まさかの前回と同じ月に最新話を上げることができました。自分としてはかなり早い。スランプ脱出か?
そんなところで、さっそく本編どうぞー!
今回はRoseliaの出番が少ないですが……怒らないで(--;)
――周囲は、重い空気で包まれていた。
黒と紫の
友希那がスカウトされていたことから始まった騒動を乗り越え、前回のライブから問題視されていた衣装問題が解決した。というのに、彼女達の表情からはそれらの成長を喜んでいる様子は窺えない。
それどころか、全員が顔を顰めさせ、悔しさを滲ませていた。
「ごめん、みんな……。大事なところでとちっちゃって……」
その中でも一際立って感情を露わにしているのは、リサ。
震えた声で失敗を謝り、込み上がってくる悔しさにギリっと奥歯を噛み締めている。
いつもは明るい笑顔を周囲に振りまいている彼女だが、今はその面影は少しも無い。
「お、落ち込まないで……ください……」
「そーだよ、リサ姉〜! あそこまではすっごくいい感じだったんだしー!」
「落ち込んだところで解決はしません。演奏でのミスは地道な練習で改善すべきです」
「ええ、紗夜の言う通りよ。終わったことを悔やんでも意味は無いわ」
「でも、せっかくグリグリとのライブだったのに……」
あこと燐子が気を遣い、切り替えるように紗夜と友希那が言うが、リサの心境はそれらをすんなりと聞き入れられる状態では無かったらしく、元々伏せていた顔を更に伏せた。
それだけ、彼女がこの日のために本気で練習を重ねてきたという証拠なのだろう。
努力が報われなかった時の悔しさは、痛いほどわかる。
だが、こちらとしてはリサには笑っていて欲しい。今の彼女は、見ているこっちまで辛くなるぐらい落ち込んでいる。
今その思いを伝えるのは、彼女がしてきた努力や今感じている悔しさを軽視することと変わらないので伝えることはないのだが。
その代わりに――、
「まだ次がある。今感じてる悔しさの分もまた頑張ればいい。リサなら絶対できるって」
ポンっ、と。
ソファの傍らで見ていた和也は、リサの伏せられた頭に後ろから手を優しく置く。
そんな慰めの言葉ではリサがすぐに立ち直るとは思っていないが、今の彼女に言ってやれることはこのぐらいだろう。
日本の頂点であるフェスに出るためには、これから何度も悔しさを乗り越えていかなければならないのだから、リサがもう一回り成長してくれることを信じる以外にない。
「そのためにもこうして反省会をしてるわけだけど。……で、リサがミスったって時、皆はそのカバーに入ったんだよな?」
「……ええ。できる限り早く立て直したつもりよ」
「なら良いじゃねぇか。個人のミスはチーム全体でカバーするって大事なそれが今の段階でちゃんとできてるなら上々だろ。それに、聞いてる側からしたらあんまり違和感感じなかったし、前のライブと同じぐらい良かったと思うぞ」
「――だからいけないのよ」
「へ?」
大切なことができていたことを知れて安堵し、好感触だったことを伝えた和也。だが、僅かに気を緩めた彼を友希那は鋭い視線と声で穿った。
「和也でも感じることができたなら、コンテストの審査員は必ずそのズレを見逃さないわ。例えカバーができていたところで、それじゃあ意味が無いのよ」
「ま、まぁ……言われてみれば確かにそうだな。……うん」
「それに、前回のライブと同じということは、つまり前回から変わっていないことと同じ……いいえ、衣装が出来て、より【Roselia】の世界に引き込めるようになった分、マイナスね。コンテストまで時間が残されていない中、出遅れた私達には足踏みしてる余裕はないわ」
「そういう訳じゃ……いや、なんでもない」
握られた拳にグッと力を入れ、悔しそうに言われたそのことが全員の共通認識だったのか、友希那が言った後に他のメンバーが頷いているのが見えた。
その瞬間、ゾッとした和也の首筋に嫌な汗が流れ、発言を取り消す。
認識と危機感の違い。
