なんと、お気に入り登録が100人を超えました!
まだ物語的には、バンドリ本編とそこまでストーリーは変わらないのに100人を超えるとは……本当にありがとうございます!
100人は初めの目標だったので、とても嬉しいです(^^)
だからか、今回は自分的には比較的早い更新。頑張りました。
それじゃあ前置きはこれぐらいで、本編どうぞ!
少し時間が巻き戻ったところから始まります!
「お帰り、和也」
「悪い、リサ。待たせちまったな」
「ううん、全然大丈夫」
向かいにあるベランダの柵を飛び越えてきた和也を、ずっと待っていたリサが迎い入れる。
「少し待っててくれ」と和也が言ってからそこそこ時間は経ってはいたのだが、そのことについてリサは特に気にしていない様子だ。
あえて気になるものをあげるとすれば――、
「友希那になんて言ったの?」
「色々言ったよ。言いたかったことも……言うつもりじゃなかったことも、色々と」
「色々言った割には、友希那倒れてるけど……あれって大丈夫?」
「倒れてる?」
少し心配そうにリサが指を指したのは、和也が立ち去る際に呼び止めようとしてバランスを崩した友希那。
リサに指摘され、和也は少し驚きながら振り返って倒れている友希那を目にすると、もう一度リサの方に顔を向けて、
「倒れてることについては知らない。けど、多分大丈夫だと思う。流石に高二だし、あれが原因で泣いたりはしないだろ」
「あははは……それはアタシも分かってる。聞き方が紛らわしかったかもしれないけど、そうじゃなくてさ?」
「友希那が自分で答えを出せるかの心配だろ? 分かってる。でも、その心配も必要ねぇよ。今は色々と大きいことが重なった上に、俺が揺さぶっちまってああなってるけど、友希那には昔からしっかりとした芯があるから、ちゃんと答えを出してくれるはずだ」
「そっか。和也がそう言うなら、きっとそうなんだろうね」
最後に友希那と会話した和也がそう答えたことに安心すると、リサは自室の窓を開けた。
友希那の部屋に行く前に電気を消していたため、部屋の中は暗い。それでも外の明かりでおおよその家具などは視認できる。
和也も中に入るのを待ってからカーテンを閉め、リサは扉のすぐ隣にある部屋の電気を付けようとする。
そうして扉に近づくと、食欲を誘う香ばしい匂いが鼻を掠めた。
どうやら今日の晩御飯はハンバーグらしい。
くきゅう、と可愛らしくお腹が鳴ってしまったのは、空腹なのに想像してしまったからだろう。
恥ずかしくて、それを誤魔化すために振り向いて和也の方を見るが、彼の様子からしてどうやらさっきのお腹の音は聞こえてなかったように思える。
「よかったぁ。ねぇ、和也。和也もまだ晩御飯食べてないでしょ? それなら家にきたついでにさ、久しぶりに食べて行かない? きっと、お母さんもお父さんも喜ぶと思うから!」
どう?と指を立ててそう誘ったのは、思い付きからだった。
お腹の音が聞こえたと思って慌てて振り向いた時に見た、いっぱいいっぱいになった表情を下に向ける彼の姿に、元気を出して欲しくて何か言わなきゃと思ったからだった。
だから――、
「――ごめん、リサ。俺のせいで……俺のせいで友希那の隣にいたいってリサの夢が……叶わなくなるかもしれない……………ごめん……」
だから、内容はともあれ、こうして和也が謝ってくることをリサは事前に察していた。
いや、もしかすれば、和也が友希那の部屋から戻ってきた時にはすでに感じ取っていたのかもしれない。
「もう、和也のことだからきっと友希那にも『どっちを選んでも、俺はお前の背中を押してやる!』って言ったんじゃないの?」
「――。な……なんでそれを……」
核心を言い当てられて動揺する和也。
ハッと上げられた信じられないとでも言いたそうな和也の表情を見て、リサは「お? 図星か」と少し得意気。
カーテンが開かれていたことで、リサの部屋のベランダからでも和也と友希那のやり取りを少し窺うことはできた。が、それも高がしれている程度のもので、2人の声までは聞き取れていない。
