青い薔薇に棘があろうと握った手だけは離さない   作:ピポヒナ

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 こんにちは、ピポヒナです。
 昨日気が付いたんですけど、私の名前って「ピポヒナ」なんですね。今まで「ヒポヒナ」だと思ってました。名前の由来は無く、拘りとか無かったので…はい、すみません。

 と、そんな私の馬鹿さを披露したところで、UA2100達成、そして、一人の方が高評価をつけてくれました!!本当にありがとうございます!これからも頑張っていきます!!

 アプリの次のイベントは千聖さんですね~。好きなキャラなので結構わくわくです♪

 それでは、本編どうぞ!!





4歩目 特訓

「リサ、あこちゃん。…昨日は申し訳ございませんでした!!!」

 

 練習スタジオに入ってから数十秒。

 まだ楽器をケースから出せていないこの状況で、二人の少女に向かって頭を下げている者が一人。

 

 

 ――オーディションに向けての特訓は、稲城和也の土下座で幕を開けた。

 

 

「……うし、時間とらせて悪かったな。それじゃあ気にせずに特訓を始めてくれ」

 

「いやいや、ちょっと待ってよ和也。…え~と、今の何?」

 

「何って…土下座」

 

「それは分かってるんだけどその……」

 

「カズ兄は何であこ達に謝ったの?」

 

「そうそれが言いたかった」

 

 俺が土下座した理由もとい、謝罪した理由はもちろん昨日のことに関してだ。

 昨夜、俺がしでかしたこととは、調子に乗ってしまったこと。二人を助けるつもりではあったものの、結果的に友希那が出した条件はやばいぐらい厳しい。それが俺のせいなのではないのかと罪悪感を覚え、昨日からずっと胸の中に渦巻いていた。

 

 友希那のことだから、俺ごときがあの時に関わってようが関わってまいが、おそらく同じ条件を出していたかもしれない。だとしても、ほんの1%、0.1%でも可能性があるなら謝っておきたかった。

 ああそうだ、傲慢だ。単なる自己満足だ。

 しかし、このことを謝れないでいると、永遠に全力で応援することができないと思った。それだけは、絶対に嫌だった。だから、二人に迷惑をかけてしまうと分かっていながらも、こうして謝った。

 

「話してもいいけど、たぶん長くなるぞ?それに謝ったのも、男のプライドって感じで、リサとあこちゃんからしたら意味不明だと思うし」

 

「…分かった。じゃあ、聞かないでおくね」

 

「ああ、助かる」

 

「スタジオの予約してくれた恩もあるからね~☆」

 

 こういうところで深く聞いてこないのが、気を利かせるということなのだろうか。

 昨日の登校中に、友希那に気を利かせようとして失敗した経験がある俺は、もちろんこのリサの対応を参考に頑張ってゆく所存にございます。流石リサだ、略してさすリサ!

 と、くだらないことを考えていると、「それにしても」とリサがスタジオ内を見渡しながら、

 

「和也ほんとによくこことれたよね~、やるじゃん♪」

 

「どういたしまして、二人の役に立てたなら疲労困憊で睡魔が怒涛に押し寄せる中、朦朧とした意識で一生懸命抗いながら電話した昨夜の俺も浮かばれる。あと、なんならもっと褒めてくれてもいいんだぞ」

 

「カズ兄ありがとーーっ!!!」

 

「ごちそうさまです!」

 

 俺の自己満謝罪も終わり、いよいよ特訓スタートだ。

 

 ちなみに、一週間という短い期間のうちに十曲を演奏できるようになるだけでも難しいというのに、その一曲一曲も高レベルに仕上げないといけないという、音楽ほぼ素人の俺から見ても分かるぐらい難易度鬼である友希那からの試練を乗り越えるために、俺にはまず何ができるかと考えた結果がこれ。

 最初から複数人で練習するのが本人たちにとって良いものなのか分からなかったので、そこは予約する前にリサにメッセージアプリで確認を取ったところ、自分だけじゃ気付けないところに気付ける上に、お互いの刺激にもなる。とのことだったので、リサとあこちゃんにはこうして、奇跡的に予約が取れたCiRCLEの練習スタジオに来てもらったというわけだ。