今まで彼女達と同じだと思っていたそれらが違っていたことを深々と痛感した気がした。
音楽経験は皆無、知識は人並、フェスのことは人から聞いた話とネットで見た文字でしか知らない。フェスが頂点だという認識はあれど、それがどれだけ高いものなのかは見当もつかない。
それが、和也の現状だ。
ライブハウスで働いていることもあって、以前よりは少しマシになったかもしれないが、それでもまだまだ全然足りない。
今日までの間、度々【Roselia】の練習に顔を出して演奏を聴いていたことで、演奏にズレがあったことを僅かに気が付くことはできたものの、遥か高みを目指し続ける彼女達と同じ認識を共有するためには、彼女達と過ごす時間も、交わす言葉も、共に難題へ挑む回数も――何もかもが全く足りていないのだ。
和也としては、今までできる限りのことをやってきているつもりではあるのだが。
「……悪いけど、席を外してくれないかしら?」
「――。――――。ああ、わかった。……俺がいたところで何も言える気がしねぇし、話の邪魔にしかならなそうだからな。そう言われても仕方がねぇ」
重くため息を吐き、和也は友希那に従ってその場から離れる。
悔しくはあるが、この行為を間違えているとは思わない。
和也だけの力では、これが限界なのだから。
△▼△▼△▼△
【Glitter*Green】――愛称『グリグリ』。
そのバンドこそが、【Roselia】を今日のライブに誘ってくれたバンドである。
まりな曰く、【Glitter*Green】はこの地域のアマチュアバンドの中では一つ頭が飛び抜けている存在らしく、実際に演奏を聴いてみた和也はその話が決して誇張された評価ではないことを実感した。
圧倒的な人気で多くのファンから愛されており、演奏の技術は折り紙付き。【Roselia】とはまた違った種類の上手さがあって、その他全てにおいても今まで聴いてきたバンドの中で明らかにトップクラスだと和也でも感じた。
まだ一度しかライブをしていない、言わば新参者である【Roselia】が、そんな格上の存在とも呼べる【Glitter*Green】にライブを持ち掛けられた。
しかも、前回『CiRCLE』でやったようないくつものバンドが出演する形式ではなく、【Roselia】と【Glitter*Green】の二つのバンドで構成されるジョイントライブを、だ。
まりなから話を聞いた時は、まだ【Glitter*Green】がそのようなバンドであることも知らなかったし、そもそもライブができるということが嬉し過ぎてそんなこと気にしている余裕はなかった。
だが、今になって思ってみれば、調子に乗った新参バンドを叩き潰してわからせる、といった物騒な狙いがその誘いに込められていてもおかしくなかったのかもとか思ったり。
「出る杭は打たれるとも言うしな。……まぁ、実際は全くそんなんじゃなかったけど」
実際の【Glitter*Green】の演奏は、聴いていると自然と心が弾み、彼女達の姿はとても煌びやかで、【Roselia】を潰す! とかそんな物騒なものとは程遠いものであった。
まったく、何でそんな失礼な疑いをかけていたのだろうか。
と、ひとまずそのことは置いておいて――、
「今日のライブ、あいつらのためになったかな?」
壁にもたれ掛かりながら顎に手を当て、考え耽る。
伝えるようにとまりなに頼まれる形ではあったものの、【Roselia】にこのライブの存在を知らせたのは和也だ。
ともなれば、自分がしたことが彼女達のためになったのか気になるところ。
観客側からライブを見ていた和也の感想としては、今回のライブは有意義なライブだったのではないかと思っている。
【Roselia】と【Glitter*Green】。曲のジャンルもバンドの雰囲気も異なっているが、演奏中のパフォーマンスや客の盛り上げ方、そしてMCに至るまで、全てにおいて【Glitter*Green】の方が上手く、学べるところが沢山あったと思うからだ。
流石は先輩バンド、とでも言うべきか。
