青い薔薇に棘があろうと握った手だけは離さない   作:ピポヒナ

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 こんにちはーピポヒナです!
 当初の目標であったお気に入り100人の半分の50人まで行くことができました!こんな更新の遅い、読みにくい話をお気に入りにしてもらいありがとうございます。感謝しかありません。

 そしてなんとびっくり、前回の投稿から一週間以内に上げることができました!スランプ脱せたか?!あと、今回は久しぶりに長いです。13000文字以上あります。そこら辺はご了承を。

 あ、ドリフェスあこちゃんのために課金までして50連しましたが出ませんでした_(:3 」∠)_

 と、前書きの連絡は以上。それでは本編どうぞ!!




10歩目 掲げた目標

「それにしても、まさか本当に和也が言っていた通りになるとはな」

 

 ストローを口にくわえ、達哉が思い出すようにそう言った。

 

「俺の言ってた通りって?」

 

「観客全員の度肝を抜くってやつだよ」

 

「ああ、そのことか」

 

「正直、俺は絶対に無理だと思ってたし、何ならここに向かってる時から何でプロじゃない上に知らない奴の演奏を聴くために金を払わなきゃなんねぇんだよとも思ってたけど、案外良くてビックリしたぞ」

 

「…お前、よくそのモチベでついてきたな。ま、誘った側の俺からしたら?達哉が楽しんでくれたようで何よりだとでも言っておこうかな」

 

 『ライブハウスCiRCLE』前のカフェテラス。

 見上げれば綺麗な星々が輝きを返してくる。

 もう夜だ。店や家の明かりでマシなものの辺りはすでに暗い。

 ともなれば、必然的に危険も増すってこともあって、俺はこうして達哉と駄弁りながらリサと友希那が出てくるのを待っているというわけだ。

 

「確かプロのスカウトも来てるんだろ?ワンチャンあるんじゃないか?」

 

「だからこんなに遅いのか……って、おいおい怖いこと言うなよ」

 

「?怖いとこあったか?」

 

「………いや、忘れてくれ」

 

「??ああ」

 

 その後も駄弁りは続く。

 ライブへの感想。ライブハウスに初めて来て思ったこと。想像していたよりもおしゃれでビックリしていたことなど、お互いに音楽が分からないなりに色々と話していた。いつもサッカーの話ばかりしている割には頑張っていたのだ。

 すると、不意に達哉が「そういえば」とぼやいて、

 

「さっき入り口で見たんだけどよ、こういうライブハウスでも高校生のバイト募集してるんだな」

 

「――――!それ本当かっ!?」

 

 堪らずテーブルを叩いて勢いよく立ち上がってしまうほどの衝撃的な情報を零した。

 「うわっ!ビックリした!」と驚く達哉を無視して、俺は拳を握りしめる。

 そして、その握り拳を見つめ、口角を吊り上げた。

 

「よし!これなら!」

 

「……まさか」

 

「そのまさかだ」

 

「えっと…厳しいと思うけど頑張れ」

 

「もちろんだ」

 

 俺が何をしようとしているのかを察した達哉からの鼓舞に、俺は拳をドンッと胸に当て、威勢のいい返事をする。

 だがその反面、内心ではもの凄く焦っていた。今やろうと決めたことを実行することに対しての不安要素が沢山あるからだ。 

 

(……参ったな………)

 

 どうしたものか。今の自分で本当にできるのか。

 そんな風に考え込んでいると、ワーッ!と。

 CiRCLEの入り口辺りでたむろしていた人達が急に騒ぎ出した。

 

「なんだなんだ?」

 

「さぁ?でも多分、出待ちしていたバンドが来たんだろ」

 

「出待ちってプロだけじゃないのか…もしかしたら、リサちゃんのバンドが来たのかもしれないぞ」

 

「いやいや、あの人数は流石に違うだろ」

 

 ないない、と手を横に振り、人だかりから視線を外してゆっくりとジュースを飲む。

 

「そうか?俺はリサちゃんのバンドの可能性も十分あると思うんだけどなぁ」

 

「リサ達が印象に残るような演奏ができたことは俺も同意だけど、それでも新参者に変わりは無いからな。一回だけであれだけのファンを作るのはいくら何でも無理だろ」

 

 回数を重ねればあれぐらいはいくとは思うけど、と変な誤解されないように一応付け加えた。

 入り口前にいた人数は十人ほど。

 前回、ある程度知られている友希那を出待ちしているのでも、あこちゃんと白金さんの二人だったのだ。それなのに、初めてライブしたバンドがあんな数の出待ちを受けるはずがない。だから恐らく、長年やってて親しまれているようなバンドが来たのだろう。今日のバンドはどこもレベルが高かったし、それなら納得できる。