それなのにも関わらず、リサが和也が取った行動を言い当てれたのは他でもなく――、
「なんでって、だって今まで和也がアタシにそう言ってくれてたもん。だから和也がそうやってカッコつけるのも知ってるし、今みたいに変なことを気にして落ち込んじゃうのも知ってる」
「――――」
「アタシはそんなところが和也の良いところだって思ってるから、これから先また何かあった時は、アタシや友希那、ううん、それ以外の子にでもいいから、そうやって応援してあげて欲しいな」
そう言い、リサは微笑んだ。
暗い部屋の中、カーテンの隙間から僅かに差す月光が、彼女の温かな笑みを淡く照らす。
「ほら」と優しい声音で耳を撫で、リサは崩れ落ちてしまいそうな和也の頭の後ろに手を回してグッと肩に抱き寄せて、
「元気が出るまでアタシがいくらでも慰めてあげるから。元気が出たら、また一緒に頑張ろ? ね?」
「…………ごめん……辛いのはリサも同じなのに……」
「もー、またそうやって心配する。今はアタシが和也を慰めてるんだから、和也はそんな心配なんかしないで、大人しくアタシに慰められなさいっ」
あえてふざけたように言われたリサの優しさに、和也は「ごめん」としか返せなかった。
泣きたい程辛いはずなのに、そのことを悟らせないように優しく慰めてくれるリサの行動は、ありがたいと同時に胸が裂けそうなぐらい申し訳なくて――、
「……ごめん…………ごめん……」
「…………」
「……っ……ごめん、本当にごめん……っ」
「……うん。……いいよ」
「あの時だって……っ、俺はリサに……っ……こうやってもらって……っ」
情けなくて、情けなくて。
いつも彼女の温もりに甘えてしまう自分が本当に情けなくて――、
「大丈夫……ずっと傍にいるから」
「――――」
その言葉に、また救われて。
それでもリサにはまだ何も返せていなくて――、
「ごめん……! ごめん……っ! 本当に、ごめん……っ!!」
「む、ちょっと謝り過ぎ。迷惑かけてるって思ってるんだったらさ、『ごめん』って謝るよりも『ありがとう』って言ってくれた方が嬉しいな」
泣きじゃくっても嫌な顔一つせず、そう言ってくれる彼女の温かさを手放すことはできなくて――。
「………………ありがとう……ごめん」
「まぁ……今はそれでいっか」
苦笑と嗚咽が、暗闇に溶けていく。
まるで不安で涙が作られていたかのように、リサの服を濡らしていくほど心が軽くなっていく気がした。
優しく背中をさすってくれるリサの掌から伝わる熱が、立ち直るための力に変換されていく気がした。
リサに慰めてもらうのは、これが初めてではない。
心が大きく乱れた時、リサはいつもその温かさで救ってくれる。
リサの前では、弱い自分をさらけ出すことができた。
「……リサ……俺はきっと、最後は何もできない……ただ見ているだけになると思う……」
「分かってる。最後ぐらいはちゃんとアタシ達で解決しないとね」
「……頼んだ、リサ……」
「うん。任せて」
そうやって今回もまた、和也はリサに力をもらって、立ち直らせてもらって、救ってもらって――、
△▼△▼△▼△
真っ直ぐこちらを見据え、歩いてくるのは十年以上の付き合いのある幼馴染。
もはや見慣れた、と言っても良いほど、その姿は常日頃から、彼女が小さい頃から目にしてきた。
だが、今日はいつもとは違っているように見える。
違うと言っても、外見が変わったわけではない。
腰まで伸びた、光の当たり具合によっては淡い紫色に見えるその銀髪も、まるで出来のいい人形のように整ったその顔立ちも、スラッとしていて清らかなその手足も、平均よりも小さく華奢なその体も、強い意志を宿したその琥珀の瞳も――いつも通りの佳麗さだ。
それじゃあ何が違うのかと言えばそれは――、
「私の正直な気持ちを話す前に、まず謝らせて。……この前は、ごめんなさい。一バンドメンバーとして、不適切な態度だったわ」
