そこそこ早めに更新することが出来ましたー。まあ、これから現実の方で色々と忙しくなるのでまた更新が遅くなるとは思いますが…………。
あ、この作品のあらすじを変えました。最初に予定していた話から随分と離れてきて、雰囲気とか全然あってなかったので、是非もナイヨネ!
ま、そんなこんなで本編どうぞ!
「ありがとうございました-♪」
「ありがとうございました!」
軽くお辞儀をしながらそう言って、黒いギターケースを背負ったお客さんが出て行くのを見届ける。
「フフッ。和也君、もう結構慣れてきたみたいだね」
「そうですか?まあ、全部まりなさんが優しく教えてくれるおかげですよ」
「もう、嬉しいこと言ってくれるじゃない!」
『ライブハウスCiRCLE』のスタッフになってから数日が経った。
今のところの感想を言うとすれば、それは楽しいだ。もちろん初めは知らないことばかりで色々と覚えることが多かったりで心配もあったのだが、それでもまりなさんの丁寧なサポートもあって少しずつ一人でできることも増えてきていて達成感も感じている。
これは、普通にとても良いバイト先を見つけたと言ってもいいだろう。当初の狙いには無かったことだけど、これはとても運がいい。
あ、そうそう。実は俺がここのバイトに受かったこと、そもそも面接を受けていたこと自体は達哉以外の誰にも教えていなかったんだよな。
だから、何も知らないリサ達がここで働いている俺を見た時は、スッゲー驚いてくれたぜ。友希那も珍しく目を丸くしていたから、新鮮で面白かった。まあ、氷川さんだけは相変わらず全然反応してくれなかったけど……別にウケを狙っていたわけじゃないから良いのだが、少しぐらい反応して欲しいものだ。
「そういえば和也君。面接の時に幼馴染がバンド活動をしているって言ってたけど、そのバンドってうちでライブしたことあるのかな?」
客の勢いが収まり、仕事が一段落着いて落ち着いたところで、まりなさんが訊ねてきた。
「あー、ありますよ。というか、初ライブがCiRCLEでした」
「えっ!ホントっ!なんていうバンドなの?」
「【Roselia】ってバンドなんですけど、まりなさん知ってます?」
「へー【Roselia】なんだ!うん、よくうちで練習してくれてるし知ってるよ。ということは……和也君の幼馴染って友希那ちゃんで合ってる?」
「はい、それで合ってます。あと【Roselia】でベースをやってるリサって子も幼馴染ですね」
「そっか、友希那ちゃんとリサちゃんは幼馴染だって言ってたから、そりゃあ和也君ともそうだよね」
なるほどね、と月島さんは自分で言ったことに納得する。
友希那はバンドを組む前から一人でここのライブに出ていたらしいから、まりなさんが知っていても普通なのだが、まさかリサまで知っているとは。
流石と言うべきか。
「それでそれで~?」
「?」
俺が感心していると、まりなさんがニヤニヤと含みのある笑みを浮かべていた。
「和也君はどっちが好きなの?」
「――――なっっ!?」
「やっぱり、あの時の話的に友希那ちゃん?」
「ちっ、違います違いますっ!!!」
「それならリサちゃん?」
「リサも違いますっ!!!」
二人共そんなんじゃありません!と俺は絶句しながらも必死に両手を横に振っては交差させて否定する。
だけど、まりなさんはニヤニヤを止めることなく、
「でも、和也君の大切な人って幼馴染のことなんでしょ?」
「そうですし、リサも友希那も大切なのはあってますけど……」
「っていうことは二人共!?おねぇさん、流石に同時に二人って言うのは良くは思わないなぁ。でも、青春って感じでちょっとうらやましいかも」
そう言って、まりなさんはどこか遠くを見つめる。
まるで何かを思い出しているように。
「だから違いますって……」と頭を抱えている俺の声なんて届いていないように。
壁に立てかけていた筒状にくるめられているポスターを手に取って、悲しそうに呟いた。
「私にもそんな浮いた話無いかなぁ……」
はぁ……、と。
溜息を吐いたまりなさんの姿は哀愁が漂いすぎていて何というか……。
「えっと……まりなさんなら大丈夫ですって!きっとすぐに良い人が現れて――」
「――それなら和也君が私を貰ってくれる?」
「そ、それはちょっと…………」
「あははは……冗談冗談…………ささっ、仕事仕事~」
