サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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鶯歌:
 さぁ、ここまで話を読んでくれた皆さんに、特別プレゼントよ。
 全部読んでくれて構わないけど……どの()との未来から読むか、選ばせてあげましょう。
 さぁ、ウメくん。どの娘との未来を見るの?









【個別エンド集】


 

~しのぶエンディング~

 

「──梅里様が?」

 

 釿哉からその話を聞くや──塙詰(はなつめ)しのぶは慌てて駆けだした。

 食堂を飛び出し、ロビーを駆け抜け、売店で驚く売り子の椿を後目(しりめ)に、大帝国劇場を飛び出す。

 そして目指すは──

 

「上野駅までお願いいたします! 急いでください」

 

 帝劇前に停まっていたタクシーに乗り込んでそう告げた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 取り残された釿哉はポカーンとしていた。

 そして、その様子を見ていたせりは、憤然とした様子でその下へとやってくる。

 

「いったいなにが起きたのか、説明してもらえるかしら?」

「いや、オレもなにがなんだかさっぱりで……」

 

 困惑顔で答える釿哉に、せりはため息をつきながら、今起きたことを順序立てて説明させた。

 

「……今日は、途中から大将がいなくなっただろ?」

「ええ、主任は用事があるから」

 

 腕を組んだせりがうなずく。

 今日は──というか今日から梅里はいなくなる予定だ。

 午前中だけ、出発まで時間があるからと顔を出していたのだが、それも先ほど姿を消している。

 

「で、その用事のことを塙詰に訊かれたから答えたんだが……」

「なんて?」

「梅里、水戸に帰るってよ、──って」

 

 それを聞いてせりは沈痛そうにこめかみを押さえた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 上野駅は北の玄関口であり、千葉県を抜けて茨城県へ至る常磐線の発着もまたこの上野駅となっている。

 武相 梅里は荷物を片手に、そのホームへとやっきた。

 ホームを歩きながら考える。思えば一年……というにはまだ少し早いが、そんな時期にやってきたのだと梅里は思い出していた。

 あれから約一年。思えば早かったようにも感じるし──しかし長かったようにも思える。

 ──本来なら、死に場所を求めてやってきたはずの自分が、いろいろな出会いを経て、様々なことがあり、何の因果か一度は死を覗いて──今は生きている。

 鶯歌の下へといくために死に場所を求めたのに、それを拒否してここにいるのだから、人生というのは本当になにが起こるのか、わからない。

 梅里はふと空を見上げた。

 

「……春は名のみの…風の寒さや……谷の(うぐいす)…歌は思えど……」

 

 歌を口ずさみながら、冬を示す高い空に目を細めた。

 今日、彼は旅立つ。

 去年とは違い、今回は上野から水戸へと──

 

 

「…めさ……まーッ!!」

 

 

「──ん?」

 

 なにか聞こえた気がして、梅里は足を止めた。

 周囲を見渡すが、変化はない。気のせいかと思って再び足を進めようとすると──

 

 

「梅里様ーッ!!」

 

 

 その声が、今度はハッキリ聞こえた。それも後ろからだ。

 思わず振り返り──その途中で気がついたのだが、周囲の人も何事かとそちらの方を見ている。

 そして──

 

「──しのぶさん!?」

 

 一心不乱に走る女性の姿があった。

 特徴的な細い目はもちろん見覚えがあるし、なによりもその服装が彼女であることを語っていた。

 というか場に合わなすぎて目立っている。なにしろ大帝国劇場食堂の給仕服そのままできたのだから、周囲の人は奇異の視線で見ていた。

 しかし彼女は気にしたそぶりもなく走り続ける。

 

「梅里様ッ!!」

 

 目的の人物を見つけたしのぶはそのまま駆け寄る。

 最後の力を振り絞った勢いでアップにしていた髪がほどけた。しのぶはそれを気にすることなく長い髪を広がせつつ、梅里へと抱きついた。

 

「……梅里様。間に合って……間に合ってよかった…………」

「しのぶさん、いったいどうして……」

 

 抱きつき、梅里を抱きしめたまま、呼吸を整えるようにその場から動かないしのぶ。

 しばらくそうしていたしのぶだったが、落ち着くと顔をあげて梅里をじっと見た。

 