「【Roselia】も良かったんだけどなぁ……」
演奏面に関しては、【Roselia】は【Glitter*Green】に負けていなかった。いや、純粋は演奏力だけを見ればこちらの方が勝っていただろう。
しかし、そこにパフォーマンスや盛り上げ方など、そういった所々の要素が加わり、総合的に比べてしまうとその結果は変わってくる。
技術だけが全てではない。
サッカーにも言えるそれがバンドの世界でもあるという訳だ。
と、色々と思ってはいるけれども、演奏していた張本人達からしたらそもそも和也が良かったと思っている今日の演奏はダメダメだったらしいが――、
「――ちょっとそこの坊主、さっきからブツブツうるさいよ」
「ひぇっ、俺っ!?」
「あんた以外に誰がいるってんだい、まったく。少しは周りを見てみな」
突然知らない声に引っぱたかれ、自分を指差して驚く和也。すると、相手は呆れた様子ででそう言ってきたので、チラリと周りを見てみる。
和也の他に今ロビーにいるのは、掃除をしている猫みたいな髪型の女の子とツインテールで巨乳の女の子、そして声をかけてきた老婆だけで、確かに『坊主』と呼ばれて当てはまるのは俺しかいない状況だった。
ちなみに、【Roselia】の皆は少し前に控室へ戻っている。今頃は帰るための支度をしている頃だろう。
「って、確かあなたは……オーナーでしたっけ?」
目の前の老婆には見覚えがあった。それもついさっき。
白髪頭の一部に紫色のメッシュを入れていて、少しいかつめな印象を受けるこの老婆は、先程和也が【Roselia】の反省会から離れた後に入れ替わりで彼女達の元へと行って、何か話していた人だ。
「ああ、いかにも私はここのオーナーだよ。あんたは……さっき【Roselia】と一緒にいた子だね。私が行く少し前にどこか行ってたけど」
「っ……、はい。稲城和也って言います」
棘のある言い方に、眉がピクリと動く。が、俺があの場から離れたことは紛れも無い事実なので甘んじて受け入れ、名乗る。
というのも、ここ『ライブハウスSPACE』のオーナーであるこの人には、聞きたいことがあったからだ。
「オーナー、聞きたいことがあるんですけど良いですか?」
「なんだい?」
「今日の【Roselia】の演奏、オーナーから見てどうでした? 彼女達がフェスに出るためには、何が必要ですか?」
「それを聞いて、あんたはどうするつもり?」
「あいつらに、【Roselia】に伝えます。……さっきは何もできなかったから、今度こそ少しでも彼女達のためになることを何かしたいんです」
音楽素人の耳ではわからなくても、長年に渡って数々のバンドの演奏を聴いてきたオーナーなら、きっと【Roselia】の足りていない部分を的確に見抜いてくれているだろう。
それを聞き出し、友希那達に伝えることが、今の俺が【Roselia】の力になるためにできる最大の方法のはずだ。
そう考え至り、率直に尋ねる和也。そんな彼に、オーナーは腕を前に組んで目を細め、
「それで【Roselia】のためになれたとしても、それはあんたの力であの子達のためになったとは言えないよ。……それでもいいのかい?」
「はい、わかってます。でも、音楽をしてこなかった俺が皆の助けになるためには、こうやって人の力を借りるしかないんです」
「あんた、自分がカッコ悪いこと言ってるって自覚はある? それこそ男なんだからプライドってもんがあるだろ?」
「俺のプライドを守っても、【Roselia】の演奏が良くなることに繋がらないでしょ? だったら、こんなしょーもないプライドなんかくれてやりますよ」
躊躇いなくそう返し、「だからお願いします」と最後に頭を下げる。
すると少し間が空いてから、バシッ! と。
背中から衝撃が走り、そこそこ大きな音が鳴った。
「痛っ!?」
「そうかいそうかいっ、あんたはそんなにあの子達のためになりたいのかい! 他力本願なところはあれだけど、そうやって自分にできることを探してすぐに行動する姿勢は嫌いじゃないよ!」
