【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
入学試験当日。
私は、目の前に用意されたテスト用紙を前に唸っていた。
「ぐぬぬ……」
迂闊だった。
まさか、入学試験の内容が、筆記と実技の二つに別れていたとは。
こんな事なら、予習の一つでも……なんか、前にもあったな、こんな展開。
あれだ。
冒険者の昇格試験の時だ。
私は、あの時と全く同じ過ちを繰り返している!
だが、しかし!
同じ展開という事は、攻略法もまた同じである筈!
思い出せ!
あの時はどうやって乗りきったのかを!
……そうだ!
思い出した!
あの時の問題は、決して回答不能な難問などではなかったのだ。
今まで培ってきたものを頭の中から引き摺り出せば、十分に解ける問題であった。
今、私の前にある問題はどうだ?
決して解けない難問か?
否!
たしかに、一部の教養的なものを測っているような問題は解けないが、それ以外の問題は十分に攻略可能!
なにせ、私は元騎士だ!
元騎士が、騎士に関する問題を解けない道理はない!
唸れ!
私の灰色の頭脳!
ここに刻まれた前世の記憶を掘り起こすのだ!
できなければ、落第してマーニ村にとんぼ返りだぞ!
あれだけ感動的な別れをやった手前、それは滅茶苦茶恥ずかしい!
絶対にベルとかオスカーとかに笑われる!
父と母に生暖かい目で見られて慰められる!
それだけは、絶対にあってはならん!
その意志で、なんとか筆記試験を乗りきった。
これは、ギリギリ合格点には達しているんじゃなかろうか?
達していなかったら本気で困る。
神にでも祈っておこう。
そうして筆記試験を乗り越え、脳に凄まじい疲労を抱えながら、他の受験生と共に移動を開始。
実技試験を行う訓練場へとやって来た。
冒険者ギルドにあった訓練場と同じで、結界生成の魔道具が近くにいくつか転がっている。
だが、冒険者ギルドよりも全体的に高級そうだ。
金の匂いがする。
というか、筆記試験を受けている時から思っていたが、受験者の数が少ないな。
50人くらいしかいない。
私の受験番号が350である事を考えれば、明らかに少なすぎる。
これは、試験の日時が違うのか、それとも会場が違うのか。
……いや、どうでもいいか。
何故に、疲れた脳みそで、そんな下らない事を考えているんだ私は。
「では、実技試験を開始する。形式は試験官と一騎打ちの試合形式だ。ここでは諸君らの戦闘能力を見る。
戦闘能力は、王国の剣である騎士にとって最も重要な能力だ。弱い者に騎士は務まらん。励めよ」
『はい!』
試験官の言葉に、受験者達が一斉に良い返事をする。
ふむ。
さすがは騎士にならんとする連中だな。
礼儀正しいのが多い。
王国の未来は明るそうで何よりだ。
そして、実技試験が始まった。
この場にいる試験官は五人。
その五人が、50人の受験者達を一人ずつ相手にしていく。
受験者達の動きは、かなり良い。
さすがは推薦を受けたエリートという事だろう。
若い奴が多い……というか、若い奴しかいないというのに、そんじょそこらの冒険者とは比べ物にならん。
弱い奴でもC級冒険者並み。
強い奴だと、B級の端に引っ掛かるかもしれん。
まだ入学してもいないのにこれとはな。
本当に、王国の未来は明るい。
だが、試験官達はそれ以上だ。
将来有望なガキどもの攻撃を簡単に捌き、反撃に転じて防御の技術を測る。
時に魔法が飛ぼうとも、当たり前のように叩き落とす。
その様は、かつてベル達を軽くあしらったドレイクを彷彿とさせた。
騎士学校の教員は、ほぼ全員が騎士か元騎士だという話を聞いた事がある。
その証拠に、試験官達は全員、騎士の制服に身を包んでいる。
つまり、全員がヨハンさん並みの実力者という事だ。
