【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「そんな事があったのですね……」
またも食堂で会ったスカーレットとオリビアに、今回の経緯を話した。
襲撃の後、駆けつけてきた兵士達に事情を話している内に時間が過ぎ、学校に着く頃には昼になっていた。
私は「休むか?」と聞いたが、二人は頑として拒んだ。
それだけ、今日に懸ける意気込みが強いのだろう。
その心の強さは立派だ。
「アリス……大丈夫ですの?」
「うん、大丈夫だから」
そう言うアリスの顔色は悪い。
強がって見せても、やはりコンディションに影響が出ているな。
シオンは瞑想でもするように気を落ち着かせているが、それでも万全ではなさそうだ。
授業開始まであと少ししかないが、それまでに少しでも回復してくれる事を祈るしかない。
……それと、少し予定を変更した方がいいかもな。
「とりあえず、二人とも何か食べとけ。腹が減っては戦はできぬ。
だが、食べ過ぎるなよ。満腹は動きを鈍らせるし、戦闘中に吐いたら目も当てられんからな」
「はい」
「……食事中に吐くとか言うな」
そうして、私達は学食を取りに行ってモソモソと食べ始めた。
さっき言った事を加味して、食事はサンドイッチが一つと飲み物だけだ。
二人とも、少し進みは遅いが普通に食べられている。
食欲があるのなら、思ったよりは平気そうだな。
「で、さっきの襲撃に関してだが……お前はどう見る、スカーレット?」
「そうですわね……」
スカーレットが顎に手を当てながらそう呟いた時、オリビアがスッと懐からある魔道具を取り出して、机の上に置いた。
風の魔法で周囲の音を遮断する、簡易式の盗聴防止魔道具だ。
気が利くな。
前回は使わなかったが……まあ、それは何か理由があったんだろう。
たとえば、あえてあの会話を周囲に聞かせる事で、クソ虫との敵対を大々的に周知させる為とか、そんな感じの理由が。
「まず襲撃者の正体ですが、アクロイド家の手の者である可能性が一番高いでしょうね。
聞いた話ですと、かなり杜撰な襲撃だったようですし、それで得をするのはフォルテくらいしか考えられませんわ」
「だろうな」
むしろ、それ以外の可能性があるのかという次元の話だ。
「しかし……少し不可解ですわね」
「む? 何がだ?」
「白昼堂々ナイトソード家の馬車を狙うという行動そのものがです。
それを行ったという証拠が出てくれば、いくらなんでも追及を免れませんし、そうでなくとも疑惑は深く残り続けます。
政治的に見れば、今回の事件は王家やナイトソード家を本格的に敵に回す愚行なのですわ」
……言われてみれば、その通りかもしれんが。
じゃあ、なんだ?
つまり、どういう事だ?
「そんな愚かな事を公爵ともあろう者がするとは思えませんが……では、他に何か目的が……? アクロイド家の仕業に見せかけて、他の誰かがやったという可能性もなくは……いえ、しかし……」
スカーレットが自分の世界に行ってしまった。
傍目から見ても、高速で頭を回転させているのがわかる。
よし、任せておこう。
頭脳労働は苦手だ。
こういうのは、できる奴に任せるのが最善だろう。
ややあって、スカーレットは顔を上げた。
「……ふぅ。わたくし一人で考えていても埒が明きませんわね。
詳しい事は情報を集めてから改めて考える事にいたします。
それよりも今は……」
「ああ。直接対決の方が大事だろう。わかっている」
細かい理屈捏ね回すのは苦手だが、今やらなければならない事くらいはわかる。
クソ虫を真っ向勝負で叩き潰す事。
これが最優先であり、決定事項だ。
「アリス、シオン、行けるか?」
「……はい。これくらいで折れる程、弱くはないつもりです」
「俺もだ。あまり見くびるな」
そうか。
たとえ、アリス達が戦えなかったとしても、私一人で戦いに赴くつもりだったが、この調子なら大丈夫そうだな。
正直、まだ心配ではある。
だが、そんな事を言っていては何もできない。
今は、二人を信じる。
そして、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。
この後は、すぐに午後の授業が始まる。
例の合同訓練は午後の始め。
つまり、この後すぐだ。
「よし! 行くぞ!」
「はい!」
「ああ!」
「ご武運を!」
そうして、私達は決戦の場へと赴いた。
◆◆◆
合同訓練が行われる決戦の場は、第二訓練場。
少し前に、アリスと私が戦ったあの場所だ。
アリスにとっては、
決戦の場としては悪くないだろう。
「やあ、アリス」
そして、そこに奴はいた。
他の二年生達に交ざる、不快な異物。
我らが宿敵、クソ虫ことフォルテ・アクロイド。
「聞いたよ。大変だったそうじゃないか。無理せずに休んでいた方がいいんじゃないかな?」
白々しい!