「それは、どういう意味の謝罪ですか?」
「自分の気持ちを、自分で理解しきれていなかった。あなた達との関係を、ちゃんと認識できていなかった。そのことについての謝罪よ」
「つまり、今はもうそれらの答えを出したってことだな」
「ええ。――スカウトは断ったわ」
友希那は端的に、まずは下した決断をハッキリと伝えた。
彼女の決断を耳にし、スタジオ内にいた者全員が驚嘆の反応を露わにする。それは、その中で唯一バンドメンバーでない和也も例外ではない。
リサ、紗夜、あこ、燐子、そして和也。【Roselia】のメンバーである彼女らと、当事者である彼がこの場に呼ばれたのは、友希那がようやく下せた決断を伝えるため。
その目的は今こうして、決断した彼女自らが事実だけを口にしたことによって果たされたわけではあるのだが、それで終わるわけではない。
というのも――、
「や、やった! それじゃあまた【Roselia】を……!」
「待ってください。私は納得できません」
そう、決断を聞かされた者にも、それに対して言いたいことがある。
誰よりも早くに反応を示したあこを、紗夜は喜ぶのはまだ早いと呼び止めると、友希那へと問い詰めた。
「湊さん。スカウトを断ったとしても、私達を『バンドメンバー』ではなく、『コンテスト要員』として集めた事実は変わりはないのよね?」
「紗夜! なにもそんな言い方!」
「――今井さんは黙ってて。私は、今井さんにではなく、湊さんに聞いているの」
意図的に聞こえを悪くされた詰問にリサが物申すが、紗夜は一瞥もくれず硬い声だけで一刀両断。
そんな彼女にリサもまた言い返そうとしたが、吐き出しそうになった感情をグッと喉元で押しとどめた。
紗夜の剣幕に気圧されたからではない。もう黙らないと心に決めたのだから、それぐらいの恐怖では今のリサは止まらない。
だが、今ここで守っても何も生まれないと、リサは向かいに立つ大切な幼馴染、友希那へと意識を向けた。
――この質問は、今回の騒動の原因である友希那が答えなければ意味が無い。
「どうなんですか、湊さん?」
「……否定はしないわ。私があなた達を見つけ、【Roselia】を立ち上げたのも、私がこれまで音楽をやってきたのも、他でも無く『FUTURE WORLD FES.』に出場するためだもの」
「――。……そうですか。否定、しないのですね」
「紗夜が言ったように、その事実は変わりないのだから……」
言いながら、友希那は目を細めた。
僅かに下を向いた琥珀の瞳に、紗夜は顔をしかめさせると大きく息を吐き出し、自分からして右側にいるリサ、あこ、燐子の方へと向いて、
「聞きました? 私達は友希那さんの夢を叶えるために都合よく集められたコンテスト要員であることを、湊さんは否定しなかった。……それがどういう意味か分かるわね?」
冷静に。そして、冷酷に。
紗夜は、自分自身と他のバンドメンバーに言い聞かせるように警告する。
友希那は『FUTURE WORLD FES.』に出ることを夢見ている。
【Roselia】を結成したのもそれが理由だ。今年のフェスに向けたコンテストの応募条件――三人以上というハードルを満たしながら、出場権を掴み取る可能性をより上げるための最適解として最終的にはこの五人でバンドを組むことになった。
『FUTURE WORLD FES.』は疑いようもなく頂点。
だから、バンドマンの一人として憧れを抱くのは当然のことであり、そこに出場することを目標に掲げるのは決しておかしくはない。
だが、フェスに出ることが全てだと言うなら――、
「フェスに出て、それからどうするのか。失礼だけど、その先のビジョンを湊さんは持っていないということになる。――つまり、私達は使い捨て。フェスに出られたとしても、その後に待っているのは『用なし』として捨てられる未来だけだわ」
「――それは違うわ!!」
刹那、紗夜が並べていた推測を否定したのは、友希那の大声。