 

「じゃあ、さっそく始めよっか。あこはどの曲からやりたい?」

 

「この曲からやりたいっ!!あこの大好きな曲なんだ~」

 

「おっけー。それじゃあ、やろっか♪」

 

「さて…二人の腕前はいかほどのものか…と」

 

 ライブは昨日聴いたばっかしだ、今でも鮮明に…とまではいかないが思い出せる。それを基準に、二人の実力を俺なりに計ってみる。

 さあ、あこちゃんがドラムスティックを「ワン!ツー!ワンツースリーフォー!!」と鳴らし、演奏が――、

 

「――おぉ…!」

 

 先に結論から言うと、二人の実力は分からなかった。まあ、そりゃそうだって感じだが、気付いたことはある。

 

 リサのベースは、周りをそっと優しく包み込み、しっかりとした安心感を与える。そんな風に感じた。

 次にあこちゃんのドラムは、聴いてるだけで自然と踊り出しそうになったし、あの小さい体からは想像もできないぐらい音は力強く、存在感がある。

 

 どちらも見当はずれな感想なのかも知れないが、こう間近で聞いてみるとそれぞれの音に色があって面白いな、と素人なりに思っていたわけである。

 

「思ってたより弾けてるじゃんアタシ♪和也どうだった?」

 

「技術的なことは何にも分からなかったけど、そうだな…なんというかこう、らしいなって感じた」

 

「つまり…どういうことカズ兄?」

 

「リサのベースは優しい!あこちゃんのドラムは元気!…だから、どっちもリサとあこちゃんらしいなって思った」

 

 「何か照れるな~」と頬をかくリサと、「えへへ~」と喜ぶあこちゃん。その二人を見て俺も自然と笑みが零れる。皆真剣なのに何故か少しも硬くない。良い空気だ。

 

「よし、じゃあ気になったとことか難しかったところの練習しよっか」

 

「古の実力を超えた時、妾はまた新なる姿へと進化を遂げる!!」

 

「ああ、楽しみにしてるぞ!頑張れよ二人とも!」

 

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 

 昨夜、全力で応援すると誓っていた俺ですが、今やれることはというと、ほぼほぼ無いわけであってね。もちろんちゃんと二人の音を聴いてるよ?でも、上手い下手は分からないし、教えることもできない。

 だって、俺ってば音楽素人だぜ?楽器経験だって、昔幼馴染三人と友希那父でやったセッションごっこで、俺の担当だったカスタネットと、小、中学校で皆必ずやるリコーダーぐらいだぜ?こんなの聞いた人にとっちゃ『それは楽器経験とは言えません!ふざけてるのですか?!』って怒られるレベルだからな。ちなみに今のイメージは、もちろん氷川さんだ。友情出演ありがとう!

 ……と、まあ、そんなこんなで、俺ができることといったら、二人が頑張って練習している間に飲み物とタオルを用意するのと、

 

「かっけぇ……」

 

 って、呟くぐらいしかない。あ、「うめぇ……」、「すげぇ……」もあったな。う~ん、この小並感。

 リサが持つ赤くてカッコイイベースを見ていると、これならもっと昔から音楽を学んでいたらなぁ、と度々思う。

 音楽に触れる機会が無かったわけではない。仲の良い幼馴染二人が音楽をやっているとなると、そりゃ機会は待ってなくても来る。

 リサは、ベースを一回辞めはしたものの、たしか中学一年生まではやっていたわけだし、友希那はというと説明不要だろってレベルで歌が上手いし、昨日みたいに一人で近くのライブハウスのステージに立っている。そしてその上、父親は有名なレコード会社からCDを出していて、日本各地でライブできるぐらいには有名だったプロのミュージシャンで――、

 

「え、俺なんで音楽やってねーんだ?自分自身に引くわぁ」

 

