青い薔薇に棘があろうと握った手だけは離さない   作:ピポヒナ

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 皆さんこんにちは、ピポヒナです。
 前回でも予告していた通り、更新がとてもとても遅くなってしまいました。
 リアルがめっちゃ忙しい!って程でもないんですけど、今回はどちらかと言うとスランプ気味と言いますか、何故か進まない感じで……。

 とそんなことは置いといて、バンドリの近況報告をしましょうか。
 日菜ちゃんと紗夜さんのロリイベ可愛かったですね!自分は紗夜さん当てました!以上!!

 それでは、本編どうぞ!
 あ、言い忘れていましたが、今回は二つに分けたので短めです。



15歩目(1) 自分の気持ち

 

 

 ――天井を見上げていた。

 

 あらゆる部位は脱力し切り、仰向けに寝転がっているその体は完全にベットに任せる。

 天井の丁度中心にある、白い円型のシーリングライトが眩しい。

 瞼を閉じれば、その光が網膜に焼き付いたかのように暗闇の中で漂っている。

 

(こんなことを……している場合じゃ…………)

 

 そっと瞼を上げ、頭のすぐ右にある己の携帯を見れば、未読のメッセージがあることが画面に映し出されている。

 メッセージが届いたのは、1時間程前のこと。そして、その送付元は――。

 

「――――」

 

 思考を途中でかき消し、銀髪の少女――友希那は再び瞼を下ろした。

 

 ――トクン、トクン、と。

 止まることなく、一定のリズムで刻まれ続ける心臓の音。

 胸の上で重ねる両手から伝わってくるその鼓動を全身で感じ取りながら、ゆっくりと深呼吸を繰り返し、心を落ち着かそうとする。

 しかし、

 

(――どうして)

 

 どうして、目を逸らした。どうして、メッセージを開こうとしない。どうして、返事を返そうとしない。どうして、動こうとしない。どうして、胸が苦しくなる。どうして、迷っている。

 どうして、どうして、どうして、どうして、どうして――、

 

「スカウトを受ければ、夢だったフェスのステージに立てるのに……どうして…………」

 

 自身の不可解な行動に、『どうして』が積もりに積もってゆく。

 

 夢は、とうの昔に決めたはずだ。いいや、かつてあのステージで歌った父の姿を見た時から、自分のやるべきことは決まっている。

 自分もあのステージに立つ、と。

 あのステージに立ち、自分の歌声で、音楽で全てを魅了し、そして――。

 

 落ち着きかけていた友希那の鼓動が、また乱れ始めた。

 その時だった。

 

「――っ!?」

 

 突如、携帯が音を立てて震え出し、着信音が流れる。

 咄嗟に身を強張らせた友希那は、画面に映し出される幼馴染の名前を見て、息を吐いた。

 

『やっほーゆっきな~♪いきなりごめんね~。驚かせるつもりは全然なかったんだけど、ちょっとタイミングが悪かったみたい』

 

 電話越しで聞こえて来るのは、画面に書いてある通り幼馴染の声。昔から毎日のように耳にし、もはや当たり前になっていた明るい声だ。

 

「……リサ、何の用?」

 

 友希那は、リサとは対照的に声を暗くして、電話をかけてきた理由を訊ねる。

 

『いや~、ちょっと友希那と話したいことがあってさ。窓、開けてくれない?」

 

「忙しいから無理。それじゃあ、切るわね」

 

『ちょ――――」

 

 制止を求めようとしたリサの声は、友希那が電話を切ったことで強制的に途切れた。

 電源ボタンを軽く押し、画面が真っ黒になった携帯を腕ごとボスンとベットに落とす。

 背中側にある窓の向こう。リサの部屋の方から「あー!もう切られたっ!」と嘆く声が聞こえた気がした。

 

 流石に早く切り過ぎたか。あれじゃあ、すぐにまたかけ直してくるだろう。

 しかし自分がすることは変わらない。またかかってきても、先程のようにまた門前払いをするだけだ。

 今はリサに限らず、誰の声もできるだけ聞きたくないのだから。

 

「――――」

 

 右手に握る携帯が着信音を鳴らしながら震え出した。

 予想が的中し、友希那は画面を見ずにため息を吐く。

 

 電話に出ない、という選択肢はあるにはある。が、それをしたところで、きっとリサは自分が出るまで何度でも電話をかけてくるだろう。

 それなら、この電話に出て、もう一度きっぱりと断って諦めさせた方が手っ取り早いはず。

  

