青い薔薇に棘があろうと握った手だけは離さない   作:ピポヒナ

21 / 29
 はい、毎度の事ながらお久しぶりです。ピポヒナです。
 5月中に出したかったんですが、6月になってしまいました。
 Roseliaの映画もあって、モチベは高かったんですけどほんとビックリするぐらい沼ってしまって……でも、スランプを脱したのかここ3日間はめちゃくちゃ進みました。今回の話は3日間で7割書いたと言っても過言ではないぐらいに。

 追記、サブタイトル付けるの忘れてましたすみません。


 と、前書きはこれぐらいにして、本編どうぞー!
 あ、今回少し長いです。


19歩目 歌う理由

「――私とお父さんのこと、あこと燐子にどこまで話したの?」

 

 そう馴染みのある声が聞こえて振り返ると、友希那がいた。

 なんのことを言っているのだろうか、と和也は考える。が、思い当たらない。

 

「いや……あの時のことか?」

 

 つい先日、あこと燐子と話す機会があった。

 元々【Roselia】の練習があった日に『ライブハウスCiRCLE』に来ていた二人をバイトの休憩中に和也が見つけ、紆余曲折しながらも最終的には三人で協力することになった。

 恐らく、友希那はその時のことを言っているのだろう。他にも二人と話したことはあるが、そのどれもが雑談ばかりで関係あるとは思えない。

 

「お父さん……ですか?」

 

「紗夜、楽しそうに話していたところ悪いけど、少し和也を借りるわ」

 

「は……はぁ。稲城さんと楽しく会話していた覚えはありませんが、大丈夫ですよ、好きなだけどうぞ。……湊さんも冗談を言うことがあるんですね」

 

「おいコラ氷川さん」

 

 と、何か言葉の暴力を喰らった気がしたので、和也は紗夜に噛みつく。が、確かに楽しいと思えるような会話をした覚えは和也にもない。

 だから、仕返しされる前にササっと身を引き、「ったく」と溜息を吐いてから友希那の話へと戻ることにした。

 

「それで、ユキおじさんのことだっけ?」

 

「ええ。どうなの?」

 

「どうなのって……話してねぇよ? ユキおじさんのことなんて何にも」

 

「えっ……そうなの?」

 

「――? そうだけど、つーか、そもそもいきなり何でそんなこと聞いてきたんだよ?」

 

「……あこから聞いたのよ。私にとってフェスが特別だということを、和也から聞いたって」

 

「あー、そういうこと」

 

 目を丸くして驚いた友希那を不思議に思っていた和也だったが、彼女が尋ねてきた理由を聞いたことで頭の中で色々と繋がり、ポンっと掌を拳で叩いた。

 

 やはり友希那が言っていたのは、先程も思い当たっていた時のことで合っていた。そして、友希那が尋ねてきた理由は、あれこれと勘繰った彼女の早とちりが原因だ。

 和也があこと燐子に『友希那にとってフェスが特別』だということを話したと聞いて、和也が深くまで――友希那の父親がフェスに出た時のことまで話したかもしれないと思って、不安になったのだろう。

 

「流石にそこまでは言わねぇよ。ちゃんと話す内容は選んでるつもりだ」

 

「そう……疑って悪かったわね」

 

「別に気にしてねぇ。ユキおじさんのことは……まぁ、この前話してもらって事情は前よりも知ってるし、友希那が不安になって俺を疑うのはおかしくないと思う」

 

「ともかく迷惑をかけたわね。……でも、そう……つまりあこ達はまだ知らないのね」

 

「――? ああ、話してねぇからそうだと思うけど……」

 

 確認するように呟くと、何かを悩み始めた友希那。

 安心させるつもりで話していた和也は、狙いとは違った反応を見せた彼女に首を傾げた。

 

 友希那にとって、父親の話はできればしたくない話のはずだ。

 友希那の父親の過去――特にバンドマンとして活動していた頃にフェスへ出た時の話は、決して明るい話ではないし、友希那のトラウマになっていても全く不思議でもないレベルの話なので、その考えはほぼ間違っていないだろう。

 

 それなのに、幼馴染以外の誰にもその話が知られていないことがわかった現状で、何をそんなにも悩むことがあるのだろうか――、

 

「ねぇねぇカズ兄」

 

 と、色々と慮っていると、くいくい、と。

 可愛らしい声が聞こえたと同時に、袖の辺りを二回ほど軽く引っ張られる。

 そうして和也が「ん?」とそちらに視線を向けると、こちらを見上げているあこと目が合った。

 

「スッゲー兄心がくすぶられるな、このアングル」

 

「――? もしかして、カズ兄また変なこと言ってる?」

 

「まさか。あこちゃんを褒めてただけだっての」

 

「そうなの?」

 

「そうだとも。それで、どうしたあこちゃん? 何か用があるから声かけてきたんじゃないのか?」

 

「あ、そうそう! えーっとね、さっきカズ兄と友希那さんが話していたのが聞こえたんだけど、カズ兄が言ってたユキおじさん? って、もしかして友希那さんのお父さん?!」

 

「――――」

 

「カズ兄?」

 

「あっ、いや、何でもない何でもないっ」

 

 誰にも知られていない。

 そう思っていた矢先の質問に和也は一瞬固まるが、違和感を与えないために無理矢理意識を連れ戻す。

 

