青い薔薇に棘があろうと握った手だけは離さない   作:ピポヒナ

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こんばんは、ピポヒナです。
お久しぶりです。大変お待たせいたしました。
一応毎日書いてるのですが、なかなか進まなかっただけです……ちゃんと終わらせる意思はありますので、何卒ご付き合いください<(_ _)>

色々と書きたいこともあるのですが、それは後書きに書きます。
それでは、数ヶ月ぶりの本編どうぞ。





22歩目(1) 未熟でも

 ――懐かしい、そう思った。

 

 初めて聴く曲だ。

 初めて聴くメロディだ。

 それでも、その歌声を、楽しそうな歌声を知っている。

 心が揺さぶられるこの感覚を覚えている。

 

 それは、今はもう記憶の中にしか残っていない、かつて焦がれ、憧れたあの音楽。

 それは、もう聴くことができないと思っていた、音楽への純粋な情熱が込められた本物の叫び。

 

 だからこそ。

 だからこそ――、

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 役目を終えたカセットテープがカチッと音を鳴らし、巻き戻されてゆく。

 その音だけが、部屋に静かに響く。

 

 古びたカセットテープから流れた、激しいシャウト。今はすでに引退した友希那の父親が残したと思われるその歌声は、聴いた者を唖然とさせるには十分過ぎた。

 

「ユキおじさんがスゲーってのは元々知ってたけど、まさかここまでスゲーとは……。正直、想像以上だ」

 

「うん……聴いただけで、こんなにも揺さぶられるなんて……」

 

「あれ? リサは小さい頃にユキおじさんの音楽結構聴いてたんじゃなかったっけ? やっぱ、どんな音楽なのか知っててもそんなに驚くものなのか?」

 

 友希那の父親の音楽を初めて聴いた和也と同じような反応を見せたリサ。そんな彼女に疑問を持ち、和也は尋ねる。

 すると、リサは困ったように「うーん」と唸って、

 

「そうなんだけどさ、久々だったからか、それともアタシがバンドのこと昔よりもわかるようになったからか……ともかくわからないけど、なんだか記憶にあるおじさんの音楽とは違うように聴こえた気がしたんだ」

 

「違うように聴こえた……?」

 

「うん。とは言っても、アタシの感覚的にそうって思っただけだけどね。まぁたぶんただのアタシの勘違いだと思うよ」

 

「……そうでもないわ」

 

 自信なさげに自分の感覚を否定するリサ。しかし、彼女のその発言に対し、この場にいたもう一人の幼馴染――友希那が首を横に振る。

 

「この曲は恐らく、お父さんのバンドがまだインディーズだった頃の曲よ。リサがよく聴いていた曲はメジャーデビューしてからの曲だったはずだから、色々と違いを感じたんじゃないかしら?」

 

「――。そっか、なるほど。メジャーデビューしてからの曲とインディーズ時代の曲は違うもんね」

 

「……ええ。この曲からは、あの時のお父さんの、音楽に対する純粋な情熱を感じた……。――『LOUDER』は、お父さんが本当にやりたかった音楽よ」

 

 友希那の父親は、メジャーデビューしてから売れる音楽を強制させられていた。

 より民衆が好むリズムに、より民衆が気に入るメロディラインに、よりお金の儲かる音楽に変えられていったメジャーデビューしてからの彼の音楽は、本当に彼がやりたかった音楽とは程遠い。

 事務所に所属せず、音源を売るとしても自生したものを手渡しで売っていたインディーズ時代の音楽こそが、友希那の父親がやりたかった音楽――誰にも縛られていない本来あるべき姿の音楽なのだ。

 三人を圧倒した、この『LOUDER』のように。

 

「って、普通にスルーしかけてたけど、『LOUDER』っていうのはもしかしてさっきの曲の名前か?」

 

「ええ、そうよ。カセットテープが入っていたカバーに書いてあったわ」

 

 そう言い、友希那は持っていたカバーを見せてくる。

 風化し、少し黄ばんだその側面には、確かに『LOUDER』の文字が書かれていた。

 薄くなっていて読みにくいが、歌詞の中にも『LOUDER』という単語自体あったことから、十中八九、これがこの曲の曲名であるだろう。

 

「『LOUDER』……当たり前かもしれないけど、この曲にピッタリだと思わない?」

 

「そうだな。ユキおじさんの歌声……特にサビのところの力強いシャウトにピッタリだ」

 