外にまで届くかと思うほど強く、そうではないと訴えかける。
「確かに初めはそうだった……! メンバーを探していた時は、フェスにさえ出ることができればと思っていた……っ! だけど今は……」
「だけど今は違うと。考えが変わったと、そう言うのですか?」
「ええ。……紗夜を見つけて……皆が集まって……いつの間にか、私……」
気持ちの変化を吐露していく友希那。
だが、肩を震わせる友希那の姿を見ても、紗夜は「そうですか……」と冷たく言い、
「ですが、湊さんの考えが変わったとしても、あなたが私を……私達を裏切ったことは変わらない。私があなたにどれほど失望したか、少しは分かるはずです。……それなのに、気持ちが変わったからその言葉を私達に信じろと? 私達を裏切ったあなたが?」
「……分かってる…………分かってるわ……」
「紗夜、流石にこれ以上は見過ごせない」
必要以上に追い討ちをかける紗夜を看過できず、リサは言いながら友希那を守るように二人の間に立つ。
「友希那がスカウトをすぐに断らなくて、紗夜が傷ついたのは分かってる。でも、ここまで友希那を追い詰める必要は無いんじゃないの?」
「リサ……辞めて……」
「ううん、辞めない。もう、黙ってないって決めたから……! 今の紗夜は、いくらなんでも言い過ぎだよ!」
「……と、今井さんは言っていますが――さっきからずっと黙っているけれど、あなたは何も言ってこなくていいの?」
リサが眉をひそませるのを見て、紗夜は飄々とした態度で視線を横にズラした。
その視線の先にいるのは、友希那とリサの幼馴染である少年――和也。
彼は友希那とリサに肩入れしている。それも、理由こそは分からないが、幼馴染だからといった理由では到底説明できないほどかなり強く。
それが、紗夜が少ない関わり合いの中で和也に付けた総評であり、その総評は実際にかなり的を得ている部分が多い。
多いのだが――、
「いや、今んとこ俺からは特に何にもねぇよ」
「……意外ですね。あなたなら間違いなく何か言ってくると思ってました」
「氷川さんに全部言えって言った手前、途中で止めたりなんてしねぇよ。……それにこの話し合いには、あんまり口出ししないって決めてんだ」
「へぇ……、少しは人のことを考えるようになったんですね」
動かないと宣言した和也に、紗夜は軽く眉を上げた。
和也は、サッとリサの方に視線を向ける。
幼馴染三人で話し合った後、最後に自分は見ているだけだと伝えていた彼女ならきっと大丈夫だと信じて。
リサのように友希那を庇いたいという気持ちはあるにはあるのだが。
「まぁ、飴と鞭で言うところの鞭の部分が出たとでも思っとけ。それも、百年に一回あるかないかのレベルの大鞭が」
「…………そういうことにしときましょう」
リサとは違って全く友希那を庇う気配の無い和也に違和感を覚えながらも、邪魔が入らないのであればそれでいいと、紗夜は視線をリサへと戻す。
再び向けられた敵対の瞳にリサが警戒して身構えると、紗夜はリサとの間にある2mほどの距離を一歩詰め寄って、
「今井さん。あなたがそうやって湊さんを守っているのは、あなたが湊さんを大切に思っているという『私情』が理由じゃないかしら?」
「確かに私情が無いって言ったら嘘になる。――けど、それだけじゃないっ!」
グッと両手に力を入れ、リサは相対する紗夜に反発する。
「アタシはまたこのメンバーで、【Roselia】の皆と一緒に演奏したいからこうしてる……! 紗夜は何がそんなに許せないの? 友希那だってこんなに反省してるんだから、いい加減に許してあげてもいいんじゃない?」
「許す……? ――今ここで私が湊さんを許すことで、このバンドは良くなるのですか?」
「――!?」
「リーダーであるにも関わらず誰よりも早くにバンドを見捨てようとしたことを全て無かったことにして、何の責任も取らすこともなく活動を再開する。それが【Roselia】にとっての最善だと、今井さんはそう思っているということですね?」
