【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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50 試し斬り

「という事があった」

「……マジですか」

「うむ。マジだ」

 

 翌日の放課後、私はまたもナイトソード家を訪れ、昨日の出来事をアレクに話していた。

 ちなみに、学校ではアリス達にも話している。

 もっとも、カゲトラの詳しい事情とか知っても、斬った後の後味が悪くなるだけだろうから、そこまでは話していないがな。

 昨日の夜カゲトラに遭遇して、改めてあいつを殺す、いや、殺してやる決意を固めたとしか言っていない。

 それはアレクに対しても同様だ。

 まあ、アリス達には、何ナチュラルに危ない事やってんだと叱られたが。

 

「とりあえず、リンネさんが無事で良かったです。

 あと、街が無事で本当に良かったです」

「後の方が本音だろ?」

「ええ、まあ。リンネさんは殺しても死にそうにないので」

 

 お前、私が死んだところ見てるよな?

 なのに、何故にそんな感想が出てくるのか。

 不思議でならない。

 

「まあ、それはともかくだ。早く新しい剣に慣れたいから、練習相手になってくれ」

「あ、その為に来たんですね」

「その通りだ」

 

 決して、世間話しに来た訳でも、決意表明を聞かせに来た訳でもない。

 単純に、真剣での練習相手にアレクがちょうど良かっただけだ。

 学生組に真剣を向けるのはマズイからな。

 最初は、冒険者ギルドに行ってライゾウでも捕まえようかとも思ったんだが、シオン曰く、ライゾウはカゲトラを探して当てもなく走り回ってるらしく、ギルドにはいないだろうとの事だったので、やめといた。

 あんなに私と戦いたがってたくせに、その気になった時には行方不明とは。

 なんとも運のない奴だ。

 

「うーん……でも俺、この後少し用事が……」

 

 と、アレクが言いかけた時、コンコンと扉がノックされた。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

 そうして、扉を開けて入って来たのは、熟練メイドのメアリーだった。

 手には来客用の茶菓子の乗ったトレーを持っている。

 メアリーは、それを私の目の前に置いた。

 しかし、昔よくつまみ食いをしていた私にはわかる。

 この茶菓子、いつものよりグレードが低い。

 使用人軍団がおやつに食べてるやつだ。

 メアリーめ。

 私が相手だからってケチりやがったな。

 まあ、それでも遠慮なく食べるが。

 

「アレク、そろそろマグマとの会議の時間ですよ」

「ああ、もうですか。すいません、リンネさん。そういう事なので、俺はもう行かないと」

 

 あ、用意ってマグマとの話し合いか。

 そういえば、マグマ率いる騎士団とカゲトラ対策を話し合うって言ってたな。

 なら、これを止める訳にはいかないか。

 

ふぉういうふぉとなら(そういう事なら)ふぃかたふぁいふぁ(仕方ないな)ふぃっふぇふぉい(行ってこい)

「リンネ様、口に物を入れたまま話さないでください」

 

 メアリーに叱られてしまった。

 仕方ないので、茶菓子を紅茶で流し込む。

 中々に旨かったぞ。

 やはり、こういうのは値段じゃないな。

 私には、金の味などわからないのだから。

 

「アハハ、じゃあ、俺は行きますね。……あ! そうだ!」

 

 部屋を出て行く直前に、アレクは立ち止まって、何か思い付いたかのように手を叩いた。

 どうした?

 

「リンネさん、剣の練習相手ですが、メアリーさんに頼むのはどうでしょう?」

「む」

「剣の練習相手、ですか?」

 

 なるほど、メアリーか。

 その手があったな。

 こいつも、弟子ども程ではないが、かなりの腕前の剣士。

 私の見立てでは、大体ドレイクと同じくらいだ。

 まあ、搦め手を使えばドレイクが勝つと思うが、代わりに今のメアリーはグラムを持ってるからな。

 互いに全力なら、良い勝負にはなるかもしれん。

 それに、同じ十剣の使い手という意味で、対カゲトラ戦の仮想敵としてはぴったりだ。

 

「よし、メアリー! 相手してくれ!」

「……よくわかりませんが、つまりリンネさんと試合をすればいいのですね?

