サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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 梅里は、臨時の本部になっている花やしき支部を通じて、この場にいない花組をのぞいた華撃団の他の全ての組に、夢組がこれから大がかりな作戦で挑むことを連絡し、その助力を依頼した。

 風組には援護砲撃、月組と雪組には攪乱と足止めである。

 その上で、梅里は集まった夢組幹部達に今回の作戦の概要を説明した。

 時間が無く、本当に概要だけで、これを使えば巨大降魔が倒せるということだけは強調し、それに皆が賛同した。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 夢組は全員で大きく円を描いて配置していた。

 その布陣のもっとも外側で座し、祈祷をしているのは一般隊員達だ。

 彼女たちの「ひ~ふ~み~よ~い~む~な~や~……」という声が周囲に響きわたっている。

 それに混じって聞こえてくるのはバイオリンの音色だ。不思議と彼女らが唱える祝詞(のりと)を邪魔せず、妙に合うその旋律を奏でているのは、もちろん伊吹 かずらであり、その演奏は、円陣内にいる夢組全員の霊力を底上げしている。

 

(まるで、コンサートです)

 

 バイオリンを奏でるかずらはそう思った。祝詞が自分の奏でる演奏に合わせるコーラスのように聞こえたからだ。

 しかし、この場の主役は自分ではない。祝詞をあげる一般隊員たちでもない。

 

(ううん、コンサートじゃない。そういう意味では、普段の公演と同じかもしれない)

 

 かずらが普段、大帝国劇場で所属している楽団。その演奏に合わせて舞台上のスタア達が歌い、踊る。

 その舞台こそ、この場で言えば陣の中心であり、そこにいるあの人こそ、主役なのだ。

 

(あれ? でもちょっと……変かな?)

 

 そういう意味では、舞台の雰囲気に慣れているかずらだからこそ、ちょっとした違和感を感じていた。

 奇妙な緊張感。それが舞台の中心にいる者から感じられる。

 

(なんだろう……でも、いくら梅里さんでも緊張くらいしますよね?)

 

 これが失敗すれば、今の華撃団には対抗する(すべ)がない。

 そう思えば、梅里が緊張するのは当然のように思えた。

 それに今の自分は、全員の霊力向上という重大な役目を負っている最中だ。雑念を抱いて演奏して、霊力不足で失敗なんてことになったら一大事だ。

 

(うん。梅里さんなら大丈夫……)

 

 そう自分に言い聞かせ、演奏に集中する。

 自分が感じた緊張感が、舞台で悲劇が上演されるときのクライマックスのような雰囲気に似ていると感じた、その感覚から目をそらすように。 

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そんなかずらの演奏によって高められた一般隊員たちの霊力が陣の中心に向かって流れ、それを受けているのは五人の幹部達だ。

 陰陽道での五属性を持った者達が円を描いて布陣している。

 金気を担当する松林 釿哉。

 火気を担当する秋嶋 紅葉。

 水気を担当する巽 宗次。

 土気を担当する山野辺 和人。

 そして陰陽道では木気に該当する「雷」の霊力属性を持つ白繍 せりが木気を担当している。

 

 そのように陣の中央付近に配置されたせりは戸惑っていた。

 

(あれはいったい……どういう意味?)

 

 それは、夢組が敷く陣の中でせりがいるべき場所へと向かう途中で起きた。

 彼女には陣の中央で中核を成すという彼女にしかできない重要な役目を与えられていた。

 だからこそせりは中央付近にいたのだが、その陣の要となり文字通り中心に陣取る予定の梅里が、せりを追い越しざまに「ゴメン」と小声でいったのだ。

 

「え?」

 

 思わずせりが梅里の背中を見るが、彼は何事もなかったかのように陣の中心へ走り去っていく。

 

「……確かに言ったわよね」

 

 せりは首をかしげる。どうにも心に引っかかった。

 同時に──妙な胸騒ぎがした。彼女の霊感が不安を告げている。

 確認しに行こうかとも考えたが、巨大降魔が迫っていることを考えれば、一刻も早く作戦を始めなければならず、そんな余裕はなかった。

 

(あ~、でも気になる!)