「そ……それは…………」
「私はそうは思いません。過ちを犯した者は、それ相応の責任を取るべきです。それにもしここで妥協して湊さんを許してしまえば、例え【Roselia】の活動を再開したとしても、何か大きな壁にぶつかった時に私達はまた必ず妥協することになるでしょうね」
「――――」
紗夜がもう一歩前進し、リサはその分後ずさった。
何も反論できず、リサは顔をしかめてギリッと下唇を噛む。
完全に言い負かされた。そして、紗夜が言ったことに納得してしまった。
反省しているからと、ここで何もしないで友希那を許したところで、それは今回の問題が解決したとは言えない。
それはただ、解散するのを少し先延ばしにしているだけだ。
「もちろん……そのことも分かってるわ」
肩から感覚が伝わり、リサがそちらに振り向くと、友希那が手を置いていた。
守るように前に立つ幼馴染をどかすように横に押され、それに対してリサも咄嗟に抵抗するが、友希那が無理矢理押し切って紗夜の前に立つ。
「友希那……」と心配したリサの呟きも、もはや彼女の耳には届いていない。
「あなた達を裏切るような行動をした責任はもちろん取る。その責任として、私は――【Roselia】から、抜けるべきだと思う。私とは違って、あなた達の信念は本物だから」
「――っ!?」
「なっ、なにもそこまでは――!?」
責任を取るために、【Roselia】から抜ける。
友希那の口から飛び出したその言葉に、紗夜は目を見開いて手を伸ばし、その他の四人も驚きを必死に拭って、友希那を止めようとする。
だが、その直後。
「――でもっ!!! でも私はこの五人でまた音楽がしたい!! この五人じゃないとだめなの!!」
驚きも、衝動も。
その時湧いた全ての感情を、友希那の叫びが掻っ攫った。
△▼△▼△▼△
「でも私はこの五人でまた音楽がしたい!! この五人じゃないとだめなの!!」
友希那は叫んだ。
ようやく見つけた自分の気持ちを伝えるために、強く、強く。
「私の行動があなた達を傷つけたことも、信頼を失ったことも分かってる! でも、私にはあなた達以外は考えられない……! だから……だからっ、これが身勝手な我儘でしかないと分かっているけれど、――また私をあなた達の演奏と一緒に歌わせて欲しい!!」
友希那は懇願した。
小さな子供が駄々をこねるように。
ただ、前のようにこの五人でまた演奏がしたいと、そのことだけが叶えばいいと。
「あなた達を裏切ったことが変わらないことも分かってる……! だけど、その責任も、何もかも背負っていくから……償っていくから……紗夜、あこ、燐子、リサ……また私のことを信頼して欲しい……また、私の隣で演奏して欲しい……」
プライドも捨て、友希那は頭を下げる。
その姿を見て、紗夜もあこも燐子も動けなかった。
だがそんな中、ただ一人だけ動いた者がいて――、
「――もう、友希那はまたそうやって一人で全部背負おうとするんだから」
「――!」
「友希那一人になんか背負わせない。アタシも一緒に背負うって決めたから」
言いながら、隣へと並んだ幼馴染――リサは優しく友希那に微笑み掛ける。
そして、その微笑みに友希那が息を呑むと、紗夜達の方へと向き直して、頭を下げた。
「アタシからもお願い。友希那を信じてあげて欲しい」
「――――」
「友希那が裏切ったことを許さなくていい。なかったことにしなくてもいい。――だけど、もう一回だけ信じてあげて。友希那は過去から逃げないでちゃんと向き合うことができるから」
「リサ…………」
自分と同じように頭を下げたリサの姿に、友希那は知らぬ間に声を震わせた。
【Roselia】であり続けたいと言った時、リサなら敵対しないだろうと友希那は思っていた。
なにせ、昔からずっと甘やかしてくる彼女のことだ。先程までのように向けられる非難から守ろうとしてくれることは容易に想像できたし、逆に敵対して非難を浴びせてくることは考えられなかった。
