サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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 梅里の意識は、視界一面が真っ白な世界に立っていた。

 ただここがどういう所なのか、彼には何となくわかっていた。

 梅里の考えた対巨大降魔の要である「満月陣・望月」という技の性質上、夢組全員の霊力を集めれば自分の体が耐えられないのは分かっていたし、事前に話をしたときのティーラの反応からも明らかだ。

 

 ──だから、目の前に彼女が現れても、特に驚くことはなかった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「や。ウメくん」

 

 彼女の顔は忘れたことはない。

 朗らかな笑顔と、セミロングの髪をポニーテールにした髪型がよく似合う幼なじみ。

 二年前以来、二度と見れないと思い、この二年間、会いたくて会いたくて仕方なかった相手──四方(しほう) 鶯歌(おうか)

 

「やあ、鶯歌。……やっと、会えたね」

 

 だが、彼女を前にして梅里は違和感を感じていた。

 言葉とは裏腹に、あんなに会いたいと思った相手に、やっと会えたというのに、どこか喜びの感情が、最高潮には届かない。そんな寂しさがある。

 

「そうだね。ウメくん……背伸びた?」

「多少……かな。鶯歌は変わってないね」

「そりゃあ、まぁ……ね。あたし、死んじゃってるから」

 

 梅里の言葉に「あはは……」と苦笑する鶯歌。

 そう返されては梅里もどう返していいのか困る。

 

「それは……でも、まぁ、僕も同じになったから」

 

 苦笑し、頬を人差し指で掻く。

 そんな彼の癖に鶯歌は思わず微笑んでしまう。変わってない彼のその姿は、見守っていた彼女にしてみれば何度も目にしていたが──それが自分に向けられたことが、本当に懐かしく、胸が締め付けられるように痛んだ。

 それをこらえ、鶯歌は梅里をジト目で見る。

 

「笑い事じゃないんだけど。私は……こんなタイミングで会いたくなかったよ。ウメくんにはもっと生きて欲しかった。私の分まで……」

 不満げに見つめたが、梅里もそれに反論する。

「確かに、鶯歌が助けてくれた命だけど……それで帝都を助けられたんだから。この命を賭けなければ、助けられなかったんだから。仕方ないかな、って……」

 

 梅里はさっきの戦いを思い出していた。

 巨大降魔は討滅した。それは帝都を守れたということだ。

 

「やれることは精一杯やった。帝都を救ってたくさんの命を守った。鶯歌も見ていたんでしょ?」

「そりゃあ、見てたわよ。あなたの守護霊なんだから。だから、ウメくんがいろんな()とイチャイチャしてたのも、全部見てたからね」

「──なッ!?」

 

 ギクっとなる梅里に対して「フフン」と余裕の笑みを浮かべる鶯歌。

 

「でもね、別に私はそれをどうこう言うつもりはないの。私は、死んじゃってるんだから。ウメくんが生きてる以上、他の誰かと幸せになって欲しい、って思ってたし。だから──」

 

 戸惑う梅里に、鶯歌がズイッと近づく。

 

「──今の状況には、すごく不満なワケ」

「な、なにが?」

 

 鶯歌に詰め寄られてのけぞりながら、梅里は首を傾げる。

 

「ウメくんってば、肝心なことを忘れてる……彼女たち、アレでいいの?」

「──え?」

 

 鶯歌が、さっと手をかざすと、まるで画面のような四角い板が現れ、そこに画像が流れる。

 事切れた梅里の遺体の前で泣き崩れるせり。呆然とするしのぶとかずら。

 その姿に梅里は、自分が原因なこともあって、いたたまれない気持ちになる。

 

「ウメくんにあんな気持ちを抱かせちゃったあたしがいうのもなんだけど、彼女たちの心に一生治らない傷を負わせるつもりなの?」

 

 それは──避けたかった。

 梅里は立ち直るのに二年かかったのだ。それも彼女たちのおかげで立ち直れたのだ。彼女たちがいなければ未だに鶯歌を亡くした思いに捕らわれ、死に場所を求めていただろう。

 だからこそ思う。彼女たちにそうはなって欲しくない、と。

 しかし──

 

「そんなつもりはないよ。あんな思いをさせるのは嫌だ。でも、僕にはもう……どうしようもないことなんだ」

 