 

 なんでそう思わせぶりなことをするのだろうか、とせりは梅里を恨む。

 しかし、梅里に劣りはするもののせりもまた布陣の中核を担う位置だ。雑念を抱いて失敗できるようなポジションではない。

 あわてて心を落ち着かせ、精神を集中させる。

 

(いったいなんなのよ……もう)

 

 不安を振り払うようにせりが精神を集中させていく。

 そうして、作戦は開始された。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 陣の外周に配置された一般隊員たちの霊力が中央へと集まっていく。

 その途中である陣の中央付近に配置された5人が──長銃を、鎖鎌を、槍を、棍を、梓弓を──それぞれ構えて自身の霊力を高めていく。

 

 

「「「「「陰陽五曜の陣!!」」」」

 

 

 自分自身の霊力と陣の外周から受けた霊力を流すように、金から火、火から水、水から土、土から木へと劣性から優越属性へと流し、円を描いてさらに増幅させていく。

 夢組たちの霊力が増幅され、渦を巻いて高まってゆく。

 まるで発達する台風や竜巻のように──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 その高まりに高まって目に見える光となった霊力を、瞼をしっかりと見開いて金色の瞳を露わにした塙詰 しのぶが『覇者の魔眼』でコントロールする。

 夢組全員分──それをかずらの演奏や陰陽五曜の陣で高めた霊力の奔流は、膨大なものだった。

 ともすれば、暴れるほどにうねりたゆたうそれを、しっかりと制御し、陣の中心へと流し込むのがしのぶに与えられた役目だった

 だが戸惑いもあった。夢組全員という霊力の膨大さだ。

 こんなに多く強い霊力を一人が果たして受け止められるのだろうか。

 しのぶは不安を募らせる。

 

(先ほどの霊子砲を防いだものは、あくまで全員でつくりだした障壁を重ねたもの。しかもミカサにあらかじめ取り付けていた資器材を利用して)

 

 和人がやったのはあくまでコントロールのみだ。そういう意味では今のしのぶがやっていることに近い。

 

(今回は純粋な霊力を集めているのですから、それを受け止める器がなければ不可能です)

 

 普通に考えれば無理だろう。しのぶがやっているのも流れ込んでくるものを制御して、その先へと流しているだけにすぎないのだから。

 

(梅里様がおっしゃるには、複数人の霊力を受けて束ねる技があるそうな……)

 

 その流された先には──夢組隊長の姿があった。

 彼はすでに自身が使う奥義である満月陣を使い、球状の銀光に包まれている。

 確かに満月陣には他人の霊力を受けて変化している様子が今までにもあった。

 しのぶの霊力を受けた「満月陣・花月」。

 せりの霊力を受けて雷を帯びた「満月陣・紫月」。

 かずらの霊力を受けて霊力と音が融合した「満月陣・響月」。

 いずれもが二人の霊力を合わせてそれ以上の力を発揮させ、生身でありながら大型魔操機兵等に大きなダメージを与えている。

 

(それを考えれば、二人以上の霊力を合わせる技があってもおかしくはないのでしょうが……膨大な負担がかかってしまうと思うのですが、本当に大丈夫でしょうか?)

 

 夢組全員、それもそれを増幅したという膨大な霊力を受け止める器となるのが、陣の中央に配置されている梅里なのだ。

 そんなしのぶの不安が通じてしまったのか、ふと梅里がしのぶの方を見た。

 そして自信ある笑みを浮かべて頷いてきた。

 

(ああ、梅里様……でも、わたくしにできるのは、あなた様を信じて帝都の未来のために、皆の霊力をあなた様にお預けすることだけです。そしてその大願の成就をお祈り申し上げること……お願いいたします!)