よくもまあ、ぬけぬけと!
クソ虫は心配そうな顔を作ってはいるが、目が笑っているし、声も言葉とは裏腹にへばりつくような気持ち悪さがある。
確信した。
犯人はこいつだ!
「そこ、私語は慎みなさい」
「おっと。これは失礼しました」
教師であるユーリの言葉には素直に従い、クソ虫は一旦引いた。
決めた。
あいつは徹底的に潰す。
情けも容赦も拘りも捨ててぶっ潰す。
今、そう決めた。
「では、これより一年A組と二年A組による合同訓練を開始するわ。
今日の目的は相互理解。お互いの実力を確かめる意味で、一対一の試合を行います。
双方の合意さえあれば、誰が何度戦おうと構わないわ。
二年生は、一年生に胸を貸すつもりで戦いなさい」
『はい!』
この一見まともな事言ってるように感じるユーリの言葉だが、当然、私達の目的をサポートする為の方便である。
ユーリは、教師としての権限を私的な目的で使う事に少し難色を示したが、最終的に背に腹は変えられないという事で協力してくれた。
これで、クソ虫が不様に逃走さえしなければ、私達は全員が奴と戦う事ができるという訳だ!
お前が虐げた者と元剣神の怒り、存分にその身で味わうがいい!
「じゃあ、最初は……」
「私が行こう」
前に出ようとしたアリスを手で制し、私が手を上げた。
アリスとシオンが驚いた顔で私を見る。
事前に決めた予定と違うからな。
だが、ここは押し通す。
「二人とも、悪いが、ここは私に任せてくれ。私が先陣を切る」
鋭い視線で二人を見ながら、私はそう宣言する。
目的は一つだ。
まずは私が確実な勝利を手にし、強引に流れを引き寄せる。
本来ならまず二人に任せるつもりだったが、今の二人は不調だ。
まずクソ虫と精神面で対等になるには、私が最初に勝って勢いを味方に付けるしかない。
「……わかりました。頑張ってください、リンネちゃん!」
「俺達の出番を奪うんだ。情けない真似はするなよ」
「もちろんだ。━━必ず勝ってくる」
二人もそれをわかっているのか、否定せずに送り出してくれた。
他のクラスメイト達も、何かを察しているのか、私に一番手を譲ってくれた。
その想いには、死んでも答える。
「一年生は決まりのようね。では、二年生は……」
「勝負だ。フォルテ・アクロイド」
ユーリの言葉を遮り、クソ虫を指差して宣言する。
高位貴族に対する割りと無礼な行いに、他の生徒達がざわめいた。
「貴様ぁ! フォルテ様に対して無礼にも程があるぞ!」
「黙れ」
「ヒィ!?」
なんか見た事あるような奴が絡んできたが、殺気を叩きつけて黙らせる。
よく見たら、前にいた取り巻き三匹の中の一匹じゃないか。
相変わらずの小虫だ。
「構わないよ。僕が出よう」
「フォルテ様!? しかし……」
「いいんだよ。身の程を知らない一年生を教育してあげるのも、先輩としての役目さ」
「ハッ!? その通りです! さすが、フォルテ様!」
なにやら寸劇じみたやり取りがあったが、なんにせよ、向こうも戦う気はあるらしい。
好都合だ。
そして、お互いに試合開始地点に立ち、訓練用の木剣を手に向き合う。
私達の周囲を、結界が包み込んだ。
「準備はいいわね? では、始め!」
ユーリが試合の開始を宣言した。
クソ虫は動かない。
……どういうつもりだ?