 友希那は、感覚だけで親指をフリックして電話を開き、携帯を耳に当てた。

 抑えきれなかった息を吐いて。

 

「はぁ……リサ、さっきも言ったけど私は――――」

 

『――おいおい、電話始まってからの第一声がため息ってのは流石に酷くねーか?』

 

「っ?!」

 

 携帯から発せられたのは、先程とは全く違う男性の声。そして、その声の持ち主を友希那は10年程前から知っている。

 

「和也……どうしてあなたが電話に……?」

 

『どうしてもなにも、俺が友希那に電話したんだから俺が出るのは当たり前だろ?』

 

「えっ……?」

 

 友希那は咄嗟に携帯を耳から離し、画面を見る。

 すると、確認した画面に映し出されていた電話相手の名前は、和也が言っていたように彼のものだった。

 どうやら、リサからまた電話がかかってくると思いすぎるがあまり、電話に出る前に相手を勝手に決めつけていたようだ。

 

 まあ、だとしてもだ。

 リサからの電話を切ってからすぐのこのタイミングで、電話をかけてくることはつまり――、 

 

「……リサと一緒にいるのね」

 

『正解。さっきのリサとの電話も隣で聞いてた。にしても、友希那お前電話切るの早すぎだろ。切られた後、リサがスッゲー顔で切られたーって嘆いてて大変だったんだぞ?』

 

『そんな顔してないから!』

 

 和也の茶化しを否定するリサの声が飛び込んでくる。

 何度も隣で聞いたようなちょっとした2人の掛け合い。本当に一緒にいるらしい。

 

 リサと和也が一緒にいるということは、電話をかけてきた理由も同じだろう。そして、二人がしようとしていることは恐らく、予感しているものとそう変わらないはず。

 

 胸がズキリと痛む。

 嫌だ。怖い。話したく、ない。

 

「…………リサとの電話を聞いていたなら、和也も知っているでしょ?」

 

『忙しいから無理、ってか?』

 

「そうよ、私は今、忙しいの……!」

 

 視線を落とし、バツが悪い表情で友希那はそう言い切る。

 少しでも早く、二人が諦めてくれるように。

 

 しかし、和也は諦めるどころか、まるで子供の我儘を聞いた親のようなやれやれといった声で、

 

『あのなぁ、何もせずにベットで寝転がってる状態は、世間一般じゃ忙しいじゃなくて暇って言うんだよ』

 

「――っ!?」

 

 自分の状況を言い当てた和也の言葉に、友希那は飛び起きる。

 

『やっと起きたか。何で知ってるんだって感じだな。ま、ちょっと窓の方向いてみろよ』

 

「窓……?――あ」

 

 振り向いた瞬間。

 友希那は、自らの失態を悟った。

 というのも、和也に言われた通り窓の方を向いてみると、視界に入ってきたのは――、

 

『友希那~☆』

 

『気付くのおせーぞ』

 

 閉まり切っていない紫色のカーテン。そして、振り向いた自分に向かって窓越しで手を振るリサと和也。

 

 ああ、そういえばリサの電話の第一声も、まるで友希那()の様子を見ているような感じだった気がする。きっと初めから嘘はバレていたのだろう。

 

 友希那は電話を切って右腕を下ろし、これ以上抵抗することをやめた。

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

「――ふぅ……。今日のピークもよく乗り切ったぞ!私!!」

 

 己の奮闘を讃え、そう声を大にして上げたのは、『ライブハウスCiRCLE』のスタッフ――月島まりな。

 仕事量が少なくなったこの束の間の休息に、長時間労働によって硬くなった体を、まりなはここぞとばかりに伸ばしてはほぐす。

 そうやって、節々からバキバキ、パキパキと骨の鳴る感覚に気持ち良く思っていると、

 

「あれ?あれからもうこんなにも時間経ってたんだ。和也君、大丈夫かなぁ?」

 

 体を伸ばす為に上を向いたことで視界に入ってきた時計が指示していた時刻に、驚きを交わらせてふとそんな事を口にする。

 

 あれから――立ち直った和也が部屋から飛び出して行ってから、時間は思っていたよりも経過していた。

 そうなってくると、何かしらの進展があってもおかしくは無い筈。いや、すぐに行動に移す和也のことだ。ほぼ間違いなくもうすでに何か行動を起こし、そして、状況は何かしらの進展を迎えているだろう。