全然気にしていないと強がろうとするまりなさん。
だが、強がり切れておらず動きは重々しく、先程から手に持っているポスターを広げることすらできていない。
……これは見るに堪えないな。
「そのポスター張るの俺がやりますよ。ここでいいんですよね?」
「えっ、うん、ありがとう」
申し訳なさそうにしているまりなさんからポスターを受け取り、作業を代行する。
「……ごめんね~、さっきから気を遣わせちゃったみたいで」
「謝るほどのことじゃないですよ。それにさっき断っておいてなんですが、俺はまりなさんのこと綺麗で素敵な人だなと思っていますし、すぐに良い人が現れるって言ったのは結構本心からの言葉ですから別に気を遣った訳では…………と、ポスターこれで大丈夫そうです?」
ポスターを張り終わったので、これで合っているかと、曲がっていないかを聞こうとして、まりなさんの方へと向くと、
「――――」
「まりなさん?」
まりなさんは固まっていた。
少しだけ口を開いた状態で呆然としており、瞬きはせずにいつもよりもちょっと目を大きく開けながら。
フリーズしていた。
「あの……どうかしました?」
「――あっ、ごめんごめん!あんなにハッキリと言われたことなかったからちょっとびっくりしちゃって……もう和也君!年上をからうのは駄目だからね!」
慌てて、恥ずかしがって、怒って。
硬直から復活したまりなさんは、表情を忙しそうに転々と変えながら俺に注意する。
「えっと……すみません。だけど、別にからかおうとしていたわけじゃ……」
「和也君!そういう口説き文句は友希那ちゃんかリサちゃんに言ってあげないと!!私なんかを褒めたところで何にも出ないんだから!」
「口説き文句って……そんなつもり無かったですし、それにリサと友希那はそうのじゃ…………って、あの……どうして今俺、まりなさんに撫でられているのか聞いてもいいですか?」
「……なんとなくかな?」
「なんとなく……ですか……」
そうですか。何となくですか。
それなら仕方がな……くはないよな!?やっぱりおかしくないか?!
撫でられるのなんてスッゲー久しぶりだし、正直言って気分が悪くなるどころか嬉しくて心がポカポカしてきているけど、流石にこの歳で撫でられるのは恥ずかし過ぎて死にそう!
誰かに見られる前に早く何とかしなければ。どうにかしてまりなさんの気を逸らす事さ無ければ。
な、何かいいものは無いのだろうか。
「――あっ!ま、まりなさん!これって見た感じアイドルのポスターなんですけど、どうしてライブハウスに貼るんですか?場違い感があると思うんですけど」
「ん?」
俺がそ張ったばかりのポスターを指差すと、まりなさんもそれに釣られてポスターを見る。
狙い通りだ。
「あー、それはね、どうやらこの子たちが実際に曲を演奏するんだってー」
「それって、アイドルがバンドをするってことですか?」
「うん、そうゆうこと。まぁ、私もまだ噂で聞いたぐらいだから詳しくは知らないんだけどね。でも、こういうの今までになかったから、結構注目されているみたいだよ~」
「へー。確かに面白そうで話題性も十分にありそうですしね」
まりなさんの気が逸れている間にサッと抜け出すことに成功した俺は、説明を聞いていたらちょっと興味が湧いてきたのでもう一度ポスターをよく見てみようと視線を移した。
ピンク色で可愛らしくまん丸とした文字――【Pastel Palettes】。
どうやら最近発表されたバンド?グループ?とりあえずアイドルらしい。
アイドルに全く興味が無くてあの超有名な48人いるアイドルグループのセンターの子すら分からない俺からしてみても、アイドルが自ら楽器を演奏するということがどれだけ斬新なことかは何となく分かるし、注目されるのも頷ける。
このセンターに写っているこのピンク髪の子がボーカルか?友希那のようなカッコイイ系ではなくてカワイイ系で、なんというかTheアイドルって感じだな。他の子たちはと……あー、うん。やはりと言うべきか、アイドルなだけあって全員顔が整っていて可愛い。
「ってあれ?この子の顔……」
「お疲れ―紗夜ちゃん♪」
「ん?あ、氷川さんお疲れ。今休憩入ったとこか?」
と。
スタジオのある方向からこちらに歩いてきた氷川さんに気が付いて、俺とまりなさんは声をかける。