いや、ヨハンさんは騎士の中でも相当強い部類だが。
あの人は、今の私ともまともに斬り合える強者だしな。
それでも、他の騎士達がヨハンさんより大きく劣っている訳ではない。
この光景を見れば、そう断言できる。
「次! 349番!」
「はい」
そんな感じで試験を見守っているうちに、シオンの番がやってきた。
相手は老境の騎士だ。
基本に忠実な中段の構えで、シオンが仕掛けるのを待っている。
対するシオンもまた、中段の構え。
あいつも基本に忠実だからな。
「行きます」
「来なさい」
二人がそう言葉を交わした瞬間、━━シオンの姿が消えた。
そう錯覚する程の速度。
私には到底及ばないが、それでも相手の騎士よりも速い。
何故なら、シオンは闘気を纏っている。
まだまだ未熟な闘気ではある。
だが、シオンは闘気使いの、超一流の域へと足を踏み入れたのだ。
既に、そこらの騎士よりも余程強い。
「ッ!?」
その予想外の速度に驚きつつも、老騎士は慌てて防御態勢を取る。
シオンの技は正面からの振り下ろし。
王国剣術、攻ノ型・一閃。
それを防ぐべく、騎士の剣が頭上へと掲げられる。
「!?」
しかし、そこでシオンの剣の軌道が変わった。
振り下ろしから、横薙ぎの抜き胴へと。
これもまた、王国剣術の型の一つ。
単純なフェイントではあるが、決まれば十分に有効な技。
その名も、
「攻ノ型・
「ぐぅ……!」
綺麗に決まった陽炎が、試験官の腹を叩く。
だが、少し浅い。
試験官も、咄嗟に足を動かして直撃を避けた。
良い判断だ。
あの体勢からでは、回避も迎撃も難しかっただろうからな。
しかし、一発食らってよろめいた時点で致命的だ。
試験官の周りを、雷の魔法が被い尽くす。
さながら檻のように展開した雷魔法は、即座に圧縮され、内部の試験官を握り潰すように炸裂した。
「サンダージェイル!」
「ぐあああああああああ!」
試験官が、おもいっきり感電して倒れ、体からプスプスと黒い煙を上げる。
まあ、これは試験だ。
シオンも手加減していたようだし、死にはしない。
気絶もしていなし、傷も浅い。
その傷も、近くに控えていた治癒術師の手によって、すぐに治された。
だが、治癒術師が出張って来た時点で、試合は終了だ。
「それまで!」
「……ふぅ」
他の試験官が試合の終了を宣言し、シオンが息を吐きながら構えを解く。
やはり、柄にもなく緊張していたらしい。
そんな状態で騎士を倒すとか、やはりシオンは天才だな。
やるじゃないか。
「いやぁ、綺麗にやられましたな。さすがはA級冒険者『雷剣』のシオン。見事なものです」
「……どうも」
やられた老騎士が、手放しでシオンを褒める。
お、常時仏頂面のシオンが、ちょっとだけ笑いおったぞ。
付き合いの長い奴じゃないと気づかないくらい微かにだが、口角が上がっている。
嬉しかったようだ。
一方、老騎士の言葉を聞いた受験者達はざわついていた。
「A級冒険者!?」
「なんで、そんな奴が……」
「フッ、噂通りという訳か」
「クソッ……! S級におんぶに抱っこの雑魚じゃなかったのかよ……!?」
「冒険者……平民の分際で……!」
「クールでカッコいい……」
反応が個々人で違うな。
シオンの事を知っている奴、知らない奴、知った上で見下していそうな奴、純粋に称賛する奴。
色々だ。
だが、そんなに騒ぐのは騎士としてはダメだな。
「静まれ! 試験中だ!」
『はい!』
そら、試験官に叱られた。
まあ、当然だな。
騎士がうるさいのは褒められた事ではない。
冒険者じゃあるまいし。
さてと。
次は私の番だ。
いっちょ、やってやるか。
そうして、一歩踏み出した時……
「どうやら、有望そうなのがいるみたいね」
そんな、聞き覚えのある声を聞いて、私の足は止まった。
この声は!
