青い薔薇に棘があろうと握った手だけは離さない   作:ピポヒナ

2 / 29
 こんにちは、ヒポヒナです!
 たった1話でUA700以上いくなんて…感謝しかありません!!

 しかし、今回は色々と謝らないといけないことがあります……
 まず、1話の誤字脱字が多かったこと、
 そして、リサの一人称の「アタシ」を「私」としていたこと、
 最後にこれが一番やばくて、大事なところで間違えて書いたところがあったので、上記の全てを書き直しました。内容は変わってません。

 これからも少しの誤字脱字は、投稿した後に無言で書き直すと思います。
 流石にこれを無言で変えるのは駄目だと判断した場合は、次の話の前書きで報告します。すみませんでした。以上です。

 それでは、本編どうぞ




2歩目 孤高の歌姫

「――それにしても、リサがついてきてくれてホントよかった…。一人で行く事になってたら心臓が飛び出るところだったぞ」

 

「いくらなんでもそれは大袈裟だって」

 

 和也が幸せを噛み締めるように言った言葉に、リサは苦笑しながら反応する。

 三人でCiRCLEに向かい始めてから何分経っただろうか、10分、いや5分?少なくともそこまで長い時間は経っていないのだけは分かる。

 

「いやいや、実際、断られたら…って思って、誘う時結構緊張したんだからな?」

 

「別にそこまで緊張しなくても良かったと思うんだけどなぁ」

 

「緊張するっての。俺はそのCiRCLEってとこ行ったことないんだし、それに……」

 

「それに……?」

 

「俺達が向かっているCiRCLEってライブハウス、本当に大丈夫なのか?」

 

「ん?それってどういう意味?」

 

「俺の中でのライブハウスってあんまり良い印象が無いんだよなぁ……。ほら、なんか危なさそうじゃん?」

 

 言ってしまえば、怖いのである。

 バンドマンのほとんどは、モテたいと言う欲望を叶える為に演奏しており、観客の多くも、異性との出会いを求めてライブハウスに来ている。それと、場内は暗くて何処もタバコ臭い。

 これが俺の中にあるライブハウスのイメージ。だが、もちろんこれらのイメージは俺の偏見MAXであると認めているし、バンドマン達が全員そうでは無いということは分かっている。

 それでも、いつもより心配してしまうのは幼馴染が関わっているからだろう。

 

「大丈夫大丈夫、少なくともアタシがこの前行った時は特に何にも無かった訳だし?そんなに怖がらなくてもいいって♪」

 

「怖がってなんかねーよ!ちょっと不安に思ってただけだっての!てか、前に行ってたんなら俺も誘えよ」

 

「ははっ、ごめんごめん」

 

 リサの事だから、俺を誘わなかったのも悪気があっての事では無いだろう。だから、深くは気にしない。

 しかし、あの有名人気お菓子ト○ポに引けを取らないぐらい最後まで笑いがたっぷりと残っていた『ごめん』は、からかう気しか受け取れなかったので、やり直しを要求したいところだ。

 まぁ、リサが大丈夫と言ったのだから、CiRCLEは本当に大丈夫な所なのだろう。

 友希那も初めて行った時は、似たような不安を持っていたのだろうか――、

 

「って、友希那がいねぇ?!」

 

「え?!あ!あそこ!凄い前に行ってるじゃん!」

 

「そういや、さっきから全然会話に入ってこなかったな…」

 

 リサの隣にいた筈の友希那が、いつの間にか20メートルぐらい前を歩いていた。

 俺は無言でそんな事をするように友希那を育てた覚えはない!という超が着くほどの鉄板ボケを思いついたのだが、俺よりも圧倒的に友希那の面倒を見てきた幼馴染が隣に走っているので、そっと胸の奥に閉まっておくことにする。

 

「やっと追いついたー…」

 

「おいおい、幼馴染置いていくなんて酷いぞ友希那」

 

「あはは、それ友希那と二人の時に同じことアタシも言った…」

 

「二人が遅いからよ」

 