 そう思っていた。

 

「皆ありがとね~☆」

 

「――――!!」

 

 もはや耳に馴染んだその明るい声が耳に届くまでは。

 俺は反射的に視線を人だかりの方へと戻す。

 

「ほら、俺の言った通りだ」

 

 してやった顔を向けてくる達哉には少しも気に留めず、俺の意識は人だかりに手を振って笑みを浮かべる茶髪の幼馴染と、その隣で手を組んで堂々と歩く銀髪の幼馴染へと向いていた。

 ――ああ、そうだった。二人は凄いんだった。友希那は一人でも道を切り開けれる力が、リサには夢を叶えるために努力し続ける強さがある。その強さを知っていて、一番評価していたのは誰でもない俺自身だ。

 その筈なのに。

 まずい。まずい。まずい。まずい。まずい。まずい。まずい。まずい。まずい。

 今のままだと確実にまずい。早いうちに何か、何か手を打たなければ。

 このままじゃ駄目だ。

 このままじゃ、このままじゃ。

 

 手が届かなくなる。

 

「ん?っ!和也待っててくれたんだ!」

 

「あっ!ホントだカズ兄だ!!」

 

 俺を見つけて、笑顔で近づいてくるリサとあこちゃんに気が付くことができたのは、

 

「おいおい、和也お前モテモテじゃねぇか。一発ぐらい叩かせろ、よっと」

 

「――――った……それは叩く奴のセリフじゃねぇだろ!」

 

「すまんすまん、つい嫉妬で。ちゃんと手に怒っとくから。こらっ右手、駄目だぞ!」

 

「なに一人で芝居やってんだよ。てか、そもそも二人共そんなんじゃねーし」

 

 こうして達哉がふざけてくれたおかげだった。

 俺はすぐさま笑顔を張り付けて、リサとあこちゃんを迎える。

 

「ライブお疲れ二人共。スッゲーかっこよかったぞ!」

 

「だよねだよね!あこも今日のライブは超ーっカッコよくできたって思ってる!!」

 

「そうかそうか、それは良かったな。他のバンドも結構レべル高かったけど、リサ達も全然劣って……ってかむしろ、勝ってた部分の方が多かったんじゃないか?」

 

「おお、和也すっごい絶賛してくれるじゃん♪」

 

「俺が絶賛するのはいつものことだろ?」

 

「あっはは、確かに」

 

 このくだらない感情を少しも悟らせないように。

 リサ、そして少し離れたところからこちらを見ている友希那の様子をバレないように伺いながら、会話をしていた。

 上手く隠せてるだろうか。

 そんなことを思いながら、リサに続いて笑っていると、リサが「そうだ!」と声を弾ませて手をパチン!と叩き、

 

「アタシさ、今から【Roselia】で打ち上げ行こうって提案しようかな?って思ってるんだけど」

 

「リサ姉それ大賛成!!あこも【Roselia】で打ち上げ行きたい!!」

 

「そうでしょ?それでなんだけど、もしよかったら和也も来ない?」

 

 あこちゃんの加勢も加えて、俺を打ち上げに誘ってきた。

 俺は顎に手を当てて考え込む。

 

「どうしよっかなぁ……」

 

「カズ兄は行きたくないの?」

 

「いやいや行きたいよそりゃ。でもそういう訳じゃなくてな…」

 

 今まで達哉と駄弁りながらリサと友希那が出てくるのを待っていたのは、二人に危険がないように家まで送り届けるためであるので、ここで別れれば意味が無くなる。

 そういう理由もあるわけで、行きたいか行きたくないかを聞かれれば行きたいと答えるのだが、懸念している点が一つ。

 俺はリサに掌を向け、そのことについて尋ねてみた。

 

「友希那と氷川さんが許してくれるとは思わないんだけど……それについてリサはどういった策をお持ちで?」

 

「そ…それは…」

 

 あのとげとげしている二人への対抗策を聞かれ、リサは少し困った表情を浮かべる。

 

「アタシが何とかするから大丈夫だって!……多分」

 

「最後の最後にボロを出すあたり可愛いけど、ここは頑張って言い切ろうな」

 

「うう…」

 

 リサはシュン…と表情を雲らせた。

 リサなら打ち上げを反省会と称したりして二人を動かすこともできそうなのだが、そこに俺が加わるとなると一気に難易度が跳ね上がって厳しくなるだろう。

 だから、こうするのが最善手だと思い、俺はそれっぽい理由をでっちあげてやんわりと誘いを断ることにした。

 リサが気にしなくても済むように。

 

「俺はまた今度の機会で良いからしょげんなって。それに、今日は達哉と来てるから元々無理だったし…誘った相手を放ったらかしにしておくのは流石にこいつ相手でも気が引けるからな」