 和也の相談を受けたこともあって、そのことが凄く気になる。

 

 相談の終盤に聞いた話の通りであるならば、今すぐにやりにいくと言っていたことは確か――、

 

「リサちゃんに謝りに行く、だったっけ?それならもうとっくの前に仲直りし終えてる筈だよね?」

 

 話を聞いた限りだと、そもそも二人は喧嘩していたという訳ではない。それならば、和也とリサはすぐに仲直りするだろう。

 二人共素直で優しい良い子達だ。すぐに許し合うだろうから、何も心配はいらない。

 

「それなら、心配した方が良いのはその次かな?」

 

 リサとの仲直りをし終えたその次――恐らく和也のもう一人の幼馴染である友希那との話し合い。心配すべきなのは間違いなくこっちだろう。

 

 和也からの話によると、今回の騒動が起こった原因である友希那へのスカウトは、かなりの好条件だ。メジャーデビューが約束されているということもそうなのだが、それよりもこのスカウトの条件を良いものにしているのは『FUTURE WORLD FES.』のメインステージで演奏できるということ。

 

 プロでさえ予選敗退が当たり前と言われる程に出場までの壁が高く、名実ともに日本国内屈指のコンテストである『FUTURE WORLD FES.』のメインステージ。選ばれしバンドだけが立つことが許されるあのステージからは一体何が見えるのだろうか。

 

 それは、本気でプロを目指している者なら誰しもが一度は抱く憧憬。

 もちろん、数年前までプロを目指してバンド活動をしていたまりなもその例に漏れず、友希那がスカウトされた際に提示されたその破格の条件を和也から聞いた時には、思わず体を前のめりにして3回も聞き返したほどだ。

 それぐらい魅力的。十二分に惹かれるし、とても羨ましいとも思う。

 バンド活動をやっていた身からして、そう思わずにはいられないからこそ――、

 

「友希那ちゃんもあの条件には魅力を感じてるだろうし……和也君はどうやって説得するつもりなんだろう?」

 

 まりなは、その難しさを知っている。

 1人のアーティストとしての正解を知っている。

 

 しかし、その一方で和也がどうすれば彼が望んでいる未来に行けるかは知っていない。

 

「――ダメダメ!これじゃあ和也君に失礼だよ!」

 

 首を横に振ってはペチペチと頬を叩き、まりなは不安を払い切る。

 

「和也君を助けるって決めたんだから!私ももっとシャキッとしないと!!」

 

 和也の望む正解は、まりなには分からない。それによって、正解を求めてきた彼の期待を裏切ってしまったのは数時間前の出来事。

 しかし、まりなは本気で和也を助けたいと思って、相談に乗った。だから、まりなが思う必要なことは全て伝えた。彼より少しばかり長い人生経験をフルに活かして、彼がまた笑えるようにと伝え切ったつもりだ。

 それに――、

 

「――それに、和也君は自分の気持ちに気付けたんだからきっと大丈夫!」

 

 だから、心配に思うことはあっても、彼からの良い知らせが来るのを信じて待とう。

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 ふわり、と。

 先程とは違う、だけど心地良い花の香りが広がった。

 ふと視線を周囲に向ければ、そこには白や黒、淡い紫といった落ち着いた色合いの家具が置いてあり、この部屋の主人である彼女らしいなという印象を与えてくる。

 ――ここに入るのも久しぶりだな。

 

「よっこいしょっと」

 

「よっこいしょっとって……年寄りかよ」

 

「もー、ちょっとした癖みたいものなんだし、いちいち気にしなくていーのっ!それとも和也にはアタシがおばあさんに見えてるわけ?こんなにピチピチなのに」

 

「その若さアピールが余計に年寄りっぽいけど、ちゃんとギャルなJKとして俺の目には映ってるから安心しろ」

 

 自分の肌をパチパチと叩いて女子高校生だということをアピールしてくるリサを俺は軽くあしらうと、正面に座るもう1人の幼馴染――友希那へと気を向けた。

 すると、不満気に頬を膨らまして俺を見ていたリサも切り替えて友希那の方を向く。

 

 たったそれだけで空気はガラリと変わり、視界の端で友希那が身構えるように膝の上の拳に力を入れるのが見えた。

 そんなに身構えなくてもいいのに。なんて、この空気感を作り出した俺が言い出すのはきっとおかしいのだろう。

 