「お、言ったな友希那、それじゃあCiRCLEまで競走するか?アァ??」

 

 もちろん道は知らない。けど、それはそれで一興。

 ドラマで見たヤクザを参考に、巻き舌で言ってみたが友希那は「しないわ」とだけ答えると、また一人先に歩こうとする。

 しかし、それを俺とリサが許す筈もなく――、

 

「…リサ、和也……。狭くて歩きにくいのだけど…」

 

「はっ、自業自得だ」

 

「あはは〜、ゴメンねー友希那」

 

「……間に合うかしら…」

 

 間に挟まれてため息混じりに言った友希那を、俺とリサは目を合わせてクスリと笑う。そして、それと同時に安堵した。

 最近の友希那は何処か焦っていて、周りに人が近寄り難いぐらいトゲトゲしている。だから、強く突き放されないか少し不安だった。

 ――まぁ、例えそうされたとしても、俺とリサは友希那を離したりはしないけどな。

 

 そうこう思っていると、リサと友希那が急に立ち止まり、

 

「やっと着いたー!」

 

「…少し疲れたわ」

 

「……え?」

 

「どうしたの和也?」

 

「本当にここなのか?」

 

「うん、そうだよー♪」

 

「また、からかおうとしてるんじゃ?」

 

「??してないよ?」

 

 不思議そうに俺を見るリサ。

 リサの隣で髪を後ろに払う友希那。

 その彼女達が立っている場所は、綺麗なカフェテラスの前。

 どう見てもライブハウスでは無い。

 

「……俺の目には、オシャレなカフェの入り口に二人が並んでる景色しか見えないんだけど…え、何?ここで一旦休憩?それとも俺の目がおかしいのか?!」

 

「どっちも違うって、横にある建物がCiRCLEで、和也が言ったのは、CiRCLEに付いてある、カフェ兼レストラン兼休憩所って感じの場所」

 

「へ、へぇ…盛り沢山だな……」

 

 建物の入り口を見るとデカデカと『LIVE HOUSE CiRCLE』と書かれていた。

 ライブハウスの――CiRCLEの外観を分からないなりにも何となくは想像していた。が、こんなにオシャレだとは少しも思って無かった。

 もはや、合致している所を見つける方が難しい。それぐらい違う。――友希那と競争してたら、俺一人だけ途方に暮れるところだった。危ない危ない。

 

「友希那、入り時間早かったんでしょ?時間、大丈夫?」

 

「…二人のせいでギリギリになってしまったわ」

 

「そうなのか?言ってくれれば急いだのに。もっと幼馴染での報連相大事にしようぜ?」

 

「……一人で集中したいから、もうついてこないで」

 

「ああ、分かった分かった。頑張れよー友希那ー」

 

「友希那、頑張ってね」

 

 俺とリサは、軽く手を振って友希那を送り出すが、友希那は振り返ることなく出演者控え室の方へ入っていった。

 いつ見ても味気ない。

 

「ちょっとぐらい返してくれても良いのにな」

 

「まぁまぁ、もう慣れたことだしさ」

 

「そうだけどよ」

 

 どちらかと言うと、返って来ないと分かっててやった。

 それでも、少しは期待してしまうのは仕方がないことだと思う。いつか笑顔で返してくれたらなー、と。

 

「で、友希那の出番っていつからか分かるか?」

 

「うーんとねー、確かここの掲示板に順番が……友希那友希那……あ、あった。もうちょっと後みたいだよ。どうする?カフェで時間潰す?」

 

「そうだな……」

 

 リサが指を指していたタイムスケジュールに載っているバンドを一つ一つ見ていく。

 もちろん、俺でも知っているようなメジャーなバンドが来ているはずもなく、友希那以外の知り合いが出ている訳でも無い。――俺が知らないだけで、実は誰か出ているかもしれないが。

 

「絶対成功させようね!」

 

「「うん!!」」

 

「紗夜もそんな怖い顔しないでさ…ほら、力抜いてよ」

 

「……」

 