 

「ん?俺のことなら気にしなくてもいいぞ。この後予定あるし」

 

「おいコラ、俺の気遣い汲み取れや」

 

 ところが、断る口実に使った達哉がそれを台無しにする。

 そして、しまいには話を勝手に進行させていった。

 

「だからリサちゃんはとりあえず説得してきたらどうだ?」

 

「う、うん。ダメもとでも行ってくる。ありがとう達哉君。あこ、友希那達を説得しに行こ!」

 

「うん!あこもカズ兄が行けるように頑張る!」

 

 達哉に勧められ、リサとあこちゃんは友希那達の下に戻っていった。

 その光景を見ながら、俺はさっきの行動について達哉に突っかかる。

 

「何が狙いだ?」

 

「狙い?狙いなんて何も無いぞ?さっき言った通り、俺がこの後予定があるから丁度いいなって思っただけだ」

 

「にわかには信じられないな。そもそもこんな時間からある予定ってなんだよ」

 

 腕を組んで不信の眼差しを向けると、達哉は何かを隠しているかのように視線を逸らす。

 

「やっぱり、何かあんだな」

 

「………俺も和也に言ってないことがあるって言っただろ?」

 

「?ああ、言ってたな」

 

 確か俺がリサの他にもう一人幼馴染がいることを打ち明けた時に言ってたっけ?

 

「で、その秘密にしてることが関係していると?」

 

「…そうだ」

 

「……なら、しょうがねぇなぁ」

 

「気にならないのか?」

 

「そりゃ気になるけど、俺だけ教えてもらうのはずるいだろ?」

 

 不平等だしな、と俺はこれ以上追求するのをやめる。

 俺にはリサと友希那のことを隠すつもりは無かったとはいえ似たようなことをしていたわけだし、それに人には隠しておきたい秘密の一つや二つぐらいあるのが普通だろう。だから、いつか達哉の方から教えてもらうことを待つとしよう。

 そう一段落ついたところで、

 

「和也!」

 

 どうやらリサの方もタイミングよく終わったらしい。

 

「お、リサどうだった……って、その様子から察するに」

 

「うん!なんとかなった♪」

 

 そう言い、リサはにこやかに笑う。

 本当に何とかしてしまうとは流石リサと言うべきか、リサのコミュ力恐るべしである。

 すると、それを聞いた達哉が「良かったな和也」と言いながら立ち上がった。

 

「それじゃあ、俺は帰るよ」

 

「おう……その…なんか悪いな」

 

「俺とお前の仲だろ?これぐらい気にすることじゃ無いって」

 

「た、達哉君!……あの事は黙ってて!お願い!!」

 

「そんな無粋な真似はしないから安心しろリサちゃん」

 

 何か、リサと達哉の間で俺の知らないことが交わされている。

 

「あの事って?」

 

「ハァ…和也、お前はもう少し周りを見てやれ」

 

「??分かった?」

 

 意味は分からないが何か呆れたような視線で見られていた気がしたので、とりあえず頷いた。

 達哉はどういった意味を込めてこの助言を贈ったのだろうか。

 物事や人の変化には結構気付くと思うんだけどなぁ、と考えていると歩いていた達哉が突然振り返る。

 

「あ、和也」

 

「ん?なんだ?」

 

「俺がお前に言ってなかったことはな……これだ」

 

「なっ!?」

 

 俺は驚愕した。

 達哉は指を一本だけ立てていた。

 指一本だけを。

 小指だけを。

 ピン!、と。

 見せつけるように。

 

「この後電話する予定なんだよ」

 

「――――お、お前いつから彼女いたんだよ!!?!」

 

「去年の夏ぐらいから」

 

「一年ぐらい経ってんじゃねーか!?!」

 

「ハハハハ!」

 

「おいちょっと待て!」

 

 必死に呼び止めようとするが、達哉の歩みは愉快な笑い声と共に止まる気配はない。

 

「リサ、和也。いい加減に行くわよ」

 

「オッケー♪和也、行こ☆」

 

「くっそ………スッゲー気になる……」

 

 リサが俺の両肩を後ろから掴み、「ほらほら歩いて♪」と友希那達の下まで押していく。

 そうして、俺だけスッキリとしない気分のままファミレスへと向かったのだった。

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 痛い。

 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

 

 周囲からの視線が痛い。

 

「今更だけど………俺ってばめちゃくちゃ場違いじゃね?」

 

「本当に今更ですね」

 

「だから自分で言ったんだよ」

 

 隣に座る氷川さんからの手厳しい指摘に、ぐへぇと声を漏らす。

 ここは、全国のどこにでもあるようなごく普通のファミレス。周囲からはカチャカチャと食器の音が聞こえ、何気なくドリンクバーの方を見れば小さい子どもがどのジュースを飲もうか悩んでいる。

 そんな昔から何度も来ていて慣れ親しんでいるその場所で俺は今、めちゃくちゃ参っていた。

 というのも、

 

(男女比偏り過ぎだろ…!)

