サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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─7─

「やったな……」

 

 思わず尻餅をついて動けなくなっていた梅里のところへ、月組隊長の加山がやってきた。

 立ち上がる気力もない梅里は、差し出された手を座ったまま握りしめる。

 

「月組が付近の降魔を牽制してくれたおかげです。だからこそ、僕らは障壁展開に集中できた」

「照れるな照れるな、梅里~」

 

 加山が急に口調を変えて梅里を引っ張り上げると、肩を貸して立ち上がらせた。

 そんな急に砕けた口調になった加山に、梅里は戸惑う。

 

「え? 加山隊長?」

「こうして帝都を守れたんだ。大神が……今もあの場所で戦っている花組が帰ってくる場所を守った、その一番の功労者をオレにも称えさせてくれ」

「そんな! 一番の功労者は中心になった和人で……」

 

 梅里の言い分は、彼を揉みくちゃにする月組隊長と、それに加わったその他の華撃団員達によって遮られてしまう。

 まだ、花組が敵の首領である葵 叉丹を倒したという知らせは入っていないが、誰もがその勝利を疑ってなかった。

 

 

 ──そんな時だった。

 

 

 今までとは比べものにならないほどに特大の悪寒が、夢組達──いや、華撃団員全員に走った。

 強烈な悪寒こそその一瞬だったが、それ以降も収まらない“イヤな予感”に誰もが「なんだ?」と顔を見合わせる。

 そんな中、墜ちた『大和』の方から、強烈な思念が飛んできた。

 

 

「──我は、悪魔王サタン!!」

 

 

 その念は霊力の高くない他の組達にもハッキリと感じられたほどのものであり、夢組達にとってはさらに顕著な影響を与えていた。

 

「──ァァァッ!!」

 

 突然、声にならない悲鳴をあげて八束 千波が頭を押さえて倒れた。

 周囲にいた特別版所属の三人が慌てて駆け寄る。

 

「「「千波ッ!」」」

 

 念話のエキスパートである彼女にとって、あの強烈な念は余りに強すぎたのだ。

 

「絲穂! 絲乃! 二人で結界を組んであの念から千波を保護するんだ」

「「了解!!」」

 

 近江谷(おおみや) 絲穂と絲乃の姉妹が同調して強力な結界を張り、その中で震える千波を遙佳が落ち着かせている。

 そうしている間にも、不穏な空気は収まるどころか拡大していく。

 そして──

 

 

「来たれ!!」

 

 

 思念がそう叫び──そこにそれらは現れた。

 千波を心配して駆け寄っていた梅里が立ち上がる。

 他のもの達も敏感にその気配を察知して周囲を警戒している。

 

「──死んだはずのお前等がこうして現れるのも、あのサタンとかいうヤツの仕業か?」

「お前ごときが、あのお方を呼び捨てるなぞ、不遜だぞ」

 

 梅里が言うと、それに対して返事があった。

 海を──その向こうにある墜ちた“失われた大地”を──背中に立つ、十の影。

 それぞれ陣笠に顔を覆い隠す札、そして絵が描かれた外套。

 もちろん見間違うはずもない。

 

「十丹……」

『いかにも』

 

 きれいに声を一つにして答えると、全員が身構える。

 

「お前たちが復活しているということは、暁の三騎士もどこかで復活しているのか?」

「さぁ、知らんな……」

 

 十丹のリーダーである赤丹・菅原の「松」が興味なさげに答えた。

 

「そんなことは些末事よ。我らが使命は依然、変わらず。この世を降魔の世とすること。そのためには……貴様ら帝国華撃団の排除こそもっとも優先させるべきこと」

 

 そう言って「松」が──さらには他の9人も殺気をみなぎらせる。

 

「……本来であれば使う気のなかった手だが、一度倒された我らに油断はない!」

 

 上級降魔集・十丹は「松」が手を挙げると、その周辺に集う。

 一糸乱れぬその統率された動きの中心で、「松」はニヤリと笑う。

 