しかし。
「…………お疲れ様です……」
氷川さんは返事をしたにはしたのだけど、それは俺達二人にではなくてまりなさんにだけで、俺は恐らく故意的に無視された。
前に一緒に帰っていた時にもいきなり無視されたし、このあからさまな態度には流石に俺もカチンときた。
「おいおい氷川さん、流石にそれは酷くないか?」
「…………」
「……ったく、またかよ。ずっと怒ってるし……あーあ、このポスターにいる子は笑顔で良い子そうなのに氷川さんときたら」
悪意を持ってそう言い、俺は張ったばかりのポスターにいた翠髪の少女――氷川さん似の少女を見る。
ほんと、よく似ているな。氷川さんもこの子を見習ってもっと笑った方が――、
「って……氷川さんどうした?大丈夫か?」
気が付くと、氷川さんの血の気が引いていた。
「紗夜ちゃん大丈夫?もしかして体調悪い?」
血色を失い、足取りもおぼつかなくなった氷川さんを俺とまりなさんは心配して寄り添おうとする。
しかし、氷川さんは壁に手を当ててバランスを取り直し、もう片方の手を俺とまりなさんに向けた。
「い……いえ。大丈夫……です……」
「でも、私心配だよ。家族の人に迎えに来てもらった方が…………」
「……大丈夫です……これぐらいすぐに治ります……。……では」
そう言い、まりなさんを強引に振り切って、氷川さんは外へと出て行った。
確か【Roselia】の練習時間はまだ一時間ほど残っていたはず。氷川さんの背中にはギターケースが背負われていたし、これは体調が悪くなったから途中で練習を抜けた、ということだろうか。
「……心配だな」
何も起きなければよいのだが…………。
そう思いながら、俺は氷川さんが見えなくなった後も少しの間入り口を眺めていた。
そして。
約一時間後に出てきたリサ達はどこか暗く、俺はそこで氷川さんの様子が練習の時からおかしかったことを聞くことになる。
――――――――――――――
―――――――――
――――
――
孤高の歌姫の歌声が、スタジオ内を満たす。
その歌声には、圧巻という言葉しか似合わない。もし、このスタジオ内に彼女の歌声を聴いていた者がいたとすれば、ほぼ間違いなく称賛の拍手を送っていることだろう。
しかし、それほどの歌声を持っていても尚、歌姫は視線を下げて表情を暗くする一方。
――――だめ、こんなんじゃ全然かなわない。
今のままでは満足できない。できるはずもない。
もっと。
もっと。
もっとよ。
もっと上手くならなければ、あの舞台には――あの背中には届かない。
「――っ。……こうやって……私は……音楽と……真剣に向き合えないから……っ!」
そうやってまた、歌姫は独りで必死に手を伸ばすのだった。
△▼△▼△▼△
「Cスタジオ、空きました」
ロビーに着いた友希那は、カウンターにいるスタッフに向かって一言報告する。
「はい、ありがとうござ……って友希那か。お疲れさん!」
相手が友希那だと分かった途端、笑みを向けてきたのは幼馴染である和也。
彼がここのスタッフになったということを知った時は驚いたし、違和感しか持てなかったものの、こうして働いている姿を何度も見ていると流石に慣れてくるものだ。
「今日って確か【Roselia】で練習は無かったはずだよな?ってことは、自主練か?」
「ええ」
「それは感心感心。だけど、流石に最近頑張り過ぎじゃないのか?まあ、それだけ目指してるレベルが高いってのは分かるけど、根を詰め過ぎるのは良くないぞ」
「その言葉、和也だけには言われたくないわ。あなた、中学の頃はいつも夜遅くまで――」
「――はいはい、悪かった悪かった。俺が生意気だったし、あの時は助かりましたよ。……ったく、それを言われたら何も言い返せねぇんだよなぁ……」
友希那の言葉を途中で遮り、和也は苦虫を嚙み潰したような表情で吐き捨てる。
「でも、どの道やりすぎは良くないぞ。ボーカルなんて喉が命なんだし、練習のやり過ぎで喉を傷めて本番に実力を発揮できないとかなったら元も子もないんだからさ」
「そんなバカなことはしないわよ。終わった後にケアもしているし、喉のコンディションに悪い影響は出ないようにちゃんと配慮しているわ」
「それなら俺から言うことは何もねーよ」
和也は両手を上げて降参したことを示す。