 

 男子である俺1人に対して、女子は5人。

 1:5である。

 いやまあ、打ち上げに参加させていただいている身である以上文句は何も無いよ?こうなることはどうしようも無いことだし、許可が下った時から分かっていた。それにリサと友希那とはもちろんのこと、他の三人……あ、氷川さんは微妙なラインだけど、それでも基本的に全員と普通に話せるので別に気まずくなるとかの心配は一切合切無い。

 それなら、別に気にすることなんてなくね?と思われるかもしれない。

 または、女子に囲まれるなんて羨ましいなこの野郎と思われるかも

 確かにそうだ。

 俺も男だから言いたいことは分かる。

 だけども。

 確かに男からしたら理想郷だけども。

 ――――キツイ。

 注文を聞きに来た男性スタッフ。そしてドリンクバーを利用する男性客。

 顔が整っている少女達に目を奪われてからそのテーブルに一緒に座っている俺を見た途端、決まって全員が憎しみや殺気といった憎悪の類である感情を込めた瞳を容赦なく向けてくる。

 それがキツイ。精神がガリガリ削られて辛い。

 できるのなら今だけ俺も女子になりたい。欲を言うなら、リサや友希那ぐらい可愛い女子に――。

 ――ピロンっ♪と。

 ポケットに入れていたスマホが音を鳴らし、メッセージが届いたことを伝える。

 

「ん?達哉からか」

 

 俺はスマホを取り出して、今届いたメッセージを開いた。

 

『ハーレム楽しんでるかー?( ̄▽ ̄)ニヤリッ』

 

 直後、カチッ、と。

 俺は黙ってスマホを電源から消した。

 何も見なかったかのように。

 あいつ…次会った時覚悟しとけよ。

 

「あははっ!お腹いたい!あこ、もっかい、もっかいリクエスト!」

 

「この……闇のドラムスティックから……何かが……アレして、我がドラムを叩きし時、魔界への扉が開かれる!出でよ!『BLACK SHOUT』!!どう?カズ兄?!」

 

「かっこよかったけど少し、ちょっと少し、ほんーーーの少しだけ修正くわえた方がかっこよくなるかもな」

 

「ホント!?りんりん!」

 

「うん……考えとくね……」

 

 あこちゃんからのお願いに、白金さんは笑みを滲ませながら承諾する。

 向かいに座る三人――リサとあこちゃんと白金さんは、今の会話や表情からしてみてもこの打ち上げを楽しんでいることが分かる。

 となると、やはりと言うべきか。

 気になるのは残りの、俺の横に並んで座っているこの二人。

 

「「……」」

 

「ほらほら♪友希那も紗夜も!初ライブの記念なんだからさー、二人もなんか話して話してー?」

 

「話すのなら音楽の話がしたいわ」

 

「同感ね」

 

 リサが気を利かせて会話にいれようとするものの、友希那と氷川さんはそれをバッサリと切り捨てる。

 ストイックなのは素直に凄いと思うが、二人の場合だと少し度が過ぎている気がする。せめて上手くいったライブ後の打ち上げぐらい気を緩めても良いと思うのだが。

 と、そこでお盆を持った『男性』スタッフが近づいてきて、

 

「おまたせいたしました。山盛りフライドポテトです」

 

「……あ、ありがとう…ございます」

 

 例に漏れず、俺にキツイ視線を向けてから、名前の通り山盛りになっているフライドポテトが入った皿をテーブルの真ん中に置いた。

 

「……ここっ、これを頼んだのは誰ですか?」

 

 置かれたポテトを見て少しソワソワしながら、氷川さんがキョロキョロと瞳を動かしながらそう尋ねてくる。

 

「ん?俺だけど?」

 

「…稲城さんでしたか。凄い量ですが…まさか一人で…?」

 

「なわけねーだろ、全員で分けるつもりだっつーの!大人数でファミレスときたら、初手にポテトを頼んで全員でつまみながら料理が来るのを待つまでが定跡だろ?つーわけで、皆遠慮せずに食べていいぞ。もちろん氷川さんも」

 

 Let's share potato♪とツッコミ待ちのボケを添えながら、氷川さんも食べるように勧める。

 これが些細なきっかけとなり、会話に入ってくれればという狙いもあったりしたのだが、

 

「いいえ、結構です」

 

 俺の狙いは上手くいかなさそうだ。

 

「私は得体の知れない添加物系のメニューやこういった何日使っているかも分からないギトギトの油で揚げられたものは受け付けませんので」

 