「ちなみにだけど、どのあたりから聞いてた? 別にどこからでも良いんだけどさ、一応教えてくれねぇか?」

 

「――? カズ兄が、話す内容を選んでるって言ってたあたりかな? ……もしかしてあこ、聞いちゃいけないこと聞いちゃってる?」

 

「いや……別に」

  

 そういう訳じゃない、と和也はあこから視線を外して付け加えた。

 友希那のためとはいえ、こんな自分にも手を差し伸べてくれたあこに嘘をつくのはなかなかに堪えるものだ。

 

 今思い返してみれば、隠しているにしてはあまりにも配慮に欠けた会話だった。

 話しかけてきたのは友希那の方からではあったが、すぐに気が付いて別の場所で会話するようにしたり、せめてお互いにしか聞こえない声量で話すべきであった。

 そうしなかったから、こうしてあこに会話の内容を一部聞かれて、少し好ましくない方向へと話が進んでしまっている。

 

 とはいえ、あこは疑問に思っただけであってまだ何も知らない状態のため、今から誤魔化そうと思えばいくらでも上手く誤魔化す方法はあるとは思うが――誤魔化そうと思い切れるのであれば、そもそも最初からそうしている。

 そして、それができずに決めあぐねているから、和也はあこからの視線に参っているのだ。

 

「カズ兄……?」

 

 誤魔化すべきなのか、それとも、正直に話すべきなのか。話すとしたら、どこまで話すべきなのか。

 今になっても決められず、喉に何かが突っかかっているかのように、言葉が出てこない。

 一体、何て、言えば――、

 

「――私のお父さんのことよ」

 

「……は?」

 

 言えずにいた言葉を声にしたのは、和也ではなく友希那だった。

 和也は、丸くした目を友希那へと向ける。

 

「やっぱりそうなんですねっ! 友希那さんのお父さんってどんな人なんですか?」

 

「どこにでもいるような普通の父親よ。……ただ…………昔、バンドでメジャーデビューしていた、というところは少し変わっているかもしれないけれど」

 

「えぇっ、お父さんもバンドやってたんですか!? しかもメジャーデビューまでしてるって、どんなバンドですか?」

 

「…………詳しいことについては、後で皆に話すつもりよ」

 

「――? はーい」

 

 返事をすると、あこは「りんりーん! あのね!」と声を弾ませながら燐子の元へと戻っていく。

 その間もずっと、和也は友希那から視線を動かさなかった。

 先程目の前で行われた友希那とあこの会話の内容があまりにも衝撃的で、知られたくないはずの情報を話す友希那が信じられなかったのだ。

 

「友希那……お前、話すつもりなのか?」

 

「……ええ」

 

「どこまで?」

 

「全部よ」

 

「全部って……っ!?」

 

 驚きと困惑が錯綜し、語気が荒くなる。

 

「何で……」

 

「スカウトを断って【Roselia】でフェスを目指すと決めた時からずっと、お父さんのことはいつか話さなければいけないと思っていた。だから……これはそのための丁度いい機会なのよ」

 

「でも……だからって……、――無理、してるんじゃないか?」

 

「…………」

 

「ユキおじさんのことが、友希那にスッゲー影響を与えていることはこの前聞いたから知ってる。だから、皆にも知ってもらった方が【Roselia】の今後のためになるかもしれないこともわかってる。……けど、それでも別に無理して話さなくても……いいんじゃないのか?」

 

 友希那が父親のことを話さなくても、フェスを目指すこと自体はできる。だから、別に無理をして胸を痛める必要は無いのではないか。

 そう訴える和也だが、彼は決して友希那が父親のことを他のメンバーに話さないようにしたいのでは無い。というより、むしろその逆だ。

 

 和也にも、あこや燐子や紗夜に友希那がフェスを目指している理由を知って欲しいという気持ちはちゃんとある。

 一度は裏切ったも同然のことをした友希那を受け入れ、また一緒に音楽がしたいとまで言ってくれた彼女達に、また隠し事をするなんてことはしたくないのだ。

 

 それにも関わらず、まるで友希那が話すのを止めるような行為を和也がしているのは――、

 

「心配なんだよ……」

 

 ――誰だって、尊敬している人の散り際なんて話したくない。

 それなのに、全て話すと言った彼女の心が、苦しまないか心配だ。

【Roselia】のために繋がるかもしれないことも、自分がどう思っているのかも理解しているが、心配で心配でたまらない。

 

 かつて父親を否定したフェスの舞台を目指す程、父親のことを慕っている友希那だからこそ、和也は彼女のことを心配せずにはいられなかった。

 

 だが、友希那は言った。

 

「これは、メンバーを一度裏切ってしまったことに対してのケジメ。そして、その過ちを背負いながらまた【Roselia】のリーダーとしてメンバーを引っ張っていくための決意よ」

 

「――――」

 

「こんな私と、また音楽がしたいと皆は言ってくれた。私は、その気持ちに答えなければならない。――もう、これ以上皆の優しさに甘えるわけにはいかないのよ」

 

 和也は、息を吞む。

 

 熱だ。熱を感じたのだ。

 向けられる視線からも、聞き馴染んだ声からも、引き締められた表情からも、紡がれた言葉からも。

 その他も含め、友希那から感じられる全てに熱が籠っていた。

 彼女がどれだけの覚悟を持ち、自らが歌う理由を話すと決めたのか、見ただけで感じられるほどの熱が。

 