友希那が個人練習を自制することはありえないだろうということは、和也自身も元より分かっていた。だから、せめて酷使による喉の故障という最悪なルートだけは起きないようにしなければ、と注意喚起ができただけでも、和也にとってはとりあえずひとまず安心といったところである。
……と。
そこで。
「――すみません。ちょっとよろしいでしょうか」
和也と友希那の会話に割って入るように。
大人の女性が声をかけてきた。
整えられたスーツを身に纏っており、髪型はポニーテールできちんとした印象で、一目見ただけでどこかの企業の者だということが窺える。
バイト中である和也は、友希那との会話を中断してすぐさま接客へと移った。
「あ、はい。どうされましたか?」
しかし。
「いえ、用があるのはあなたではありません」
「へ?」
「友希那さん、少しお時間を頂きたいんですが、よろしいでしょうか?」
スーツ姿の女性は和也に客ではないことを完結に告げると、視線を友希那へと向ける。
「友希那、知り合い?」
「いえ……失礼ですが、どなたでしょうか?」
「私、こういうものです」
スーツ姿の女性は懐から名刺入れを取り出し、そこから名刺を一枚友希那に渡した。
和也も友希那に用があると言うこの女性が一体何者なのか気になるので、カウンターに身を乗り出して、後ろから頭を覗かせて名刺を見ようとする。
すると、丁度その時に、
「和也くーん!もう時間ちょっと過ぎてるし、上がっていいよ~!私が引き継ぐから!」
「あ、ホントだ。いつの間にこんな時間に。はーい!分かりました!」
上がるように促され、和也は名刺を見ることなく時計を確認してロビーに現れたまりなに返事を返す。
そして、まりなに今の状況を簡単に説明してから、控室へ向かう前に友希那に言った。
「友希那、丁度俺も上がりだし一緒に帰ろうぜ。いいだろ?」
「……ええ」
「その間はなんなんだよ……。まあ、受け入れたんだから、その人との話が終わっても先に帰らずに待っててくれよ。俺もできるだけ早く準備をすますから」
「分かったわ」
友希那の承諾を聞き届けると、和也は「んじゃ」と手を振り、まりなには「お疲れ様です」とお辞儀をして、奥へと消えっていった。
「それで、私への用とは何でしょうか?」
和也がいなくなったところで、友希那は止まっていた話へと戻す。
すると、スーツ姿の女性――音楽業界人は頷き「では、率直に伝えます」と前置きを置いてから、言った。
熱い思いを瞳と言葉に込めて。
「――――友希那さん、うちの事務所に所属しませんか?」
△▼△▼△▼△
「――――っ!」
「――うおっ!危ねっ!大丈夫か友希那?」
「え、ええ……。……ありがとう」
そうお礼を言うと、友希那は俺に支えられた体を立て直す。
躓いて転びそうになった友希那を支えたのは、これが初めてではない。この帰り道だけで、もう3回目だ。
しかも、それだけではない。
「友希那?どこ行くつもりだ?」
「っ!?……少し、ボーっとしていたわ」
このように、友希那は何度も通っている筈の帰り道を間違えてもいる。
友希那が見た目に反して結構ポンコツなことは昔から知っているけど、確かここまでじゃなかったはず。というか、さっきから友希那は何かを考えているのか、ずっとボーっとしていて注意が散漫しているように見える。
何かあったのだろうか。
「そういえば、こんな風に友希那と二人きりになるのって久しぶりだな。いつもならリサもいるし……こういう二人だけの状況って、皆の前じゃ言い難い悩みとかを相談するにはうってつけだとは思わないか友希那?」
「……?別に思わないけど……何が言いたいの?」
「いや、そのまんまの意味だ。最近友希那が悩んでることとか、今絶賛考え中なこととか無いのかなぁって思ったからで、特に深い意味は多分ない」
「…………そう」
友希那は手短に返事をすると歩くスピードを少し早める。
「私が悩んでいることなんて何も無いわ。……それに、仮にもし悩み事があったとしても、和也に相談するようなことじゃない」
「ふーん、そっか。頼られていないってことはかなり残念なことだけど、友希那に悩み事が無いならそれでいい。――けど!」
俺は走って友希那の前に立って向かい合い、無理やり友希那の足を止めさせた。
「それは悩みごとが無いってことが本当だったらの話だ!」
悩んでいることは何もないだって?