 わかりました。ちょうど休憩の時間ですし、最近は少し体が鈍っていたところです。

 お相手します」

「助かる!」

「じゃあ、頑張ってくださいね」

 

 という訳で、アレクは馬車に乗って出掛けて行き、私とメアリーは中庭の訓練場に移動した。

 念の為に、そこにある結界を発動させ、その中で向き合う。

 

「メイド服のままでいいのか?」

「ええ、かまいません。私が剣を振るわなくてはならない事態は突然訪れるでしょうからね。今日のように」

「常在戦場の気構えか。その意気や良し!」

 

 そうして、私達は剣を抜く。

 私は昨日買ってきた愛剣を。

 メアリーは、メイド服の腰に剣帯で吊るされていた十剣の一つ、『剛剣グラム』を。

 ……今さらだが、メイドが帯剣してる屋敷なんてウチくらいだろうな。

 まあ、常に剣持ってるのはメアリーくらいだが。

 他の奴らは、仕事の邪魔って事で、普段は自分の部屋にでも置いてる。

 有事の際は、番兵軍団が足止めしてる内に剣を取りに行く訳だ。

 

 話が逸れた。

 今は、そんな事どうでもいい。

 

「じゃあ、まずは軽く行くぞ」

「お手柔らかに」

 

 メアリーが応じると同時に、私は体と剣に高出力の闘気を纏わせた。

 そのまま流れるように飛脚を使い、メアリーに急接近して、剣を振り抜く。

 

「攻ノ型・一閃!」

「ッ! 軽くと仰られたのに、いきなり闘気を使ってきますか……!」

 

 そう言いつつ、メアリーはガッチリと私の剣を受け止めていた。

 さすがだな。

 全く危なげないじゃないか。

 

「速度上げるぞ! 神速剣・五月雨!」

「!? 守ノ型・塞!」

 

 闘気の出力を上げ、神速の連続斬りを繰り出す。

 それもメアリーは防いだ。

 私もまだ全力じゃないとはいえ、メアリーにもまだまだ余裕が見える。

 このまま続けても大丈夫そうだな。

 

「神速剣・陽炎!」

「ふっ!」

 

 続いてフェイント技。

 しかし、動きを読まれたのか、驚いた様子もなく防がれてしまった。

 いつもより技のキレが悪いな。

 早く、新しい剣に慣れなくては。

 

「神脚!」

 

 これ以上、近接攻撃をし続ければカウンターを貰うと考え、つばぜり合ってから力を抜き、同時に神脚で後ろに下がった。

 そのまま仕切り直しとばかりに、再び踏み込む!

 あえて正面から!

 

「神速剣・一閃!」

「攻ノ型・一閃!」

 

 そして、互いに正面から斬撃をぶつけ合う。

 速度は私の方が上。

 しかし、威力はメアリーの方が上だ。

 私の剣は押し込まれ、当たり負ける。

 

 これが、剛剣グラムの能力。

 グラムには、他の十剣と違って特殊な能力はない。

 紅桜のような、圧倒的な切れ味はない。

 その代わり、ただひたすらに、純粋に魔剣としての正当な強さを追求した剣。

 それが、グラム。

 

 魔剣特有の強さ。

 それすなわち、擬似闘気である。

 グラムは、十剣の中でも最強の擬似闘気を使い手に与えるのだ。

 そして、グラム自体も、単純に頑強で鋭い名剣。

 まさに正当派の魔剣。

 まさに質実剛健。

 

 故に、『剛剣グラム』。

 

 そんな最高峰の魔剣を持ったメアリーの一撃を受け、私の小さな体は宙を舞う。

 されど空中で一回転して華麗に着地した。

 この程度ではやられんよ。

 

「ふぅ……相変わらず苛烈な攻めですね」

「まだ本気ではないぞ?」

「わかっています。リンネ様が本気ならば、私など、とうの昔に斬られているでしょう」

 

 いや、そうでもないと思うがな。

 今のメアリーを倒そうと思ったら、それなりに大変だろう。

 

「さて、では、今度はこちらから参ります」

「ああ、来い!」

「では」

 

 そして、今度はメアリーから私に近づいて来た。

 メイド殺法なのか、やたらと静かで音のしない飛脚によって、私との距離を詰めて来る。

 

「攻ノ型・槍牙!」

「守ノ型・流!」

 

 そして、鋭い刺突!