「これを使えば強さを代償に我らの意識は無くなる……が、霊子甲冑の無いお前たちではまともに対抗できまい」

 

 挙げた手で拳を握りしめ、「松」は叫ぶ。

 

「降魔の時代の礎となるのなら、その程度の代償、惜しくはない!! ──融合ッ!!」

 

 妖力が爆発し、暴風が吹き荒れる。

 それは今まで十丹が融合したときと同じだが、規模が違っていた。

 猛烈な風は付近にいた華撃団員たちを数メートル吹き飛ばし、膨れ上がった妖気は全員集まった総量を遙かに凌駕している。

 そしてその体躯は──彼らが操った魔操機兵の倍以上の大きさ。

 しかし、その姿は口しかない頭に、鋭い鉤爪が生えた腕。コウモリのような皮翼を持ち、長い尾が延びている。元の十丹の面影はなく、普通の降魔のそれと同じく、ただしそのサイズはけた外れに巨大なものになっていた。

 

「キシャアアアァァァァァァッ!!」

 

 そのサイズに見合う大きな奇声をあげて、巨大降魔が動き出した。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 出現した巨大降魔との戦いは熾烈を極めた。

 巨体のせいで動きが鈍り、的が大きくなった分、攻撃は当てやすくなったのだが、その効果が出ているのかはまったく実感がなかった。

 

「陸軍から砲でもなんでも借りてこい!」

「翔鯨丸は戻せないのか!?」

「ミカサの副砲をこちらに向けて砲撃は? 無理か……」

 

 怒号のような無線が飛び交う中、夢組たちも銃や弓矢で遠距離攻撃を仕掛けているが、やはり効果は見えない。

 近接戦闘も、紅葉が仕掛けようとしたのだが、風組が中心になった砲撃が飛んでおり、その中で仕掛けるのは巻き込まれるリスクが高すぎて不可能だった。

 梅里もまた刀での近接戦闘をあきらめ、砲撃を見るしかなかった。

 

「データは出た?」

「ああ。見た目通りの……いや、それ以上の化け物だ」

 

 梅里に言われて、釿哉が錬金術班の測定器で出した数値を伝える。

 

「あんな強力な妖気に守られていたら、どんな攻撃も効くわけがねえ」

「だが、なんとかしなければいけない。そうでなければ帝都が、そしていずれはこの国が滅ぶぞ」

 

 槍を手にした宗次が、巨大降魔を警戒しながら言う。

 帝国華撃団こそ大規模霊障の切り札だ。それがどうしようもなければ、少なくともこの国には対抗できる力が無いことになってしまう。

 

「司令達が戦った降魔戦争の最終局面で出てきた巨大降魔の再来じゃねえか。せめて花組がいてくれれば……」

「連絡は付かない?」

 

 釿哉の嘆きに続いて確認した梅里に、宗次は首を横に振る。

 

「今は音信不通だ。葵 叉丹を倒したらしい、というところまではわかっているそうだが」

「花組が戻ってこないということは、彼女たちもまた、巨大な脅威と戦っているんだろう。ここは、僕らが守るしかない」

 

 梅里が決意を込めた目で敵を見る。

 

「彼女たちが帰ってくるこの場所を──」

 

 そしてその梅里の言葉に宗次がうなずく。

 だが、釿哉は困惑顔でガリガリと頭をかいた。

 

「しかし大将、意気込みや心意気だけじゃ勝てねえぜ? あの妖力値、見ただろ……」

「ああ。わかってる。僕に考えがあるんだけど、その前に……ティーラ!」

 

 梅里は付近にいたティーラを見つけると、宗次と釿哉をその場に残して、彼女に駆け寄った。

 

「隊長? なんでしょうか……」

「キミの洞察力と未来視を駆使して、今から話すことが実現可能かどうか、それだけを答えてくれないかな?」

「……それは、私のできる範囲でいいのであれば、構いませんが」

「じゃあ──」

 

 梅里は状況を設定し、ティーラに話した。

 情報として、巨大降魔の測定した妖力量を伝える。

 そして自分が使おうとしている技の特徴、そして効果。夢組の布陣等──

 