「ファミレスに恩人でも殺されたのかって疑いたくなるレベルの嫌い方だな…おい。ここのポテトって外はカリカリで、中はジャガイモがぎゅっと詰まってて俺のポテトランキングじゃ、一、二を争うぐらい上手いんだけどなぁ、もったいない」

 

「和也、そんなランキングなんていつの間に作ってたの?」

 

「そりゃ今作った。でも、リサも美味いって思うだろ?」

 

「うん、確かにここのポテトの美味しさってなんかやみつきになるよね☆」

 

 氷川さんのファミレスの料理ヘイトが半端じゃなかったのでそそくさと諦めて、リサとこの美味しいポテトについて語り合う。

 すると、隣から一本の手が伸びてきて、

 

「そ、そこまで言うのなら仕方が無いわね」

 

 す…少しだけ食べてみるわ、と氷川さんが恥ずかしそうにポテトを摘まんだ。

 必死に我慢していたが誘惑に負けて堪えられなくなったかのように。

 

「どうぞどうぞ。元からそのつもりだったし。で、どうだ?美味いだろ?」

 

「………普通ね」

 

「その感想は困るゥ!?」

 

「…でも、悪くはないわ」

 

 そう言い、氷川さんはもう一本ポテトに手を伸ばす。

 気に入ってくれたのだろうか。

 ケチャップを付け、マヨネーズを付け、しまいには何も付けずに、氷川さんはポテトを次々と口に運んでゆく。

 あれ?少しって言っていた割には、他の人が一本食べている間に二本ぐらい食べている気がするけどまさか――、

 

「いやいや、ないない。だってあの氷川さんだぜ?」

 

「何か?」

 

「悪い、何でもな…ってそうだ」

 

 独り言に反応してくれたついでに、俺は氷川さんに質問してみた。

 

「そういや氷川さんは何で俺がここに参加することを許可したんだ?」

 

「いきなりですね」

 

「そりゃあ気になるもんはいきなりでも何でも聞くのが俺だからな。リサが大立ち回りばりのことをしたんだろうなって予想はついてるけど、ほら……氷川さんって俺のことあんまり良く思ってないじゃん?」

 

「それ、自分で言っていて傷つかないの?」

 

「めちゃめちゃ傷ついてるし、絶賛後悔中だ。わざわざ言わせんな」

 

 でもそれがこの質問をした理由の大部分。

 氷川さんはオーディション時に俺が見学するのを毎回突っぱねてきた。その度に友希那が理由は分からないが許可を出してくれたおかげで俺は二回のオーディションのどちらとも見学できるようになったものの、間違いなく俺に対しての好感度がこの五人の中で氷川さんがダントツで低いことは嫌でも分かる。

 また友希那が許可を出してそれに折れてくれたのかもしれない、と今までの経験から何となく予想を立てていると、氷川さんが言った。

 

「…稲城さんはよく変化に気が付く」

 

 少しためらってから、ポツリと。

 

「だから、演奏をしていた私達が気が付いていないようなことを言ってくれるかもしれない」

 

「え?」

 

「湊さんが言ったんです」

 

「友希那が?」

 

 友希那の方を見ながらそう聞き返すと、氷川さんは「ええ」と頷き、続ける。

 

「最初に今井さんがそれと同じようなことを言ってきた時はあまり信じていなかったけど、湊さんもそう言うのなら、あなたは何か私達のためになることを言ってくれるかもしれない。そう思い、特別に許可を出しました」

 

「っ!」

 

「湊さんと今井さんにそこまで言わせておいて、気が付いたことは何もないなんてこと、まさかとは思うけど無いわよね?まあ、それでも私は構いませんが」

 

 期待してないので、と氷川さんは最後に付け足し、ポテトに手を伸ばした。

 俺はバッとリサの方を見る。

 

(こんなこと聞かれるなんて聞いてないぞ!?)

 

 そう心の中で訴えると、それが伝わったのか。

 リサは可愛らしく舌を少し出して片目だけを瞑り――そう、テヘペロである。

 

「それで、実際はどうなんですか?」

 

「あー!あれね!もちろんあるぜ!当たり前だろ?あは、はははっははは!」

 

「では、それを言ってみてください」

 

「はははっ………はい…」

 

 碧瞳が俺のから笑いを止めた。

 

 ――――試されている。

 

 そう感じ取ったのは、氷川さんが許可を出したと言ってからすぐのことだった。

 氷川さんは今、見定めようとしている。

 リサと友希那が本当のことを言っているかどうかを。

 俺が【Roselia】にとって有益な何かをもたらすのかどうかを。

 気が付くと、視線が集まっていた。

 さっきまでワイワイと元気にはしゃいでいたあこちゃんも、それを見て微笑んでいた白金さんも、ちょけた振舞いをしていたリサも、ずっと話に入ってこなかった友希那も、そして事の発端である氷川さんも。