「だ、だからって叩かないでくださいよ!」
背中を叩かれた痛みに仰け反りながらそう言う和也。しかし、それでもオーナーは止まらず、カッカと笑い飛ばす。
愉快そうに笑うその姿は、先程までの気難しそうだった印象とはかけ離れており、和也は「あ、この人も笑えたんだ」と不意に思う。
「ってあれ?」
そんな失礼なことを思っていたら、背中を叩かれる感覚が突然来なくなった。そして、それと同時に愉快そうに響いてた笑い声も消えている。
まさか声に出ていたのか、と恐る恐るゆっくりと視線を上げてオーナーの方を見てみると、オーナーは真剣な眼差しをこちらへと向けていて、
「悪いけど、私はあんたの期待には応えられないよ」
「え……?」
そう告げられ、和也は目を丸くする。
「それは……【Roselia】の演奏に悪いところが無かった、っていう意味ですか?」
「違う、むしろその逆だよ。あの子達の演奏は荒削りで、まだまだ改善すべき箇所は山のようにある」
「――? だったら、それを教えてくださいよ。改善点を聞いているんですから」
オーナーが首を横に振ったことで、和也の疑問は深まっていく一方。
オーナーは【Roselia】の改善点を見つけている。なのに、改善点を教えてくれという和也の期待には応えられない。
自分への嫌がらせか? という疑いが頭を過ぎったが、そんなしょうもないことをするような人には見えない。それに、今も向けられている眼差しは真剣そのもので、その可能性は低いだろうと判断付ける。
だから、オーナーが応えられないと言ったのにも、何か理由があるのだとは思うのだが――、
「あんたはいつから【Roselia】の演奏を聴いてるんだい?」
「え? えっと……結成する前から、ですかね? 練習してるとこは最近ちょくちょく見るようになったぐらいですけど、メンバーのオーディションをする時はその場にいましたし」
色々と慮っている最中に不意に聞かれ、少しキョトンとしてから和也は答える。
それを聞いたオーナーは「へぇ」と感嘆を漏らすと、
「それなら、メンバー一人一人がどんな子なのかもある程度知っているね?」
「まぁ、ある程度でいいなら一応……多分、知ってるって言っていいと思いますけど……」
「【Roselia】の子達を信頼しているかい?」
「――。そりゃ信頼してますよ。皆良い子ですし、あれだけ音楽に真剣なとこ見せられたら尊敬もしますよ」
【Roselia】の演奏を聴き始めた時期、メンバー一人一人への理解度、そして彼女達を信頼しているかどうか。
自分は今、なんでこんなことを聞かれているのだろう。
重ねられていく質問の意図を汲み取れず、不審に思いながらも和也は答える。
しかしその不審感は、「じゃあ最後に聞くけど」と前置きされた次の質問によって、跡形も残らず振り払われることになるのだった。
「あんたが信頼してる【Roselia】の子達は、自分達の演奏に何が足りていないのかさえわからないと思うかい?」
「――!!」
全てが繋がり、和也は絶句する。
そして、「どうなんだい?」と詰められるが、唇に力を込めて固く結び、答える意志をみせようとしない。
答えはわかっているのに、自分の中ではもう出ているというのに、それを答えてしまったら、認めたくないことを認めてしまう気がして、答えたくない。答えられなかった。
「酷な質問だったね。けど、あんたがその内ぶつかる壁だ。だから、あえて今言わせてもらうよ」
しかし、そうやって和也が押し黙ることすら、オーナーにとっては想定の範囲内だったのだろう。
何も答えようとしない和也を見据え、オーナーは冷酷にも告げた。
「――あんたは、音楽面であの子達の役には立てない」
「――――」