 思い返してみると、音楽に触れる機会どうこうの話ではなく、そこらの高校生と比べ物にならないぐらい音楽に囲まれていた。

 そんな状況下で16年間生きていて、ここまで音楽に対して無知な自分は、もはや心を持っていないのでは、と疑ってしまう領域である。いったい、今まで何を聞いてきたのだろうか。

 などと、呆れていると、リサがベースを下ろして台へと置いたので、俺は買ってきた水とタオルを掴む。久々にきた出番だ。

 

「少し休憩ー」

 

「お疲れ様。はい、リサ、水とタオルだ」

 

「お、気が利くね~。ありがと♪」

 

 リサは、タオルで汗を少し拭くと首にかけ、水をペットボトルの半分まで一気に飲み干し、「疲れた~」と手首をほぐす。

 その横顔を何となく見ていると、リサが拭き切れていなかった汗が火照った頬を伝い、綺麗な首筋をまるで舐めるかのようにゆっくりと――、

 

「…………リサ、もっとちゃんと汗拭いた方がいいぞ」

 

「え?うん、分かった。…って、何でむこう向いてるの?」

 

「…どこ向こうが、俺の自由だろ?」

 

「確かにそうだけど」

 

「カズ兄凄く顔赤いよ大丈夫??!」

 

「!?」

 

 言いにくい理由で赤くなった顔を見せまいと背けたというのに、その方向にはあこちゃんがいた。

 あこちゃんのことを忘れていた。しかも、あこちゃんはあこちゃんで、汗で服が張り付いていて下着がうっすらと――、

 

「バッッ!!!」

 

 完全に挟まれた。つまり、一言で言うと、詰んだ。

 さあ、この場をどうやって乗り越える稲城和也?!必死に頭を回せ!諦めるな!さもなくばここが墓場になるぞ!流石に死んでからは静かな場所で眠りたいだろ?!

 ああもちろんだ俺。ここは大人の対応で乗り切ろう。忘れるな、冷静に言えよ、俺は少しも焦っていないと感じさせるために。大丈夫、俺ならできる。

 

「こっ、この部屋……あ、あつっ、、暑くね…?」

 

「…カズ兄?」

 

「和也…?」

 

 二人の視線が固まっているのを感じとり、俺も上げた口角をピクピクと痙攣させる。

 ――終わった。二人共俺のことを、うわぁ…いきなり何か変なこと言ってきたよ何こいつ…、って目で見つめている。これは完全にもう。。

 ごめんなリサ。どうやら俺はここまでのようだ。俺がいなくなってもきっとリサは大丈夫だから俺の分までも友希那を近くで支えてやってくれ。俺は遠くで二人のことをずっと変わらず応援してるからな。

 それとあこちゃん。あこちゃんは俺なんかみたいな薄汚れた人間にならないで、ずっと純粋のままでいてくれ――。

 

「やっぱり暑いよね!あこも叩いてる時、ずっと思ってたんだーっ!!」

 

「……え?」

 

「そうだよね~、アタシも思ってたんだー。もうちょっと室温下げれないかな?」

 

「……お?」

 

「どうしたの?カズ兄?」

 

「和也?」

 

 え?俺、生きてる…?幼馴染と妹的存在との関係は切れてない?

 なんでだ?あぁ、そうか。この目の前にいる女神と天使に救われたのか。

 

「な、なんでもない」

 

「そう?なら良いんだけど…それにしても暑いなー」

 

「煉獄に封印されし灼熱の炎が……ドーン!バーン!」

 

「あはは、あこ、何それ?」

 

 やはり、やはりだ!二人共気付いてない!!