 全員が黙ってただジッと俺が見つめ、言い出される何かを待っていた。

 俺は息を呑み込む。

 氷川さんに認めてもらえれるのか。音楽を分かっていない俺にそんなことが言えるのか。

 俺が気付いたことなんて、全員が気付けるような平凡なことではないのか。

 不安を上げればきりがない。

 できるのなら、今すぐにでも逃げ出したい。

 だが。

 それはできない。

 

「お…俺は、音楽を何もやったことがねぇから……技術どうこうは何も言えない……」

 

「そのことは初めから分かっています。それで?」

 

「それで……【Roselia】の…演奏を聴いて………俺が思ったことは…」

 

 逃げることができない。隠れることができない。やり過ごすことができない。誤魔化すことができない。

 まるで剣先でも向けられているかのようだ。

 俺の声は震え、いいや、声だけじゃない。震えているのは全身だ。

 変な汗が頬を撫でている。しわになりそうなほど強くズボンを握りしめている。この先を言った瞬間、終わってしまうのではないかと心の底から怯えている。

 そもそもリサと友希那が俺のことをそう評価していることなんて知らなかった。こんなに抜擢されるほどの能力だとは思っていなかった。

 それにここに来る前に、達哉に『もう少し周りを見ろ』と注意されたばっかりで――。

 

「――――」

 

 ああ、そうか。そういうことだったんだな。

 

「………【Roselia】の演奏を聴いて、思ったことは何ですか?いい加減言っ――――」

 

「――――【Roselia】の演奏は他のバンドよりも良かった!観客全員がスッゲー盛り上がっていたし、恐らく今回のイベントで一番輝いていたのは贔屓目なしに【Roselia】だったと思う!」

 

 リサと友希那は氷川さんを説得する時に、言ったんだ。

 こうなることが分かった上で。

 それはつまり、俺がリサと友希那を信用するように、二人も俺のことを信用してくれているということ。

 ならば。

 

「だけど!!」

 

「っ!?」

 

 言うしかない。

 言ってやるしかない。

 リサと友希那からの信用を裏切らないためにも。

 二人が信じてくれる自分を裏切らないためにも。

 俺は言った。

 言ってやった。

 

「【Roselia】には俺が聴いた他のどのバンドとは違う、劣っているものを感じた!それが何なのか説明しろって言われたら正直困るし上手く言葉に出来ないけど、それでもなんつーか無理矢理でも言うとしたら――全員が同じ方向を向いていない。統一感が無いって、俺はそう思った!」

 

「「「「「――――」」」」」

 

 口をポカンと開け、目を見開き、瞬きを忘れ――。

 俺がライブの演奏を聴いて感じたことを聞いたリサ達はそれぞれ違った反応を示し、一斉に考え出す。

 そして、最初に口を開いたのは、 

 

「それぐらいのことわざわざ言われなくても分かっています」

 

 氷川さんだった。

 

「他のバンドよりも【Roselia】が劣っていると感じた部分、稲城さんはそれを統一感と言ったわね?」

 

「あ……ああ。そう言った」

 

「それは恐らく、服装によるものじゃないかしら?ジャンルはバラバラな上に、曲に合っているとも言えない私達の服装が統一感を無くし、他のバンドよりも劣っているように見えた。だけど、今回のライブを通してこのメンバーで活動するかどうかを決めて、そこから衣装を作るというのが元々の手筈だったので、稲城さんが上げた統一感という課題は課題ですらないわ」

 

 そう言い、氷川さんは再び碧瞳を突きつけた。

 やはりこの程度のことしか気づいていないのかと。

 違うんだ。

 俺も即座に反発する。

 

「そうじゃない!確かにリサだけギャルっぽくて変に浮いたように映っていたのは事実だったけど!」

 

「えっっ?!」

 

「でも、俺が感じた統一感の無さはそう言うのが理由だとは思わない!衣装とかそういう外見が理由じゃなくて、もっとこう……技術云々以前の問題だったって俺は思う!」

 

「演奏に技術より大切なものなんて無いわ」

 

「技術も大切だ!だけど、だからそうじゃなくて…」

 

 伝わらない。言葉に出来ない。

 もどかしい。もどかしい気持ちでいっぱいだ。

 氷川さんが言うように技術は大切だ。だが、俺が感じたものは――他のバンドで感じて【Roselia】では感じれなかったものは、そういうのではないんだ。

 もっと初歩的な。バンドに限らず、スポーツや複数人でするものすべてに当て嵌まるような共通の課題。

 全員が同じ方向を向いていない。

 俺が言ったこれがまだ一番的を得ているとは思うが、それでもまだ足りない。それが何なのかが分からないから説明できない。

 いや、もしかしたら俺が言ったことは全くの的外れなことなのかもしれない。そう考える方が普通だ。そして、きっと実際にもそうなのだろう。

 結局のところ、俺は――。

 

