サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~ 作:ヤットキ 夕一
──梅里が華撃団に入団して半月ほどが経った。
その日、梅里は上野公園へとやってきた。
傍らには緑色の袴を履いて髪を三つ編みにした娘、伊吹かずらがおり、共に歩いている。
「綺麗に咲いたなぁ」
「本当ですね」
この頃になると、梅里が来たときとはまるで異なっており公園内は桜の花が咲いていた。
「そろそろ花見って話はないのかな?」
「う~ん、どうでしょうか。米田司令はお酒いつも飲んでますし……」
「かずらちゃん、支配人だよ。間違えないようにね」
「あ……ごめんなさい」
梅里に指摘され、あわてて口を押さえるかずら。
梅里とかずらは同じ日に華撃団に入隊したがまだ半月。まだまだ不慣れなかずらはつい間違えてしまったのだ。
「大丈夫。僕もまだ慣れなくてたまに失敗するから、お互い気をつけていこう。この前もそのせいで宗次に怒られてね……」
その宗次とは最近は顔を会わせる機会が減った。隊長となった梅里への引継ぎや隊長としての初期教育が終わったからだ。
「隊長が副隊長に怒られるんです? それってなにか変じゃありませんか?」
そんな話にくすくすと笑うかずら。
梅里が隊長になったことで体制の変化があり、隊長心得だった巽 宗次が夢組の支部長を兼任する副隊長となった。
これは夢組がとある事情で大帝国劇場の本部を少数精鋭で配置し、支部にはその他の多くの隊員達が配属されている関係によるもので、軍属の宗次が一般隊員の指揮を実質的に執るためだった。
状況が異動前と変わっていないように見えるのに反発がほとんどなくなったのは不思議だったが、宗次よりも上の存在ができたことやそれが軍人でないことが原因なのだろうと思っている。
ちなみに宗次が任命されたせいで副隊長から外れたのがアンティーラ=ナァムであり、その宗次を補佐する夢組副支部長に就いていた。
そのため宗次は通常は花やしき支部におり、普段は隊長として大帝国劇場の本部にいる梅里とは週に一、二回の会合以外はほとんど会わなくなった。
「でも、よかったんですかね。私たち、本部から出てきても?」
「いいんだよ。米田支配人から新人を迎えに行ってきてくれって言われたんだから」
「そうですけど。でも、言われたのは最初は私だけだったような……」
後半はかずらのつぶやきで、梅里は聞こえたのか聞こえていないのか触れずに話を進める。
「僕らの後輩になるわけだからね。まぁ、隊は違うけど」
米田直々の依頼で、今日来る別の隊の新人隊員を上野駅まで迎えに行くように言われたのである。
「でもさすがに私はともかく、隊長がこの時間に離れるのはやっぱり……」
そんな感じでかずらが気まずそうに言い、頑なに心配するのはもちろん理由があった。
とある人から怒られたくないからだ。
「離れるって帝劇を?」
「そうですよ。さらに言えばその食堂から、です」
梅里の肩書きは夢組隊長だけではなかった。大帝国劇場の食堂主任という肩書きも付いてきたのである。
米田とあやめから食堂で働く話は聞いていたが、そこでも主任になるとは予想外だった。梅里は実家で料理を学んでいたが、兄が実家の店を継ぐのが確定しているので、周辺の店で洋食をはじめとして色々な飲食店に修行しに行っていた。どんな店でもできるように、だ。
その経験のおかげで洋食中心である帝劇の食堂に対応できていたし、様々な出身地からなる帝国華撃団隊員達のまかないの要望にも対応できていた。
そんな大帝国劇場は、秘密部隊である帝国華撃団の本部であり、舞台に立つ女優達は華撃団の花形である花組の面々。そしてそれ以外の事務員からから売店の売り子に至るまで全員が華撃団関係者であり、大帝国劇場の食堂は、本部常駐の夢組幹部達が勤めているのであった。
「副主任のせりさん、絶対に怒りますよ。まだ忙しかったはずですし」
かずらに言われて思い出す。帝都に来た日に食堂で会った白繍せりもまた夢組の隊員である。
食堂副主任である彼女は華撃団での活動もそうだが、食堂においては梅里以上に無くてはならない存在なのだ。
そしてそのせりは夢組内でもしっかり者で通っている。副主任になったのは調理も接客もこなせる数少ない人材であるとともに、その管理能力をかわれてのことだ。
「大丈夫。この半月であやめさんや宗次からいろいろ教わったけど、その中に適材適所という言葉があってね。仕事はできる人にドンドン任せた方がいいんだってさ」
梅里の言葉にかずらは「さすがにそれは違うんじゃ……」と思い、間違いなく戻ったらこの主任は副主任から怒られるだろうな、と確信していた。自分が巻き込まれないように祈るしかない。