 ボンヤリと考えていると、後ろからそんな声が聞こえてきた。

 ふと振り返ると、通り過ぎていった人達の中に二人、楽器を持っているのが見えた。

 

「あの人達も出るのか?」

 

「多分そうなんじゃない?ギターとベース持ってるし」

 

「全員女子…しかも俺達と同い年ぐらいか?」

 

「なになに、もしかして可愛い子でもいた?」

 

「そこまでちゃんと見てねぇよ。…ただ、本当にここってガールズバンドに力入れてるんだなぁって」

 

「あー、なるほどね〜」

 

 リサが言った事を疑っていた訳では無いのだが、これも俺の想像していたものと違う。

 ここに来てから驚いてばかりだ。

 見る物全てが想像を上回っており、心が弾んでゆくのを感じる。まだライブハウスに入っただけでだというのに。

 

「――リサ」

 

「ん?」

 

「行こうか」

 

「うん!アタシ、何飲もうかな〜?」

 

「カフェじゃなくて、ライブの方」

 

「あ、そっち?オッケー、それじゃあ行こっか♪」

 

 入場料を払い、リサに導かれるまま階段を一段、また一段と下る。そうする毎に、ロビーにいた時から聞こえていた音がだんだんと確かな物へと変わっていき、更に胸を弾ませて行くのを感じる。

 

 そして遂に――、

 

「すっげぇ……」

 

 ステージを照らすスポットライト。

 前へ腕をを振る観客達の熱気。

 一瞬にして全身を包み込んだバンドの演奏。

 

 何もかもが初めてで、圧倒された。

 

「やっぱり、いつ来ても凄い盛り上がってるなー。って和也、固まっちゃってるじゃん?!」

 

「――あ、ごめんごめん。こんなに凄えとは思って無くて、ちょっと圧倒されてた」

 

「まぁ、初めてはそうなっちゃうよね。ドリンクカウンターの近くが空いてるから、そっちで聴こっか」

 

「ああ」

 

 ドリンクカウンターへと移動してから少しすると、バンドの演奏が終わった。

 俺は出迎えてくれた感謝の意を込めて、盛大な拍手を送る。

『ありがとうございました!!』

 

『最高!!』『次も来るよー!!」『バイバイ!!』

 

 バンドが去った後も、観客達は声援を送り続けていた。

 そして、辺りが明るくなり、見えたその表情はどれも笑顔で、自然と和也も口角が上がる。

 その様子を見ていたリサが肩を叩き、

 

「ほんのちょっとしか聴けてないけど、初めてのライブの感想は?」

 

「すげー良かった」

 

「だと思った。和也の顔にそう書いてるもん」

 

「やっぱり?」

 

「うん、凄い笑ってるよ♪」

 

「なんか照れるな」

 

「えー、良いじゃん良いじゃん♪」

 

 「良い笑顔だよ⭐︎」とウィンクをしたリサから、バッと顔を背ける。

 何故か、凄く恥ずかしかった。

 ――リサって昔からほんっとにこういうところが

 

「…すみません、オレンジジュースください」

 

「あ、話逸らした」

 

「リサは要らないのか?」

 

「要る!アタシもオレンジジュースで」

 

「オレンジジュース二つですね、かしこまりました。――はいどうぞ」

 

 渡されたコップいっぱいまで氷と共に入ったオレンジジュースを受け取り、上がった顔の熱を冷ますようにすぐに半分飲む。

 そのおかげかどうかは分からないが、落ち着いたのでリサの方へと向き直し、

 

「そういや、次のバンドがステージに出てきてるのに何で始めないんだ?」

 

「楽器って演奏する前に色々と準備する必要があってね、それをやってるんだー。ほら、チューニングとか知ってるでしょ?」

 

「あのギターの上のとこをぐるぐる回すやつか」

 

「そうそう」

 

「友希那の家でセッションごっこした時に友希那の父さんがしてたのを覚えてる」

 

「凄く前の話持ってくるじゃん」

 