「お節介、だったな」

 

 圧倒され、和也は笑った。というより、全て話すと決めた友希那の覚悟を軽く見ていた自分に、嘲笑せずにはいられなかった。

 きっと、話すよりも話さない方が友希那の心は追い詰められるだろう。だから、和也が友希那のためにと思ってしていた心配は、却って彼女に後悔をさせようとしていたということになってしまう。

 

「いいえ。和也がそうやって心配してくれたことは、素直に感謝しているわ。話すことに対して、何も思っていないわけじゃないから」

 

「そうか……それなら良かった」

 

「……別に気を遣ったわけじゃないわよ」

 

 ジト目をしながら念を押してきた友希那に、和也は「わかってるって」と苦笑して返す。

 今のは、悪いことをしてしまったと思っていた和也がこれ以上自分を責めないようにするための、彼女なりの優しさなのだろう。

 最近は尖ってしまい、周りを寄せ付けない雰囲気を出していたが、こういうところの優しさは昔から変わっていなくて少しホッとした。

 

「にしても、友希那は本当に強いよな」

 

「私は強くなんてないわ。お父さんのことを話すのも、元々は怖くて何度も目を背けていたことだもの。私はただ、強くあろうとしているだけ」

 

「そーやって目を背けていたものと向き合えてる時点で十分強ぇっつーの。……俺は……話せねぇから、今の友希那がちょっと眩しい」

 

「私よりも和也の方がずっと強いわ」

 

「――。ははっ、まさか友希那にお世辞を言われる時が来るなんてな。悪い、こんな時にいらない気を遣わせちまった」

 

「…………」

 

「――? 何だよ、俺、何か変なことでも言ったか?」

 

「……いいえ」

 

 不自然な沈黙に違和感を覚えた和也は首を傾げるが、友希那は「なんでもないわ」と首を横に振る。

 それが何か言いたそうにも感じ、和也は尋ねようとするのだが、丁度その時にリサが神妙な面持ちでこちらへと近づいてくるのが視界の端に見えたので、質問するのは後回しにしてそっちの対応をすることにした。

 恐らく、自分と同じ心配事だろう。

 

「あこから友希那がお父さんのこと話したって聞いたけど、ホントなの?」

 

「やっぱ心配になるよな。ああ、ホント。しかも、全部話すつもりなんだとよ」

 

「えっ、全部って……大丈夫なの、友希那?」

 

「…………和也もリサも私のことを心配し過ぎなのよ」

 

 和也から聞いたことで心配が加速したリサに、「まったく」とため息を吐く友希那。その表情からは、二人揃って同じ心配をしてきた幼馴染に少々うんざりしているのがうかがえる。

 音楽以外のことは『超』が付くほどポンコツの彼女を昔から知っているリサと和也からしてみれば、心配するなと言う方が無理な話なのだが。

 ともあれ――、

 

「全部話すつもりよ。皆には知っていて欲しいの」

 

「――。そっか、うん、わかった。友希那が話すって決めたなら、アタシがこれ以上言うのは違うか」

 

「随分と早く引き下がるわね」

 

「まぁ、心配な気持ちはあるけどさ、きっと和也がアタシの分まで心配してくれたと思うし大丈夫」

 

 ねっ? と、アイコンタクトを飛ばしてきたリサに、和也は苦笑い。

 リサの分まで、と聞かれたら正直微妙なラインではあるが、現に心配はしまくっていた。

 それをこうしてリサに見透かされたのは、信頼されているから、と捉えることにしておこう。

 

 決して、行動がわかりやすいと思われているのではない。

 

「話が纏まるまで、待っていてもらって悪かったわね」

 

 リサと和也が引き下がったことで行く手を遮るものがいなくなり、そう言いながら友希那は改めて振り返る。

 そうして視線の先にいるのはもちろん、紗夜とあこと燐子。

 和也とリサが友希那を心配している様子を見て察してくれたのか、三人とも視線がぎこちない。

 

「いえ。……何か深い事情があるようでしたし、構いません」

 

「そう。それでだけど、あなた達に話したいことがあるの。私のお父さんの話なんだけど……」

 

「友希那さんにとって……大事な話……なんですよね……?」

 

「ええ。……これは、この話はきっと私がこの先歌っていく上では、切っても切り離せないような話よ。私が歌う理由、と言っても過言ではないかもしれないわ」

 

「友希那さんが歌う理由……っ」

 

 その言葉が持つ重みがどれだけのものなのか安易に想像できて、あこ達は息を呑む。

 そうして身構えたメンバー一人一人に、友希那はゆっくりと目配りしてから少し息を吐いて、

 

「少し、長い話になるわ。……昔、一人のバンドマンがいたの」

 

 と、言えなかった過去を打ち明け始めたのだった。

 

 

 △▼△▼△▼△ 

 

 

 ――信じられなかった。

 

 信じたくなかった。

 あんなにも、願っていた夢の舞台に立つことができたというのに。

 あんなにも、その舞台に立つために頑張っていたというのに。

 あんなにも、夢見ていたというのに。

 

 あんなにも、あんなにも――。

 

「なのに……、こんなの……あんまりよ……っ!」

 

 あの日、『FUTURE WORLD FES.』の舞台に立った父親は否定された。

 他でもない、夢見ていた舞台によって、彼が築いてきた音楽を。

 