そんなことをかずらが考えているその傍らで、梅里の表情が突然に変わった。
「かずらちゃん、気をつけて……」
普段、笑顔でいることが多く温厚そうな梅里がめったにしない鋭い目をしていた。
「隊長?」
戸惑うかずらを余所に、梅里は鋭い目で周囲を見渡し、持ってきていた細長い包みの口をほどこうとしていた。
その先からは刀の柄が覗いている。
「どうしたんで──」
かずらが尋ね終わるその直前に、少し離れた場所で大きな悲鳴が上がった。
思わず振り返る梅里。かずらもまた同じようにそちらを向いていたのは、彼女が乙女組という教育機関を経て夢組に配属された者であり、その訓練の賜物だった。
「行くよ」
「はい」
口数少ないやりとりの直後に駆け出す二人。
しかし、正面からはなにかあったその騒動から逃げようとする人混みと対向することになり、思うように進めなくなっていた。
だが──
「せいッ!!」
気合いの声が響きわたり、その直後に人の動きが止まる。
「いったい、何が……」
その変化に戸惑いつつ、その場に残ったままの人混みをかき分けて進む梅里。
やがて人が遠巻きにしている、騒動の中心地へと至ると──
「なッ!? 脇侍──」
「──の残骸、みたいですね」
そこにあったのは最近、巷を騒がす怪蒸気こと魔繰機兵・脇侍──だった、弱々しく蒸気を吹き出す金属塊である。
そして、その傍らには桜色の着物と赤い袴で身を包み、ポニーテールの髪に大きなリボンを付けた、そして日本刀を手にした娘が立っていた。
「あの人が……」
「例の、新人さん……でしょうか?」
歩み寄った二人は声をかけてそれを確認する。
はるばる仙台からやってきた彼女は、真宮寺さくらと名乗った。
──桜の花が舞う帝都に、不穏な影が動き始めていた。
<次回予告>
ティーラ:
始まりました『サクラ大戦外伝 ~ゆめまぼろしのごとくなり~』。
以前と異なり、次回予告はこの私、『見通す魔女』アンティーラ=ナァムが専属で担当します。お見知り置きを。
そして突然ですがクイズです。現在、帝劇食堂でもっとも不人気なメニューはなんでしょうか? 答えは予告の最後にて。
さて、夢組隊長となった武相隊長は、周囲のサポートもあってその仕事は順風満帆。
また体制が変わったことで以前とは違って順調な夢組。
そんな夢組に下された命令は、敵幹部が残した魔繰機兵の残骸の調査。
難航する事前調査に危険さを訴える隊長でしたが、訴えは上層部には届きません。
調査中、とあるきっかけで暴走する魔繰機兵。
施設に取り残された隊員達を助けるために単身乗り込む隊長。
その捨て身の行動の理由とは──
次回、サクラ大戦外伝 ~ゆめまぼろしのごとくなり~ 第二話、
太正桜に浪漫の嵐。
次回のラッキーアイテムは「オムライス」ですよ、隊長。
【よもやま話】
締め。今後も梅里はかずらの面倒をみるシーンが出てくると思いますが、梅里は設定上は妹がいるので年下には特に優しいのです。同日の入隊にしたのはかずらと梅里の接点をより強くしたかったから。そしてヒロインであるかずらが梅里を意識してほしかったから。
そして、やっぱりサクラ大戦の外伝ですので真宮寺さくらを出したかったのでこうした形になりました。
─次回予告─
旧作では色々なキャラが代わる代わる担当してましたが、考えるの結構大変でした。
そのため予知能力があるティーラに統一して担当してもらうことで負担を軽減。
予知能力で次回の内容を知っているのだと思ってくださいな。
【第1話・あとがき】
「~はじめに~」で書かせていただきましたが、2000年前後に書いていた『サクラ大戦夢組外伝SSシリーズ』再スタートすることとなりました。最後までおつきあいいただければ幸いです。
私としても「~4」のラストまで構想だけはあったので、そこまでどうにか書きたいと思っておりますので。
再スタートにあたって20年の月日が経ち、私の年齢も倍近くになりました。就職もしていろいろ変わりましたが、一番変わったのは、「水戸への思い」ですかね。
──正直、なんで主人公の出身地を水戸にして「水戸上げ」したんだろう、と思うくらいに水戸を嫌うような20年でした。(笑)
まぁ、今更変えるのも当時お付き合いいただいた方々には失礼な話になってしまうのでそこはいじりませんでしたし、梅里の実家の設定とか幼なじみとの因縁とか、いろいろ変えられない事情もあってそのままになってます。
20年前にやり残したこのシリーズの完結、どうにか成し遂げたいと思い、精一杯努める所存ですので、これ以降の第二話、第三話とお付き合いいただけると非常にありがたく思います。