 ありがとうリサ。リサのおかげで俺はいなくならずに済んだ。これからも全力で応援するからな。

 ありがとうあこちゃん。あこちゃんからしたら嬉しくないかも知れないが、あこちゃんは堕ちることのない正真正銘の天使だ。

 よし、ならば俺も立ち上がろう。この二人の為に――、

 

「そうだよな!暑いよな!動いてない俺でもこんなに暑いんだからそりゃ二人はもっと暑いよな!!ちょっと、カウンターまで行って、涼しくしてもらえるように頼んでくるわ!あと、そのついでにお金も払っとくから、何の心配もせずに練習続けておいてくれ!!」

 

「う、うん…ありがと。…後でちゃんとその分のお金渡すから金額教えてね?」

 

「いやいや、そんなのいいって!頑張る二人を見てたら払いたいって思ったんだ!…そう、あれだ!リサとあこちゃんの上手い演奏をこんなに近くで、しかも、独り占めさせてもらえてるっていうことへのお礼でもある!」

 

「お世辞だって分かってても、そこまで熱く言われたら嬉しいし、駄目って言いにくいなぁ……それじゃあ、今回だけ和也に甘えちゃおうかな?」

 

「カズ兄本当にいいの?」

 

「いいってことよ。それじゃあ、行ってくる!頑張ってるって分かってるけど、二人とも頑張れよー」

 

 そう言うと俺は練習スタジオから出て、カウンターへと走った。

 奢る理由はさっき言った通りだ。決してやましいことを感じたことへの罪滅ぼしなんかではない。決してだ。いいか?そう、決してそんな理由ではない。

 

 あと、練習が終わった帰り道にアイスも買った。

 

 

 

 ――――――――――――――

 ―――――――――

 ――――

 ――

 

 

「起立、礼」

 

『さよならー』

 

「さいならーっと、結構長引いたな……」

 

 学校行事のお知らせに、班決め。そしてまさかの席替えによって、HRが終わるのがいつもより40分も遅くなったことにより、顧問や先輩に怒られまいと、運動部員が我先にと教室を出ていき、俺の周りは一瞬にして誰もいなくなった。

 

「俺も早く行かないと」

 

「なあ、和也」

 

「げっ……達哉」

 

「げってなんだよ、げって」

 

 訂正、一人を除いて。

 

 今日は、4日ぶりに取れたスタジオで特訓がある。

 俺は前と変わらず、アドバイスとかできるわけではないが、それでも何か出来ることがあるかもしれないから早く行きたいってわけだ。

 そんな感じで急いでる俺からしたら、このタイミングで達哉に捕まるほどだるいことはない。運悪いな今日の俺。

 

「悪いけど急いでるから、昼休みにしてたサイドバック論争の続きはできないぞ。……ってか、部活は?」

 

「将来性も込めてバンビザカに期待ってことで珍しく意見が合ったから逆サイドの話の続きは明日ってなってたじゃねーか。あと、今日の部活はオフだ。だからサボったやつを冷たく見るような目を向けるな」

 

「残念ながらこれはお前を心底めんどくさいって思ってる目だ。…で、何のようだ?早くしてくれ」

 

「酷くなってんじゃねーか。…まあ、それはどうでもいい。最近和也急いで帰ってるなーって思ってな、何か始めたのか?」

 

 いつも急いでる理由は、スタジオの予約をするため。

 ここら一帯のライブハウスを探し、スタジオが空いてないか電話して聞く。そして空いていたら予約を入れる。

 急いで帰ったところで、前のように普通に帰るのとそう変わらない。頑張って5分縮まるぐらいだ。しかし、もし他の人が俺よりも一秒早く予約を入れてたら――、と思うと急がずにはいられない。善は急げって言うだろ。

 まぁ、想い届かず、今日と明日しか予約取れなかったのだがな。

 

「何で急いでる今なんだよ、昼休みに聞けよ…行っていいか?」

 

「いいけどその場合は、今日暇なこの俺がついていくことになるぞ?」

 

「達哉お前…相変わらずいい性格してるな」

 

「だからお前には負けるって」

 

「お願いだから、風邪ひいてくれ」

 

 攻撃意識をできるだけオブラートに包む必要はなかったが、心に浮かんだ言葉をそのままぶつけるのは何となく憚られたのでやめておいた。

 それにしても、どうしたものか――、

 

「本気でついてくるつもりか?」

 