声の方に振り向く。
発生源は訓練場の入り口。
そこに、その女がいた。
白銀の髪に、シオン並みの仏頂面。
他の試験官同様、騎士の制服に身を包み、腰に華美な細剣を携えた、女騎士。
「ユーリ様!」
試験官達がその女の名前を呼び、最敬礼を取った。
ユーリ。
かつての私の二番弟子にして、現在はグラディウス王国最高戦力と称される、王国『三剣士』の一人。
━━『氷剣』のユーリ・
受験者達が、またざわめき出す。
ユーリは、そんな受験者達と最敬礼を取り続ける試験官達を見回して苦笑した。
もっとも、付き合いの長い奴じゃないと気づかない程度の表情変化だが。
「……あまり畏まる必要はないのだけれど。私も、ここでは一教師に過ぎないのだし」
……教師?
教師。
教師!?
こいつ、教師になりやがったのか!?
つまり、ユーリが私の先生になると。
私の事を「先生、先生」と呼んでいた小娘が!
これでは立場逆転ではないか!
……人生、何が起こるかわからんな。
「さて、試験はどこまで進んだのかしら?」
「ハッ! 受験番号349番まで進みましたので、次の350番で最後になります」
「そう。という事は、あの子が」
お、ユーリが私の方を向いた。
手でも振っておくか。
「こら! 無礼だぞ!」
「別に構わないわ。そういうのは後で教育すればいいでしょう? それよりも、彼女と話がしたいのだけれど」
「ハッ! かしこまりました!」
ユーリが試験官を宥めつつ、私の方に向かって来る。
私の周りから人が消えた。
受験者達がめっちゃビビって後ずさった。
ユーリ……お前、教師向いてないんじゃないか?
「はじめまして。私はユーリ。ここの教師の一人よ。それと、王国三剣士の一人。どうぞよろしく」
「うむ。知っているぞ」
「そう。私もあなたを知っているわ。
S級冒険者『天才剣士』リンネ。私が出向く筈だった、シャムシールの魔物襲撃事件を解決させた英雄。そう聞いているわ」
ほう。
ユーリもあの事件の事を知っている……というか、お前が来る予定だったのか、あの時。
そういえば、時間を稼げば三剣士の一人が来るみたいな事を、誰かが言っていたような。
結局、ドラゴンに城壁を破壊されたから、籠城ができなくなって、慌てて殲滅したんだったな。
二年くらいしか経っていないが、ちょっと懐かしい。
ユーリが威圧するような冷たい目で私を見てくる。
だが、これは純粋に興味深いものを見る目だな。
こいつの表情は、慣れていないとわかりづらい。
受験者達は、ユーリの雰囲気に気圧されてるのか、シオンの時みたいにヒソヒソ話をする余裕もないようだ。
「あなたには前々から興味があったの。だから、あなたの試験官は私がしたいのだけれど、構わないかしら?」
「別にいいぞ。私も
「? おかしな言い回しね。まあ、別になんでもいいけれど」
そうして、私は急遽、ユーリと戦う事が決定した。
まさか、王都に来た目的の一つが、こんなに早く達成できるとは思わなかった。
屋敷に襲撃でもかけてやろうかと思っていたが、嬉しい誤算だな。
ユーリが木剣を手にして、訓練場の中央に立つ。
私もそこへ足を踏み入れた。
その後、私達の周りを結界が包み込む。
誰にも邪魔はさせないと告げるかのように。
と、その時、結界の外のシオンと目があった。
若干心配そうな顔で私を見ている。
なので、任せろとばかりに親指を立てておいた。
シオンの顔が、心配して損した的な呆れ顔に変わる。
なんだ、その反応は。
そんなシオンはさておき、剣を構え、ユーリと正面から対峙する。
三剣士とS級冒険者の戦い。
そんな、世界最高峰の戦いを、周囲は固唾を呑んで見守っていた。
さて、こいつと一対一で向き合うのなんて何年ぶりだろうか?
忘れたが、かなり久しぶりだというのはわかる。
その月日でどれだけ強くなったのか、この師に見せてみるがいい、弟子よ。
「行くぞ」
「ええ、いつでもどうぞ」
そうして私は、かつての弟子へと斬りかかった。