だから、こうやって一緒に頭を下げてくれることは、どちらかと言えば想定内ではある。
そのはずなのだが――、
「……っ……リサ…………っ」
今までずっと傍にい続けてくれ――これからも傍にい続けてくれようとしてくれるリサの覚悟に、友希那は自分の口を手で塞いでいた。
胸から込み上げてくる熱い感情を溢さないように、精一杯、必死に押しとどめる。
まだ、涙を流すわけにはいかないのだから。
「――――」
友希那は感情に押し出される形で息を吐きだす。
そうして、ほんの少しではあるが周りの音が届くようになって、その時にようやく自分の隣に新たに二人並んでいることに気が付いた。
「――紗夜さん! あこからもお願いします! あこだって友希那さんがスカウトをすぐに断ってくれなかった時は凄くショックだったけど、でも、今はそれよりもまたこの五人でまた演奏したいって思ってる……! だから、紗夜さんがいないとだめなの!!」
「あこ……」
「――わたしからもお願いします……! 今回のことで氷川さんが……どれだけ傷ついたか分かるだなんて決して言えませんが……どうか……友希那さんにもう一度だけ……チャンスを上げてください……! わたしも、またこの五人で音楽がしたいです……っ!」
「燐子まで……どうして……」
友希那をまた信頼するよう頼み込むあこと燐子。
裏切られたことに失望し、紗夜のように何か言ってきてもおかしくないはずの二人が、他の誰でもなく自分のためにそう言ってくれたことに、友希那は困惑する。
「私は……私はあなた達を見捨てようとしたのに……」
「誰にだって間違えることはあります……。でも……友希那さんはその間違いから逃げず、背負ってでもわたし達が良いと……【Roselia】を続けたいと言ってくれました……」
「それに、あこもりんりんもまた友希那さんと一緒にステージに立ちたいって思ってましたから!」
「――。ありがとう……っ……二人とも……っ」
友希那がそう言った時には、抑えていたはずの感情がすでに溢れ出ていた。
温かい感情から作られた涙は口元に当てていた手を伝い、――ポタッ、――ポタッ、と落ちていく。
止めようとしても、止まらない。友希那は息を止め、グッと堪えて、何度も何度も腕で目元を拭う。
まだ泣くわけにはいかない。まだ、泣くわけには、まだ紗夜が、まだ残っているのだから、まだ――、
「まだ……っ……泣いている場合じゃ……っ!」
「……これじゃあまるで、私が悪者みたいね」
嗚咽し、大きく弾ませる背中をリサにさすわれ、あこと燐子に心配そうに見守られる友希那。
目の前で繰り広げられているその光景に、紗夜はため息混じりに苦々しく呟く。
友希那がメンバーを裏切った事実は、どれだけ彼女が心変わりしようが変わることは無い。
そう、紗夜は友希那に厳しく言い続けた。
友希那がどれだけ傷つくのか分かってながらも言い続け、紗夜はその行為をしたことを間違っていただとは決して思っていない。涙を流す友希那や、彼女に寄り添う他のメンバーを見て罪悪感が生まれることは否定しないが、それでもあれは必要だったと言い張れる。
なぜなら、一度【Roselia】を裏切った友希那に、その事実を誰かが突きつけなければならないから。
そうしなければ、友希那の本当の気持ちが分からないから。
そして、その変わりようのない事実を突きつけられたうえでもなお――、
「目を背けずに、抱えたまま引っ張っていく。そう覚悟できるのは、また私たちと音楽がしたいから」
突きつけられたうえで、その事実と向き合い、そして乗り越えていく。
そう言い張るのなら、そう貫き通すのなら、そう覚悟したのなら、そう覚悟してくれたのなら――紗夜も応えなければならない。
「あなた達、一つ大きな勘違いをしているわ」
と、言いながら腕を組んだ紗夜に、友希那と彼女をなだめていた三人の視線が集まる。
その他に、一歩離れた場所から向けられる全てわかっているであろう双眸は意識的に無視して、紗夜は「そもそもね」と切り出し、