「そうだけど…あ、あれだろ、和也お前いつの間に彼女作って――」

 

「ちげーよ!…ああもういい!俺の負けだ、折れてやる」

 

「彼女じゃないのかよ。寂しいやつだな」

 

 慣れはしたものの、相変わらず一言多い奴だ。

 だが、今日の俺は食いつかない。これ以上達哉に時間を取られると、本気で殴ってしまいそうだからである。

 まあ、それに、別にそこまで隠すことでも無いし。

 

「…幼馴染がバンドの特訓をするからそれに行くんだよ」

 

「お前がバンドね…って幼馴染いたんだな。初めて聞いた。」

 

「俺はやらないぞ。あれ?幼馴染のこと言ってなかったっけ?」

 

「少なくとも俺の記憶には無い」

 

「そうか、悪かったな。で、話したし、もう行っていいか?」

 

 達哉は「どうぞ」とドアの方へ手を向け、俺に帰るよう促す。

 何だか調子に乗っているように感じたその仕草に少しイラつきを覚えながらも俺は教室から出ようとした時、いきなり達哉がリュックを掴んで、

 

「和也、最後に一つだけいいか?」

 

「……なんだよ…」

 

「楽しいか?」

 

 達哉の目は、いつもと違って、真剣に感じた。

 いや、前に一度だけ同じ目を向けられたことがある。

 それは、俺がサッカーを続けないと言った時。確か、達哉は今と同じ目で俺の本心を見通すかの様に見ていた。

 あの時は少し怖いと感じた。しかし、今は不思議と――、

 

「ああ、最高だ!」

 

「…ならよかった!ほら早く行けよ」

 

「言われなくてもそうするっての、じゃあまた」

 

「おう」

 

 達哉の質問に答えた時、俺も達哉も自然と笑みを浮かべているように感じたのはきっと気のせいだろう。

 本当に達哉は変な奴だ。一言多いし、むかつくし。

 だが、一緒にいて嫌だとは思わない。

 

 今度ライブ行くときに誘ってやるとするか。

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 

「はぁ…はぁ…やっっとついた」

 

 学校から走り続けて数十分。ようやく今日使うライブハウスに着いた。

 俺が帰るのが遅くなったのと、このライブハウスは俺の高校より羽女の方が近いので、リサとあこちゃんがもうすでにスタジオに入ってるはずだ。俺が練習するわけではないので、俺が初めにいなくても何も問題は無い。

 お、受付に案内されたスタジオに近づくにつれ、ベースとドラムの音がしっかりと聞こえるようになってきた。聴いたことがない、知らない曲だ。

 だけど、友希那が歌ってた曲にどこか似てるなー、と思っていると扉の前まで来たので、迷惑にならないようにその曲が終わるのを待ってから、

 

「悪い遅くなった」

 

「お、和也来てくれたんだ~」

 

「久しぶりカズ兄!」

 

 こうも笑顔で出迎えてくれると、嬉しいものだ。

 この二人に邪魔者扱いされたら俺は生きていけない気がする。うん、その瞬間灰になる。

 

「ああ、久しぶりだな、あこちゃん。外でちょっとだけ聴いてたんだけどさ、二人共凄く上達してるって思ったぞ」

 

「ありがとね~☆でも、まだ足りないと思うからもっと練習しないと」

 

「……リサの顔ってそんなんだっけ?」

 

「??!…何それ悪口?」

 

「いやいや違う違う!何というかその……雰囲気が違うというかだな……」

 

「あ~、ちょっと今日はメイク濃くしてるからじゃない?和也って今までそんなの気にしなかったからびっくりしたじゃん」

 

「悪い、そういうの気付くの苦手でな……って、時間取ってしまって悪い、二人共特訓の続きをしてくれ。頑張れよ」

 

 頑張ってる相手に頑張れよって言うのは、何だか違和感を覚えるのだが、二人がこうして「うん!」と明るい声で返事をしてから、真剣な表情で楽器と向き合うのを見ると、そんなものは考える価値すらない些細な問題だと思えてくる。あと、他に応援の言葉を知らない。