そんな分かり切った嘘、俺が見抜けない訳が無いだろう。
「さっきからずっと何を悩んでんだ?それは幼馴染に言えないぐらい深刻なことなのか?」
俺は真相を聞き出そうと問いただす。
しかし、その訊ねに対する答えはいくら待っても返ってこない。元より、友希那は悩みごとを打ち明ける気が無いのだろう。そして、そんなこと俺は最初から分かっている。
友希那は、逃げるように視線を逸らした。
「……どいて」
「どかない。友希那が言ってくれるまで絶対に通さないからな」
「…………」
「話す気は無いってか……ま、スカウトされたみたいだし、そりゃ話しにくそうではあるけど」
「――――聞いていたの!?」
友希那は表情を一転させて俺を見上げる。
「和也はあの時いなかった筈!どこから聞いていたの!?」
「つーことは、図星か」
「??図星?」
理解できないとでも言いたげな視線を投げかけてくる友希那。
俺はさっき言った言葉の意図を教えた。
「友希那、悪い。鎌をかけさせてもらった。俺は友希那とあのスーツの人との会話の内容なんて一ミリも知らねーよ」
「なっ……」
友希那は絶句する。
それもそうだ。俺に操られて隠していたことを吐かされたのだから。
胸から湧いてくるのは、嫌悪することしか出来ない罪悪感。まるで内側から直接釘でも打たれているかのように、ズキリと顔を歪ませたくなるほどの痛みを与えてくる。
「ほんと悪かったな。軽い冗談以外ではもう二度と友希那を騙すなんて真似はもうごめんだな……」
後悔に蝕まれながらそう心の底から思ってから、俺は友希那に言った。
「でも、こうでもしないと友希那は話してくれなかっただろ?」
「……そ、それは……そうだけど……でも、これは私の問題で和也には関係の無いことだから……」
「おいおい、何勝手に決めつけてんだよ。いいか?友希那がそうやって悩み込んでいる時点で俺からしたら十分関係ある話なんだよ!そこんとこ、しっかりと訂正しといてくれよ」
「…………どうしてそこまで……」
「どうしてって……んなもん、友希那が困っているからに決まってんだろ。俺は困っている友希那の力になりたいんだ」
「――――」
「友希那が俺には関係ないことだと思うならそれでいい。けど、関係無いからこそ俺がその悩みごとを相談する相手に一番適してると思う。お願いだ、俺にも友希那の悩みを一緒に抱えさせてくれ……!」
両手を合わせ、俺は打ち明けてくれるように懇願する。
しかし、友希那は何も言わない。
何も言わずに、ただきまり悪そうに目を伏せている。
夕暮れ刻。
いつの間にか低くなっていた太陽が辺りを夕焼け色に染め上げ、友希那の横顔を照らしつける。
細めた瞼。合わせようとしない琥珀の瞳。下がった眉。歪めている唇。汗で頬に張り付いた髪。
見慣れていても、ふとした時に見惚れてしまう程綺麗で凛としているその顔は、今は感情が滲みだしてるのか複雑になっており、横日に照らされ細部まで鮮明に映るようになっても尚、隠されたその内心を読み取ることは俺には出来ない。
隣を車が音をたてながら何度も通り過ぎて行った。
俺と友希那は動かない。友希那は更に下を向き、俺はそれをただただ見つめてジッと待ち続ける。
友希那が黙り込んでからどのぐらい経ったのだろう。
五分か、十分か、はては一時間か、それともたった数十秒か。
時間の感覚が狂ってしまうほどの異様な雰囲気に包まれる中。
友希那は伏せていた瞳を上げた。
ゆっくりとぎこちなさそうに。
「……………………分かったわ」
「――本当か!?言ったからな!やっぱり辞めたとか無しだぞ!?」
「そんなこと言わないわよ」
「だろうな。友希那はそういうこととか約束とかちゃんと守ってくれるし、心配していない。さっきのは軽はずみで言ったようなもんだ」
「――――」
「どうした友希那?」
友希那はまた目を伏せており、それがどこか思いつめているように見えたので気になって訊ねてみる。
だが、友希那はすぐさま顔を上げて首を横に振り、
「何でもないわ。……行きましょう」
そう言って、俺の隣を通り過ぎた。
俺の思い違いならそれでいいんだが……まあ、友希那の話を聞けばそれも分かるかもしれないし、しつこく聞かなくてもいいか。