「来ないのか?」
「先手は譲ってあげるよ。後輩くん」
「そうか。ならば、遠慮なく行かせてもらおう」
その瞬間、私は高出力の闘気を纏い、それを脚に集中した。
「神脚」
本気の踏み込みで地面が凹み、私は一瞬にしてクソ虫との間合いを詰めた。
そして、木剣の一撃を、クソ虫の
「ッ!?」
「どうした? 戦場で剣を落とすなんて、剣士として失格だぞ。早く拾え」
公衆の面前で恥をかいたクソ虫の顔が、羞恥と怒りで歪む。
ハハハ!
いい気味だ!
「なめるな!」
即座に木剣を拾い、クソ虫は私から距離を取った。
そして、魔法を発動させる。
「風纏い!」
クソ虫は、闘気の上から風の鎧を纏った。
あれは鎧であると同時に、術者の動きをサポートし、その速度を大きく引き上げる移動補助の魔法。
たしか、そこそこ習得の難しい魔法だった筈だ。
「風神・槍牙!」
その状態でクソ虫が突進してくる。
確かに速い。
技のキレも悪くはない。
だが、私よりは圧倒的に遅い。
繰り出された突きを軽くかわし、続く連撃もことごとく防ぐ。
クソ虫の顔が驚愕に歪んだ。
「何故だ!? 何故、当たらない!?」
「お前が弱いからだろう」
「グハッ!?」
そう言いながら、クソ虫の腹を木剣で叩く。
踞ったところを足で蹴り飛ばし、再び距離が空いた。
「飛剣・風刃!」
「飛剣!」
「ぐっ……!? そんな……馬鹿な……!?」
クソ虫の放った風の刃を飛剣で迎撃し、逆に押し返して吹き飛ばした。
「トルネードウィンド!」
「飛剣・嵐!」
次は大風の魔法。
これも押し返して粉砕する。
そして、再び神脚で距離を詰めた。
「ッ!? 来るなぁ!」
「遅い」
迎撃に繰り出された剣は、あまりにも遅い。
劣勢に追い詰められてからの立て直しが、全くと言っていい程できていない。
格下をいたぶる事しかできないのか、こいつは?
……醜い。
「神速剣・五月雨!」
「ぐぁああああああああ!」
怒涛の連続斬りで、クソ虫の全身を滅多打ちにする。
「神速剣・重槍牙!」
「ぐぅうううううううう!」
次は連続の刺突。
最後の突きでクソ虫の体を吹き飛ばし、地面に這いつくばらせた。
「痛い……痛い……」
「惨めな」
こいつには、私だけではなく、アリスやシオンの剣を受け止める義務がある。
故に、この一戦で潰れないように加減はした。
それなのに、この体たらく。
いくら強くとも、根性のない奴は酷く脆い。
「私の勝ちだ。フォルテ・アクロイド」
「それまで。勝者、リンネ」
結界が解除され、ユーリが静かに試合の終了を宣言した。
そして、ユーリがクソ虫に近づき、嫌そうな顔で治癒の魔法をかける。
周囲の反応は様々だ。
驚愕する者。
奇声を上げながろクソ虫に駆け寄る者。
ボロ雑巾になったクソ虫を半笑いで見つめる者。
とりあえず、クソ虫の面子を叩き潰す事はできたようだな。
「こんな……馬鹿な事が……あっていい筈がない……! クソ……!」
そして、少し回復したクソ虫は、小声で自分の名前を叫びながら、怨嗟の目で私を睨み付けていた。
なんだ、まだ元気そうじゃないか。
安心したぞ。
「お前ぇ! 覚えていろ! 僕を敵に回した事を後悔させてやる!」
「……何が覚えていろだ。まさか、これで終わりだとでも思っているのか?」
私が殺気を籠めて睨み返すと、トラウマでも刻まれたのか、クソ虫は顔を青くして冷や汗をかいた。
いい気味だ。
もっともっと追い詰めてやりたくなる。
だが、それをやるのは私ではない。
「ここからが本番だ」
そう言い残して、私は一年生の所へと戻る。
そして、そこで待っていたアリスの肩を叩く。
「行けるか?」
「はい」
「そうか。頑張れ」
「はい!」
私と入れ替わるように、アリスが前へと進み出る。
その背中は、なんだか頼もしく見えた。
「アクロイドさん。あなたに勝負を申し込みます」
そうして、アリスは凛とした声で、クソ虫に勝負を申し込んだ。