 私は、それを受け流しカウンターを……

 

「攻ノ型・重槍牙!」

「おっと!」

 

 予想より速く鋭い連続突きに対し、カウンターを諦めて防御に専念する。

 メアリーの剣術は基本に忠実だが、屋敷の中で戦う事を想定しているせいか、小回りの利く技、特に突き技を好んで使う傾向がある。

 力はないが、鋭くて速い。

 そして今は、その足りない力をグラムが補っている。

 ……正直、メアリーにグラムを渡せと言ったのは半分思い付きだったんだが、予想外に上手くハマッていやがるな。

 味方としては心強い。

 

「だが、まだまだ私には届かん!」

 

 メアリーの連撃に対して、こっちも剣速を上げて対抗する。

 神速剣がグラムを押し返し、打ち合いは私有利に方向に傾いていく。

 このままでは、どんどん不利になると悟ったのか、メアリーが退く。

 そこにタイミングを合わせ、私は追撃の刺突を繰り出した。

 足を動かしている最中に放たれた攻撃を無理に防ぎ、メアリーの体勢が崩れる。

 

「もらった!」

「ぐっ……!」

 

 その隙を容赦なく突き、剣の腹でメアリーの胴を叩く。

 自前の闘気とグラムの擬似闘気に守られている為、ダメージ自体はそれ程でもない。

 だが、

 

「まずは一本だな」

「……はい。お見事です」

 

 少し悔しそうにメアリーが言う。

 こいつは負けず嫌いって程でもないが、やはり悔しいものは悔しいのだろう。

 まあ、負けて悔しくなかったら、それこそ剣士として問題があるんだがな。

 

「それで、如何ですか? 調子は?」

「うむ。悪くないな。だいぶ慣れてきた」

 

 私は確かめるように、剣を何度か振るった。

 今の攻防だけで、随分と手に馴染んできた感じがする。

 それに、我が愛剣は、あれだけグラムと打ち合って傷一つ付いていない。

 私が打ち合う角度とかを考えて、折れないように気をつけていたのも大きいだろうが、それを差し引いても凄まじく頑丈だ。

 これなら、気をつけてさえいれば、充分に紅桜とも打ち合えるだろう。

 実に良い買い物をした。

 

「よし! どんどん行くぞ!」

「……はぁ。わかりました。お付き合いします」

「そう来なくては!」

 

 

 その後、メアリーが仕事に戻るまで稽古を続けた。

 神速剣を多用し過ぎたせいで体ガタガタになったが、使用人軍団の中にも治癒術師はいるからな。

 終わった後には全快よ。

 だが、傷は治っても体力までは戻らない。

 にも関わらず、稽古が終わった後、風呂で汚れを落としてから直行で仕事に戻ったメアリーは凄まじいと思った。

 

 ちなみに、その時、当たり前のように私も一緒に風呂に入れられたんだが、こいつに恥じらいというものはないのだろうか?

 まあ、今の私は美少女だし、シャロ以外に手を出すつもりもないから問題ないと言えば問題ないんだが。

 ……というか、こいつ若作りが凄いな。

 三十手前くらいに見える。

 実際は四十越えてるくせに。

 

「リンネ様、今、何か不穏な事を考えませんでしたか?」

「若作りが凄まじいと思った」

「殺しますよ?」

 

 そんな会話をしつつ風呂から上がり、その後は例によって泊まる流れになった。

 脱衣場に用意されていた、やたらと可愛いパジャマを着て屋敷の中を彷徨く。

 前に泊まり込んだ時にはなかったパジャマだ。

 何故か、どんどんバリエーションが増えていく。

 

 そんな私の姿を見た使用人軍団の中で、歓声を上げる奴らと、吐き気か笑いを堪える奴らとで抗争が起こっていたが、些細な問題だな。

 途中で帰って来たユーリには汚物を見るような目で見られたが、これも些細な問題だろう。

 

 

 そうして、さあ寝るかという時間になった頃にアレクが帰宅した。

 何故か、マグマを連れて。

 話し合いが終わらなかったんだろうか?

 それとも……

 

 私は、そんな二人に近づいた。

 なんとなく、何かありそうだなという予感に突き動かされながら。

 

 

 そして、数分後。

 私の予感は的中する事となる。

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