「私は、【Roselia】を抜けるだなんて一言も言ってない。そして、これから先も言うつもりは無いわ」
「――――」
「それに……この話し合いを始める前からずっと、またこのメンバーで演奏したいと、そう思っていたわ」
あなた達と同じね、と最後に付け加えて紗夜は微笑んだ。
その微笑みを、紗夜が伝えた気持ちをすぐに理解することはできず、友希那もリサもあこも燐子も紗夜を瞳いっぱいに映しながら硬直する。先程までの友希那に対する紗夜の反抗的な姿勢からは想像もつかなくて、脳の処理が追い付いていない。
それでも、脳の処理が追い付いていなくとも、紗夜が【Roselia】から離れないということさえ分かればそれで十分で、
「――紗夜さんッ!!」
「ふぐっ!?」
「よかった、紗夜さんが【Roselia】のこと嫌いになっちゃったんじゃないかって、あこ、ずっと思ってたからホントによかった……っ」
衝動に身を任せ、紗夜に飛び込んだあこ。
突然腹に衝撃が駆け抜け、らしくもない不格好な悲鳴を上げた紗夜は、数歩後ずさって何とか転ばずに堪えると視線を下げ、抱き着いている紫髪の少女を視界に入れる。
押し付けるように顔をうずくめてきている。泣いてはいないようだが、よほど安堵しているのだろう。
「悪かったわね」となだめるように頭を撫でると、「紗夜さん……っ」とあこは抱きしめる力を更に強くする。正直に言って、凄く苦しい。
「だけど、それも私が宇田川さんに心配をかけたから。……我慢するしかなさそうね」
「紗夜……さっきの話、本当なの?」
「ええ、【Roselia】から抜けるつもりは無いという話なら本当ですよ」
「――――」
言いながら紗夜は下げていた視線を元の高さに戻すと、まだ先程の涙の跡が残っている友希那が安堵するように表情を緩めているところだった。
【Roselia】のためとは言え、友希那をすぐに許そうとせずに彼女の覚悟を試した紗夜は、その表情を見て申し訳なさを覚える。
しかし、紗夜はあえてもう一度厳しい言葉を友希那に言った。
「ですが、【Roselia】から抜けるつもりが無いのは現状の話です。これから先も言わないとさっきは言いましたが、お遊びのバンドをするのであれば抜けさせてもらいますよ」
【Roselia】がまだ存在していなかった頃、紗夜がメンバーを探していた友希那とバンドを組むと決めたのは、友希那の歌声が今まで自分が聞いてきたどの音楽よりも衝撃を受けたからでもあるが、それと並ぶぐらい友希那の志の高さと真剣さが伝わったからだ。
だから紗夜としては、いくらこのメンバーと共に演奏するのが心地良いからとはいえ、馴れ合うだけのバンドをするつもりは起きない。
それに、もし高みを目指すことを放棄した時、【Roselia】は以前のような演奏をすることができないだろうという確信じみたものが紗夜にはあり――、
「――もちろんよ! 私もそんなつもりは全くない。これからは今まで以上に厳しくして、【Roselia】の音楽を更なる高みへと引き上げる気でいるわ!」
しかし、紗夜のその確信は友希那も感じていた。
友希那の力強い宣言に紗夜は唇を綻ばせる。
「頼りにしていますよ、湊さん。また【Roselia】のリーダーとして、私達を引っ張っていってください」
「ええ、もうあなた達を裏切るようなことはしない。私も頼りにしているわ、紗夜」
友希那と紗夜。初めに手を取り合った二人が笑みを交わし合う。
その様子を見守っていたリサと燐子は、釣られるように笑みを浮かべて、
「ということは……」
「つまり……!」
「【Roselia】復活!!」
と、燐子とリサに続いて最後にあこが満面の笑みで言ったのだった。
その後すぐに、「解散していたわけではないからその表現は適してないわ」と紗夜と友希那の二人に指摘されてしまうのであるが。
△▼△▼△▼△
「いや~、ホント良かったぁ。一時はどうなるかと思ったけど」