「確かにそうかもしれないわね」

 

「っ!?湊さん?」

 

「…友希那」

 

 割って入ってきたのは、耳に馴染んだ落ち着いた声。

 友希那だ。そうかもしれないってどうゆうことだ。

 俺と氷川さんは反射的に話すのを止め、友希那の意見を待つ。

 すると、顎に当てていた手を下ろし瞼をそっと上げ、友希那は言った。

 

「あこ、燐子……リサ。私はあなたたちにこのバンドを組んだ具体的な目標を教えてなかった。恐らく、和也の言う統一感の無さは、メンバー全員が同じ一つの目標を共有していないことから生まれたもの。それで合っているしら?」

 

「――!あ、ああ。多分それで合ってる」

 

「【Roselia】としての目標を共有することでメンバー全員の足並みを揃える。それはこのまま活動していく上で、早いうちにやっておくべきことかも知れないわね」

 

 友希那がそう言うと、氷川さんは「そういうことでしたか」と納得した表情を浮かべる。

 それを見た途端、体中に入っていた力がドッと抜けていき、俺はテーブルに体を突っ伏した。

 

「だぁぁぁ……氷川さんスッゲー怖かったー」

 

「怖いとはなんですか、失礼です!」

 

「か、和也!アタシそんなに浮いてた?」

 

「あー…うん、でもちょっとだけな。遠くから見ても雰囲気だけでリサって分かるぐらいちょっとだけ」

 

「それって結構浮いてるじゃん。うひゃ~盲点だった…」

 

「つーか、氷川さんを説得する時にあんなこと言ってたんならあらかじめ俺にも伝えておいてくれよ。いきなり氷川さんにカミングアウトされてスッゲービビってたんだぞ?…でもまあ?その…リサと友希那がそういう風に俺を評価してくれていて?しかも、説得するためのカードとして使ってくれるぐらい信用してくれていたってことが伝わって死ぬほど嬉しいし?そこまで信用してくれていることが分かった以上、俺もその信頼に応えないとなーって思ったりしたわけで」

 

 と、直球なのか遠回しなのか曖昧な、照れ隠しにすらなっていない照れ隠しをして長々と話していたら、リサが微妙な表情をして、

 

「え?」

 

 一文字。

 たった一文字を零した。

 

「え?って…え??」

 

 その一文字で、俺は固まる。

 

「もしかして…」

 

「いやいやっ、も、もちろん紗夜に言ったことは本当だし、和也のことは信用してるよ!?でも、まさか本当に紗夜が聞くなんて思ってなかったし、和也がそれに答えたことも予想外だった…かなぁ~………」

 

 にゃははははー、とリサはわざとらしく笑い、それを見て聞いた俺は上がっていた口角を不細工にヒクつかせることしか出来なかった。

 つまり…あれだ。2人から感じた信頼は俺の勘違いであって、ただの自意識過剰なだけというわけで……。

 

「…穴があったら入りたい……」

 

「カズ兄大丈夫?」

 

「……だいじょばない…」

 

 顔を手で覆い隠し、悶絶して恥じる俺をあこちゃんが優しく心配してくれたので頑張ろうとは思ってみたが、思ったよりダメージが深かったようだ。ああ、なんともみっともない。

 そうこうしていたら、恥ずかしさで死にそうな俺をよそに氷川さんが話を戻していた。

 

「同じ目標を見ていない…いくらオーディションを受ける時に遊びではないと何度も言っていたとはいえ、このまま放っておくと問題になりかねませんね。湊さん、私はここで改めて明確な目標を示すべきだと思います。私もそのために湊さんとバンドを組みましたから」

 

「そうね。三人の意思確認も兼ねてそうすることにするわ」

 

 友希那がそう言うと、リサ、あこちゃん、白金さんが前かがみになって友希那がこれから言う目標をほんの少しですら聞き零さないようにする。

 俺も気になるので耳を立てる。

 そして。

 全員の意識が一人に集中している中。

 友希那は、【Roselia】が掲げる目標を告げた。

 

「『FUTURE WORLD FES.』の出場権を掴むために、次のコンテストで上位三位以内に入ること。…それが【Roselia】の目標よ。そのためにこのバンドには極限までレベルを上げてもらうわ。音楽以外のことをする時間は無いと思って貰って構わない、ついてこれなくなった人にはその時点で抜けてもらうわ」

 

 力の籠った友希那の熱弁。

 それを聞いた俺とあこちゃんと白金さんは、

 