 

「やっぱり二人共良い感じだな」

 

 俺は演奏する二人を見て、完全に安心していた。

 

 ――あの時までは。

 

 俺が来てから、約20分後。

 その前兆は起きていた。

 

「う~ん…なんでここ上手くいかないんだろう…?」

 

「一回休憩したらどうだ?案外それで解決するかもしれないぞ」

 

「いや、遠慮しとく…もうちょっとで何か掴めそうな感じがするし」

 

「そうか、ならいいんだけど」

 

 俺はこの時のリサを見て、いつもより苦戦してるな、としか思ってなかった。

 あの友希那が選んだ曲ということは、難しいところも当然ある。だから、リサは苦戦している、そう思っていた。

 

 そして、その10分後。

 リサのミスが目立つようになった。素人の俺にも分かるレベルのミス。そして、それはリサが以前は何の引っ掛かりもなく弾けていたフレーズだった。

 いや、そんなことよりも――、

 

「なんで…前は普通に弾けてたじゃん!なのになんで?!」

 

 リサは髪を掻きむしり、「もう一回ッッ」と歯を強く食いしばりながら、がむしゃらにベースを弾き続ける。

 その音には、前のような優しさは残っておらず、聴いているだけで心が暗く、重くなってゆく。

 

 ――俺の嫌いな空気だ。

 

「リサ姉…」

 

「リサ、休憩しよう。水でも飲んで一回落ち着いたらどうだ」

 

「辞めて止めないで!もう時間がないの和也も知ってるでしょ?!」

 

「ああ、知ってる。だけどなリサ…その……今のリサは見ているだけで辛くなる」

 

 こんなリサの姿初めて見た。

 面倒見がよく、初対面の人にも優しくて、お化けが苦手で、温情に溢れ案外涙もろい。そして、俺をよくからかってきて、過保護なくらい友希那のことを大事にしている。いつも見守ってくれてるような温かい瞳を俺と友希那に向けてくれるよく笑う少女、それが俺が知ってるリサだった。

 

 いつも心に温かさをくれるリサだからこそ、今の荒れ果てた姿は何よりも耐え難く、辛かった。

 

「だとしても休憩はできない!このままじゃ友希那と……――あれ…?」

 

「!!?ッリサッッ!!」

 

 まるで支えを無くしたかのように、リサは突然倒れた。

 不幸中の幸いか、目の前で倒れたため、俺の手が間に合って頭を打つことは防げたが、リサはぐったりとして、目を瞑ったままだ。

 

「リ…リサ姉……」

 

「…リサッ!おい!しっかりしろ!」

 

「どどど…どうしよう、リサ姉が…リサ姉がっ…」

 

 まずい、完全に俺もあこちゃんも動揺してパニックを起こしている。

 ひとまず、リサをソファーに寝かせたがここからどうすればいい?あこちゃんは泣きだしてしまって動けそうにもないし、かといって、俺がリサから離れるのもできない。

 

「白金さんの時はどうしてた…?…くそ!あの時何とかしたのはリサだ」

 

 思い返せば、いつもリサが何とかしてくれていた。俺はそれに気づいてるようで、本当は気付けてなかった。今まで、心の片隅で最後はリサなら何とかしてくれると思っていたのかもしれない。

 これは、そんな風に甘え続けていた代償なのか、リサの助けが無くなった今、俺はどうすればいいのか考えているようで、何も考えれていない。こんなにも慌てて、何もできていない。

 

「ごめん…リサ…」

 

「…か…ずや……」

 

 無力さを実感し、呆れ、打ちのめされていたその時、制服が引っ張られる感覚とともに、小さな声が耳に届いた。

 目を開けると、俺にしがみつく少女――リサが俺を支えとして体を起こそうとしていた。

 

「リサ…!」

 

「ごめん和也…ちょっと眩暈でバランス崩しただけだからもう大丈夫…」

 

「大丈夫って…そんなわけないだろ……ッ!」

 

