スリザリンの英雄   作:雲居 静刃

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差異

「しかし驚いたな。君があのハリー・ポッターだったなんて。」

 

 自己紹介が終わった後、少年…、ジンジャーが呟く。

 

「やっぱり有名なんだ。」

「?…。あぁ、そのことも知らないのか。」

 

 ハリーは他人の方が自分のことをよく知っている状況に、不思議な気持ちになった。

 ハリーのそんな気持ちを感じ取ったのか、ジンジャーは少し笑う。

 

「気になるなら本でも読んでみれば良い。いろんな本があるぞ?」

「いや読まないよ?」

ーー何故そんな読んでいて恥ずかしくなりそうな本を読まなければいけないのか。

 

「ていうか、そういう話じゃなかったよね⁉︎」

 

 想像しただけで恥ずかしくなってきたハリーは、話を変える。

 

「ジンジャーはどの寮に入りたいの?」

「スリザリンだな。」

 

 即答するジンジャーにハリーは少し驚く。

 

「さっきの話だとあんまり印象良くなかったよ?」

「あぁ、でもスリザリンがいいんだ。」

 

 そういうジンジャーの目は、今までの落ち着いた印象とは違う、子どもっぽい目だった。

 

「ジンジャーはもう決めてるんだ…。わたしはどの寮に入ったらいいんだろう?」

「組み分けまでの間に他の生徒と会う機会もあるだろうし、考えるのはそれからでもいいんじゃないか?」

「それもそうだね。」

 

 納得したハリーだったが、ふと疑問が湧いてきた。

 

「わたしパパとママがどの寮だったか知らないんだけど、両親の寮と子どもの寮が一緒になることってあるんじゃない?」

「確かにその傾向は強いけど、絶対じゃないよ。確か有名なスリザリンの家系からグリフィンドールに入った人もいるはずだ。」

「そうなんだ。…ジンジャーの両親はスリザリン?」

 

ハリーがそう聞くとジンジャーは困ったような顔をする。

 

「実は俺も両親がどの寮か知らないんだ。もう亡くなっていてね。」

 

 ハリーは息を飲む。

 

「ごめん。…あれ?じゃあ出発する時手を振っていた人は?」

「あぁ、あの人は育ての親だよ。」

「いいなぁ、育ての親と仲が良くて。わたしの方なんか、ずっと邪魔者として扱ってくるから。」

「それは、…大変だな。」

 

 本当に羨ましい、とハリーは思う。

 

 そんな時、廊下からガラガラ…という音と声が聞こえてきた。

「車内販売はいかがー?」

 

「わたし魔法界の食べ物食べてみたい!」

「おすすめは蛙チョコだな。ハズレもいっぱいあるから気をつけて買った方がいい。」

 

 元気を取り戻したした様子のハリーに、ジンジャーが少し笑いながら注意を入れる。

 

「わかった!」

 

 それだけ言うと、ハリーは車内販売の方に向かっていった。

 

 

 帰ってきたハリーは結構な量を買ってきていたが、ちゃんとジンジャーの注意は届いていたらしく、危なそうなものは買っていないようだった。

 早速買ってきたお菓子を開けるハリーにジンジャーがお菓子の説明を入れていく。

 

「これが蛙チョコだよね⁉︎」

「そうだ。箱を開ける前にしっかり捕まえておく準備をしておくのが食べるコツだな。」

 

 ハリーはダンブルドアや他の有名人のカードを当てたし、カエルチョコ以外のお菓子も楽しそうに食べていった。

 

 ▪️ ▪️ ▪️

 

 ーがらっ

 

 「ネビルのカエルを見なかった?」

 

 ハリーの興奮がひと段落ついた頃、いきなりコンパートメントのドアが開かれ、栗色の髪をした少女が話しかけてきた。

 

「カエルは見ていないな。何かあったのか?」

 

 突然入ってきた少女にジンジャーは少し怪訝そうな顔をしていた。

 

「ネビルのカエルが居なくなったの。私は探すのを手伝っているだけよ。生き物を探す魔法なんて、読んだ本には載っていなかったから聞いて回ってるの。あなた達、そう言う魔法を知ってたりしない?」

「いや、そう言う魔法は知らないなぁ。」

 

 すごい勢いでまくし立ててきた少女に、ハリーがなんとか返事を返す。

 

「そう…。…!。ってあなたもしかしてハリー・ポッター⁉︎その傷は例のあの人につけられたって。『二十一世紀の偉大な魔法使い』に書いてあったわ!」

 ーー本当に本に書いてあるんだ…。

 

 さっきジンジャーが言っていたことが嘘ではなかったことに、ハリーは若干のショックを受ける。

 

「確かにわたしはハリーだけど」

「やっぱり!あなたもう入る寮は決めた?私はグリフィンドールかレイブンクローで迷ってるんだけど。…やっぱりグリフィンドールかしら。知ってる?ダンブルドアはグリフィンドールの出身なんですって。」

 

 少女は相変わらず喋る隙間もないくらい畳み掛けてくる。

 

「あー、カエル探しはほっといていいのか?」

「そういえばそうだったわ!またホグワーツで会いましょう。」

 