「ふゅーちゃー………」

 

「………わーるど……」

 

「ふぇす……?」

 

「「「?????」」」

 

 揃って首を傾げたのだった。

 フューチャーワールドフェス。

 どこかで聞いたことがあるような、無いような。

 そんな気がするが、それを聞いたのがいつだったかまでは思い出せない。

 

「はぁ……稲城さんはともかく、まさか宇田川さんと白金さんまで知らないとは」

 

「まあまあ、あこも燐子も最近バンド始めたばっかだからこれぐらい良いじゃん?」

 

「紗夜さん、ふゅーちゃーわーるどふぇすって何なんですか?」

 

「仕方がありませんね。いい?『FUTURE WORLDO FES.』というのは――――」

 

 『FUTURE WORLDO FES.』。略称『FWF』。

 一言で言ってしまえば、ロックバンドにおける日本最高峰のフェスだ。

 日本最高峰のフェスに名前負けしないほどその規模は大きく、応募数は毎年3000組を優に越す。しかし、コンテスト本選に出場できるバンドの数は全て合わせても20組にも満たず、その数少ない枠を奪い合う予選はプロでも落ちることが当たり前と言われるほどレベルが高い。

 だが。

 ――他のどのバンドよりも審査員を、観客を、全てを自らが奏でたその音で魅了する。

 このコンテスト本選への挑戦権を掴み取るために求められるのは、たったそれだけのシンプルなことだ。そこにプロやアマ、メジャーやインディーズのような肩書はもはや存在しないと言ってもいい。

 だからこそ、全国のロックバンドが我らこそはと名乗りを上げ、熱戦が続く。

 だからこそ、全てのバンドに頂点に立つ可能性がある。

 

 それこそが友希那が――【Roselia】がいずれ立とうとしている舞台なのである。

 

「『FWF』……思い出した」

 

「カズ兄?」

 

「いや、何でもない…」

 

「……和也…」

 

「にしても、相手にはプロもいるのか……つまり、出来て数か月の高校生のチームが天皇杯に出てJ1、J2のチームをなぎ倒して上位に入るって感じだよな?…それって結構ヤバくね?」

 

「ごめん、その例え全然分かんない。でも、凄く難しいってことはあってると思う」

 

 説明を受けて友希那を見た俺の内心を悟ったかのようにリサは目を伏せ、俺は逸れそうになった話を戻す。

 その途中で【Roselia】の掲げる目標が途方もないほど遠い先にあることを実感し、恐れおののいてしまい思わず友希那に尋ねてしまった。

 

「……そんなことできるのか?」

 

「できるできないじゃない。絶対にやるのよ」

 

「――――!!」

 

 即答だった。

 愚問だった。

 友希那は初めから頂点に咲く未来しか見てないなかった。

 

「――――あなたたち、【Roselia】に全てを賭ける覚悟はある?」

 

 

 

 ――――――――――――――

 ―――――――――

 ――――

 ――

 

 初ライブが終わってから最初に迎えた休日。

 その日の朝に、俺は『ライブハウスCiRECLE』に訪れていた。

 

「ここに一人で来るのって何気に初めてだな…」

 

 友希那のライブ、特訓で2回、オーディションで2回、この前のライブ、そして今回で計7回目。

 初めて訪れた日からまだ二ヶ月も経っていないというのに、この回数。それなのに何も音楽をやっていない上に、ライブのために来たのは2回だけと言うもんだから聞いた人からしちゃかなりおかしいと思われるだろう。

 うん、俺も最初の頃はまさかこんなに来ることになるとは思ってなかった。

 

「ま、これの結果によっちゃもっと来ることになるから、今までの分は消費税みたいなもんか」

 

 そう言い終えると、一回深呼吸してから両頬をパシッ!と叩いて気合を入れる。

 達哉のおかげもあって、ようやく見つけた案だ。おそらくこれ以上良い案は見つからない。だから、失敗はできない。俺には失敗した場合の事を考えることすら許されないほど余裕がないし、それぐらい重要な局面――勝負所だ。

 やってやるしかない。

 俺は足を踏み出し、自動ドアを開いた。

 

「いらっしゃい!」

 

「おはようございます!アルバイトの面接に来ました!稲城和也です!!」

 

 

 

 

 

 

 




 最後まで読んで頂きありがとうございます!
 久しぶりに紗夜さんが喋りましたよ、ええ!久しぶりですよ!
 紗夜さんの口調ってなんか難しいんですよね…丁寧な喋り方をちょっとだけ崩した感じのあの話し方ほんと難しい。違和感あると思いますが、すみません、力不足です…。

 それでは皆さんまた次回!できれば早く上げたいなとは思っていますが、どうなるかは分かりません!!ばいちっ!
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