 だからその代わりに、いつもより少し長い瞬きをして、いつもより少し多く息を吐く。

 友希那に言いたいことは沢山ある。だけど初めにすることは、この部屋に入る前から決めている。

 

 俺は友希那に向かって頭を下げた。

 

「友希那、ゴメン。さっきは本当に悪かった」

 

「……っ」

 

「どうやったらリサと友希那の夢を両方叶えられるのか分からなくて、中途半端なことをした。……あの時、友希那の力になりたいって言ったのにな。俺、口先だけで全然覚悟できてなかった」

 

 なんの前置きも無しにそう謝ると、友希那の表情は険しくなった。

 まるで何かを堪えているように。

 そして、

 

「友希那、アタシもごめんね」

 

 俺に続いてリサが再び謝罪の言葉をかけると、友希那の腕が少し震えた気がした。

 

「アタシ、友希那が何かに悩んでるってこと……家の前で和也と友希那が話しているところにたまたま会ったあの夜から多分……ううん、アタシはあの時から気付いてた。……気付いてたのに、アタシは何も……っ、なんにもしなかった……っ!」

 

「……っ…………」

 

「今思えばその時だけじゃない。今までも、ずっと、アタシはなんっにもしてない……!【Roselia】のこともフェスのことも、お父さんのことだって、全部友希那1人に背負わせて……アタシは見守っているだけなのに、その事に気付こうともしてこなかった…………。あはは……アタシって友希那の親友失格だなぁ……」

 

 自分を蔑むようなリサの乾いた笑い声が、悲しく部屋に響く。

 その失笑は俺にとっても辛く、聞いていられないものだった。

 だから、俺は止めようとリサの方を向いた。

 

 しかし――、

 

「――でも!」

 

 しかし、リサの黒緑色の瞳は暗くなるどころか、力強く真っ直ぐに友希那を見ていて――、

 

「アタシは、そのことに気付けてないってことに気付けた今を大切にしようって思った!」

 

「――――」

 

「アタシはね、これからも友希那の隣で一緒に居たい。今までは全然ダメだったけど、だからって友希那の親友じゃなくなるなんて絶対に嫌なんだもん!」

 

 そう言うと、リサは下を向く友希那に笑いかけ、目を細める。

 心配する必要は無かった、と自然と思えるような温かい笑みを浮かべ、黙り込む友希那に優しく手を差し伸べた。

 

「だからさ、これからアタシは友希那が背負っていたものを一緒に――」

 

 が、

 

「――どうしてっ!!?」

 

「っ!?」

「!!?」

 

「どうしてリサも和也も私のことを責めないの……っ?!!スカウトを断らないで【Roselia】の皆を見捨てようとした、全部私のせいじゃない!!」

 

 差し出したリサの手は、友希那の叫び声と振り払われた手によって拒絶された。

 声を震わせながら自分自身を蔑み、嘆いた友希那の姿に、リサは瞠目し、友希那に払われた手を引っ込める。

 

 すると、友希那は顔を上げて見開いた瞳をこちらに向け、胸に手を当てながら悲痛な声で訴えた。

 怒鳴りつけるように。

 

「私の自分勝手でこうなったことぐらい分かってる!!なのに……っ、なのになんで優しくするの!?」

 

「「――――」」

 

「私は和也からの信頼をないがしろにした!私はリサに頼ろうとしなかった!だから悪いのは全部私じゃない……っ!!何も悪くない二人が謝る必要なんてどこにもない……っ!謝るべきなのは、私の方なのに……っ」

 

 感情を爆発させ息を切らして、その次に発せられたのは支えを無くしたような力の無い声。

 

「…………二人はいつもそうよ……。私が何をしても二人は笑って……いつも、そばにいて…………。私は……っ……二人がいると…………っ、ちゃんと音楽と向き合えない……。――もう、やめて…………」

  

 すすり泣く声が聞こえてきたのは、それからすぐのことだった。

 服にしわが出来てしまうほど強く自分の肩を抱きながら、友希那はうずくまる。

 

「友希那……」

 

 ごめん。

 そう続けたら、きっと友希那はまた怒るのだろう。

 同じことを思ったのか、リサも友希那の名前を零すだけでそれから先の気持ちを口にする気配は無い。

 

 小さく丸まった友希那の背中が、嗚咽と共に僅かに震えた。そしてその都度、肩を掴んでいる華奢な手に力が加わる。

 