 その場面を、その瞬間を、友希那は見ていた。見てしまった。

 ミュージシャンであった父親にとって、音楽を否定されるということは今までの全てを否定されたこととほぼ同義。

 道を見失い、嘆く父親の姿は、友希那の目には耐え難いものとして映った。

 当時まだ小学生だった友希那の心に、深々と爪痕を残すのには十分過ぎるほどの衝撃を与えた。

 

 そして、月日が流れ、高校生になった今もその爪痕は癒えることはなく――いや、それどころか友希那を駆り立てる衝動となっていた。

 

 父親の音楽から、いつからか聴こえるようになった彼のものではない何か。

 それがあの惨劇を引き起こした。だから、それが無ければあんなことにはならなかった。

 父が紡ぐ純粋な音楽をそのまま歌えていたのなら、きっと父は――世界一尊敬しているミュージシャンは、今も歌っているはずだった。

 

 それを証明すべく、友希那は音楽に打ち込んだ。

 娘である自分が父の代わりにフェスの舞台に立ち、誰も文句が付けようのない程圧倒的な音楽を聴かせば、その幻想は間違いなかったと言えると――そうすれば父は笑ってくれると、信じて。

 

「――――」

 

 友希那は歌った。

 国内最高峰――否、疑いようもなく頂点である『FUTURE WORLD FES.』に出場するための足掛かりを探すべく、何度も何度も歌った。

 その道中で、自分についていけなくなった幼馴染が隣からいなくなったが、それでも己を奮い立たせ、独りで歌った。

 

 こうして歌うことが本当にフェスへと繋がっているのか、不安になって立ち止まった時もあったが、自分と同じく一人で戦い続ける少年の姿に背中を押され、歌うのを辞めなかった。

 

 全ては、夢の舞台で否定された父親のために――孤高の歌姫は、悲壮な覚悟を胸に歌い続けることしかできなかった。

 

 しかし、迎えた高校二年の春――、

 

「――私が今まで聴いた度の音楽よりも……あなたの歌声は素晴らしかった」

 

 紗夜と出会った。

 

「――あこ、世界で二番目に上手いドラマーですっ!!」

 

 あこに根負けした。

 

「――アタシは友希那とバンドがしたい!!」

 

 リサが戻ってきた。

 

「――お……お願いします……!!」

 

 燐子を欲しいと思った。

 

「――【Roselia】に全てを賭ける覚悟はある?」

 

【Roselia】が結成した。

 

『FUTURE WORLD FES.』に出るための手段として結成した【Roselia】。――【Roselia】の結成は、それまでずっと独りで歌ってきた友希那を新たな世界へと誘った。

 

 フェスに近づいているという確かな感触。独りだった彼女を取り巻くようになった環境。

 そして、彼女達と音を合わせた時に感じたあの感覚。

 

 独りで歌っている限り決して感じられなかったであろう、この五人でしか作り出せないあの感覚は、例えようもないぐらい離し難く、いつしか友希那は――、

 

「――その気持ちを大切にしてくれ。それがきっと、友希那の本当の気持ちだって思うから」

 

 歌う理由が、もう一つ増えていた。

 

 

 △▼△▼△▼△ 

 

 

 ――歌姫の口から悲劇が語られ、それを聞いた者は皆唖然としていた。

 

「そのバンド……昔雑誌で読んだことがあるわ。確か、インディーズ時代のものが特に名盤だって……まさか、湊さんのお父さんが……そうだったの……」

 

 そう震えた声で言ったのは紗夜だ。

 売れる音楽を強要され、いつしか自分の音楽を失った一人のバンドマンに起きた悲劇。

 そして、その彼の娘が孤高の存在と呼ばれても尚歌い続けてきた理由に、表情を曇らせる。

 それは、隣にいるあこと燐子も同じだ。かけるべき言葉が見つからなかった。

 

 すると、友希那が息を吐きながら目を閉じ、開いて、

 

「聞いてくれてありがとう。あなた達には、知っておいて欲しかったの」

 

 話しかけるが、三人からの反応は乏しい。

 しかし、友希那は続ける。

 

「私は、この過去を……『私情』を捨てることができない。あなた達と出会って、バンドをして、新しく思ったことは沢山あったけれど、それでも手放すことができないの。……きっと、私が歌い続ける限り」

 

「――――」

 

「どう? 私が歌ってきた理由を聞いて……私が『私情』のために音楽を利用してきた人間だと知って、あなた達はまだ、私と音楽がしたいって言ってくれる?」

 

 その尋ねは、懇願しているようにも聞こえた。

 自分達の音楽を極めるとメンバーに偽り、私情に巻き込み、利用し、その上で一度は裏切った友希那からメンバーへ向けての、見放さないでくれという都合の良い懇願だ。

 だが、そんなの――、

 

「そんなの、当たり前です……! わたしは……友希那さんを見放したりはしません……!」

 

「そうですよ! 友希那さんとも、紗夜さんともりんりんとも、もっともっと音楽がしたいって、あこ何度だって言いますから!!」

 

 また私と音楽がしたいと言ってくれるのか、そう聞いた友希那に力強く返したのは燐子、そしてその次に続いたのはあこだ。

 二人共に手に力が入り、体を前のめりにしながら、とっくに決めた決意を叫ぶ。

 すると、「ええ」と便乗する声が加わってきて、

 

