サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~ 作:ヤットキ 夕一
─1─
帝都で桜が咲き始めたころのこと──そう、梅里とかずらが上野公園の騒動に遭遇した日のことだった。
その日、昼時のピークを乗り越えた大帝国劇場の食堂には食堂主任の姿がなかった。
そろそろ昼食でも、と食堂にひょっこり現れた支配人の米田だったが、その行動を今では後悔していた。入ったとたんに食堂の女性用給仕服を着た娘につかまったからである。
肩辺りまで伸びた髪を後頭部で二つに分けて結んでいる髪型の彼女の名前は
彼女は米田を捕まえるや、すごい剣幕で詰め寄ってきたからだ。
「ど・う・し・て、主任を行かせたんですか!!」
それに圧されつつ、確かに主任である武相梅里を昼時に外出させたのは失敗であり、せりに悪いことをしたと思いつつも、一応は状況を説明する。
「いや、オレも本当は新人の迎えにかずらだけ行かせるつもりだったんだぜ」
話に出た伊吹かずらはせりも梅里も所属する帝国華撃団夢組の隊員だが食堂ではなく、唯一楽団に所属している。その見事なバイオリンの腕をかわれてのことだ。
「それなら、どうして主任がいないんですか!」
「ウメのヤツが「かずらちゃん一人で行かせるのは危ない」とか言い出してなぁ。まぁ、確かに若い娘二人だけになっちまうよりは、変なのに引っかからないように一人男が付いていった方がいいかと思ってな」
かずらは温厚だから強引に迫られると断りきれないだろうし、どんな性格かはまだ詳しくは知らないが、帝都に上京したばかりの不慣れな新人とでは確かに不安ではある。
しかしそのせいで食事時に食堂主任がいなくなるという事態を見過ごしたのは完全な米田のミスだ。
「なにも忙しい食堂から人を出さずに、暇な人を行かせればいいじゃないですか」
「そんな急に、暇なヤツなんて見つからんだろ……」
「……支配人」
ジト目で食堂副主任に見られる劇場の最高責任者。
「は? なんでオレを見るんだ」
「支配人、暇そうじゃないですか」
「なッ!? せり、お前なぁ……」
「支配人室でもいつもお酒飲んでばかりですし。これを機にお酒を控えたらいかがですか? 特に勤務中のお酒はくれぐれも──」
「あの、せり……落ち着いた方が、いいと思うわよ」
その横では居合わせたあやめが苦笑気味にせりを諫めている。
これ以上はさすがに言い過ぎると思ったあやめが間に入り、どうにかなだめる。
一方、渋々と引き下がり、言いくるめられた形になったせりは不満を抱えたまま、一仕事終えて食堂の一画に集まっていた仲間達の方へと戻った。
そこにいるのは5人の男女。男はコックコート、女は給仕服を着ていた。
男は
この面々に主任の梅里と副主任のせりを入れたのが大帝国劇場食堂のスタッフであり、さらにそれにかずらを入れたのが、帝国華撃団夢組の本部付メンバーということになる。
もっとも、食堂が忙しいときには支部の夢組メンバーから応援が来るときもあるが。
「お? 気は済んだのかい? 副主任」
「……そう見える?」
「いや、全然」
食堂に戻ってきたせりに声をかけつつ苦笑しているのは釿哉。後ろの髪だけ長めで、それを後頭部で縛り、短い尻尾のようにしていた。
前髪は自分で整えられるし、後ろ髪はまとめて切るから一人で手入れできる、とは釿哉本人の談。誰かに切ってもらうのが面倒だから、という理由でそんな髪型になっているらしい。
基本的に軽い口調なところと髪の長さはその横に座っている和人とは対照的だ。彼の口調は固く、その髪は短く整えられている。
「まぁ……とりあえずは無事に乗り切れたことを、喜ぼうではありませんか」
「その通り。さぁ、ご一緒に。主よ、感謝いたしマス……」
そう言って胸の前で十字を切った後で両手を組んで祈りを捧げたのは、明るい茶色の髪と青い目をしたコーネルだ。宣教師という面を持つ、明るいイギリス人である。
「自分、山伏なのですが……」
思わず苦笑する和人。
山伏である彼は祈る神や方法こそ違っても、それにつきあうほどに心が広く、そしてそれを表すかのように大柄な体をしている。
「はいはい。じゃあ、気分を変えて夜の部に備えましょう」
副主任であるせりが二度手をたたいて気分を変える。が──
「ところでせり、隊長はどこにいったのですか?」
──と紅葉が空気を読まずに蒸し返した。
さすがに黙り込み、こめかみをひくつかせるせり。そして顔をひきつらせる男性陣。
濃い茶色をした短めの髪を振り回すように首を振って左右を見渡す紅葉。その言動に悪意はなく、純粋に梅里を探しているのだった。
「オイオイ、紅葉! オマエは今までいったい何を聞いていたのかなーッ!!」