 すでに死んでしまったのだから……

 ポツリとつぶやく梅里。

 それで思う。だから鶯歌は自分のことを見続けていたのか、と。

 心に深い傷を与えた自責の念が彼女たちが救われる姿を見たいと思ったように、鶯歌も思ったのだろうか。

 梅里は鶯歌を見る。

 すると、彼女は笑みを浮かべていた。

 

「そうでもないんだなぁ、これが……」

「は?」

 

 呆気にとられる梅里を後目(しりめ)に、鶯歌は少し上へと視線を向ける。

 釣られて梅里が視線を上げると──背中に白い翼が生えた美しい女性が舞い降りてくる所だった。

 優しげな笑みを浮かべた彼女は鶯歌の横に降り立ち、彼女を見てから梅里の方を見る。

 その顔に、見覚えがあるような気がする梅里。だが──どうしても思い出せない。

 

「なんと、こちらの大天使さまが、ウメくんの命を助けてくださるそうです」

「……え?」

 

 なんとも軽いノリで隣の大天使を紹介する梅里の守護霊。

 もちろんそれに戸惑う梅里。

 

「いや、だって……僕は、死んでるでしょ?」

 

 それに答えたのは鶯歌ではなく大天使の方だった。

 

「あの三人の娘が、あなたの命を必死につなぎ止めています。私の力であればそれをもう一押しして、あなたをあの世界に戻すことができます」

 

 大天使が厳かに言う。

 

「戻れる…のですか?」

「ええ」

 

 梅里の確認に、大天使はハッキリと答えた。

 その横で朗らかに笑う鶯歌。

 梅里は──すぐに答えられなかった。

 

 ──戻ります。

 

 その声が出そうになった。

 だが……

 

 

 …………それはせっかく再会できた鶯歌との別れを意味する。

 

 

 かといって、あの三人の姿を見ては心残りがない、とは言えなかった。

 俯いて考える。

 

 考えに考えに考えに──考えに考えに考えに考えに考えに考えに考えに考えに考えに考えに考えに考えに考えに考えに考えに考えに考えに考えに考えに考えに考えに考え抜いて……

 

 ──その頭にポンと手が置かれた。

 

「ねぇ、ウメくん。あたしね。こうやって会えて……話ができて、とても嬉しかったよ。あの人たちとは会ったりお話もしたけど、ウメくんとはそれができなかったからね」

「鶯歌?」

 

 その手の感触は、まるで生きているかのように暖かく、そしてひどく懐かしかった。

 

「でもね、ウメくん。あなたは……まだこっちに来ちゃダメなのよ」

「……なんで? 鶯歌がいるのに……僕は鶯歌と一緒なら──」

「本当に……そう思ってる? なんの迷いもなくこっちに来られる?」

 

 それに梅里は、即答できなかった。

 あんな彼女たちの姿を見てしまったから。

 自分のせいであんなに悲しむ姿を見せつけられて、即答できるはずがない。

 

「……ズルいよ、鶯歌」

 

 それに鶯歌は何も答えず、ただ優しげに笑みを浮かべていた。

 

 

 しばらくの沈黙──

 

 

 その後に、鶯歌は言う。

 

「ねえ、ウメくん。帝都にきて、華撃団に入って……今のあなたはそこが居場所だよね。水戸にいたときとは、違うでしょ?」

「そう……だけど、でも……」

 

 俯いたまま反論しようとする梅里を、鶯歌は両手で顔を挟んで上げさせると、目を合わせる。

 そして寂しく笑った。

 

「できるなら、あたしも戻りたかったよ、水戸に。ウメくんと過ごしたあの日々に」

 

 鶯歌が遠い目をする。

 

「ウメくんが洋食屋さんに修業に行って、あたしがたまにオムライスを食べさせてもらって……

 それを見てたウメくんの妹ちゃんが「私も」って割り込んできて……

 いつか婚約して、結婚して……

 子供育てて、孫までできて……

 お婆ちゃんになったあたしとお爺ちゃんになったウメくんと一緒に、縁側で干し芋食べながらお茶を飲んでのんびり過ごす。

 そんな楽しい一生……憧れちゃうね」

 