「今更、『私情』のために歌っているとわかったぐらいでは幻滅なんかしません。それよりも、私は湊さんがお父様のことを話してくれたことが、嬉しかった。私達のこと、大切なメンバーだと思ってくれているから、ああして話してくれたんでしょ?」

 

「ええ、今回色々と考えて、私にとってあなた達とする音楽が大切なものだということに気がついた。だけど……あなた達をこのまま私の私情に巻き込むのは……」

 

「良いんじゃないですか? こうなった以上、私情に巻き込むことになっても、あなたの歌う理由に私情が関わっていても」

 

「え……?」

 

 友希那は、驚きをそのまま表情に張り付け、紗夜を見る。

 それは紗夜の発言を意外に思ったからに他ならない。

 音楽に私情を持ち込まない。初めにそう言ったのは友希那ではあるが、そのことに対して紗夜も同意していたから。

 

「だから、どちらかと言えば紗夜には責められると思っていたけれど……」

 

「バンドに『私情』は持ち込まない方が良いという考えは今もありますよ。フェスに出ることができるレベルのバンドを作るためには、いちいち『私情』に振り回されている余裕はありませんから」

 

「だったら……」

 

「ですが、抱えているものはそれぞれにあっていいとも思います。私も……ギターを弾く理由の中に『私情』は含まれていないと言えば嘘になるから、ただ単に人のことを言えないだけでもありますが」

 

 と、紗夜はため息交じりに付け加える。

 そこから、「それはともかくとして」と仕切り直し、

 

「続ける動機はまだしも、始める動機なんて皆私的なものじゃないかしら? そして湊さんの場合、それがお父様がフェスに出た時のことで、その時に感じたものがどうしても手放せないから今もそうやって抱えているのでしょう」

 

「――。紗夜……」

 

「それなら、そのまま進み続けるしかない……そうじゃない?」

 

 優しい眼差しを向け、そう問いかけてくる紗夜。

「本当に、いいの?」と問い返せば、返ってくる答えは安易に想像でき、友希那は胸から込み上げてくる感情を必死に抑え込む。

 もう彼女たちの優しさに甘えてばかりではいられないと誓ったからには、友希那が今するべきなのは、優しさに感激することでは無く、その優しさに応えることなのだから。

 

「ええ。お父さんのためにも、【Roselia】のためにも、そしてあなた達のためにも、――私はこれからも歌い続けるわ」

 

 胸の前で拳を握り、全て背負い歌い続ける覚悟を宣言する。

 紗夜はフッと笑みを溢し、

 

「頼みますよ、リーダー。もっと上の景色を見に行きましょう」

 

「もちろんよ。私達なら、絶対にできるわ」

 

 力強く言い切ったそれは、決して自分たちの技術を過信しているからではない。

 必ずこの五人で頂点からの景色を見なければならないという使命。それを成し遂げることでしか恩を返せない友希那が己に向けて言った発破のようなものだ。

 

 後がない我が身を奮い立たせるという背水の陣にも似たその行為が、見ている者の胸にも熱を灯すほど覚悟に満ち溢れているのだから、紗夜達からすれば頼もしい限りではあるのだが。

 

「あこもおねーちゃんみたいになりたいって気持ちを大切にしながら、これからも【Roselia】もっともーっとカッコよくしていくために頑張ります!!」

 

「わ、わたしは……皆さんと共に演奏しながら……こんな自分を、変えていきたいです……」

 

「アタシは友希那と……って、言うまでもないか♪」

 

「そうやって自分の士気を高めるのは良いですが、あくまでも【Roselia】のことが最優先だということをお忘れないように頼みますよ」

 

「わかってるって♪ それにしても、『抱えるものはそれぞれにあっていい』、『手放せないならそのまま進むしかない』か……。紗夜、めっちゃ良いこと言うじゃん♪」

 

「……茶化さないでください、今井さん」

 

「えぇっ、ホントに思ってたのに!?」

 

 あこ、燐子の後に続いて高らかに宣言したリサが、きっかけを作った紗夜をそのまま褒めるがあえなく撃沈。 

 弄られたと思ったのか、はたまた思い返して恥ずかしくなったのか、紗夜は目を細め、その視線の先でリサが嘆く。

 リサはただただ感じたものをそのまま伝えただけであったのに。悲しきかな。

 

「そう言えば……カズ兄はどうなの?」

 

「えっ、俺?」

 

 と、突然あこが言いながら振り返り、不意打ちを突かれた和也は自分を指差す。

 

「……俺の話いるか? 俺、メンバーじゃないんだぞ?」

 

 メンバーではないから、和也は友希那が父親のことを話し始めてからずっとだんまりを決め込んでいた。

 もちろんこれは、メンバーではない自分が口を出してはいけない状況、という彼なりの判断に基づいた行動である。

 まだ友希那が話すと言っていなかった時は干渉しまくりではあったが、それは事情が事情だったのでご愛敬と言いたいところ。

 ともかく、今回のようなチームにとって重大な分岐点となる状況において、部外者である和也が口を挟んでしまうのは、【Roselia】にとっても和也にとっても悪い影響しか与えないのだ。

 

「今は話も丸く収まったし、俺が加わったところで問題無いとは思うけど」

 

 だとしても、メンバーではない自分がこの話の最後を担うのは違う気がする。

 遠慮とか、申し訳なさとか、場違い感が否めない。

 

