにいたせりを呼び止めた宗次は、彼女が近づくやふらつく梅里を彼女に向かって文字通り押しつけた。

 

「ちょ……なんです? こんな……」

「お前は、ここで隊長の面倒見ているように」

「はぁ!?」

 

 驚きの声をあげるせり。

 

「私だっていろいろと忙しくて……」

「封印・結界班は今からメインで動く。錬金術班は機材調整で手が離せん。除霊班はさっきの戦闘のダメージが抜けきってないから治療と休憩のために配置場所で待機。調査班は除霊班ほどのダメージもないだろ?」

「……そ、それは……そうだけど」

 

 現在も聖魔城とその霊子砲の観測は続けているが、現状維持という意味では体制に変化はないのが調査班の現状だ。

 

「それに塙詰だと梅里の言うことを聞いてお目付役にならんし、伊吹ではそもそも梅里が休まらん。お前が面倒見てくれ」

「「な……」」

 

 戸惑う梅里とせりをよそに、「オレも忙しいからこれ以上かまってられないからな」と言ってその場を去る宗次。

 そのころには周囲の人影もほぼいなくなっており、皆、これからの霊子砲の砲撃阻止に向けて動き出していた。

 それを察して落ち着かないでいる梅里を──せりは半ば強引に横にさせた。

 その上で、正座した膝の上に梅里の頭を乗せる。

 

「ちょ、ちょっと、せり……」

 

 抗議する梅里に対し、せりはその目を両手でふさぐ。

 

「落ち着きなさい。みんながあなたを休ませるために頑張ってくれているんだから。あなたはその気持ちを大事にして、休みなさい」

「でも……」

「いい? 次こそ失敗できないの。もししくじれば帝都でどれだけの破壊が起こるのか、その破壊のせいでどれだけの人が亡くなるのか、想像できないほどの被害が出てしまうわ。みんな、それがわかってるから、夢組の中心であるあなたに万全の状態で挑んでほしいのよ」

 

 せりは厳しくも、優しく言って聞かせる。

 

「休むのが、今のあなたにできる最善の仕事よ」

「……わかった、よ」

 

 そこまで言われて、梅里は体の力を抜く。

 そして大きく息を吐いた。

 だが頭はなかなか休まらない。様々な心配事が浮かぶ。そんな中でも、霊子砲以外のことで一番気になるのは……

 

「あやめさん、どうなったかな?」

「……きっと大神隊長なら悪いようにはしていないと思うわ」

 

 正直、せりにも答えようがない。

 しかし、せりもまたあやめには普段から世話になっていのだ。彼女のことを思えばそう思わずにはいられなかった。

 ただ、目の前に自分がいるのに、まっさきに他の女の話を振ってきたことに多少、カチンとはきていた。

 

「……ずいぶんと、大神少尉の肩を、持つね?」

「え?」

 

 そんな言葉が梅里から出て、せりは思わず顔をのぞき込んだ。

 自分の手のひらで彼の目を覆っているので表情はよくわからなかった。

 ただ、梅里がそんなことを言うのは意外で、それと同時に心のどこかでうれしくもあり気恥ずかしくもあった。

 一度視線を逸らし──それから「そうかしら」「いや違うでしょ」を心の中で数回繰り返して、それから意を決して訊く。

 

「ひょっとして……やきもち?」

 

 余裕を装った台詞に聞こえなくもないが、それが返すまでに時間がかかってしまっていてはあまり意味がないのだが、それに気が付けるほどセリには余裕はなかった。

 しかし──しばらく待っても梅里から返事はなかった。

 それでも少し待ったが相変わらず反応はない。

 業を煮やしつつも、彼もまた恥ずかしがってるのかしら、と思ってせりが見てみると──

 

「……。……」

 

 ──規則正しい呼吸をしていた。

 せりがそっと手を外しても目は閉じたままで、何の反応もない。

 梅里は完全に寝入っていた。

 

「~~~ッ!!」

 

 さすがに再度カチンときて拳を握りしめるが──せりは大きくため息をつく。

 少しでも休んで欲しい、というのはせりも嘘偽りなく思っていた。

 

「さっきの戦いも、厳しかったものね……」

 

 見れば戦闘服も汚れや損傷が目立つ。

 先ほどの戦いを思いだし、岩骨童子の強さを再確認し、よく勝てたものだと思った。

 天敵ともいえる和人がいてくれたおかげではあるが、それでも矢面に立ち、トドメを刺した梅里の功績も大きい。

 しのぶと協力した技でのトドメを思い出し──

 

「……私とでも、よかったんだぞ?」

 

 せりは梅里の顔を起こさない程度に優しくつつく。

 そしてやきもちをやいているのは自分だと思い知らされる。

 

「思えばこんなことになるなんて、ね……もしあのとき、私が踏み込まなかったら、どうなってたのかしら……」

 

 思い出したのは蒼角モドキとの戦い。

 あの地下で、せりは心配そうに彼を見つめる鶯歌の霊を見て、自ら死地を求める彼を放っておけなくなった。

 それをきっかけに、せりは梅里に惹かれていった。

 

 ──もしあのきっかけがなければ、こうしてやきもちをやくこともなかっただろう。

 

