【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
『やあ、エド。また来たね』
「ああ。また来た」
生まれ変わってからここに来るのは、もう二度目だ。
一度目は、王城に行った日の朝に足を運んだ。
本当なら、屋敷に来たその日に来たかたかったんだが、アレクとの勝負とか、アリスとの食事会とかで時間が潰れてしまったからな。
未練がましいとか言ってはいけない。
私だって自覚している。
『見てたよ、エド。生まれ変わっても大活躍じゃないか! さすが、ボクの旦那様!
アリスちゃんに付いてた悪い虫も追い払えたみたいだし、安心したよ』
「あれは私の手柄じゃない。アリス自身の功績だよ。さすが、
『ふふ。そうだね。さすが、ボク達の孫だ』
シャロはそうして、嬉しそうに微笑んだ。
……この笑顔は果たして私の見ている幻想なのか、それともシャロの幽霊なのか。
それは、未だにわからない。
わからなくていい。
こうして、この墓の前で近況を報告するのは、私にとって儀式みたいなものだ。
お前が命懸けで守った私は、ちゃんと人生を謳歌していると。
お前の死は決して無駄ではなかったんだと、シャロに伝える為の儀式。
『アレクくんの悩みも解決したし、良かった良かった。
ボクもあの子達の事は心配してたからね。
時々暗い顔してるのを見ても、この体じゃ慰めてあげる事もできやしない。
ホント、エドが戻って来てくれて助かったよ』
「……あいつらは、私がいなくても、自力で何とかしてたと思うけどな」
アレクにしても、アリスにしてもそうだ。
剣神として相応しいとか相応しくないとかいう、どうでもいい理由で悩んでいたアレクだが、私がいなくても、いずれ吹っ切っていただろう。
あいつには、剣神の称号なんぞよりよっぽど大事な
それを守らねばならない事態に直面した時、アレクならば確実に迷いを振り払って覚醒していたと断言できる。
間違っても大切なものを履き違えたり、重圧で潰れるたりする程弱い男ではない。
アリスの方は、まあ、自力で何とかするのは難しかったかもしれない。
だが、あの子には支えてくれる奴らが沢山いる。
アレク、ユーリ、スカーレット、使用人軍団。
マグマやシグルス、フレアなんかも困ったら助けてくれただろう。
実際、アレクやユーリはクソ虫の排除に動いていた。
スカーレットは当たり前のように守ってくれていた。
私がいなくても、他の誰かに助けられて窮地を脱していたと思う。
それに、あの子はまだ子供。
いくらでも成長の余地がある。
案外、私が手を貸さなくとも、自力でクソ虫を退けていたかもしれない。
若者の可能性は無限なのだ。
『それでもだよ。君が頑張ってくれた事に変わりはないさ。お疲れ様』
「……ああ」
そうだな。
私も今回、それなりに頑張った。
自分の頑張りを否定する気はない。
困った時は助け合い。
戦闘力しか取り柄のなかった私に、
それを、しっかりと果たせた。
今は、その事を素直に誇ろう。
「……だが、これで終わった訳じゃない」
クソ虫は倒したが、心を折ってはいない。
シオンやスカーレットの予想通りなら、また私達の前に立ち塞がるだろう。
ひょっとしたら、今回の屈辱をバネに、より厄介に成長してくるかもしれん。
マグマの言っていた、未知の敵の事もある。
オーガの時、シャムシールの時と、今世の私に度々絡んでくる不気味な強敵。
王国を狙ってくると言うのなら、いずれその黒幕とも戦う時がくるだろう。
他にも、まだ私の知らない敵や、生きている内に遭遇してしまう脅威だって、きっとある。
戦いはまだまだ終わっていない。
むしろ、まだ始まったばかりだ。
「私の二度目の人生は始まったばかり。そして、戦いはこれからも続く。
……私はもう一度頑張ってみる。見守っていてくれ」
そう告げて、私はシャロの墓に背を向けた。
もう十分だ。
私は未練がましい奴だか、いつまでも感傷に浸って動けなくなる程弱くはないつもりでいる。