「なぜ、わたくしに言ってくださらないのですか。水戸に旅立つと──」

「あ、それは、まぁ……」

 

 梅里は気まずそうに頬を掻く。

 

「言ったではありませんか。わたくしの居場所は陰陽寮にも華撃団にもなく、梅里様のお側こそ、そうですと……」

 

 そう言った彼女は、その目に涙さえ溜ている。

 

「それはもちろん覚えてるよ。でも──」

「ならばなぜ、わたくしを置いて帝都を、華撃団を離れて水戸に帰ってしまわれるだなんて──」

 

 

「──え?」

 

 

 梅里が固まった。

 その様子を見ていたしのぶが戸惑う。

 

「梅里様……?」

「華撃団を、離れるって……誰が?」

「もちろん梅里様が、ですが……」

 

 梅里は困ったように頬を掻く。

 

「僕は……辞めないけど? 今から水戸には戻るけど、数日で帰ってくる予定だし……」

「──はい?」

 

 今度はしのぶが固まる番だった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「だから、その言い方だと誤解するでしょうが!」

「そうは言っても、間違いじゃねえだろうが! 塙詰が勝手に勘違いしただけだろ。少なくともオレのせいじゃ……」

 

 鍋をふるいながら給仕服のせりに大声で返す釿哉。

 

「いいから、さっさと料理出しなさいよ! 主任もしのぶさんもいなくて……回ってないんだから! 口はいいから手を動かしなさい!!」

 

 ピークを迎えた食堂に、副主任の声が響く。

 本来なら梅里がいないのでせりが調理に回ろうと思っていたのだが、突然しのぶがいなくなったせいで給仕側を抜けられなくなったのだ。

 おまけにそのつもりだったから応援も呼んでいないので、現状のメンバーで回すしかない。

 おかげで梅里の穴を、そのまま全員が負担することになり、大忙しになっていた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 唖然とするしのぶの視線を受け、気まずそうにする梅里。

 

「華撃団を辞めて水戸に帰るという話では、なかったのですか……」

「うん。ちょっとあっちでやらないといけないことがあるからね。それが終わったらすぐに帰ってくるつもりだったから」

 

 自分の勘違いに恥ずかしくなり、顔を赤くするしのぶ。

 だが、その恥ずかしさを誤魔化すように、梅里に詰め寄った。

 

「それならば、そう説明してくださればいいではありませんか。まして数日、留守にするのですし、何も説明されずにいなくなられるのは寂しゅうございます」

 

 そう言われ、ますます気まずそうな顔になる梅里。

 その表情を見たしのぶが顔色を変える。

 

「それともわたくしに言えないような用事で御実家に帰られるとか……まさか、お見合い!?」

「ち、違う違う! そんな話は無いよ!」

 

 行き着いた考えに慌てるしのぶに、梅里は即座に否定する。

 それから自分の頭を掻いて……観念してポツリと真相を言った。

 

「……アイツの三回忌には結局行けなかったから」

「アイツ……鶯歌さんの、でしょうか?」

 

 しのぶの言葉にうなずく梅里。

 一月以降は降魔との戦いが激しく、また葵 叉丹を倒した後もその事後処理でなかなか水戸に帰ることができず、結局は一昨年に亡くなった鶯歌の三回忌の法事に出席することはできなかった。

 

「最近まで忙しかったし、落ち着いたら時間を見つけて墓参りに行こうと思ってて……その時間ができたから水戸に帰ろうと思ったんだよ」

 

 あの夢か幻か分からない世界で鶯歌には会っているし、その彼女の言によれば梅里の現状も分かっているようだが──それでも梅里は彼女の墓前に、そして最期を看取った偕楽園の梅の木の前で、きちんと報告したかったのだ。

 

 ──新たにできた自分の大切なものについて、を。

 

「……あの、申し訳ございませんでした……わたくし、早合点をしてしまい……」

 