「ほんとに大丈夫だって…だから、和也お願い。ベース持ってきて…」

 

 震える手。真っ青な顔色。弱々しい声――。

 そうか、初めにリサの顔を見た時に抱いた違和感の正体はこれだったのか。リサは、おそらく最初から無理をしていた。そして、リサ自身も自分が無理をしていることを分かっていた。

 だからリサは、顔色が悪いのを隠すために、今日は化粧を濃くしていたのだ。俺にそこまで無理していることがバレれば、練習を止められるから。

 

 だとしても、俺が気付けなかった理由――言い訳にはならない。

 そんな言い訳が通るような薄い繋がりには絶対になりたくない。絶対になりたくないから、俺は今まで気づかなかった分も――、

 

「早く練習の続きをしないと…さっきのところ弾けるようにならないと…」

 

「リサ」

 

「どうしよう和也……アタシどうしたら」

 

「リサ!!」

 

「?!」

 

 俺の声に驚いたリサはとっさに俺から手を放し、支えを無くした体は再び崩れそうになる。が、そうなることは分かっていたので、両肩を掴んでそっとリサを寝かせると、本気なのを伝えるために少し低い声で、

 

「いい加減にしろよ、これ以上無理をしたら怒るからな」

 

「で…でも……このままだと…間に合わない…間に合わなかったら、ゆ、友希那……アタシ…アタシっ…!」

 

「あと一日ある、だから大丈夫だ、安心しろ。さっきリサが上手くいかなかった理由は疲れが出たからだ。休めばきっと、いや、絶対に上手く弾けるって」

 

「…アタシはそうは思わない…」

 

「いいや、思う!リサが思ってない分も俺が思ってるからな!リサは確実に上手くなってる。そうに違いない!」

 

「和也……」

 

 音楽素人の俺でも、これだけは自信を持って言えた。

 それはもちろん、リサが倒れるまで自らを追い込んでいたのもあるが、それよりもさっき俺を掴む手を見てそう思った。

 リサの手の爪は荒れていて、酷くボロボロだった。ネイル好きで手入れを欠かさないはずのリサが、爪をここまでボロボロにするということは、使える可能な限りの時間を全て練習に費やしていたからで、何よりも上手くなりたいと願い、それを少しでも叶えるために努力し続けた結果だろう。それこそ、寝る間も惜しんでまで。

 

 俺が今日来た時だって無理をしていたはずなのに、弾いてた曲は四日前に聴いた時より確実に良くなっていて、引き込まれた。だから、リサは見違えるほど上手くなっているに違いない。

 

「それにな、リサ。仮に今ここで無理をして弾き続けたとしても、ちっとも上手くいかないだろうし、体調が悪化するだけで良いことないぞ。それに、また倒れて入院することになっても、友希那はきっとオーディションの日にちを変えてくれないと思うぞ。最高のコンディションで本番に臨めるように調整するのも実力の一つだからな」

 

「…うん……」

 

「人間は全力で走り続けることはできない。だから、何回でも立ち止まっていいんだ。最終的にそれが、ずっと走り続けれることに繋がると思うからさ。…つまり、あれだ。合格して友希那と一緒にバンドをするためにも、今はゆっくり休め」

 

「……所々無理矢理じゃん」

 

「俺だって気にしてんだから言うなよ…だけど、これが俺がリサに伝えたかったことだ。……悪いかよ…」

 

 無理矢理どころか自分ですら意味の分からないところもあり、段々と恥ずかしく思えてきたので頭の後ろを掻いていると、「あはは」と微かだったが確かなリサの笑い声が聞こえ、

 

「分かった…休むよ」

 

「そうか、今日はよく休め」

 

「和也…ありがとうね」

 

「これぐらい幼馴染として当然だ」

 

「そっか、ありがと」

 

 その言葉を最後に、リサは目を閉じた。

 隣のスタジオの音が心配だったのだが、どうやら過ぎた心配だったらしく、リサはすぐに眠りに入った。それぐらい疲れていた中で頑張ってたんだ、オーディションも絶対上手くいく。