「だよねだよねっ! あ〜、勉強会ラストにホントいい物聴いちゃった♪」

 

 と、言いながらグーっと伸びをするリサ。満足そうに笑みを浮かべる彼女の姿に、和也も自然と唇を綻ばせる。

 

 ――『LOUDER』。

 友希那の父親が昔歌っていたそれは、今まで聴いてきたどの音楽よりも心揺さぶられ、衝撃を受けた。

 聴き終わってから時間はそこそこ経っているが、それでも未だに余韻に痺れている。

 

「確かにいい物を聴かせてもらったな」

 

 いつかできることなら、実際に生で聴いてみたいものだ。

 そんな状況、訪れることはないのだろうが。

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

「――それじゃ、お邪魔しました〜! 友希那、明日のテストお互いに頑張ろうね!」

 

「どんな問題が出ても焦らず冷静に。ちゃんと勉強してきたんだ、普通にやれれば上手くいくからな」

 

 そう言い残し、リサと共に幼馴染の家を出る。

 今日で、十日間続いた勉強会が終わった。色々と大変ではあったものの、なんやかんやで楽しかったし達成感があった。

 明日残っている最後のテスト科目は二人が苦手な数IIではあるが、今日までみっちりと勉強してきた二人ならきっと大丈夫だろう。

 

「――リサ、和也……待って」

 

「――? どうした、友希那?」

 

 帰ろうとした矢先、友希那に呼び止められ、振り返る。

 

「二人に、聞きたいことがあるの……」

 

「聞きたいこと?」

 

「……二人は……私に、『LOUDER』を――」

 

 言いづらそうにしながらも、少しづつ確実に言葉にしていく友希那。しかし突然彼女は目を見開き、言い切らずして口を瞑らせた。

 その理由は、次の瞬間リサと和也の後ろからかけられた声によってすぐにわかることになる。

 

「――っ!?」

 

「――おや? リサちゃんにカズくん。二人揃ってうちに来ているなんて珍しいね」

 

「あ、ユキおじさん。こんばんは」

「おじさん、こんばんは〜」

 

「こんばんは。久しぶりに三人で遊んでいたのかな?」

 

 と、話しかけてきたのは、黒を基調としたオシャレな服に身を包んだ伊達男――友希那の父親だ。ちょうど仕事から帰ってきたところなのだろうか。それにしても、もう四十代に入っている筈なのに昔と変わらずイケメンだ。

 そんな伊達男からの疑問に、和也は答える。

 

「勉強会をしてたんですよ。明日まで羽女が期末テストなんで、そのために」

 

「なるほど。そう言えば妻からもその話を聞いていたよ。テスト数日前から毎日、カズくんが友希那とリサちゃんに勉強を教えてくれているってね。こちらとしてはありがたいけど、カズくんの方のテストは大丈夫なのかい?」

 

「自分は元々勉強してたんで全然大丈夫ですよ、教えるのも結構勉強になりますし。それにこの二人に赤点取られる方が俺にとっては困るんで」

 

「なーんか仕方なそうに言ってるけど、可愛い女の子二人に付きっきりで教えられるなんて凄い恵まれてるんだからね? わかってる?」

 

「教えられてる側が得意気にそれ言うなよ」

 

「確かにそうだね。同じ男として羨ましい限りだよ、カズくん」

 

「なにユキおじさんまで悪ノリしてるんすか……まったく……。おたくの娘さんの学力が酷すぎて、それどころじゃありませんでしたよ。もう少し、普段から勉強する習慣を付けといてくれます?」

 

「ははっ、そこを指摘されるのは親として正直耳が痛い。でも、教えていて悪い気はしなかっただろう?」

 

「ま……まぁ、そうですけど……」

 

「それなら良かった」

 

 そう言って笑い、友希那の父親は背中をポンと叩いてきた。

 背中を叩かれた和也は、「まったくこの人は……」とため息を吐く。

 

 一見、クールな雰囲気を纏っている友希那の父親だが、和也と話す時はいつもこんな感じだ。娘の幼馴染、そして昔からのご近所付き合いがあるからか、いつも親しげに和也に接してくれる。

 それはまるでもう一人の父親になろうとしているかのように。

 

 親しげにしてくれるのは楽でありがたいと思う反面、少し気を遣わせてしまっているようにも感じるのだが――、

 

「おっと、すまない。まだ仕事が少し残っているんだった」

 

 すると、ポケットの中でスマホが鳴り、画面を見た友希那の父親は「うっかりしていた」と頭を掻く。

 