 「懐かしいなぁ」と、リサは一瞬遠くを見て呟く。

 その一瞬見せた悲しい表情には、言葉にできないほどのリサの想いが滲んでいるように感じた。

 だからか、自然と和也はリサの笑顔を求めるかのように――、

 

「でも、見様見真似でやってみたらすっげー怒られたからあんまり良い思い出じゃないんだよなー」

 

「友希那のお父さんがそんなに怒る筈ないじゃん、絶対盛って話してるでしょ?」

 

「さ、さぁー?何の事かな?」

 

「ははっ、バレバレだよ〜」

 

「くっそ、バレてしまっては仕方がない…俺の負けだ……煮るなり焼くなり」

 

「しないしない」

 

 コップを持ってない手で軽く手を横に振りながら少し笑ったリサを見て、バレないようにホッと一息つく。

 ――やっぱり、こうじゃないとな

 

「あ!もうちょっとで始まるみたいだよ」

 

「おっ、やっとか!なんでもいいから知ってる曲やってくれねぇかな?」

 

「どうだろうねー?和也ってあんまり音楽聴かないし厳しそうじゃない?」

 

「そう言われると…でも、俺は奇跡に賭ける!!」

 

 

 ――――――――――――――

 ―――――――――

 ――――

 ――

 

 

『ありがとうございました!』

 

 演奏が終わり、それに続いて観客達も次々に感想を投げかける。

 そして、あれから四つのバンドのライブを経験した和也は――、

 

「最高ーーーッ!!めっちゃカッコよかったぞーーーー!!!!」

 

「あっはは……、今日初めて来たのに、完全に馴染んでるじゃん」

 

「だって、あんなにカッコいいロック聴かされたらそりゃテンション上がるだろ?!」

 

「確かにそうだけさ」

 

「だろ?!」

 

「…うん。次、友希那だけど体力大丈夫?」

 

「こんなの全然余裕だ!」

 

 少し引き気味なリサが、全く気にならないほど和也は完全にその場の雰囲気に溶け込み、昂った感情を爆発させる。

 思いきり腕を振り過ぎた反動から、次の日ペンを握るたびに筋肉痛に苦しめられるのは、また別の話である。

 

「そういえば、今までのバンドが演奏した中に知ってる曲あった?」

 

「無かった」

 

 「でも楽しかった」と、満面の笑みを浮かべる。

 それを見てリサは「それは良かった」と笑顔で返してくれた。

 なんだこの素晴らしく優しい幼馴染は?!皆に自慢したい!

 

「あ、気になるバンドはあった」

 

「どれどれ?」

 

「あのパフォーマンスが一番凄かったバンド。あのギターの人、めっちゃ上手いと思った」

 

「あっ!あのバンドか!確かにギター上手かったよね〜」

 

 元ベーシストから肯定を貰えたので、どうやら俺の感覚は間違っていなかったようだ。

 素人目から見ても、他のギターよりも頭一つ飛び抜けていたと分かる程、その人のギターの技術が凄かっただけなのだが…まぁ、それは一旦置いて、優越感に浸って気持ち良くなろう。

 

「こっちだよ、りんりん。って、どうしよー!思っていたより人がいる!!」

 

「ん?」

 

「この声って…あこ?!」

 

「えっ?!リサ姉??!なんでここに?」

 

「リサの知り合い?この制服って…羽女の中等部のだよな?」

 

「うん、同じダンス部でね〜、凄く元気な子だよ♪」

 

 すると突然、紫色の髪の少女は、右手で左目を隠し、左手を右肘に添えてポーズを取った。まぁ、その……カッコイイと思う。

 

「ふっふっふ…我が名はあこ。魔界から生まれし漆黒の……えっと…凄い堕天使!」

 

「え…えっと……リサ、仲良いんだろ?翻訳お願い」

 

「翻訳?!それはアタシでも流石に無理だなぁ…とりあえず!この子はあこって名前で」

 

「はい!リサ姉の後輩の宇田川あこです!」

 

「お、おう。俺は稲城和也、リサとは幼馴染だ」

 