「この条件なら、霊力はあの降魔の妖力を越えることができるはず。違うかい?」

「それは──その通りです。しかしそれは!」

 

 ティーラが言い掛けた言葉を梅里は手で制する。

 

「言ったよね。実現可能かどうかだけ教えて欲しいって」

「はい……」

 

 うつむくティーラに梅里はさらに問う。

 

「米田司令達が戦った降魔戦争で出現したという巨大降魔。それを対降魔部隊は魔神器の力を持って封じたそうだ。その魔神器も当時無かった霊子甲冑もない今の状況で、さっきの僕が示した案以外にあの巨大降魔を倒す手段は──あるかい?」

 

 ティーラは必死に考えた。

 彼女のもつ洞察力を駆使して考え得る手段を模索、その結果を未来視まで駆使して探す。

 だが──

 

「──ありません。その手以外には」

「そっか。ありがとう」

 

 梅里はそう言って、宗次達のもとへ戻ろうとし──足を止める。

 そのまま振り返らず、ティーラに告げる。

 

「……さっきの、他言無用ね」

「え?」

 

 戸惑うティーラに梅里は説明する。

 

「僕が答えとして求めた、実現可能以外の部分」

「しかし隊長、それは──」

「他に……手がないんだ」

 

 その結論を出したのは他ならぬティーラ自身である。

 梅里の言葉に、ティーラはなにも返せず、その背中を見送ることしかできなかった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 宗次と釿哉の元へと戻った梅里は、自分の立てた作戦を二人に話した。

 

「夢組の、全霊力を集中させてあの巨大降魔へぶつけ、倒す。それしかない」

「あ? あ~、それは確かに……そうすれば計算的には実現可能なような気もするが……」

「ティーラに確認はとった。彼女の見立てでもあの巨大降魔の討滅が可能だってお墨付きをもらってる」

「ティーラが?」

 

 梅里の言葉を疑うわけではないが──宗次が少し離れた場所にいるティーラを見ると、彼女は頷いた。

 だが宗次は違和感を覚えた。彼女はハッキリと力強く頷いたわけではなかったのだ。目を伏せてさえいるように見える。

 

「だけどよ大将、全霊力を集中するったって、いったいどうするんだ? そんな機材はねえし……」

「満月陣の派生に、複数人の霊力を集める技がある。それを使う」

 

 梅里は頷きながら答え、さらに作戦を説明した。

 

「だから、全霊力を集めて攻撃するのは僕だ。というか、それ以外では務められない。他のみんなは霊力を集めつつ、陣で増幅する」

「陣? 六破聖降魔陣みたいなやつか?」

「まぁ、それだとイメージ悪いけど、だいたいそんな感じ。地脈エネルギーを破壊に変えたアレとは違って、個人の属性を使って霊力を増幅する……黒之巣会との戦い以来、考えてたものだよ」

「というと『陰陽五曜の陣』、か?」

 

 宗次の言葉に梅里はうなずく。

 

「幸い、全員欠けることなく揃ってる。それで霊力を増幅し、僕が受け取り、それで攻撃する。そうすれば間違いなく──あの降魔は倒せる」

「おお。なるほどな」

 

 快哉の声をあげる釿哉とは対照的に、宗次はどこか不安を感じていた。

 そう、“なにか引っかかる”というヤツだ。

 梅里が盛んに言っていたその言葉が浮かび、困惑する宗次。

 だが──

 

「風組の砲撃が押さえている今のうちに陣を整えるしかない。急ごう」

 

 梅里に促され、宗次はそれ以上深くは考えなかった──いや、考えている暇がなかった。

 




【よもやま話】
 いや~、この「悪魔王サタン」以降の展開は、正直原作でも評価分かれると思うんですよね。太正浪漫なのに「サタン」はないだろ、とか。そういうのをなるべく出さないように十丹に復活してもらって、巨大降魔に合体してもらいました。このあたりは旧版ままですし、そのころ放送してた「テレビ版サクラ大戦」の影響ですね。
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