俺は振り返って歩き始め、先を行っていた友希那に追いつく。
すると、俺が切り出さずとも友希那が話し始めた。
「和也がいない間に、あの女の人にスカウトされたの。うちの事務所に来ないかって」
「そこら辺は何となく想像つく。……まあ、この前のライブ皆凄かったもんな。だから、スカウトマンの目に留まったのも頷け――」
「――――違うの」
「…………え?」
「……違うの……違うのよ…………そうじゃないのよ………」
友希那は、自らの腕を強く掴む。
「そうじゃないって……?」
【Roselia】の初ライブとなったあのイベントには、プロのスカウトも来る。そして、そこで一番の演奏を見せつけ、盛り上げた【Roselia】が来ていたスカウトマンのお眼鏡にかなってスカウトされた。
あのスーツ姿の女性を見て、そう思っていたから俺は友希那に鎌をかけることができ、それが上手くいってスカウトされたということを見破れた。
それなのに友希那は否定した。どういうことだ。意味が分からない。矛盾している。
――――【Roselia】の演奏が認められたってことじゃないのか?
友希那は、俺の疑問に答えるように言った。
「スカウトされたのは私だけ。……【Roselia】じゃないわ。……私のために実力のあるメンバーを用意したって……その事務所と契約すれば、コンテスト無しで『FUTURE WORLD FES.』のメインステージに立てるって…………そう言ったの……」
「――っ!それって……受けたのか……?」
「………………受けてはいないわ……」
友希那は、首を横に振る。
まだスカウトに合意していないことが分かった瞬間、俺は半開きになっていた口を閉め、安堵する。
しかし、それはほんの一瞬だけで。
「受けてはいない……か……」
友希那が言った言葉を確かめるように復唱し、安堵するにはまだ早いことを悟った。
受けていない。ではなく、受けて『は』いない。
それはつまり断ってもいないということ。スカウトを受ける可能性もまだ十分に残っているということ。
今度は俺が顔を伏せる。
プロのスカウトマンの目に留まったということは、かなり凄いことだ。内容からして、かなり優遇されている方だと思うし、メジャーデビューが約束されたと言っても過言ではないのだろう。友希那の努力が報われたのだ。
だから、俺は頑張ってきた友希那を褒めてやって、自らの実力で掴み取ることが出来たそのチャンスを逃すなと背中を押してやった方が友希那のためになるのかもしれない。
――――駄目だ。それは出来ない。
【Roselia】には、リサがいる。
友希那の隣に立ち続けたいと願い、努力してきたリサがいる。
友希那がスカウトを受ければ、間違いなくリサは悲しむだろう。それでは、リサが報われない。そんなこと、いくら何でも酷過ぎる。
……だけど。
今、友希那に訪れているチャンスは、普通のチャンスとはレベルが全く違う。
夢が叶うことが約束されているのだ。断れば二度とこないかも知れないし、見過ごすにはあまりにも惜し過ぎる。
俺だって友希那が遠くに行ってしまうような気がして、スカウトを受けてほしくないという思いはある。しかし、友希那を引き止めるということは、それと同時に友希那の可能性を、未来を、夢を閉ざすことと同じことなのかもしれない。
そんなこと駄目に決まっている。私情だけでそんなこと、友希那の足を引っ張るようなことはしたくない。
「……初めてのライブでどれだけ良い演奏ができたとしても、【Roselia】が『FUTURE WORLD FES』に出られる保証なんてどこにもないからな……。可能性はあるだろうけど、そこに辿り着くまでに厳しい道を進むことになるかもしれないし……何年経っても無理な可能性だってありえる。だから……そのスカウトは受けた方いい。そっちの方が間違いなく賢い選択なんだと…………思う……。――だけど、賢い選択なんだろうけどっ……そんなこと友希那だって分かってるんだよな……分かってる上で悩んでるんだよな…………」
ごめん、と自らの無力さを痛感する。