 気まずそうに視線を逸らすしのぶ。

 ことが鶯歌のことだったので、梅里はなんとなく言いづらくて言っていなかったのだが──しのぶはふと気がついた。

 今までの梅里なら、おそらく皆に「鶯歌の墓参りに行ってくる」ときちんと告げていただろう。

 しかし普段の仕事に影響があるので、食堂副主任という立場のせりはともかく、しのぶに告げなかったのは──負い目を感じたからではないだろうか。

 だとすれば……しのぶは、自分が梅里にとって鶯歌と対等か、それ以上の立場として扱われているように思えた。

 少なくとも、意識していない相手であれば、想いを寄せていた鶯歌についての用事を話すことに気まずいとは感じないはずである。

 その考えに至り──しのぶは再び顔をあげる。

 

「梅里様……」

 

 そんな彼女に、梅里は自分が着ていた濃紅梅の羽織をその肩に優しくかける。

 しのぶは給仕服のままで、その格好では時期的にはまだ寒い──だけでなく、なによりも目立つ。

 かけられた羽織をギュッと握りしめ、彼の優しさをかみしめ──顔をあげ、目を伏せる。

 

 

 ──二人の唇が重なるのを隠すように、汽車の蒸気機関は蒸気を吹き出すのであった。

 

 


 

 

~せりエンディング~

 

 その日の白繍(しらぬい)家──そしてその家が管理する神社はとても落ち着かない空気になっていた。

 神社の境内にはいつもならまばらにはいるはずの参拝客もそんな空気を感じとってか一人もおらず、その一方で、家の中では二人の男がせわしなくウロウロしている。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「……あの、座ってらしたほうがいいんじゃないでしょうか?」

「いやいや、キミの方こそ座りたまえよ、梅里くん」

 

 ふと立ち止まり、お互いに譲り合うように勧める二人。片方はこの白繍家の主にして神社の神主を務めているせりの父親であり、もう片方はそんな白繍家にお邪魔している武相 梅里である。

 そんな男──それも大の大人が二人も落ち着かないでいれば、その雰囲気は他にも伝わるわけで、せりの弟でまだ10歳の護行(もりゆき)と、二番目の妹・はこべ(6歳)は不思議そうに──落ち着かない大人二人を見ている。

 

「や、やっぱり座って待っていた方が……」

「そ、そうかもしれないな。梅里くん、ちょっと待っていたまえ。座布団を持ってくるから──」

「あ、いえ、僕も手伝いますから──」

 

 あわてて梅里が言ったとき──赤ん坊の鳴き声が響きわたった。

 

「「──ッ!!」」

 

 その声を聞くや、せりの父親が真っ先に部屋を飛び出した。

 それに梅里が続き、なにかよく分かっていない様子の護行が二人が走り出したので慌ててそれについて行き、絶対に事情が分かっていないであろうはこべも無邪気にそれについて行く。

 そして──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「母子三人とも元気ですよ」

 

 その言葉に続き──

 

「元気な双子の女の子です」

 

 仕事をやり遂げて満足げな産婆の言葉と笑顔に、せりの父親は歓声を上げ、梅里は安堵のため息をつく。

 せりの父親の歓声は、いつの間にやら「バンザイ」へと変わっており、そんな父親の様子を護行とはこべは不思議そうに見ていた。

 そして産婆が布にくるまれた赤ん坊二人を抱いてきて──

 

「ほ~らお父さん、抱っこしてあげて」

 

 そう言って差し出してくる。

 それに梅里は思わず手を伸ばし──

 

 

「──コラ。だ・れ・が、お父さんよ」

 

 

「イタタタ……せり、痛いって」

 

 その耳を引っ張られて阻まれた。産婆からはせりの父親が受け取ってその子を抱く。

 梅里の耳を引っ張ったのは──産婆さんの手伝いをしていたせりだった。

 そんな娘の姿に、お産を終えたばかりのせりの母親も思わず苦笑する。

 母のそんな目をお構いなしに、せりは帝都の時と同じように梅里に詰め寄る。

 

「なんであなたが一番に抱こうとしてるのよ」

「いや、なんとなく……つい」

「つい、じゃないでしょ。あの子達は私の妹! あなたが呼ばれるワケ無いじゃないの。まったく……」

 

 不満げにそう言って怒るせり。

 その姿を見て産婆は思わず笑みを浮かべる。

 