 いきなりで呆気に取られたが、ちゃんと自己紹介されれば、こちらもちゃんと自己紹介で返す。多分これが礼儀だ。

 ところで――、

 

「えっと、宇田川…さんに一つ聞きたいことがあるんだけど」

 

「??なんですか?あと、あこで良いです」

 

「それじゃあ、あこちゃん。聞きたいことって言うのは」

 

「はい」

 

「……向こうで今にも倒れそうになってる黒髪の女の子って、あこちゃんの友達だよな……?」

 

「あーーー!!!!りんりんごめん!!今、あこが助けるからねーーーっ!!!」

 

 紫色の髪の少女――あこは、『りんりん』と呼ぶ女の子の方へ一目散に駆けて行く。

 人波の中であたふたしてる姿が、少し可愛らしいと思った。

 

「確かに凄い元気な子だな…」

 

「あっはは〜……、でしょ?」

 

「…とりあえずお茶でも用意しとくか」

 

「そうしよっか」

 

 数十秒後、「やっと見つけた〜」とあこが帰ってきた。左手には、さっき言っていた黒髪の女の子が繋がれている。のだが――、

 

「あこおかえり〜。ってその子大丈夫?!」

 

 あこの手に繋がれている黒髪の女の子の顔は、見たこともないほど真っ青になっており、焦点が合っていないのか目を回し続けている。

 

「助けてリサ姉ー!和也さーん!」

 

「流石にこれはやべい!おい、大丈夫か?はい、お茶だ。飲めるか?」

 

「…ヒッ……!」

 

「…………ひっ?」

 

「ちょっと和也!怖がらせてどうするの?!」

 

「いや、俺は普通にお茶を渡そうとしただけで」

 

「いいからお茶貸して!あと、タオルでもハンカチでもなんでもいいから壁際に敷いといて!」

 

「わ、分かった……」

 

 リサはお茶の入ったコップを手に取ると、黒髪の女の子に歩み寄り、

 

「大丈夫?向こうで一回座ろっか。ちょっと汚いかもだけど、タオル敷いてるからマシだと思う…ゆっくりでいいからね、歩ける?」

 

「……は、はい…なんとか……」

 

「よし。はい、お茶だよ。冷たいけど、飲んだら少しは落ち着くから」

 

「…ありがとう……ございます……」

 

「他に何か欲しいものある?どうしても我慢できなかったらエチケット袋とか持ってくるけど」

 

「…い、いえ……少しづつですが…落ち着いてきました…大丈夫…です……」

 

「そっか、でも、無理しちゃダメだからもう少し座っとこっか。壁際だからそこまで邪魔にならないだろうし」

 

「……はい…」

 

 なんというか、もう『流石』の一言に尽きる。もう一度言おう、流石リサだ。

 全てに至るまで気が行き届いており、優しく介抱するその姿はまさに慈愛の女神。

 それに引き換え俺は、リサの手際の良さのあまり、心配そうに見ていたあこの隣で「おぉ……」としか言えなかった。思い返せば、不甲斐無いばかり。穴があったら入りたいとはこのこと。

 

「――あ、あの……!」

 

「ん?どうしたの?また気分悪くなった?」

 

「い、いえ……そうじゃなくて…」

 

「??」

 

「先程は……ありがとう…ございます……」

 

「ああ、どういたしまして♪」

 

「…それと……あの――」

 

「うん、分かった。和也ー、ちょっとこっちにきてー」

 

「え、俺?」

 

 リサに呼ばれ、今度は怖がらせないようにゆっくりと近づく。あこもついてきた。

 そして、二人の元へ着くとしゃがみ込み、

 

「で、何だ?」

 

「この子がお礼を言いたいんだって」

 

「お礼されるようなことなんてしてないぞ?」

 

「…い…いえ…!…私を助けようとしてくださり…ありがとうございました……」

 

「いやいや、色々やったのは全部リサだし、俺は別に何にも…て、違うな……ゴホン、どういたしまして、君が無事で俺も安心した」

 