板挟み状態だ。このままではどちらに転んでも、片方が夢を諦めることになる。
リサと友希那。二人が揃って笑い合えるようになるためには、どうしたらいいのだろうか。
…………分からない。今の友希那の助けになりそうな言葉が見つからない。ったく、相談相手になるって言ったのにこれじゃあ全然力になってやれてないじゃねぇかよ。
「……友希那」
友希那を呼び、足を止める。
すると、友希那も立ち止まり、ゆっくりとした動作で体の半分をこちらに向けて、少しだけ振り返る。
「これだけは忘れないでくれ」
力になれない。
このままじゃ、友希那が笑わなくなったあの時と何も変わらない。
それは嫌だ。絶対に嫌だ。
だから。
だからせめて。
俺は伝えた。
想いをぶつけるように。
「――俺は友希那の味方だ。友希那がどんな選択をしても、全力で背中を押してやる。絶対に見放したりしない!だから、友希那は自分の本心に従って欲しい。じゃないと、将来必ず後悔することになると思う。……そんな友希那、俺は絶対に見たくない!」
「――――」
「――友希那はどうしたいんだ?」
「……私は…………」
友希那は呼吸を忘れ、苦しそうに顔を歪める。
「……分からない……分からないわ……。お父さんの夢だったフェスに、バンドで出られるのに…………なのに……どうして…………なんで…………っ!」
そして。
今にも泣き出しそうな声で、
「――――和也」
力なく、俺を見上げた。
交り合う視線。
しかし、いつものような気迫は感じられない。
「この話、リサにも話すつもりはあるのか?」
琥珀の瞳が僅かに揺らぐ。
「【Roselia】全員に言わなくても、せめてリサにだけは話してやってくれないか?友希那も分かってるとは思うけど、リサは俺なんかよりずっと昔からお前のこと気にかけてる、つまり俺と同じで友希那の味方だ。リサなら絶対に一緒に真剣になって考えてくれる筈だ」
「……リサに…………」
「ところで、期限はいつまでって言われてんだ?」
「……確か、いつまでも待ってくれるって言っていたわ」
「いつまでもって……ほんと優遇されてんだな……。でも、リサにはできるだけ早めに話してやれよ?言い出し辛いだろうから俺から話してやっても良いけど、それは友希那が嫌だろうし、それにリサには友希那から言ってやった方が良いと思う。まあ、どうしても無理な場合は俺に頼んでくれ。俺はそれまでリサには言わないからな」
もちろん他の人にも、と付け加える。
正直、迷いどころではあるのだが、ここは友希那を信じよう。
友希那なら自分から動いてくれるはずだ。そう信じている。
俺は暗い雰囲気を一掃するように友希那に笑いかけた。
「時間もあるみたいだし、焦らずにゆっくり考えていこうぜ。考えて考えて考えて、考え抜いた末に選んだ選択なら、きっと後悔なんてしなくて済む筈だしな!」
「………………そうね」
大丈夫。
友希那ならきっと大丈夫だ。
「よし!そうと決まれば!」
「あれ?友希那と和也じゃん。おかえり~!」
「ん?おうリサ。ただいま。……って、もう家かよ」
リサに声をかけられ、周囲に意識を向けるとそこは自分の家のすぐ近くだった。
こんなところで立ち止まって話していたのか。つか、いつの間にか夜になってるし……全然気が付かなかった。
「二人で何の話してたの?アタシも混ぜて~☆」
「軽い世間話だよ。俺のバイトと友希那の練習が終わったのが重なったから、最近の【Roselia】の調子とか色々聞いてた。リサは今日何してたんだ?」
さっきの話がバレないように誤魔化して話題を逸らすと、リサはよくぞ聞いてくれましたとばかりにご機嫌な声音で答えた。
「アタシは【Roselia】が雑誌に載った記念に、あこと燐子とお茶会してたよ♪楽しかったから友希那も来ればよかったのに」
「あー、そういえばうちにもその雑誌が置かれてたし、確かにそれはお祝いもしたくなるな。友希那は何で行かなかったんだ?」
「リサには言ったでしょ、そんな暇ないって」
「ほんと友希那は練習熱心なことで。CiRCLEでも言ったけど、少しは息抜きを……って、リサ?」
リサが友希那のことをジーっと窺っている。
まさかとは思うが、もうバレた?