 

 すると、リサの頬に煌めく物が一粒。

 俺は起こさないようにそっと拭き取り、スヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てている横顔に「頑張ったな」と微笑み掛けた。

 

「にしても、やっぱりリサは元が良いからもっと化粧は薄くした方が」

 

「か、カズ兄~~~っ」

 

「あ、あこ…ちゃん」

 

 振り向くと、大粒の涙を流すあこちゃんがいた。

 その姿を見て、途中でほったらかしにしてしまった上に、最後は完全に忘れていたことを思い出し、焦りが積もってゆくのを感じながら、またやったのか俺は、と心の中で俺をひたすらにお仕置きをする。

 あこちゃんを一度ならず二度までも忘れるとは、どうやら俺には救いようが無いらしい。

 

「リサ姉はっ、リサ姉は大丈夫なのーーっ?!」

 

「あ、ああ……うん、リサは疲れすぎて寝ているだけだ。安心していいぞ。あこちゃんは無理してないか?」

 

「あこは大丈夫っ、それよりもリサ姉が無事で良かったーーっっ!」

 

 「うぇ~ん!」と泣きじゃるあこちゃんの零れる涙を拭ったり、頭を撫でたり、持っていたお菓子をあげたりして何とかして落ち着かそうとするが、一向にその気配はしない。ってか、中学三年生のあこちゃん相手に、そんなあやし方しかできない自分もどうなのかと思う。

 

「とりあえず…今日はあこちゃんも休もっか」

 

「わっ、分かったー…っ!」

 

 ――お願いです白金さん。泣きじゃくるあこちゃんと今にも泣き出してしまいそうな俺を助けに来てください。できれば今すぐに。

 

 

 ――――――――――――――

 ―――――――――

 ――――

 ――

 

 

「最後の練習終わっちゃたね~。あー、ヤバいかも、凄く緊張してきた」

 

「あ、あこも…」

 

「この一週間全力で特訓してきたんだから二人共大丈夫だって!!あとは、当たって貫けだ!」

 

「当たって砕けろじゃなくて?」

 

「砕けたら駄目だろ」

 

 「あ、そっか」と苦笑するリサと、カッコイイ言葉を並べようとして途中で諦めるあこちゃんを横目に俺は「だろ?」と笑いかける。

 今日はオーディション前日。

 オーディション前最後の特訓を終え、俺とリサとあこちゃんの三人は帰路に立っていた。

 

「そういえばさ、何で和也って練習のことを特訓って呼んでるの?」

 

「あこも少し気になってたーっ!」

 

「ここでそれを聞いてくるとは流石だな二人共」

 

 何か深い意味があるような口振りで返してしまったが、もちろんこれといった理由は無いため、内心では凄く焦っている俺である。

 と、ここでそれっぽい理由が下りてきたので、「決まってんだろ?」とカッコつけてから、

 

「練習よりも特訓の方が特別感あって早く上達できそうだからな!あと、響きがカッコイイ」

 

「ほんとだー!特訓特訓~っ!!!」

 

「ちょっとアタシには分からないかなぁ」

 

 そんな風にくだらない話をして笑い合いながら、一週間の特訓は幕を閉じた。

 

 さあ、待ってろよ友希那、氷川さん。

 努力し続けて成長したリサとあこちゃんの音に驚く二人の顔を見るのが楽しみだ。

 

 

 

 




 最後まで読んでいただきありがとうございました!

 ストーリー進むのが遅い私にしては珍しく一話だけで一週間もの時が流れました。そのおかげ?か、なんと文字数は、11111文字!ゾロ目です!

 次の話は、ついにやってくるオーディション!!
 どのようになるかは、私もまだ知らない(決めてない)
 一週間以内に完成できればなぁ、と思っています。

 お気に入り登録、高評価、感想は、モチベに繋がります、遠慮せずにじゃんじゃんくださいお願いします(懇願)
 それでは皆さん、また次回にお会いしましょう。ばいちっ!!

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