 ジンジャーの言葉を聞いて、少女はようやく本題を思い出したのか、名残惜しそうにしながらもコンパートメントを出ていった。

 

「嵐みたいだったよ…。」

 

 ジンジャーの目を見れば、同じことを思っていることがハリーにはわかった。

 

「彼女がスリザリンに入りたいなんて言い出さなくて助かったよ。」

「わたしもちょっとグリフィンドールに行く気が減っちゃったかな。」

 

 二人で顔を見合わせ、クスリと笑った後、ハリーはさっきの少女が既に制服だったことを思い出した。

 ハリーはそれをジンジャーに伝え、交互にコンパートメントを出て服を着替えることにした。

 着替えた後、しばらく二人で話していると、列車のスピードがどんどん落ちていき、止まる。どうやら到着したようだった。

 

 ハリーはまたもジンジャーの助けを借りながら荷物を持って駅に降りると、見覚えのある大きな影が一年生を先導していることに気付く。

 

「ハグリッド!」

 

 ハリーが名前を呼びながら近づくと、ハグリッドもそれに気づき手を振ってくる。

 

「おぉ、ハリー。元気にしちょったか?」

「うん!」

「もう友達はできたか。」

「まだ一人だけだけどね。」

「電車の中で一人できたら十分だろう。」

 

 ハグリッドはうなずきながらそう言うと、一年生の先導に戻っていく。

 ハリー達もそれに従い湖に行き、何人かで船に乗り込む。

 船に乗って進んでいくと、それまで暗くてよく見えなかったホグワーツの城が鮮明に見えてくる。

 城は予想より大きく、荘厳さを感じるが、窓からあふれる光のせいだろうか、どこか暖かさも感じられた。

 

「すごいなぁ。」

「あぁ。これはすごいな。」

 

 ハリー達が話す以外にも、そこら中から感嘆の声が聞こえて来た。

 

 舟はあっという間に湖を渡りきり、城に到着する。

 船から降りていると近くから、トレバー!と言う声が聞こえて来た。そちらの方を見てみると、少し太った少年がカエルを抱えていた。

 どうやら、列車の中で嵐のような少女が探していたカエルが見つかったらしい。

 

 ーー列車の中で居なくなったのに湖を超えた先で見つかるとかどんなカエルだよ…

 そう思ったジンジャーだが、ジンジャーの他には誰も疑問に思わない様子に、考えることを放棄する。

 

 

「やっぱり本当だったんだ、ハリー・ポッターが今年ホグワーツに入学するって」

 

 ブロンドの髪をした少年が、突然ハリーに話しかけてくる。

 

「僕はドラコ・マルフォイだ。仲良くしよう。」

 

 そう言ってマルフォイが手を差し出して来たとき、人混みの中から笑い声が聞こえて来た。

 

「僕の名前がおかしいか?ウィーズリー。」

 

 マルフォイの声に、ウィーズリーと呼ばれた赤毛の少年が押し黙る。

 それを見届けると、ハリーはマルフォイの手を取る。

 

「うん、よろしく。ドラコ。わたしは人の名前を笑うような人よりあなたと仲良くしたいな。」

 

 人の名前を笑ったのが気に入らなかったハリーは、ウィーズリー少年に皮肉を込めながら挨拶をした。

 それが気に入らなかったのか、ウィーズリー少年はハリーに向かって不満の声を上げる。

 

「何を騒いでいるのです。」

 

 しかしその時、やって来た教師がハリー達の方の睨みつけた。

 教師の声に全員が静かになる。

 

「一年生をお連れしましたです。マクゴナガル先生。」

「えぇ。ありがとうハグリッド。ここからは私が引き継ぎます。」

 

 どうやらここからは、このマクゴナガルという先生に引率が変わるらしかった。

 マクゴナガル先生はこちらに向き直り一声かけると、しっかりした足取りで先頭を歩き始めた。

 

 少し歩き、ハリー達は一度、なんとか一年生全員が入れるような小さな部屋に案内された。

 

「ホグワーツ入学おめでとう。」

 

 と言った挨拶から始まり、マクゴナガル先生は寮についてやこれからの予定を話していく。

 

「学校側の準備ができたら戻ってくるので、少しここで待っていなさい。」

 

 説明が終わると、マクゴナガル先生は部屋を出ていった。

 一年生たちはざわつき始める。

 

「ホグワーツへようこそ。」

「君たちはどこに入るかもう決めたかね?ハッフルパフはおすすめだぞ?」

 

 突然、マクゴナガル先生を待っている一年生達は透明な人のようなものに話しかけられる。

 

「あれは何?」

 

 ハリーがジンジャーに問いかける。

 

「ゴーストだな。たぶん、ホグワーツの卒業生が死後、ここにいついたんだな。」

「魔法界にはゴーストなんているんだ。」

「いや、そうそう居ない。ホグワーツが特別なんだろう。」

 

 一年生達が周りの友人と組み分けについて話していると、マクゴナガル先生が戻ってきた。

 マクゴナガル先生は、一年生達を一列に並べ、大きな門の前まで連れて行く。

 

 ーギィ

 門が開かれる

 