「あこ、燐子、ありがとう。あなた達のおかげで、さっきは勇気が貰えたわ」
胸に残っている【Roselia】の再始動が決まったことへの安堵感をリサが代表して吐き出し、友希那はあこと燐子に感謝を告げた。
一度は彼女達を裏切り、傷つけてしまったのにも関わらず、そんな最低な自分とまた音楽がしたいと言ってくれたことは、あの時の友希那の心に深く深く染み込んだ。
染み込み過ぎてしまって、ちゃんと喋れない程涙を流してしまいはしたが――それでも感謝をしてもしきれない。
もちろんもしあこも燐子もリサも、誰も味方にならない状況に陥っていたとしても、友希那は変わらず「またこのメンバーで音楽がしたい」と訴える覚悟はありはしたが。
「い、いえ……わたしもあこちゃんも……友希那さんがああ言ってくれて、嬉しかったです……」
「うん! それにそれにっ、友希那さんにとってフェスに出ることがすごーく特別なことなのに【Roselia】のことでずっと悩んでくれてるって聞いた時、あこ超ーっ嬉しかった! だから、絶対にまたこのメンバーで演奏できるように頑張ろうって決めてました!」
「ふふ……その話を聞いた時は……私も嬉しかったな……」
「――? あこ、燐子、その話は誰から聞いたのかしら? 私にとってフェスに出ることが特別だということを、あなた達には話していないはずなのだけれど……もしかして、リサ?」
言いながら、友希那はリサに疑いの眼差しを向ける。
しかし、リサは「え?」と素っ頓狂な声を上げてから、「ううん」と首を横に振って、
「アタシは話してないよ? 二人と連絡取り合ったのも、友希那が皆を呼び出すメッセージ送ったよりも後のことだったし」
「それじゃあ誰が……?」
情報の出所が分からず、友希那は眉をひそめた。
友希那にとって『FUTURE WORLD FES.』は特別だ。
それは他のバンドマンがフェスに対して持っているような憧れや特別感とは全く異なった理由からくるものである。
その変わった理由について、友希那はあこにも燐子にも話してはいない。そして、メンバーで唯一知っているリサも話していないと否定した。
それなのに、あこは友希那にとってフェスが特別であることを知っていた。
リサが嘘をついていると考えるのが妥当だろうが、友希那にはそうとは思えない。根拠はないが、長年リサと幼馴染をしてきたことからくる勘と言うやつだ。
そして、その勘が間違っていないと仮定するならば、残される可能性はたった一つ。
「――和也から聞いたのね」
「そうです! カズ兄が色々と話してくれました!」
「色々と……!?」
導き出した答えを、あこは元気よく肯定してくれたが、友希那には喜んでいる余裕はなかった。
というのも――、
(和也は私がどうしてフェスに出たいかを――お父さんのことを知っている……!)
友希那がそれまで誰にも言えなかった本心を口にした時、和也はそれを聞いていた。
そんな彼があこと燐子に色々と話したらしく、二人が友希那にとってフェスが特別であるという情報を知っているとなると、確かめなければならないことがある。
「――――」
友希那は顔を左に動かし、和也の方を見やる。
和也は紗夜と二人で話していた。
和也の耳が真っ赤で恥ずかしがっているように見えるのが不思議ではあるが、紗夜の唇が僅かに綻んでおり、どうやら会話は弾んでいるように思える。
だが、今の友希那からしてみると、そんなものは止まる理由にはならない。
友希那は二人の方へ歩き出し、「和也」と背中を向けている彼の名を呼んでから、
「――私とお父さんのこと、あこと燐子にどこまで話したの?」
と、振り向いた彼に訊ねたのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
紗夜さんと和也が最後に何を話していたのか……それは次回の冒頭で。
3月からまた忙しくなってしまうので、2月中にまた更新できるのよう頑張ります。
それでは皆さん、また次回!ばいちっ!