「まぁまぁ、せりちゃん……こんなに待ちきれないみたいだし、アンタも早くこさえて母親(ががちゃ)になって、この人、父親(だだちゃ)にしてあげないと」

「んなッ!? そ、そんなんじゃないですって!」

 

 冷やかすような笑みを浮かべ、訛りの強い方言で話す産婆からそう言われるや、せりは真っ赤になりながら慌てて否定する。

 そんな姿にため息をつくせりの母親。

 

「せり、あなたねぇ。せっかくのお休みなのにこんなことに巻き込んで、護行やはこべの面倒見てもらったのに、そんな態度をとって……ゴメンなさいね、梅里さん。こんなガサツな子で……」

「いやぁ、そんなこと……」

 

 思わず恐縮する梅里。

 一方、せりは怒った調子で反論する。

 

「こんな風に育てたのはお母さんでしょ。それにお母さんこそ無理しないの。お産直後なんだから……ほら、お父さんも梅里も、安心したでしょ? 護行とはこべをつれて元の部屋に戻ってなさい」

 

 そう言って、赤ん坊を返した父親と梅里の背中を押してこの部屋から追い出そうとする。

 それを見たせりの母親はため息をつき──

 

「まったく乱暴で、誰に似たんだか……」

「ご近所では、母親似ってよく言われるわ」

 

 すかさず返すせり。だが──

 

「こんなんじゃ梅里さんを他の()に持っていかれやしないか、お母さん、不安だわ。私があなたくらいの時には、もうあなたを生んでいたのに……そこは似なかったのね」

 

 悲しい顔をしたせりの母親の一言にせりは苦虫を噛み潰したような渋面になった。

 そんなせりをほったらかしにして、その母親は梅里にすがるような視線を向けた。

 

「梅里さん、こんな娘で申し訳ないけど、もらってくれませんか?」

お母さん(ががちゃ)ッ!! 梅里も、早く出て行きなさい!」

 

 母親に抗議しつつ、梅里をその部屋から追い出す。

 そんなせりを弟の護行は冷やかすように笑みを浮かべ、はこべも無邪気に笑うのであった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 一連の戦いの慰労として長期休暇をもらった梅里は、母親のお産のために帰郷するせりに「男手が必要になるかもしれないから」と半ば無理矢理つれてこられたのだ。

 そしてそのお産も無事に終了し、双子の女の子が生まれた。

 鈴菜(すずな)鈴代(すずしろ)と名付けられた双子姉妹は、二人仲良く眠っており、今はその様子をせりと梅里が見ている最中だった。

 

「赤ちゃんって、こんなに小さいんだなぁ」

 

 そう言う梅里を、せりは不思議そうに見る。

 

「この子達は特別に小さいわけじゃないわよ。標準くらいじゃないかしら」

「そうなんだ? あまり見たこと無いから……」

「赤ん坊なら去年見たじゃない。ほら、東雲神社の初穂ちゃん……」

 

 去年の夏に帝都の下町の神社に行ったときのことだ。

 あの時は、せりが稽古している間、その指導に掛かりっきりになる母親の代わりに梅里がその傍らで赤ん坊の様子を見ていたのだ。

 ちなみにそれを理由に、せりが稽古に行くときには面倒見る係として梅里が毎回連れていかれている。

 

「ああ。あの神社の子とか、あとは道師の御孫さんの──」

 

 そこまで言って言いよどむ梅里。指で頬を掻いている。

 

「まぁ、あのことは……あの子に罪はないけど」

 

 それに対して、せりも微妙な表情を浮かべる。

 咳払いをして気を取り直すと、梅里は説明した。

 

「あの二人は、生まれてから何か月か経っていたと思うけど、生まれたばかりの子はほとんど見たこと無いからね」

 

 神社の子はあの時点で1歳近く、道師の孫も半年とはいかなくとも、数ヶ月は経っていた。それに比べればこの子達は本当に小さい。

 

「まぁ、家族でもなければそういうものかしらね」

 

 せりはこの鈴菜と鈴代のすぐ上の弟である小平太(こへいた)も、その上のはこべの時も生後間もないころの姿を覚えているので、特に感慨はなかった。

 一方で、梅里にも妹がいるが、そこまで歳が離れているわけではない。そのため彼女が生まれたのは梅里もまだ小さかったころで、よく覚えていないという事情があった。

 