「例え今回、私に頼って上手くいったとしても、その次、そのまた次の時にあんたはまた誰かを頼ることになる。それが悪いことだとは言わないよ。人に頼るってことは、そのことを自分はできないってちゃんとわかっている証拠であり、それでも何とかやり切ってやろうって気持ちの表れでもあるからね。さっきも言ったけど、私は嫌いじゃない。……でも、それを続けるんだとしたら、別にそこがあんたである必要はないんじゃないのかい?」
「――――」
「別に自分を責める必要は無いよ。と言っても、今のあんたの様子を見るにそんなこと言っても無意味だろうけどね。いいかい? これは適材適所ってのと同じだ。音楽をしてこなかったというあんたが背伸びをしたところで、本気で上を目指す連中の力になれないってことぐらい考えなくてもわかるだろ?」
――。
――――。
――――――――――――わかってる。
わかっている、わかっていたことだ。
わかっていたから、和也が今までにその場面に直面した際には、自分では技術的なことはわからないから力になれないと言っていた。
今回だってそうだ。自分一人だけじゃ駄目だと理解していたから、演奏の出来に落ち込んでいた【Roselia】を立ち直らせたオーナーの力を頼ることにした。
音楽の経験も知識も才能も無い自分が、音楽に必死に打ち込む彼女達の力になるためには、そうやって他人の助けに頼る以外に方法はないのだから。
そのことを、和也はちゃんと理解しているつもりだった。
だがしかし、それは結局のところ『つもり』でしかなかった。
だって、そうじゃ無ければこんなにも悔しいわけが無い。
わかっていたことを言われただけなのに、本当のことを突きつけられただけなのに――こんなにも、それを認めたくない気持ちが強くなる訳がないじゃないか。
「――――」
激動する感情。しかし、それと反比例しているように体は全く動かない。
先走る感情に和也の体は置いてかれ、ただただ無駄な時が過ぎていく。
どれだけ気持ちが強くても、これではまた何もできないまま終わってしまう。
「っ!?」
「いつまでボサッとしてるつもりだ? もうそろそろ【Roselia】の子達が戻ってくるよ、それでもいいのかい?」
バシッと尻を叩かれたと同時にそう急かされ、和也は固く閉ざしていた口から息を漏らす。が、そこから言葉が続くことは無い。
自力では立て直せそうにない和也を見て、オーナーは「はぁ、まったく手間のかかる子だね」とため息混じりにボヤいて、
「あんたは【Roselia】のことが好きかい?」
「……え?」
「良いから早く答えな、時間がないよっ!」
「あ……ああ、好きだ。好きだから、もっとあいつらの音楽を聴きたいと思ってて……力になりたいとも……」
「それなら、あんたは【Roselia】のファンなのかい?」
「……ファン……?」
ファン。
その響きが引っかかり、何度も繰り返し呟く。
ファン、ファン、ファン。自分は【Roselia】の、ファン。
やはりだ、引っかかる。
【Roselia】の音楽が好きだ。
そのことは間違っていないのに。
【Roselia】の音楽をまた聴きたいと思っている。
そのことも間違っていないのに。
「違う……俺はファンじゃない」
【Roselia】のファンなのかと聞かれ、それを肯定することは和也にはできないことだった。
「何が違うんだい? あんたは【Roselia】の音楽が好き。そして、あんたが言ってた力になりたいってのも、熱狂的なファンなら全員が持ってる気持ちさ。だから必死に応援している。届ける声援が、少しでも相手の力になると信じてね」
「そうだけど……違うんだよ……!」
応援してくれる存在が、力になることは和也もわかっている。
しかし、友希那と、リサと、あこと、燐子と、紗夜と、彼女達と自分との関係が、アーティストとファンになることが受け入れられない。
その関係が他人同士のようにしか思えなくて――和也はギリッと奥歯を噛み締め、言った。
「俺は、【Roselia】のファンにはなりたくない……っ!!」
「ハッ。ファンにはなりたくない、ね。だったらどうするつもりだい? 今から必死に勉強して、【Roselia】のプロデューサーにでもなるかい?」