 しかし、そうは思っていないのか、あこはムッとして、

 

「確かにカズ兄があこ達と演奏することはないけど、あことリサ姉が友希那さんのバンドに入りたいって言った時も、オーディションを受けた時も、りんりんがオーディション受けるってなった時も……、ともかく【Roselia】に何かあった時はいつもいたし、今回のことだってあこ達と一緒に【Roselia】のために考えてくれたんだし、カズ兄も【Roselia】の一員に違いないよ!」

 

「あこちゃん……!」

 

「いえ、違いありますけど」

 

「ちょっと邪魔しないでくれる氷川さん!?」

 

 感動を邪魔され、行き場を失った感情をとりあえず紗夜にぶつける和也。

 紗夜が言ったことは何も間違っていないのだから、それ以上は言わないが。

 

 何はともあれ、あこが言ってくれたことは普通に嬉しいし、そこまで言われたら応えたくなってしまうのが稲城和也という人間だ。

 

「言うけど、笑うなよ。……結構恥ずいんだから」

 

「笑わないよ! ね、りんりん?」

 

「う、うん……」

 

「どうであれ、言うなら早く言ってください。スタジオの時間はまだ余っているけど、久しぶりに五人で練習したいので」

 

「まぁまぁ、そう言わずにさ? 友希那も待ってるんだし、ちょっとぐらいいいじゃん?」

 

「別に……待っているわけではないわ」

 

 前置きに対して各々が見せた反応に、思うことはいくつかあったが、ここまで来たら気にしたら負けだ。

 そう言い聞かせ、和也は数回深呼吸する。

 息を吐き、吸い込み、そして覚悟が決まると同時に視線を上げて五人を見る。

 

 覚悟は決まった。覚悟が決まった以上、もはやどうなっても後悔はしない。

 例え――、

 

「俺は……【Roselia】の音楽が好きだから、これからも皆の力になれればって思ってる!!」

 

「「「「「…………へ、へぇ……」」」」」

 

 例え意気込んだ結果、微妙な空気が充満することになったとしても。

 

「いっそ笑えよっ!!」

 

 ――たぶん。

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

「――和也くん! 頑張って!」

 

「はい……よっと!」

 

 声援を受けながら、グッと力を込めて持ち上げたのは中身の入った段ボール。

 重くはないが決して軽くもない重量がズシリと腕にのしかかったのを感じ、安全を確かめてから和也は店の裏側へと運んでいく。

 

「ん、そういやあいつらって結局ライブ衣装どうすんだろ?」

 

 運んでいる途中、段ボールの中に入っている色鮮やかなライブ衣装を見て、ふと思う。

【Roselia】初のライブでは、全員が私服のまま演奏していた。それでも他のバンドを寄せ付けない圧倒的な演奏で観客を魅了していたのだが、それでもやはりバラバラな衣装だとせっかく演奏で作った雰囲気を壊しかねないということで、その後の反省会でも話が上がった。

 

 しかし、友希那がスカウトされたことでそこからずっとバタバタしていたこともあり、きっと完成するのはもう少し先なのだろう。

 

「いっそのこと、このライブ衣装を……って、【Roselia】の雰囲気に合わねぇな」

 

 名案、と一瞬思ったのだが、可愛いに極振りしたようなデザインだったのでなかったことにする。

 持って行っていれば、間違いなく紗夜に白けた視線を向けられていただろう。

 

 ちなみにだが、段ボールの中に入っているのはライブ衣装だけではなく、もう使わないであろうポスターやちょっとした機材などなど。

 倉庫の奥深くに眠っていたそれらをまりなが見つけ、この際だから整理しようと思い立ち、和也はそのお手伝いをしているわけである。

 初めは自然と顔が引きつってしまうほどの量があったのだが、それも今運んでいるこれで――、

 

「ラストっ! ……ふぅ、やっと片付いた」

 

 任されていた仕事がようやく完了し、額の汗を腕で拭った。

 目の前にある段ボールの山を見ていると、達成感が湧いてくるものだ。

 

「お疲れ様~。ほとんど和也君に任せちゃってごめんね?」

 

「いえいえ。こういうのは自分にどんどん任せてくださいよ」

 

「お、カッコイイ~! 危うく惚れちゃうところだったかも」

 

「なわけないでしょ」

 

「あっはは。でも、本当に助かったよ、ありがとうね」

 

 フロントに戻った和也を笑顔で出迎えてくれたのは、まりなだ。

 力仕事をこなした後輩に目一杯の称賛を与えると彼女はチラリと時計を見て、

 

「それじゃあ丁度いい時間だし、休憩入っちゃおっか」

 

「はーい。了解です」

 

「あ、そうそう。休憩入るついでにちょっと【Roselia】への伝言を頼まれてくれないかな?」

 

「【Roselia】に伝言?」

 

 控室に向かいかけていた足を止め、和也がオウム返しすると、まりなは「うん、私が言っても良いんだけど、忘れちゃいそうだから」と言って、顔の前で手を合わせた。

 

「頼まれてくれる?」

 

「ええ。全然良いですけど」

 

「良かった! それじゃあ、頼まれて欲しい伝言なんだけど――」

 

「――えっ、ホントですか!」

 

 伝言を聞き、表情をパッと明るくさせた和也にまりなは頷く。 

 

「ぜひ【Roselia】とやりたいんだって。丁度一波乱乗り越えて皆のモチベも高いだろうし、いいタイミングなんじゃないかな?」

 