「手足もこんなにちっちゃいんだなぁ」

 

 顔を寄せて興味深そうに見る梅里。

 妹二人に興味津々な梅里を見て──せりはちょっとイラッとする。なんというか自分が目の前にいるのに全く興味を向かれないのは面白くない。

 というか、そもそもこんなに子煩悩というか、子供に興味を示すとは思わなかった。

 無論、生来の世話好きであるせりは子供への興味──母性は強い方だったので、少し嬉しくもあった。

 梅里が目を細めて見ている鈴菜とは反対に寝かされた、鈴代の方を見る。

 姉と同じように大人しく寝息をたてている姿は、本当に可愛らしく愛おしく感じられた。

 そんな鈴代に顔を寄せ──

 

 

「……あ~、こんなに可愛らし(めっこ)くて……羨ましい、私も欲しいな」

 

 

 思わず内心のつぶやきが口をついて出ていた。

 

「──ッ!?」

 

 言ってからそれに気がついて我に返り、思わず口を押さえる。

 妹の鈴代があまりに可愛くてつい言ってしまったが、子供を作るには当然相手が必要なわけで……思わず産婆さんや母に言われた言葉を思い出してしまう。

 すると──

 

「え? なにか言った? せり……」

 

 どうやら梅里が聞いていたらしく、尋ね返してきたので、せりは飛び上がらんばかりに驚いた。

 幸いなことに内容までは聞こえなかったようだが、顔を真っ赤にするせり。

 

「~~ッ!! なんでも、ないわよ!!」

 

 近づいてきた梅里の肩辺りを思わず手で叩く。

 何度か彼を叩いていると、その雰囲気を察した双子が、お互いにくずり始めた。

 

「い、いけない──ほ~ら、大丈夫よ~。お姉ちゃんですよ~。安心してね~」

「ちょ、ちょっとせり、いったいどうしたら……」

 

 せりが鈴代を抱き上げたので、梅里も思わず目の前にいた鈴菜を抱き上げたのだが、あやし方が分からず固まる。

 

「あ~、もう。いいから私の真似をして……」

 

 代わろうかとも思ったが、それでは今度は鈴代が泣き始めてしまうと判断し、自分があやす姿を梅里に真似をさせる。

 そのかいあって、ぐずり始めていた双子はお互いに落ち着き──再び安心したように寝息を立て始めた。

 

「──よかった」

「そうね……」

 

 お互いに抱いた寝息をたてる双子をそれぞれ近づけて、その様子を二人で確認する梅里とせり。

 ホッとしながら笑顔で見合った二人は、意外と近かったその距離に驚き──

 

 

 そして、どちらからともなく、二人で唇を合わせたのであった。

 

 


 

 

~かずらエンディング~

 

 その日、帝都のとある場所では、コンクールが行われていた。

 畏まった空気の中で、出場者である伊吹 かずらはその出番を待っていた。

 今日はバイオリンのコンクールであり、日本全国から選ばれた同年代の演奏者が一堂に会していた。

 一時はスランプに陥って落選し、ひどい結果をとってしまったこともあったかずらだったが、昨年の夏過ぎ頃から完全にスランプを克服し、今や優勝候補の一人になっており、下馬評は高い。

 以前とは違って堂々と演奏するようになり、演奏のレベルが変わった、とは有名な評論家の言らしい。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そんなかずらの番がきて、コンクールということでドレスを(まと)った彼女は愛用のバイオリンを手にステージの中央へと向かう。

 その道すがら、かずらは観客席の一角──とある席へと向ける。

 そこはかずらがある人を招待した席……のはずだったが、そこは空席だった。

 

(……え?)