そんな紅葉の頭をがっしりと両手でつかみ、その動きを止める釿哉。
「なッ!? 松林、何をするのですか。ひょっとして隊長がどこに行ったか知ってるのですか」
「うるせぇ、いいから黙ってろ」
「むぐッ」
ついでに手で口を塞がれた紅葉が目で抗議するが、釿哉はそれを完全に無視した。
紅葉が梅里にこだわるのは、副隊長の巽 宗次が梅里に決闘で負けたという噂を聞くやすっ飛んでいって梅里に勝負を持ちかけ、それに負けたからである。
この紅葉という娘、食堂内では調理が壊滅的な腕前で火を使わせれば食材は何でも炭になるので給仕専属にこそなっている。しかし御覧のとおりに空気が読めず、接客上手とはお世辞にも言えない。
それでも食堂勤務をしているのは理由があった。
食堂ではポンコツでも夢組では随一の戦闘技術を誇り、夢組内で主に小規模霊障に対応している除霊班のトップである除霊班頭に就いている程だった。梅里に挑む前の時点で、勝負を断っていた宗次以外の全員よりも間違いなく強かった。
そして夢組幹部、特に班頭は一人を除いて本部勤務になっていた。
おかげで紅葉はやむなく普段は食堂に勤務している。(そして副主任の頭痛の種になっている)
勝利至上主義の紅葉は梅里に見事に負けて以来、紅葉はすっかり彼を尊敬し、「第一の家来」と言ってはばからない。
(……家来と言うよりも、犬だよな)
というのが押さえ込んでいる釿哉の認識──というよりも夢組全員の共通認識だった。
ちなみに、他の食堂メンバーもやはり同じように幹部であり、食堂ナンバー2のせりはダウジングをはじめとした霊的調査を行う調査班、釿哉が御守りや装備等の開発や制作を行う錬金術班、和人が結界によるサポート等を担当する封印・結界班のそれぞれ頭を務めており、残る予知・過去認知班の頭はもっとも優れた予知能力を持つ夢組副支部長のアンティーラ=ナァムが担当している。
そしてコーネルが紅葉の下の除霊班副頭で、残る一人が本部付副隊長の──
「でも、結果的には梅里様が向かって良かったようですよ」
そう言って微笑んでいる塙詰しのぶである。
普段から閉じたような細い目をした彼女。普段は流している長い髪を、給仕ということでまとめてアップにしていた。
「どういうこと?」
眉をひそめるせりにしのぶが説明する。
「上野公園で騒動があったようです。どうやら魔操機兵の姿もあったらしく──」
「「なんだって!?」」
話を持ってきたしのぶ以外の全員の表情が強ばる。
「なるほど。上野公園ですね……ぐぇ」
話を聞くや飛び出そうとした紅葉だったが、普段のんびりした様子でも意外と瞬間的な動きは速いしのぶが首根っこを捕まえていた。
「話は最後まで聞いてくださいな。騒ぎはすでに収まっているそうですから向かう必要はございませんよ」
「りょ、了解……」
紅葉が大人しくなったのでしのぶも首根っこを解放する。
「そういう意味で、伊吹さん一人では危険でしたでしょうね」
伊吹かずらはその演奏──普段は得意とするバイオリンによる──に霊力を込めることで調査や支援を行う能力を持つが、夢組の中でも戦闘力は低い。緊急事態に巻き込まれたら単独での対応はほぼ不可能だろう。
「現れた脇侍は一体で、すでに一刀両断にされたそうです」
「オゥ、さすが隊長デスネ~」
ヒュウと口笛を吹くコーネル。だが、しのぶは首を横に振る。
「いいえ、倒したのは武相様ではなく、迎えられるはずの新人さんだそうです」
「本当ですか!?」
話を目を輝かせたのは紅葉だった。戦いに参加できずにしょぼんとしていた彼女はその新人が早くも気になったらしい。
魔繰機兵・脇侍を斬り伏せた猛者なのは間違いない、と勝手に思いワクワクし始めている。
「……でも、それなら主任が行った意味って無いんじゃないの?」
「あ……」
せりの冷めた言葉に紅葉以外の全員が気まずそうな顔をした。
──その後、食堂に戻ってきた梅里がせりにこっぴどく怒られたのは、仕方がないことだろう。
【よもやま話】
私が一番気に入っていた旧作ヒロインの流れを汲んだの白繍せりのヒロイン回の始まりです。
せりはほっといても喋ってくれるし動いてくれるからすごく楽。私にとっては優等生なんです。早速、米田支配人にさえ絡んでるし。
そしてこのシーンで、夢組本部メンバー勢ぞろいとなります。紅葉はアホな子キャラになってしまったなぁ、と旧作ヒロインを思い出しながら感じ入るのでした。
ちなみにコーネルは元になったキャラがあやめ(2ではかえで)LOVE勢だったのですが、正直あまり生かす自身がないのでその属性は切りました。その結果、布教キャラになり、接客を担当しないのは宗教勧誘をするからという裏設定があります。