駄々をこねる幼子のようなもの言いをする和也を鼻で笑い、どうするつもりだといけ好かない笑みを浮かべてくるオーナー。
それはまるでこちらを見定めているかのようにも思えて、見られている側の気分は良くない。しかも、言っていることが全て否定できない事実ばかりなのだから、反論できない分尚更に。
「――――」
長く息を吐く。
どうしようもないことを並べられられ続けたことに、嫌になってため息を吐いた訳では無い。
沸騰している頭を少しでも冷やし、自分にできることを考えるためだ。
「いえ……俺はプロデューサーにもなれません。あいつらみたいなセンス、俺にはありませんから」
「さっきまでの威勢はどうしたんだい? ……あんたなら何か言い返してくれると思ってたんだけどね」
「俺が音楽面で役に立てないって言ったのはオーナーの方でしょ? それが何も間違っていないから、できないことをできないと認めただけです」
「だったら、諦めるのかい?」
消極的な和也の発言に肩透かしを食らったように、オーナーは軽く眉を上げた。そして、上げた眉をすぐにキュッと寄せて眉間に皺を作り、和也を睨みつける。
しかし、そうして向けられる威圧的な視線に一歩も引くことなく、和也はお望み通り正面から言い返してやった。
「まさか、諦めるつもりなんてありません。適材適所と同じだとしたら、音楽に関係する以外のことで俺があいつらの力になれるものが何かあるはずです。――だったら、それを見つけ出してやりますよ」
「――。フッ、よく言えたじゃないか。確か、稲城といったね? 見直したよ」
言いながら、オーナーは口角を吊り上げる。
そして、和也の肩に手を置き、
「それならよーく考えるんだね、稲城。――自分が【Roselia】にとってどういう存在でありたいのかを」
そう最後に言い残し、去って行くオーナー。
顔中皺だらけにして最後に浮かべていた笑みはどこか嬉しげで、期待のようなものを感じられたことに、和也は戸惑いを覚えずにはいられなかった。
△▼△▼△▼△
「――あ、もうこんな時間か」
チャイムが鳴り響き、ふと時計を見てそう呟く。
あと一時間ほどで完全下校の時刻。教室内には俺以外誰もいない。
今日はバイトも他の予定もないため、別に急ぐ理由は無いのだがそろそろ帰るとしよう。
そう思い、俺は机の上に広げていた問題集とノートを片付けていく。
放課後の教室にわざわざ残って、こうして先程まで一人で勉強していたわけではあるが、あまり集中できていたとは言えないだろう。
というのも――、
「【Roselia】にとって自分がどういう存在でありたいかよく考えろ、ね……」
あの婆さん、オーナーが最後に笑みを浮かべて言い残していったその言葉が頭から離れず、問題が頭に入ってこなかった。
もうすでに『ライブハウスSPACE』で【Roselia】がライブをした日から三日経っている。
そして、その三日間の間ほぼずっと俺はそれについて考え続けていたのにも関わらず、その答えは未だに浮かんでこない。というより、浮かびそうにないと言った方が正しいだろう。
まさに行き詰まり。どん詰まり状態だ。
元からちょっとやそっと考えた程度で答えを導き出せるとは思って無かったが……まったく、最後にとんでもない難問を残していきやがったあの婆さんには、文句の一つや二つ言ってやりたい気分だ。
「とは言え、例えあの時に言われてなくても、近い内に同じことで悩むことになってたってのは俺も思うしな。スッゲー悩んでるけど、アドバイスを貰った分マシってポジティブに考える方が良いか」
もしあの時、オーナーと話さなければ俺は今も音楽面で友希那達の力になれなかったことを引きずっていただろう。
できもしないとわかっているはずのことに対して力不足を感じて焦り、他にできるはずのことにも目がいかなくなってしまっていたかもしれない。
そうなってしまっては、【Roselia】にとっての俺はただの邪魔者だ。そんなの絶対に嫌だ。