 開いた先は広間だった。上級生達が先に席についてハリー達一年生を待ち構えていた。

 また、広間の天井があるはずの場所には夜空が広がっており、蝋燭が宙を漂っている。

 

「本当に天井がないんじゃなくて、魔法でそう見せているのよ。『ホグワーツの歴史』に書いてあったわ。」

 

 なんて、聞き覚えのある声も聞こえてきた。

 

 マクゴナガル先生は広間の奥の方まで一年生達を引率すると、椅子を用意し、その上に古臭いボロボロの帽子を置く。

 ハリーにはその帽子になんの意味があるのかちんぷんかんぷんだった。訳もわからず帽子を見ていると、静かになった広間に歌が響いた。

 

 それは帽子の歌声だった。

 

 

 帽子の歌は、グリフィンドールには勇気あるものが集まると言ったようなそれぞれの寮の特徴というか、良いところを説明したものだった。

 ただ、ハリーとしては帽子が最初の方に歌っていたことの方が気になった。

 

「組み分けって、帽子をかぶるだけなの?」

「…そうみたいだな。」

 

 ハリーの問いかけに、ジンジャーも拍子抜けしたように答える。ジンジャーも組み分けについては知らなかったようだ。

 

「ABC順に名前を呼びます。呼ばれたら帽子をかぶって椅子に座り組み分けを待ちなさい。」

 

 マクゴナガル先生の声に一年生達の緊張感が高まる。

 

「アボット・ハンナ!」

 

 最初の一年生である金髪の少女が組み分けに向かう。

 

「ハッフルパフ!」

 

 少しの間の後、寮が発表される。

 右側のテーブルか拍手と歓声が上がった。

 

 次々と一年生が呼ばれてく。

 呼ばれる生徒の頭文字が、Gまで回ってくる。

 

「グラジオラス・ジンジャー!」

 

 そして、ジンジャーの番が回ってきた。

 ジンジャーは落ち着いて前に出て、帽子をかぶった。

 

「…」

 

 長い沈黙が流れ、3分は経ったかと思われる頃、帽子が声を上げる。

 

「スリザリン!」

 

 叫ばれた声はジンジャーが望んでいたものだった。

 スリザリン生の席から拍手が起こる。

 安堵したような表情を浮かべたジンジャーはスリザリンの席へ向かって行った。

 

「グレンジャー・ハーマイオニー!」

 

 ジンジャーの次に呼ばれて前に出てきたのは、先ほどの嵐のような少女だった。

 少女…ハーマイオニーは待ちきれないと言わんばかりに帽子をかぶる。

 

「グリフィンドール!」

 

 その声を聞くとハーマイオニーは嬉しそうにグリフィンドールの席へ走っていく。

 ハリーはチラリとジンジャーの方を見る。

 ジンジャーもハリーの方を見ており、目が合って二人は苦笑した。

 

 順番はさらに回っていく。

 

「マルフォイ・ドラコ!」

 

 どうやら次はドラコの番のようだった。

 ドラコは偉そうな態度で帽子の方へ向かう。そして帽子をかぶりきったかどうかという瞬間…。

 

「スリザリン!」と声が上がった。

 

 ハリーはそのあまりの早さにビックリしてしまった。

 だがスリザリン生達はそうは思わないようで、大きな歓声を上げていた。

 

 ドラコの番からそう立たず、今度はハリーの番が回ってくる。

 

「ポッター・ハリー!」

 

 広間が一瞬静かになる。

 だが、すぐにざわつき始めた。

 

「ハリー・ポッターだって。」

「ほんとにあのハリー・ポッター?」

 

 なんて声もハリーにはしっかり届いていた。

 ハリーは少し急いで席に着き、帽子を目深に被った。

 

「ほぅ、これは難しい。」

 

 帽子を被り切ると、ハリーは声を聞いた。

 それは先ほどからも聞こえていた帽子の声だった。恐らく被った人にしか聞こえない声だろう。

 

「うーむ、これは本当に難しい。おおよそすべての寮に行ける素質を持っておる。この子が行って最も成長できる寮は何処だろう?スリザリンか?それともグリフィンドールか?」

「その二つって真反対じゃない?」

「まさにそこだよ。真反対の寮どちらでもやっていける。だからこそ難しい。」

 

 迷っている声に疑問を思い浮かべると予期せぬ返答が返ってきた。どうやら頭で考えるだけで、この帽子には話しかけられるらしい。

 

「君はどちらの方がいいかね?」

 

 しばらくうんうん唸っていた帽子だったが、答えは決まらなかったらしく、ハリーに質問を投げかけてきた。

 

「うーん、どっちでもいいかな。」

「本当にどちらでもいいのかい?友達はスリザリンへ行ったのだろう?」

「うん。でもどこの寮にもいいところがあるって聞いたから、どこでもうまくやっていけると思うな。」

「素晴らしい。そういう考えを持っているのであればむしろ…」

 

 そう言って、ハリーの頭に聞こえてくる声は途切れる。

 

「スリザリン!」

 

 広間に帽子の声が響き渡った。

 同時に、広間に静寂が訪れた。

 

 

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