 

 思わず足を止めかけるが、今はコンクールの最中だ。止まるわけにもいかず足を進めるしかない。

 そこに彼──武相 梅里がいない理由を考えてしまう。

 食堂の仕事が長引いたのだろうか。

 それとも緊急で除霊等の華撃団の仕事──対降魔迎撃部隊である花組と違い、夢組は小規模霊障への対応や各地に封印された存在(もの)への対策等、華撃団としての仕事が無くなったわけではない──が入ったのだろうか。

 色々と考えてしまい、演奏に集中できない。

 

(どうしよう……こんなんじゃ……)

 

 そう迷いながら、バイオリンを構えようとしたとき──ホール観客席のドアの一つが空き、人影が入ってくるのが見えた。

 正直、あまりパッとしない見た目ではあった。特別に凛々しいわけでもないし、目鼻立ちが目立って整っているわけでもない。

 着てきたタキシードもここまで走ってきたのであろう、正直、ビシッと決まっているとは言い難い。

 それでも──かずらにとっては、どんなに素敵な王子様よりもはるかに格好良く、頼もしかった。彼が来たことは万の援軍を得たに等しい。

 彼──梅里に聞かせたい、それだけで彼女の演奏はどこまでも素晴らしいものにできるのだから。

 そんな彼が壇上のかずらに気がつくと、間もなく順番と気がついたらしく慌てた様子で席へと向かう。

 その様子にかずらが思わずクスっと笑みを浮かべていると、彼はそっと手を振ってきた。

 

(梅里さん、もう反則ですよ……それ)

 

 万の援軍が百万の援軍に変わる。

 もう誰にも負ける気がしないせりは、バイオリンを構えた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「梅里さん!」

 

 コンクールが終了し、その表彰式まで終えた会場で、かずらは梅里を見つけると一目散に駆け寄り、そしてそのままの勢いで抱きついた。

 

「──っと」

 

 驚きながらもそれを受け止め、その場で回転して勢いを逃がす梅里。

 

「危ないよ、かずらちゃん」

 

 たしなめると、かずらは一度いたずらっぽく笑みを浮かべ、それから急に不満そうに梅里をじっと見る。

 

「優勝、おめでとう。かずらちゃん」

「ありがとうございます。でも遅すぎですよ、梅里さん。間に合わないかと思いました」

「ああ、それは……ゴメン」

 

 理由を言い掛けた梅里だったが、思い直して素直に謝る。

 

「別に理由はいいですけど、心配するじゃないですか。それに……梅里さんがこなかったら、負けちゃってましたよ、私」

「また、そんな謙遜をして……」

 

 苦笑する梅里。

 途中から聞いた梅里だったが、彼女の演奏は圧巻だった。全くの素人である梅里だが、彼が来た以降のどの演奏者よりもかずらの演奏がよかったと分かるほどだ。

 準優勝者はといえば梅里が来てから演奏した者だったので、彼女の圧勝だったことことは予想がつく。

 

「本当ですよ。私は梅里さんがいないと何もできないくらい、か弱いんですから。去年、私をしばらく任務に就かせなかった梅里さんならご存じだと思いますけど」

 

 かずらの言葉に梅里は痛いところをつかれてさらに苦笑した。

 

「かずらちゃんって結構、根に持つよね」

「そんなことありません。記憶力がいいだけですよ」

 

 そう言って悪びれずに笑みを浮かべる。

 それから手を一生懸命伸ばして、梅里の背に回した。

 

「梅里さんがいたから優勝できたのは、本当です。あなたがいるから私は実力以上の力が発揮できるんです。ですから──次も来てくださいね」

「──ああ。わかったよ。必ず、駆けつける」

 

 それにうなずく梅里。

 だがそれを確認したかずらは再びイタズラっぽく笑みを浮かべる。

 

「必ずですよ? 次は──欧州ですけど」

「は?」

「今回のコンクールは全日本のですから。それに優勝したので、次は世界なんですよ? さぁ、梅里さん。一緒に欧州、いきましょうね」

 

 さも楽しそうに笑みを浮かべるかずら。

 梅里はあ然とした後、心底困った顔で頬を掻き──

 

「そこまで困るのなら……一つだけ私のわがまま聞いてくれる、ということで許してあげなくもないですけど……」

 

 小悪魔的な笑みを浮かべるかずら。

 

「どんな?」

 

 問う梅里に、かずらは黙って目をつぶり、顔をあげ──キスを待つ。

 

 

 梅里もそれに応じ──二人の唇が重なった。

 

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

「で、私のわがままですけど……」

「はい!? 今のじゃなかったの?」

 