「はい、皆も喜んで受けてくれると思います! では、早速伝えてきますね!!」

 

「あっ、ちょっと! ……って、行っちゃった」

 

 振り返ることなく、走り去っていく和也。その足取りは軽やかで、彼が直前に見せた笑顔とも相まって、早く伝えたいという気持ちがヒシヒシと伝わってくる。

 その姿にハラハラしつつもをホッとしている自分がいて、「若いっていいなぁ」とまりなは苦笑交じりに呟くと、伸ばした手をゆっくりと下ろした。

 

「相談してきた時はどうなることかと思ったけど――うん、和也君が無事に元気になって良かったよ」

 

 数日前に見た、すぐにでも潰れてしまいそうなほど追い詰められていた和也が、今ではああして元気な姿を見せてくれている。

 自分の言葉がそのためにどれだけ役に立ったのかはわからない。が、そんなことがどうでもいいと思えるほど嬉しくて、まりなは満足そうに顔をほころばせるのだった。

 

「だけど、店内を走るのはいけないなぁ」

 

 

 

「確かBスタジオだったはず……っと、着いた着いた」

 

 戻れば、まりなに注意されることが今しがた確定したことなど露知らず、和也は【Roselia】が入っているスタジオの前まで来ていた。

 演奏の途中で入ってしまってはせっかくの集中を邪魔してしまうので、決してそうはならないように演奏が途切れて一区切りついたタイミングで中に入る。

 

「つもりだったんだけど……」

 

 耳を澄ましてみるが、先程からずっと音が聞こえてこない。

 スタジオが防音設備されているからとはいえ、中の音を全てシャットアウトしているとは考えにくい。と言うよりそんなの無理だ。

 明かりはついているので中に友希那達はいるのだろうし、恐らく丁度タイミング良く休憩中なのだろう。

 

 とりあえずなんにせよ好都合には変わりないので、コンコンっとノックして、

 

「入るぞー!」

 

「ん? お、和也じゃん♪」

 

「わー、カズ兄だー! って、あれ? もう時間だっけ?」

 

 スタジオの中に入った和也に真っ先に気が付いたあことリサだ。

 和也を見たあこがそう言いながら時計に視線を移すと、それに釣られてリサも「あれ? もうそんなに経ってた?」と時間を気にする。

 

 今の彼女達と和也との立場は、店の利用者とスタッフ。

 和也がバイトの服装である緑色のエプロンを身に着けたままの状態だったことで、利用時間をいつの間にか過ぎていて注意しに来たと思ったのだろう。

 

 リサとあこが互いに顔を向かい合わせ、「あれぇ?」と首を傾げている光景に和也は苦笑しながら「違う違う」と手を横に振った。

 

「今の俺は休憩中。で、ちょっとまりなさんから【Roselia】に向けての伝言を――って、どうしたんだそれ?」

 

「あ、これ? やっぱり気になっちゃうよね~」

 

 まりなから伝言を預かっていることを伝えるのを途中でやめ、和也は眉を上げてリサが身に纏っている服を指差す。

 明らかに衝撃を受けている和也を見たリサは、フフっと笑みを浮かべながらスカートの裾を両手に摘んで広げて見せてきた。

 

 リサが――否、リサだけでなくあこも、そしてリサとあこだけでなく友希那と燐子と紗夜も、ともかく【Roselia】全員が身に纏っていたのは、黒と紫のドレスだ。

 スッキリとした上半身と、ウエストから裾にかけて徐々に広がっていくシルエットで、色は主に黒と紫。スカートの部分にはその二色に白を加えた生地が、フリル状に重なり合っている。

 胸に付いている大きいリボンは、友希那なら少し明るめの紫、リサなら赤、といったようにメンバー毎に色が異なっており、全体的暗めな配色の中で派手過ぎず、控えめ過ぎず、と丁度いい具合の存在感を放っていた。

 リボンの他にも細々としたデザインや配色はメンバー毎に僅かに違うのだが、和也から見て左側の頭につけている髪飾りだけは例外。全員が付けているその髪飾りは、大きな黒薔薇と少し小さな青薔薇の二輪の薔薇が斜めに並んでいるのが特徴的で、それが【Roselia】のバンド名の由来に『薔薇(Rose)』が関係していることを彷彿とさせ、彼女達【Roselia】にこれ以上ない程合っているデザインだと言えるだろう。

 

 ――と、そこまで思ってようやく和也はパチンッ! と指を弾いたのだった。

 

「――! まさかそれって【Roselia】のライブ衣装か!?」

 

「ピンポーン! せいかーい♪ これ、燐子が作ってくれたんだけど、ホントに凄いよねぇ」

 

「ああ。【Roselia】のイメージにも合ってると思うし、スッゲー良いと思う。白金さんって本当にすごいな」

 

「いっ、いえ……その……あっ……ありがとうございます……っ」

 

 そう言って、紅く染まった顔を伏せる燐子。褒められて恥ずかしく思ったのだろうか、その様子が可愛らしくて頬が緩む。

 

 以前にリサからあこの私服は燐子が作ったものだと聞いていて、腕があることはわかってはいたものの、それでも驚かずにはいられない程の出来具合だった。もはや、かなり良い値で店に並んでいても不思議ではないぐらいに。

 こんなに凄いのだから、燐子にはもっと自信を持って欲しいものだ。

 