 

 祈るような気持ちで、しのぶはその膨大な量の霊力を、陣の中心へと導く。

 そして──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

「武相流剣術、極意……満月陣・望月(もちづき)ッ!!」

 

 

 流れ込んでくる霊力を受けて銀の光が金色の光へと変わった。

 次々と流れ込む霊力を受けて、金色の光が徐々に強くなっていく。

 だが──

 

(これでも、まだ足りない)

 

 陣の中心で梅里はそう判断した。

 しのぶが不安になるほどの霊力の量だが、それでもあの巨大降魔を倒すには不足していた。

 予想以上に夢組が受けた、今までの戦いでの消耗が激しかったのが原因だろう。連戦で休む暇もなかったというのも大きい。

 現状では巨大降魔を倒すのに一か八かという感じである。

 そこへ──

 

 

(これが聞こえる帝国華撃団の全隊員へ! 協力を要請します! 帝都の明日──未来のために!!)

 

 

 ショックから立ち直った千波が念話で華撃団全員に救援要請を行ったのだ。

 それに真っ先に応じたのは──

 

「決して強くはないが、俺たちの霊力も使え、梅里!!」

 

 ──加山率いる月組だった。

 月組隊員達が、夢組のつくる円陣に向かって手をかざし、霊力を送り込む。

 

 さらに──

 

『うおおおぉぉぉぉぉッ!!』

 

 雪組達の、嵐を吹き飛ばし猛吹雪さえ溶かす、熱き魂の咆哮が響きわたり、その霊力が円陣へとそそぎ込まれる。

 遠く離れた『大和』と共に墜ちたミカサから──

 

「私たちの分も──」

「使ってください、武相隊長──」

「そして、帝都に平和を──」

 

 高村 椿、榊原 由里、藤井 かすみが手をかざして霊力を送る。それ以外の場所でも他の風組隊員たちも同様に手の平を向けていた。

 そして──

 

「全盛期にはほど遠い強さと量だが……こんな老いぼれのそれでもちっとは役に立つだろう、なぁ……ウメよ!!」

 

 緑の軍服をまとった米田が、左手で腰に帯びた二剣二刀の一振り『神刀・滅却』の柄を握りしめつつ、右手を帝都へと向ける。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 それらを受け、増幅され、そそぎ込まれた──強敵と未だ戦い続ける花組を除いた帝国華撃団の全霊力を受け、『望月』は希望の日輪へと変化する。

 そして、梅里は動いた。

 金色の烈光を放つ光球は一気に地を滑るように駆け、宙を迅り──巨大降魔の間近へ至る。

 振るわれた鉤爪をかいくぐった梅里は、空中で刀を振り下ろさんと構える。

 

 

「消えろ降魔! この世界を害するお前を、僕は絶対に許しはしない!!」

 

 

 あやめの顔がよぎる。

 そして、降魔が原因で命を犠牲にした幼なじみの──鶯歌の顔がよぎった。

 彼女たちの思いを、無念を叩きつけるように、梅里はその手にある、光の刃と化した『聖刃・薫紫』を振りかざした。

 

「────────ッッッ!!」

 

 声にならない悲鳴をあげて、浄化されていく巨大降魔。

 その金色の光の爆発は遠く離れたミカサからも見えていた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

「巨大降魔……消滅です。反応ありません」

 

 通信に、花やしき支部詰の風組オペレーターからの声が全軍に送信される。

 それを受けて夢組だけでなく、月組や雪組、風組の歓声が上がった。

 

「やったぜ、大将!!」

 

 釿也が快哉の声をあげ、円陣を組んでいた夢組達は討伐の立役者、武相 梅里を祝福せんと彼の下へと集まり出す。

 地面に降り立ち、「満月陣・望月」でまとっていた金色の光が消え、梅里は駆け寄る皆に応えて振り返る──

 

 

 ──ことなく、その場に崩れ落ちるようにして倒れた。

 

 




【よもやま話】
 「陰陽五曜の陣」は旧版だと他の戦闘でも出してましたが、リメイクで決戦用に変更しました。
 それと梅里の技も『望月陣(ぼうげつじん)』だったのを『満月陣・望月(もちづき)』にしました。バリエーションの一つでしたので。
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