 笑みを浮かべたまま、鶯歌の語るそんな人生。

 むろん、その間にいろいろあるだろう。喧嘩もするだろうし、苦労もするだろう。でも鶯歌は梅里と一緒ならそれ以上に楽しいことがたくさんあったと信じて疑わなかった。

 

 

 だが、その一生は──もう鶯歌にはありえない。

 

 

 それを思って、梅里の表情がこわばる。

 気づいた鶯歌が微笑を浮かべた。

 

「ウメくん、やっぱり優しいね。そう……あたしは戻れないんだよ。

 でも、ウメくんは今ならまだ戻れるんだ。あの、帝劇で過ごした楽しい日々に、ね」

 

 最初は死に場所を求めてきたはずのあの場所は、今の梅里にとってはかけがえのない場所になっていた。

 たとえそこに──鶯歌の姿がなくとも。

 

「……ゴメンな、鶯歌」

「謝ること、ないよ」

「それでも……ゴメン。ホントなら、鶯歌と別れたくないけど……やっぱり、彼女たちをあのままにしておけない」

 

 梅里は正面から鶯歌の顔を見てそう言った。

 彼女の顔は笑みを浮かべていた。

 

「そうね。ウメくん、優しいもんね。でもその優しさ、あんまり色んな人に安売りしすぎちゃダメだぞ」

 

 そういってイタズラっぽく浮かべた鶯歌の笑みが、少しだけ崩れる。

 

「それでこそ……それでこそウメくんだよ……あたしの、あたしが大好きな──」

 

 こらえきれなくなった鶯歌は、顔を隠すように梅里の胸に飛び込んだ。

 

「約束よ。女の子のことは、もう絶対に泣かせたらダメだからね」

「……今、鶯歌が泣いてる分は?」

「そういうことを言っちゃうデリカシーのなさは、女の子に嫌われるんだからね」

 

 半分涙声で文句を言い──

 

「こうしてあたしを泣かせるのが最後よ。で、命も簡単に投げ出さないこと」

 

 顔を埋めたままの鶯歌に、梅里は困惑した顔で、頬を掻く。

 

「そうは言ってもなぁ。僕は、帝国華撃団夢組の隊長だし──さっきみたいなことも、これからあるかもしれない」

「そうならないように、努力しなさい。もちろん、精一杯よ?」

「ああ──わかったよ、鶯歌」

 

 彼女の頭を優しくなでる梅里。

 二年ぶりに自分から触れた彼女の感触は、懐かしく──そしてとても暖かく感じられた。

 

「でも、どうしてもダメだったら……そのときは、あたしが助けて──守ってあげる」

 

 そう言って顔をあげ、笑みを浮かべた。

 

「これでもあたし、ウメ君の守護霊だからね」

「ああ。そのときは、お願いするよ」

 

 梅里も優しく笑みを浮かべ──彼の手を鶯歌がとって握りしめる。

 

 

「だから、ウメくんがこっちに来るのは……まだ許さないからね」

 

 

 そう言ってもう一度強く手を握り締めて──名残惜しそうに離した。

 そして彼女は再び大天使へと向き直り、そして大きく頷く。

 

「そう……それでいいのね」

 

 大天使がそう言って目を閉じてなにかを念じると、梅里の周りが光に包まれる。

 

「これは……」

「さぁ、お行きなさい。そしてあの三人を救いなさい。それがあなたの役目よ──梅里くん」

 

 そう言って笑みを浮かべる大天使。

 いたずらっぽい笑みを浮かべた彼女の顔は紛れもなく──

 

「──あやめさん?」

 

 彼女がうなずき、徐々に視界が光に染まっていく。

 その視線の先で──

 

「──バイバイ、ウメくん」

 

 鶯歌はいつもの朗らかな笑みを浮かべ──梅里の視界は光であふれ、何も見えなくなった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 大関ヨモギは、自分の無力さを嘆いていた。

 どうやっても、失われた命というものは戻ってこない。医者として「死」を見つめてきた彼女にとってそれは永久不変の絶対律なのだ。

 だから、何人かがなにかをしている気配は感じていたが、それに希望を持つとか、そいういうことはなかった。

 死はどうあがこうと死なのだ。

 頭ではそう受け止められても、心では、その親しい人の死を受け止めるのは容易ではなかったらしい。

 ヨモギは彼の遺体の横に座ったままだったのだから。

 最後に脈がないのを確認した腕も握ったままである。

 それに気がついて、握ったままの手を離そうとした──その瞬間だった。

 