 何もしてない上に、更に怖がらせただけという、まったくもって感謝されることはしていない。のだが、わざわざお礼をしたいと言ってくれた相手に対し、それを笑顔で受け取らないのはかえって失礼だと思った。

 

「でも、怖がらせて悪かったな。もっとリサ……横にいる子みたいに優しく声をかけるべきだった」

 

「…あの時は……私が凄く混乱していただけなので…気にしてませんし……貴方が謝るようなことは…何もありません……」

 

「そうか。正直、そう言ってくれると凄い助かる。ありがとう」

 

「…こちらこそ…ありがとうございます……」

 

 ということで、ゲリラ豪雨のように突然訪れた事件?は一件落着。

 何はともあれ、本当に何事も無く、無事に済んで良かった良かった。

 そう思っていると、黒髪の女の子と少し話をして、安心した表情を浮かべたあこが俺とリサの方へと振り向き、頭を下げ、

 

「リサ姉、カズ兄、りんりんを助けてくれてありがとうございました!」

 

「これぐらい当たり前だよ♪でも、次からは気をつけてね」

 

「そうだぞ、近くにリサがいるとは限らないしな」

 

 「はい、気を付けます!!」と、あこは元気いっぱいな声で返事をする。

 うん、あこも元の調子に戻って何よりだ。

 

「ってか、あこちゃんさっきは普通に俺のこと『和也さん』って呼んでたのに何で『カズ兄』に変わってるんだ?」

 

「別に良いじゃん♪アタシは似合ってると思うよ、カ・ズ・に・い⭐︎」

 

「からかうなリサ姉」

 

「うーんと、それはねー。カズ兄はリサ姉の幼馴染で、りんりんを助けてくれたとっっても優しい人だから!!」

 

「――ッ!」

 

 そう言いながら浮かべたあこの満面の笑みは、和也の脳を一瞬停止させた。

 それは、和也が知ることの無かった感覚。

 ――妹がいたらこんな感じなのだろうか…?いや、例え実際に妹がいたとしても、きっとこうはならない…っ!あこちゃん、おそろしい子!

 

「もしかして…カズ兄って呼び方嫌でした?」

 

「和也ー、黙ってないでなんか言ってあげなよ」

 

「――全然嫌じゃ無いからな!カズ兄って呼んでくれても構わない!!いや、どんどん呼んでくれ!!」

 

「良かったー!!」

 

 俺の心情を察したのか、横目に見えたリサは笑っている。

 あ、あの目は後で絶対に弄られるやつだ。何か対策を考えとかないと。

 

「そう言えばなんですけど、リサ姉とカズ兄は何でライブハウスに来てるんですか?あと、よく来てるんですか?!」

 

「アタシは何回か色んなライブハウス行ったことあるんだけど、和也は今日で初めてだよ。それで今日は、もう一人の幼馴染が出るからそれを見に二人で来たって感じ♪」

 

「まぁ、そういう訳だ」

 

「てことはつまり、いつもリサ姉が話してる二人の幼馴染の和也さんじゃない方の人が出るっていうことですよね?なんて言うバンドですか?」

 

「バンドじゃなくて、次が出番の『友希那』って人だよ」

 

「えええーーーー!!!!」

 

「わっビックリした」

 

 突然目を見開き、驚きの声を上げたあこに、三人は肩を弾ませる。

 そして、あこはリサへと詰め寄り、

 

「リサ姉本当に?!本当に友希那の幼馴染なの?!」

 

「う、うん」

 

「こんな偶然滅多にないよ!!りんりん!あこがさっきカフェで言ってた友希那だよ!!」

 

「…良かったね……あこちゃん」

 

「まあまあ、嬉しいのは分かるけど流石にちょっと落ち着こうぜ、周りの迷惑にもなるしよ」

 

「あっ、ごめんなさい…」

 

 「つい嬉しくて…」と、明らかに落ち込むあこを見ると罪悪感に襲われる。

 でも、仕方が無かったんだ、流石に周りの人に迷惑をかけることは良くない。これもあこちゃんが大人へと成長するための一歩として――、

 