「それじゃあ、リサちゃん、カズくん。久しぶりに話せて良かったよ。これからも友希那と仲良くしてやってくれ」

 

「はーい!」

「もちろんです!」

 

「ふふっ。頼んだよ」

 

 そう言い残すと、友希那の父親は家の中へと入っていった。

 扉の前に立つ、複雑な表情をした娘に「すまない、邪魔をしてしまったかな?」と苦笑いを見せて。

 

「……しっかし、相変わらずイケメンだったな、ユキおじさん」

 

「ほーんと。アタシのお父さんにも見習ってほしいよ」

 

「リサおじさんはリサおじさんで良いとこあるから、そう言ってやるなって。――って、あっ!?」

 

「ビックリしたぁ……いきなり叫んだりしてどうしたの?」

 

「『LOUDER』のこと、何かしら聞いとけば良かったなって……」

 

「あぁ……確かに忘れてたね」

 

 友希那の父親がいなくなった後、彼が昔歌っていた曲の存在を思い出し、和也は「くっそぅ……」と頭に手を当てる。

 落ち込む和也をリサは「まあまあ」となだめ、

 

「また今度会った時に聞けば良いじゃん。別に全然会わないって訳でもないし、なんだったら友希那に聞いてもらうっていう手もあるんだし」

 

「それもそうだな。また今度にするよ」

 

「そう言えば、友希那もアタシ達に何か聞きたいことあったんじゃなかったっけ? ちょうどおじさんが帰ってきて、途中になっちゃってたやつ」

 

「ああ、そう言えばそうだったな。悪い、友希那。もう一回言ってくれないか?」

 

「…………いえ、やっぱりいいわ」

 

 中断していた話を再開すべく、和也は友希那にもう一度話すように言う。しかし、友希那は首を横に振り、それを拒否した。

 その理由は――、

 

「改めて考えてみると、二人に聞くほどのことではないと思ったの。だから大丈夫よ」

 

「それなら良いけど……また何かアタシ達に隠してる訳じゃないよね……?」

 

 もしかして……、と恐る恐る尋ねるリサ。

 一人で全て抱え込もうとする友希那の悪癖が頭を過ぎり、和也もリサと同様に身構える。同じような失態は、もう二度としたくはないのだ。

 しかし、そんな二人の心配をよそに、友希那は笑みを見せたのだった。

 

「ふふっ……二人とも本当に心配性ね。本当に大したことじゃないから大丈夫よ」

 

「なら尚更話してくれないか? このままうやむやの状態で帰っちまうと、こっちが気持ち悪い。それに、俺たちにとっては大したかもしれねぇだろ?」

 

「……それもそうね。それじゃあ……」

 

 と言ってから、友希那は少し間を置き、

 

「……『LOUDER』を【Roselia】のメンバーにも聴いてもらうべきかどうか、それを二人に聞きたかったのよ。ほら……お父さんの音楽を聴いてもらうのが、【Roselia】にとっての最善とは限らないでしょ?」

 

「そういうことだったのか……。リーダーとして色々と気を遣ってたんだな」

 

 友希那が聞こうとしていた内容を知り、和也は「なるほどな」と頷いた。

 フェスへの出場権を賭けたコンテストまであと二週間と少々しか残されていない今は、【Roselia】にとってとても重要な期間。そうなってくると当然、バンドのリーダーである友希那も選択を慎重にならざるを得ない。

 和也達に衝撃を与えた『LOUDER』ではあるが、その衝撃が他のメンバーに良い影響を与えるとは限らないのだ。

 

「とはいえ、さっき大したことないって言ってたから、どうするのかはもう友希那の中では決まってあるんだろ?」

 

「……ええ。悩んだけど、皆にも聴いてもらうことにしたわ。ほら……私の、原点でもあるから……。リサもそれで良いわよね?」

 

「友希那がそれで良いならアタシも賛成! もっといい演奏をするための良い刺激になりそうだしね⭐︎」

 

「それに、あこちゃんとか特に気に入りそうだしな」

 

「あっは、確かにそうかも」

 

「……それじゃあ、明日の練習で聞いてもらうことにするわ」

 

 二人とも引き止めて悪かったわね、と最後に付け加え、体の向きを変える友希那。

『LOUDER』を【Roselia】のメンバー全員に聴いてもらうことが決まったことで、急ぎで話さなければならないようなこともなくなり、確かにここで解散してもいいタイミングではある。が、和也としては一つだけ言い残していることがあった。