「──ッ?」

 

 信じられないことが、起こった。

 無くなったはずの、脈が──復活したのだ。

 

(は? そんなの……絶対にありえません)

 

 ヨモギは半信半疑だった。梅里の上半身は相変わらずせりがなにやら人工呼吸を一生懸命やっているので、その動きが影響した錯覚かとも思った。

 だが──その指先に感じた脈は、規則正しく動いている。

 

「まったく──常識外れですね」

 

 これは認めざるを得ない。梅里は、今、現在生きている。

 だが、それは医者として納得できるものではない。そんなヨモギは一つ意地悪を思いつき、それを実行する。不作為というやつだ。

 なにしろヨモギの心をもてあそんだのだから、それくらいの意趣返しは許されるだろう。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

(お願い……戻ってきて!)

 

 せりは人工呼吸を繰り返していた。

 かずらの演奏はまだ続いているし、しのぶの魔眼もまだ開いたままだ。

 自分にできるのは、この人工呼吸を繰り返すだけ。

 すると──

 

「モゴッ!?」

 

 突然の反応に訳が分からず、目を白黒させるせり。

 そして──

 

「ん?んんーッ!? プハッ!!」

 

 慌てて口を離すせり。そして梅里。

 お互いに「ゼハー」「ゼハー」と荒い呼吸を繰り返している。

 突然、送り込んでいた空気が返ってきて、それで呼吸が詰まったのだ。

 

「──なにするんだよ」

「なにって、なによそれ!」

 

 

 文句を言う梅里に思わずいつもの調子で言い返すせり。

 さらに言い返そうと口を開きかけたところで、周囲の空気がおかしいのに気がつく。

 

 

「……オイ。あれ……」

 

 

 信じられないものを見ている様子で、釿哉が梅里を指さす。

 その指が震え、そして現実を受け止めきれず、首をゆっくり横に振る。

 そんな周囲の反応で、せりもようやく気がついた。

 

「え? う、そ……」

 

 そうなることを信じてやった行動だったが、だがそれが現実になってもにわかには信じられないことだった。

 なぜならそれは、まさに──奇跡と呼ぶにふさわしい出来事なのだから。

 そんな姿に、せりもとても信じられないという思いを、目の前の光景を見て否定し──涙が溢れそうになる。

 そして──梅里が戸惑いながらも袖で口を拭いたのが見えた。

 

「ちょ、ちょっと! なんで口を拭くのよ! どういう意味よ、それッ!!」

 

 それに思わず怒ったせりは、カチンときて梅里の胸ぐらをつかむ。

 

「え? いや、なんか口周りが……濡れてるというかなんとも変な感じだったから思わず……」

「~~ッ!!」

 

 素直に答える梅里に、せりは感情をこらえる。

 

「なんで、あなたはこういう場面でそういうことを……あなたのそういうところ……本当に、本当にキ……信じられないわよ……もう!」

 

 だが堪えきれなかった。涙を浮かべて抱きつくせり。

 そこに──

 

「せりさん、ズルいです! 私だって一生懸命頑張ったのに」

 

 抗議しながらかずらが抱きつき──

 

「梅里様、よかったです……本当に」

 

 それにしのぶも加わる。

 三人に抱きつかれた梅里。その背中では影の立役者である千波がそっと彼の戦闘服の端を握りしめている。

 

「……隊長が生き返ったぞ!!」

 

 誰があげたか快哉の声に、夢組全員が腕を上げ、そしてその場にいた華撃団員全員に波及していく。

 ふと見れば、翔鯨丸がこちらへ向けて飛んでくるところだった。

 見えた艦橋には色とりどりの戦闘服に身を包んだ花組たちと、ミカサに乗り込んだ風組隊員たち、そして米田司令の姿もある。

 

 それが意味することは──華撃団の勝利だ。

 

 こうして、華撃団はあやめという尊い犠牲のみで、降魔との戦いに勝利したのだった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──そんな歓喜の輪の中で、松林 釿哉がふと気がついて、意地悪な笑みを浮かべてヨモギを見た。

 