だから、そうなる前に防いでくれたオーナーには、もちろん感謝している。
そういえば、これは時間が経ち頭が冷めたことによって思ったことなのだが、オーナーが挑発的な態度を取ってきたのは、もしかして俺が反感して啖呵を切るのを狙っていたからではないだろうか。
もしそうだとすれば脱帽ものだ。
簡単に乗せられた俺の単調さには呆れるしかないが。
「まぁなんにせよ、今は俺ができることを考えるしかないか。俺が【Roselia】のためにできること…………雑用とかはできるけど、それはなんか違う気がするし……あーっ! 俺にも音楽の才能とかあったら全部解決するってのにっっ!!」
再度考えてみるがやはり良さそうなものが思い浮かばず、頭を抱えて天井を仰ぎながらたらればを叫ぶ。
【Roselia】にアドバイスできるぐらい凄い音楽の才能、知識、または実力。
その中の一つでも持ち合わせていたなら、状況はもっと簡単になっていただろうに。
まぁ、今そんなことを悔やんだところで状況は何も変わらないのはわかっている。
だからこそ、音楽以外のところで俺が【Roselia】の力になれるものは無いかと探しているのだ。
ただ、今叫ばずしていつ叫ぶと言うんだって話。
「どうしようもないってわかってても、諦めんのは悔しいんだよ」
ったく……、と吐き捨てながら教室を出る。
荷物も纏めたし、さっさと帰ろう。
「――――」
しかし、廊下を進んですぐに俺は足を止めた。
なぜなら――、
「――フリー! 上がれるよ!」
「ライン下げんな!」
「いけいけ! 健太そこ出ろよッ!!
「いや無理だろ!」
「ヘイヘイ! サイド空いてる!」
開いた窓から聞こえてきた声は、慣れ親しんだものだった。
声の主が、という意味ではない。骨にまで染み込んだと言っても過言でない程やってきた、口の悪い大声で飛び交っているその内容が、だ。
「――――」
自然と視線が窓の外へと向いていた。
俺がいる校舎から少し離れた、サッカー部が試合をしているグラウンドの方へと。
自分の高校のサッカー部の練習を見るのはこれが初めてではない。今までに何回も見ているし、無理矢理連れてかれたという形ではあったけれど大会にだって見に行ったことがある。
だから、別にこの光景は珍しいものではない。ごくありふれたものだ。
それなのに今日は何故か気になって、目が離せなかった。
そして――、
「…………右のウィング、結構下がってくる癖があるな。別に相手のプレスにはめられてる状況でも無かったし、達哉も高い位置取れてたから我慢するだけでもう少し楽に崩せるだろうな。あと他にも……まぁ、明日達哉に話したらいっか」
試合終了のホイッスルが聞こえたのを合図に、そう予定を決めて踵を返す。
時間も、帰ろうとしていたことも、三日間ずっと悩んでいたことも、【Roselia】のことも何もかも、サッカーのことを考えていた間だけ頭から離れていたことなど少しも気付かずに。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
前書きにも書きましたが、今回はRoselia少なめです。はい、Roselia好きの皆さんすみません。次回はちゃんと皆出す予定ですので。
オーナーの口調がわからず、多分違和感を与えてしまったかもしれません。「やりきったかい?」って言わせたかったんですけど、言う流れが思い浮かばず断念しました。
そして久しぶりに(名前だけ)出てきた達哉くん。ほんと何ヶ月ぶりでしょうか。
一応もう一度書いておきますが、彼は和也とそこそこ付き合いの長い友人です。付き合いの長さはリサと友希那の方が長いですが、深さでいうと達哉くんが圧勝だったりします。
まぁ、彼の出番はもっともっと後なので、忘れてくれて大丈夫です。
25日はRoseliaの映画の後編ですね!
前編が全体的に急ぎ足だった分、ふかーくやって欲しいです(^^)
とりあえず、放映日初日に見に行ってきます!
それでは、また次回お会いしましょう!ばいちっ!