だから私は、シャロの墓に背を向けて、歩き出す。
『頑張れ。ボクはいつでも君を見守ってるよ』
後ろから、そんな声が聞こえたような気がした。
だから最後に、一度だけ振り返る。
「じゃあな。また来る」
『うん。行ってらっしゃい、エド』
そうして、私は歩みを進めた。
墓のある泉から離れ、森の中を歩く。
歩きながら考える。
今言葉にした通り、私のリンネとしての人生は始まったばかりだ。
それに、もしかしたら、私が女として生まれ変わったのは、私の為に死んだシャロの分まで生き抜けと、そういう意味なのかもしれない。
いささかロマンチックに過ぎる考えかもしれないが、そう思う事は自由だろう。
ならば、私のすべき事は一つ。
前世でそうしたように、今世も最後まで全力で生き抜き、今度こそ胸を張ってシャロに会いに行く。
その為にも、戦いの途中で死んでなんていられない。
シャロの分まで生きるのだから、もう一度、天寿を全うしてやる。
強くなろう。
今度こそ、戦いの中で大切なものを失わないように。
今度こそ、全てを守りきれるように。
それは理想論かもしれない。
私一人ではどうにもならない程に戦いが大きくなれば。
それこそ、もう一度戦争でも起こってしまえば。
私は必ず、何かを失う事になるだろう。
戦争とはそういうものだ。
敵味方問わず、大切なものを根こそぎ奪っていく。
それでも、その理想を目指す事をやめる気はない。
どんな理想も、目指さなければ叶わないのだから。
私は英雄だ。
かつての『剣神』エドガー・ナイトソードの生まれ変わり、『天才剣士』リンネだ。
ならば、英雄は英雄らしく不可能を可能にしてやろう。
その為の努力は惜しまない。
せいぜい、前世を超える大英雄を目指してやろうではないか。
大切なもの全てを救う、最強で無敵な大英雄をな。
墓参りからの帰り道、私はそんな決意を固めたのだった。
◆◆◆
「許さない……許さない……許さない……!」
王都にある、とある屋敷。
アクロイド公爵家の別邸の廊下を、一人の少年が歩いていた。
その様子は、正気とは言い難い。
怒りと恨みの籠った言葉をブツブツと垂れ流し、使用人達を怯えさせていた。
「許さない……! この僕にあんな屈辱を……! 絶対に許さない……! 殺してやる……殺してやる……殺してやる……! どんな手を使ってでも……!」
壊れたように殺意を口にする少年、フォルテ・アクロイド。
彼が目指すのは、父、ピエールの執務室である。
大方、ピエールの持つ権力と、私兵による兵力を当てにしているのだろう。
この時、殺意によって視野狭窄に陥ったフォルテは、自分を見つめる不気味な視線に気づかなかった。
「おやおや~」
歩き去るフォルテを見ながら、どこか愉悦の感情の籠った声を上げる男がいた。
フード付きの真っ黒な外套を羽織った怪しい男。
その顔には、笑顔を模した黒い仮面をつけている。
全身黒ずくめ。
街中で見かけたら即通報されるような、怪しさ全開の格好だった。
その男の隣には、フルフェイスの兜を被った上半身裸の巨漢が立っている。
実に怪し過ぎる二人組であった。
「今の少年、大臣さんの息子さんですかね~? モリメットさんはどう思います?」
「…………」
「無視! 無視は寂しいですねぇ!」
仮面の男のおどけた言葉に、巨漢の男は何も答えない。
もし、この場に彼ら事情を知っている者がいれば、今のやり取りを滑稽な
だが、そんな事を知っている者など、この場には一人としていなかった。
「さてさて。なんにしても、あの少年、実に良い目をしていましたね~!
これは何か面白い事が起こりそうです! もうちょっとこの国に留まってみますか」
仮面の男は一人で結論を出し、うんうんと頷いている。
そうして少しの間止まった後、二人は静かに歩き出した。
目的地は、フォルテと同じくピエールの執務室。
それすなわち、王国を蝕む
不吉な影は、王国の裏へと確実に忍び寄っていた。