そう思いドキドキしながら、俺は恐る恐る探ってみた。
「ど、どうした?友希那の顔に何かついてでもしたか?」
「……ううん、そうじゃなくて。友希那、いつもとなんか様子違うくない?」
「「――――!」」
「何かあったの?」
リサが不思議そうに友希那を見つめ、友希那はサッと顔を背ける。
スカウトされたことをリサに言うチャンスなのかも知れないが、さっきあったばかりでまだ流石に友希那も言い難いようだ。
友希那と同じでリサを騙すのも気分が乗らないけど、仕方が無い。
「友希那、何かあったのなら話して欲しいな」
「なんでもないわよ」
「む~、和也も友希那について何か思うとこない?」
「別に俺はいつもとあんまり変わらないと思うけどな。あ、あれじゃないか?友希那は今日普段よりちょっと長めの自主練してたから、それで疲れてるとか?」
「んー、和也がそう言うならそうかも。…………うん、多分アタシの気のせいだ」
そう結論付けると、リサは「気にしないで~」と陽気に言って仕切り直す。
「そういえばさ友希那、【Roselia】の衣装作ってもいい?」
「……当てはあるの?」
「うん!燐子が服を作れるらしくってさ~。自分の服もだけど、あこのあの黒い服も燐子が自分で作ったんだって♪」
「えっ!?じゃあ、あれって手作りだったのか??!全然分からなかった、白金さんの裁縫技術スゲーな」
「でしょ!腕は確かだから、どうかな友希那?」
「そう……。好きに、したらいいわ……」
「へへ☆ありがとー!皆にメールしよーっと♪」
話題が完全に変わり、リサが友希那の様子をぶり返すことも無くこのまま話は進んでゆく。
きっと、これでいいはずだ。
大丈夫。きっと大丈夫。
友希那だって分かってくれたはずだから。
なのになぜだろう。
大丈夫だと思っている筈なのに、どこか胸に不安が残る。
――杞憂であれば良いのだが。
△▼△▼△▼△
「……っ。……おーい、友希那ぁ~……。…………って、反応するわけないかぁ……」
消えていく声。
リサは窓から正面に見える友希那の部屋を見つめては、完全に仕切られている紫のカーテンが開かなことを悟り、肩を落とす。
(中学ぐらいまではこうやってベランダ越しに良く話してたんだけどな…………最近は……)
倒れ込むように。
リサはベットに身を預け、その衝撃でベットに置いていたぬいぐるみが弾んでバランスを崩した。
「……和也も何か隠してるみたいだったし……友希那、本当は何か悩んでるんじゃないの…………?」
幼馴染であり、親友である友希那を心配したその声は、友希那どころか誰にも届くことはない。
転倒したぬいぐるみを抱え、リサは天井を眺めた。
「――!」
着信音が部屋に響き渡る。
画面には見慣れない電話番号。
しかし、それでもかけてきた相手が誰であるのか、友希那には電話に出る前から検討がついていた。
「……はい、もしもし。…………ええ、そうですか」
当たっていた予想。
友希那は電話越しから話されるその内容を、ただ黙々と聞くのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
今更ですが、紗夜さんとかお茶会とかみたいに書いていない場面は、アプリの話と同じです。なので、最初の紗夜さんは楽器店でパスパレのポスターを見た後の紗夜さんですね。(今回の話はRoseliaのバンドストーリーで言う、11~12話ですね)
前書きでも書いた通り、これから現実の方で忙しくあるのでもっと更新が遅くなるかもしれません。できるだけ時間を割くようにしますが、そこのところご了承してくださると幸いです。
では、また次回にお会いしましょう。お気に入り登録をまだしていない人は、してくださるととても喜びます。それではばいちっ!