「な、なんですか?」

「いや……誰かさん、いつも“失敗しない”とか言ってたわりには、さっき梅里を「亡くなってます」って断言してたと思って」

「な……そんなの……あんなのは反則ですよ!」

 

 不機嫌そうに怒り出すヨモギ。

 

「死んだらそれまでなのに……生き返るとか、ありえないんですよ、普通」

「いやまぁ、生き返らないっていうのは分かるが、そういうんじゃなくて……あれって誤診じゃないのか?」

 

「──え?」

 

 釿哉に言われてヨモギが固まる。

 

「だって、大将のこと死亡したって認定出したよな?」

「あ……ああ……確かに、私、亡くなっていると答えてますし……」

 

 しかも密かに時間まで確認してメモしていた。悲しい医者の(さが)である。

 それを見て意地悪そうに笑みを浮かべる釿哉。

 

「明らかな、“失敗”だよな? ホウライ先生」

 

 そしてポンと俯いているヨモギの肩を叩く。

 

「いやぁ、やっちゃいましたなぁ。ホウライ先生。まさかの誤診とは……“失敗しない”はずなのになぁ。失敗しちゃいましたなぁ?」

 

 ニヤニヤ笑みを浮かべて得意げになる釿哉。

 すると──ヨモギの目の色が変わり、いきなりメスを取り出した。

 

「ん? ちょっとホウライ先生? お前、何取り出しての?」

「今、彼が死ねば……誤診ではありませんよ」

「はい? お前、今なんて言った?」

 

 釿哉の顔が青ざめる。

 

「私の診断通り、隊長が死んでいれば──それは私の誤診ではありません。ええ、多少死亡時刻は変わっても、それは些末事……私は、“失敗しません”。『大関蓬莱』の名にかけてッ!!」

「待て、ゴメン! オレが悪かった!! もうからかわないから──大将、逃げてェーッ!!」

 

 釿哉の叫び声がその場に響きわたった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──さて梅里が去り、白い空間に鶯歌と大天使は残されたままであった。

 彼女は鶯歌の顔を見つめる。

 

「初めまして、あなたが鶯歌さんね」

 

 挨拶に対し、鶯歌もそれに応じる。

 

「初めまして。ウメくんが大変お世話になりました」

 

 笑顔で返す鶯歌を大天使は見つめ、慈愛に満ちた笑顔を浮かべて提案をしてきた。

 

「鶯歌さん、私の力であなたを天使として迎えることもできるけど……どうしますか?」

「そ、それは……」

 

 戸惑う鶯歌。

 そして少し考え──

 

「それって……そうなったらウメくん一人だけを見守るわけにはいきませんよね?」

「そうね。天使である以上は公平に、魂を導いてもらわなければいけないし」

「……今のままでいたいっていうのは、ダメなんですか?」

「ダメということはないわ。あなたの場合は土地に縛られているわけでもないし、執着しすぎて他人に害を与える存在でもない、守護霊なのですから」

 

 優しくほほえむ大天使。

 そんな彼女を、鶯歌はまっすぐに見つめ、答える。

 

「じゃあ、もったいないお誘いですけど……現状維持で大丈夫です。私は彼を見守り続けたいんで」

 

 そう言って、彼女は笑顔で断った。

 だが大天使もそれを見越していたようで、やはり優しげに微笑んだままだった。

 

「それに──」

「それに?」

 

 鶯歌が下界の様子が映っているものを見て、そこに映った4人へと視線を向ける。

 そんな鶯歌を不思議そうに見る大天使。

 鶯歌は勝ち気な笑みを浮かべて断言する。

 

「来世では譲るつもり、ありませんから。あたしは」

 

 それを見て、吹き出すように笑う大天使。

 

「そう。じゃあ、梅里くんのこと、よろしく頼むわね」

 

 表情を変えて優しげに彼女──大天使ミカエルは、もう一度あやめの顔で笑顔を浮かべる。

 ミカエルと鶯歌が見守る中で、4人はまた騒がしくも優しい毎日を始めるのだった。

 




【よもやま話】
 ここは、自分の力不足を痛感させられたシーン。
 本来なら、やっと会えたのに、梅里に生きて欲しくて送り出し、結果として二度と会えなくなる鶯歌の悲しさをもっと出したかったのですが……課題ですね、がんばります。
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