「そういや、何で皆揃って衣装着てんだ? 確認ってだけなら、別に家とかですればいいと思うんだけど」

 

 衣装を着た五人の少女達を見渡し、和也はふと疑問に思う。

 待ちに待ったライブ衣装が完成したことで忘れていたが、今日はただの練習だ。

 サッカーならチームによっては普段の練習からユニフォームを着て行っているところもあるにはあるのでおかしくはないのだが、燐子が作ったこの衣装は着るのに少々時間が掛かりそうに和也には見え、それを全員が着るのは流石に練習時間を削ってしまうのではないだろうかと思える。

 そんな非効率的なことを友希那と紗夜が許すとは少し考えにくいのだが――、

 

「微調整のためですよ」

 

「微調整?」

 

 和也がオウム返しで聞き返すと、紗夜は「ええ」と頷いて、

 

「衣装を着た状態で何回か演奏してみて、演奏中に気になるところが無いか確かめているんです」

 

「あーなるほど。せっかくライブ衣装着て気を引き締めれても、いざ本番で衣装が邪魔になってパフォーマンスが落ちたら目も当てられねぇしな」

 

「そういうことです。とは言え、白金さんなら今回出た修正点を次回にも活かしてくれると思うので、これだけ入念にするのは今回だけだと思いますが」

 

「それもそうだな。あ、氷川さんもその衣装スッゲー似合ってるぞ」

 

「ついでに言った感が少し気になりますが……まぁ、ありがとうございます」

 

「――。お、おおう」

 

「…………何を驚いてるんですか? 私だって、褒められたらお礼の一つぐらい言うわ」

 

 言われた覚えがないんですけど。何だったら叩かれたことあるんですけど。

 と、反射的に言いそうになったが、ここは我慢して「わかってるって」と返しておく。

 今のお礼だって、素直とは遠くかけ離れた素っ気ないものであった。もう少しぐらい、あこや燐子のように可愛げが欲しいものだ。

 

 とはいえ、以前の彼女なら何も反応してくれないということも十分にありえただろう。

 単なる気まぐれに過ぎないかもしれないが、少し、ほんの少しだけ今までよりも紗夜が和也と向き合おうとしてくれているように感じた。

 

「ねぇねぇ。アタシにも何か言うことない?」

 

 チョンチョン、と。

 右肩を二度、三度つつかれる。

 そうしてそちらへと振り向くと、むくれながらジーッとこっちを見つめているリサと目が合った。

 訳が分からず「え?」と思わず和也が口にしたら、リサはぐるりと一回転して、

 

「どうかな?」

 

「どうかなって……えっと……いい感じに決まってると思うぞ」

 

「それでもいいんだけどさ……かわいい、かな?」

 

「――? ああ、心配しなくてもちゃんとかわいい。前から思ってたけど、リサはほんと何でも着こなせるよな」

 

「ふふっ、そっかそっか。アタシ、そんなにかわいいかぁ♪」

 

 そう言い、リサは軽やかにステップを踏みながらくるくると回る。

 見るからにリサは上機嫌だ。どのぐらいかと聞かれれば、初対面の人でも声だけ聞けば彼女が上機嫌だということがわかりそうなぐらい、超上機嫌だ。

 自分にファッションセンスがあるとは思ってない和也からしてみれば、自分に褒められてここまで喜ぶリサのことが不思議にしか思えないのだが。

 

「つーか、【Roselia】のイメージ的にかわいいよりもカッコイイの方が合ってるよな?」

 

「それならカズ兄! あこ、カッコイイかな!?」

 

「うん、かわいい!」

 

「あれぇっ?!」

 

 両手にドラムスティックを持ち、ビシッ! とポージングを取ったあこ。しかし、和也が親指を立てて即答したことで、「なんでぇ!?」とショックを受ける。

 あことしてはカッコイイと思って欲しかったのだろうが、カッコよく見せようとするその頑張りがすでに可愛いかったので仕方が無い。

 

「…………和也、あなた何をしに来たのよ」

 

 声を少し低くし、威圧するように言ってきたのは友希那だ。

 和也がリサ達と話している間にも、スタジオの利用時間の終わりが刻一刻と迫ってきていることもあってか、かなりおかんむりな様子。

「悪い悪い、別に邪魔しに来た訳じゃなくてな」と和也は悪意が無かったことを示しつつ謝ってから、

 

「まりなさんから伝言――いや、朗報を貰ってきたんだよ」

 

「朗報?」

 

 伝言――ではなく、朗報。

 あえてそう言い換え、思わせ振りな発言をした和也に友希那は眉を顰める。

 すると、和也は人差し指を友希那へと向け、ニッと口角を上げて言ったのだった。

 

「久しぶりにライブ、したくないか?」

 

 




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
 とりあえず今回の話でスカウトの話はおしまいです!思ってたより長くなってしまった……。
 実はこのスカウトの話は無しにしようかと思ってたんですけど、これは今後のRoseliaのクッションにもなるので流石に入れました。
 
 ここから先はオリジナル展開が今までよりも出てくると思うので、自分的にもかなり楽しみだったりします。(本編のストーリーもある程度回収しますが)
 何はともあれ、執筆速度が上がると思います。……たぶん。頑張ります。

 それでは、後書きもこれぐらいにして、皆さんまた次回!
 ばいちっ!
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