 心の安らぎという点ではその方が好ましかったかもしれない。

 だがそれは寂しくも思えた。今みたいにやきもちをやいたりするのは気分がいいとはいえないが、それもまた楽しくさえ思う自分がいるのも間違いないのだ。

 それに、もしもそれがなければ梅里は無茶を繰り返していずれは命を落としていたかもしれない。

 

「そう考えると……あなたが生きてるのは私のおかげなのよ?」

 

 少し恩着せがましいかしら、と思いながら、せりはつぶやいた。

 

 ──梅里が命を落とす。

 

 それを考えるだけで不安が心を覆い、心が締め付けられるようになって、落ち着かなくなる。

 不安から梅里をじっと見つめる。目を閉じた彼は規則正しい呼吸を繰り返していた。

 その口を見つめ──

 

 

 せりは思わず彼の唇に自分のそれを押しつけていた。

 

 

 ほんの少し軽く触れる程度のそれだったが──思わず、自分の唇を指で触れて冷静になる。

 

「わ、私、なんてことを……」

 

 冷静さを取り戻したせりの心臓は破裂せんばかりに激しい鼓動を繰り返していた。

 不安から思わずやってしまった行動だったが、もはやそれどころではない。不安なんて感じる余裕はなくなっていた。

 自分にも聞こえるほどの心臓の鼓動。ひょっとして梅里にも聞こえてるんじゃないか、と思って盗み見るようにおそるおそる彼の表情を伺う。

 が、彼の表情に変化はなく、相変わらず寝入っているようだった。

 

「ほっ……」

 

 人知れずせりが胸をなで下ろしたそのとき──梅里の目がパチッと開いた。

 

「──ッ!?」

 

 思わず声をあげそうになったが、驚きすぎて声にならなかった。

 そんな風にせりが心底驚いていると、目を覚ました梅里がバッと身を起こす。

 

「せり!!」

「は、はイッ!?」

 

 思わず裏返る声。

 梅里はそれを気にした様子もなく、じっとせりを見つめる。

 

「な……なに?」

「──砲撃がくる。急いで準備を!!」

 

 梅里は立ち上がって、走り出す。

 その背中を見送って──せりは大きく息を吐いて脱力した。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 梅里が目を覚ましたのは、妖力の高まりを感じてのことだった。

 その力が徐々に一カ所に集まっていくのを、ハッキリと感じていた。

 

「釿さん、資機材の準備、どうなってる?」

「百パーセントと言いたいところだが、九割方ってところだな。あと少し足りん!」

「構わない、急いで稼働させて! 和人、障壁の準備は?」

「配置完了。すでに我が班は精神統一を開始しておりますぞ」

「上出来。でも急がせて。まもなく、砲撃がくる……」

 

 梅里は無線を通じて指令を出していく。

 そんな中、梅里も自分の配置する場所で、聖刃・薫紫を構えて念を凝らす。

 夢組全員の霊力で障壁を生み出し、それで霊子砲の一撃をくい止める。それが今回の作戦だ。

 夢組の霊力が十分に高まったそのとき、聖魔城を取り巻く妖力が急に高まり、それが一カ所へと集中し始めた。

 

「来るぞ! 総員準備──」

「隊長、待ってください!!」

 

 通信に突然割り込む女性の声。せっぱ詰まったそれはティーラのものだ。

 梅里が驚いたその瞬間──

 

 

「させるかぁ!!」

 

 

 帝国華撃団司令、米田一基が叫びと共に、その乗艦である超弩級空中戦艦ミカサを急速前進させる。

 その行く先は──聖魔城の霊子砲。

 

「大将!! ミカサの鑑首に障壁を展開だ! こんなこともあろうかと、結界発生器は装備済みだ」

「了解!! 総員、精神集中!! 和人、障壁展開のコントロールは任せた!!」

「心得ましたッ!!」

 

 和人が眼前に手をかざして、印を切り念を凝らすと、ミカサ鑑首全面に不可視の障壁が展開された。

 

 ほぼ同時に──霊子砲から光が放たれる。

 

 梅里が──

 宗次が──

 しのぶが──

 せりが──

 かずらが──

 小詠が──

 紅葉が──

 コーネルが──

 道師が──

 釿哉が──

 ヨモギが──

 ティーラが──

 そして千波、遙佳、絲穂、絲乃の特別班が──

 

 調査班、除霊班、錬金術班、予知・過去認知班、そして──和人たち封印結界班が、全力で霊力を振り絞る。

 

 ミカサへとぶつかった霊子砲が放った一撃は、その障壁に阻まれ、ミカサを貫くことなく──逆にミカサがそれを吹き散らすかのように前進、いや突進していく。

 

「コイツで、終わりだぁ!!」

 

 そう叫んだのは米田だったが、それは夢組全員の気持ちだった。

 ミカサは障壁もろとも聖魔城へと突き刺さり、霊子砲を破壊した。

 そして失われた大地『大和』は東京湾へと叩きつけられ、墜落したのである。

 

 

 夢組の誰もが、全力で念を凝らした結果、その場を動けない中──月組と雪組、それに人員や資機材の輸送に奔走した風組隊員達が快哉の声をあげた。

 




【よもやま話】
 ミカサ特攻のムービー見てて思ったのですが「帝都を破壊できるほどの霊子砲の直撃受けて、なんでミカサ壊れないんだ?」という疑問。
 それを解消するために、密かに障壁結界張ってました、という私なりの擁護をしてみました。
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