 二人が離れた途端に言い出したかずらに対し、驚くというよりはもはや呆気にとられた梅里。

 そんな彼の反応に小首を傾げるかずら。

 

「今のは、梅里さんからしてきたじゃないですか。そもそも何もお願いを言ってないんですから、私のわがままにはカウントされませんよ?」

 

 唇に指をあてつつ片目を閉じるかずら。

 この小悪魔がこのまま成長したら、悪魔──魔性の女になるんじゃないかと不安になる。

 そんな彼女は──上目遣いで梅里を見つめる。

 

「私もこの前、誕生日が来て16歳になりましたし、“かずら”と呼び捨てにしてもらえませんか? いつまでも“ちゃん”付けは、女として見てもらえないようで、悲しいです」

 

 そう言って少し不満げな様子を見せる。茶目っ気がないので、本気で感じているのだろう。

 それに梅里は──ため息をついてから、笑顔を浮かべる。

 

「わかったよ、かずら」

 

 そう答えると、もう一度自分の唇を彼女のそれに合わせ──かずらも喜んでそれに応じるのであった。

 

 

 

『サクラ大戦外伝 ~ゆめまぼろしのごとくなり~』 了

 




【よもやま話】
 しのぶ編は、一番難産でした。せりとかずらは「とりあえずこういう場面でいこう」というものがあったのですが、しのぶは一切浮かばず、掘れそうな設定とかネタとかを一生懸命探すことに。
 結局は最終話の─4─から繋げられるネタを見つけ、シーンも原作さくらEDでさくらが帝都を去ろうとするシーンから、「じゃあ、こっちは主人公が去るぜ」となってああなりました。
 せり編は、妹の鈴菜・鈴代が終了後に生まれるという年齢設定から、ああなりました。途中、はこべの年齢設定間違えて中学生くらいと勘違いして書きかけるというミスもありましたが。方言は──出身地の結構なヒントになってると思います。ちなみに今の人でそう呼ぶ人はほとんどいない古い方言だそうなので、逆にこの時代にマッチするかな、と。
 かずら編は、まぁ、かずらが一番、ヒロインの中でたくましく、したたかだな、と改めて思います。呼び方変えるのは梅里がいつまでも「かずらちゃん」と呼び続けるのに違和感を感じていたから。以降は梅里は少なくとも二人の時はちゃん付けしないことで統一予定。

【最終話あとがき】
 最終話、いかがだったでしょうか。
 これにて『~ゆめまぼろしのごとくなり~』は完結となります……が、とりあえず全体のあとがきは次話にて別に書きますので、ここはあくまで、最終話についてのあとがきとなります。

 さて最終話を書くにあたって苦労したのは……意外とゲームから引っ張ってこられるネタがない、ということです。
 前回、あんな引き方をしてしまったせいで梅里を立ち直らせるところから始まるわけですが、ゲーム本編はクライマックスに向けて風呂敷を畳み始めているので、どうしてもネタがない。
 ですから、基本的には旧版のネタの使い回しです。ほとんど。変えたのは岩骨童子(前は岩骨大輪でしたが)の登場するタイミング──前は銀座から海岸までの移動中──と倒し方くらいの細かいところをちょこちょこイジったくらいです。
 大きくイジるとしたら、聖魔城についていくぐらいでしょうけど、あの中で花組がまるで『覇王体系リューナイト』の終盤のように一人ずつリタイアしていく中では、夢組が活躍どころか生き残るのさえ難しい状況ですので、まぁ、やむを得なかったという感じです。
 あとは最終決戦で梅里が死ぬのも以前と変わらず。これは旧版を書いているときに、「ゲームでヒロイン達が死んでいってミカエルが復活させるのなら、こっちは主人公が死んで生き返らせてもらおう」という変な流れで生まれたものでしたが……完全にミカエル頼みで復活させるのもなんだかな、と思いリメイクであのような形になりました。
 最後の個別エンドも──当初はつけないつもりでしたが、やっぱりあった方が良いと思い直して付けました。
 ……正直、苦労しましたが。苦労しなかったのは家族構成がしっかりしてネタを作りやすかったせりくらいです。逆にしのぶは全く思いつかず、ものすごく苦しみました。

 さて──あとは全体でのあとがきで、振り返りたいと思います。
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