 友希那はある日から弱さをあまり見せなくなった。

 音楽以外はほとんど何もできないポンコツなのに、それを全く感じさせないぐらい肝が据わっていて、いつも落ち着いていて、大人びていて、意思が強くて――。

 

 こうして弱々しい友希那の姿を目にするのは、スカウトを受けた夜を除けば、遠い昔のことだ。

 

 きっとそうしないといけない理由があるのだろう。昔の弱い友希那ではなく、強い友希那でいなければならないような出来事があったのだろう。

 

「――なぁ、どうして友希那は『FUTURE WORLD FES.』に出たいんだ?」

 

 膝を抱えて顔を下に向ける幼馴染に、そう訊いていた。

 ずっと前から気になっていた、とても根本的な疑問だ。

 

「少し考えてみたんだけど、俺って思いの外友希那のこと知らないんだよなぁ。友希那が1人でライブに出てたことを知ったのも、リサと行ったあの日だった訳だし。『孤高の歌姫』なんてカッコイイ二つ名みたいなものまで付けられてさ、観客全員が友希那の歌を求めるぐらいすげぇことになってたことなんて、それまでぜーんぜん知らなかった」

 

 さっぱりだ、と俺は手を広げて苦笑する。

 

 俺は『幼馴染』としての湊友希那を知っているけど、『歌姫』としての湊友希那を知らない。

 だから知ろうとしてきた。まぁ、それでも歌っている友希那の姿を見る度に、俺は友希那のことをまだまだ何も知っていないと痛感してばかりなのだが。

 

 リサからの視線を感じながら、俺は「そこで!」と人差し指1本を立てた。

 

「そんな謎だらけの友希那に今1番聞きたいことっていうのがさっきの質問っつー訳でだな。……『FURTHER WORLD FES.』って確かあれだろ?昔ユキおじさんが出て、それでえっとー……あんまりいい思い出が出来なかったっていうあの大会…………だよな、リサ?」

 

「う、うん。その大会であってる」

 

「ってことはやっぱり、その大会って普通だったら結構おっかなくかんじるんじゃないのか?まりなさんとかの反応を見るに、バンドやってる奴の夢の舞台ってことは察しはつくけどよ――」

 

 縮こまる幼馴染を見ながら、疑問に思ったことをそのまま口にする。

 

「友希那はユキおじさんを通じてあの大会の恐ろしさを誰よりも知っているはずだよな?」

 

 友希那の父親――ユキおじさんのバンドはかつて、ヒットチャート1位に何度も輝くほどの人気を誇っていた。その人気から『FURTHER WORLD FES.』に出場するのももはや自然な流れであり、ユキおじさんのバンドへの周囲からの期待は日を追うごとに膨れ上がっていた。

 

 そして迎えた大会当日。俺は選抜の選考会と丁度重なってしまって泣く泣く見に行くことを断念し、リサと友希那がユキおじさんが夢の舞台へ立つその瞬間を見届けることになったのだが――、

 

 ――後日、リサから聞いた結果は惨憺たるものだった。

 

 それからだろう。ユキおじさんのバンドの曲がヒットチャートから姿を消し、街中で耳にすることが無くなったのは。

 それまであった人気は嘘だったかのように無くなり、やがて向けられたのは嘲笑。

 時々家の前で会うユキおじさんの顔はやつれていく一方で――、

 

 ユキおじさんのバンドが解散したのは、それから間もなくしてのことだった。

 

「それなのに、どうしてわざわざ挑もうとするんだ?……ユキおじさんの仇を取るため、とかそんな感じか?」

 

「――っ」

 

 友希那の指が、ピクッと動く。

 

「教えてくれ友希那。――お前は何を思って、何のためにあの舞台に立ちたいと思ってるんだ?」

 

「……わた……しは…………」

 

 そう小さな声が聞こえ、それと同時にムクリと顔を少し上がった。

 充血した目と紅潮した頬。

 潤んだ琥珀の瞳が、ようやくこちらに視線を向ける。

 そして、震えた唇がゆっくりと開いて――、

 

「――私は……あの舞台に立って……お父さんに笑って欲しい」

 

 




 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 今回は元々の文字数が16000を超えてしまったため、2話に分けることにしたんで、後書きはそっちの方に書きます!
 
 後編?は本日中にあげるんで、皆さん一旦バイちっ!
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