『友希那だ!』

 

『本当だ!!』『待ってました!!』

 

『友希那ーーー!!』『ついに来た!!!!』

 

「え、友希那?」

 

 ステージ前方から上がった一つの声は、瞬く間に広がってゆき、たちまち室内を満たした。

 今までのバンドとは比べものにならない熱気、鳴り止まない歓声。

 それらを正面から受けるステージに堂々と立つ幼馴染の姿は、こことは違った世界に居るかのように思えた。

 

「友希那だ!りんりん!あれが友希那だよ!って大丈夫?!」

 

「…わ…私……家に…帰……」

 

「りんりんしっかりして〜〜!!友希那の歌を聴くまで死んじゃ駄目だよぉ〜〜っ!」

 

「わー、大丈夫?あこ、この子は私に任せて良いから、友希那の歌聴いてあげて」

 

「で、でも〜」

 

「見た感じだと、この子、ちょっと驚いちゃったぐらいでさっきよりはマシだから大丈夫だって。それに友希那の歌聴きたかったんでしょ?」

 

「う、うん…」

 

「なら、何も気にせずにちゃんと聴いてあげて欲しいな。アタシの分もさ?」

 

「――うん、分かった!カズ兄行こ!!」

 

「へっ?!」

 

 突然手を握られ、前へ前へと引っ張られる。が、流石にあの人混みの中に入るのは、あこが危険なので寸での所で引き止めた。

 

「ちょっ、ストップあこちゃん!これ以上は危ないって!」

 

「でも、ちゃんと聴こうとしたら前に行かないと」

 

「その考えがまず間違ってる!あんな人混みの中だと聴ける歌も聴けなくなるぞ!」

 

 指を指しながら必死に訴えると、あこは「あっ、ほんとだ」と俺が言ったことを理解し、前に進むのを辞める。

 どうやら、立ち止まったこの位置が、奇跡的に『人が密集し過ぎていない』『できるだけ前の方』と求める条件を満たしていたので、ここで友希那の歌を待つことにした。

 

「にしても、友希那の人気すげぇな。昔から歌がめちゃくちゃ上手いとは思っていたけどここまでとは……」

 

 久しぶりに聴ける思い出の歌声。 

 そして、これほどの人数の心に響いた歌声――、

 

「友希那って、とにかく超ーーカッコよくて、あこ大好きなんだ!それにね、歌う前のオーラなんかも、とにかくカッコイイ!!ほら!」

 

 ふと気がつくと、さっきまで滝のように轟いていた歓声は消えていた。

 しかし、ステージの中心に立つ幼馴染――友希那を見た途端、これまでで一番強い緊迫感が駆け抜け、和也の胸を締め付ける。

 

「友希那はね、バンドを組まないでずっと一人で歌ってるから、『孤高の歌姫』って呼ばれてるんだ!カッコイイでしょ?」

 

「………孤高の歌姫…」

 

「!?始まるよ……!」

 

 友希那はマイクを前に、ゆっくりと息を吸う。そして、閉じていた瞼をそっと開け――、

 

「――ッ!?!」

 

 その歌声が耳に入った瞬間、和也は言葉を失い、息を飲んだ。

 しかし、そんな和也には目もくれず、友希那はステージで一人、言の葉を紡ぎ続ける。

 

 懐かしさよりも、孤高の歌姫が放つ圧倒的なその歌声に強く惹かれた。

 




 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 今回も安定の1万字越えです……(投稿時、12111文字)
 しかもその割には話があまり進んでないというね。しかも、リサ姉の過去を勝手に作るという……まぁ、これから先も多分あるかもしれませんけども。それが嫌な方は、読むことをお勧めしません。

 最後に、新星4の透子の特訓前イラストに写ってるリサ姉めっちゃ可愛いですよね。というより、あの三人の女子が凄い女子してますね。最高です。

 それでは皆さん、ばいちっ!
 
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。