 スタスタと歩き、家の中へ戻ろうとする小さな背中に、和也は「友希那」と優しく声をかけ、

 

「悩んでるってこと、話してくれてありがとうな。友希那がちゃんと俺達のことを頼ろうとしてくれたってわかって嬉しかったし、正直ちょっと安心した」

 

「――。――――。……ええ。前にスカウトのことがあったから……流石にね」

 

「これからもまた頼ってくれよ。なんてったって、俺は友希那の味方だからな!」

 

「あっ、和也だけ抜け駆けしてズルい! アタシもだからねっ、友希那!」

 

「……わかってるわよ、ちゃんと」

 

「んじゃ、それだけだ。また明日な」

 

「バイバーイ、友希那〜♪」

 

「……ええ」

 

 そう言い合って最後に手を振り、三人はそれぞれの家へと帰ったのだった。

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 ――リサと和也に手を振った後、友希那は家に入らず、しばらくの間外にいた。

 

 中に入り、自室に籠っても良かったのだが、鉛のように重く感じる全身がそれを拒んでいた。

 暑くも、寒くもない夜の中、友希那は項垂れる頭を両手で支え、己への嫌悪感を吐き出す。

 

「『LOUDER』を【Roselia】の皆に聴かせるべきかどうか……よくあんな嘘が咄嗟に出てきたわね……」

 

 友希那のことを信じ、友希那の味方だと言ってくれ、誰よりも友希那のことを考えてくれる幼馴染二人。

 その二人に、友希那はまた嘘をついた。

 

 友希那が二人に話した悩みも、一応ちゃんと悩んでいるものではあった。しかし、本当に二人に聞きたかったのはそのことではない。

 本当に、二人に聞きたかったのは――、

 

「私に……『LOUDER』を歌う資格はあるのか……それを、聞きたかったのに……お父さんを見た途端言えなくなった……っ……」

 

 笑えた。

 歌う資格が自身にあるのかどうか気にしているということはつまり、友希那は『LOUDER』を歌いたいと思っているということだ。

 今の自分はそれをやっていいはずがないとわかっているのに。

 自分の歌声はあの頃の父のように純粋ではなく、幼馴染からの信頼を無下にし、己の信念すら貫けない未熟者であるのに――。

 

「――どれだけ未熟で嫌になっても、夢を掴むためには進み続けるしかない。……本当に、簡単そうに言ってくれるわね。最近まで、私が歌っていることすら知らなかったくせに……それに、今のあなたはどうなのよ」

 

 ふと、昔言われた言葉を思い出す。そして、それを言った彼の無責任さにだんだんと腹が立ってき、愚痴を吐く。

 しかしそれでも、あの日のことを思い出すと思ってしまう。

 

「でも……あなたが私なら、きっと少しも悩まずに歌う決断をするのでしょうね……」

 

 彼は、友希那ができなかったことをやっていた。

 夢に全てを捧げ、ただひたすら真っ直ぐに向き合っていた。

 あれを、あの姿を純粋と呼ぶのだろう。

 復讐のために音楽に打ち込んできた友希那にはない、純粋な煌めきだ。

 ――ああ、あの頃の彼に戻ってほしい。

 

「いいえ……私が戻さないと。――そうするって、約束したから」

 

 それが例え向こうからの、一方的で勝手に結ばれた約束であったとしても。

 あの日、前を向かせてくれた彼への恩を、友希那は返さなければならないのだ。

 だから――、

 

「……少し、良い……?」

 

「……ああ、丁度残っていた仕事も終わったところだ。どうしたんだい、友希那?」

 

 重い体を無理矢理動かし、いつも見て通り過ぎるだけだった部屋の扉を叩く。

 そして、中から出てきた父親に向かって、友希那は言った。

 

「――話があるの……音楽のことで……!」

 




 最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
 読んでいてわかったと思うのですが、くっそ待たせた割に今回は(今回も?)全く話進んでないです! しかも短い!
 この続きの展開自体は頭に既にあり、明日からまとまった休暇があるので、次の話は近日中に出せるかも……? いや、出します。
 次の話では一気にコンテストまで行ければなー、と思ってますがどうなることやら……。この作品オリジナルの友希那の過去については、もうそろそろ鮮明に書くつもりなので、しばしお待ちを。

 それでは、この辺で! ばいちっ!
 PS、友希那パパの本名公開はよ
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