とある聖杯の強能力者   作:兵庫人

2 / 4
とある聖杯の共闘者

 聖杯戦争。

 

 それはこことは別の世界、並行世界にて行われた万能の願望機を創り出す為の魔術儀式。

 

 本来の聖杯戦争では使い魔として現代に甦った過去の英雄偉人「英霊」と、英霊を召喚した魔術師が共闘の契約を結び、他の英霊と魔術師の陣営と戦うという流れであった。

 

 その為、本来の聖杯戦争を模倣している学園都市での聖杯戦争でも、英霊の力と記憶を宿した能力者「聖杯」は学園都市側が選んだ能力者と共に行動するという形になっていた。

 

 

 

「……はぁ、今日は疲れたな」

 

 一年三百六十五日、毎日同じデザインと色のジャージを着て行動する聖杯の少年、猪坏灯仙は今日の学校の授業を終えて学生寮の自室に帰るなりそう呟く。

 

 ため息を吐く灯仙の脳裏には今日の放課後、世界中の様々な宗派の不幸やら災難を司る女神達に熱烈な求愛をされているとしか思えない不幸な高校生、上条当麻が引き起こしたとあるトラブルが思い浮かんでいた。灯仙が疲れているのはつい先程までそのトラブルに巻き込まれていたからで、この出来事を日記にまとめたら、それだけでちょっとした短編小説が書けそうな気がする。

 

 気を取り直した灯仙が、今日の夕飯でも作ろうと冷蔵庫の中身を確認しようとしたその時、ポケットから携帯がメールを受け取ったことを報せる着信音が鳴り響く。

 

「………今日は疲れているんだけどな」

 

 メールの内容を確認した灯仙はそう呟くと瞬間移動(テレポート)を使って部屋から姿を消した。

 

 受け取ったメールの内容は今晩行われる聖杯戦争の情報。そして聖杯戦争の打ち合わせをするので自分の所へ来るようにという、聖杯戦争におけるパートナーからの呼び出しであった。

 

 

 

 灯仙が呼び出された場所はとあるファミレス。灯仙がファミレスの中に入ると、すでに店内の席に座っていた彼のパートナーが手を上げて話しかける。

 

「ここだぁ」

 

 声をかけられた灯仙は、自分のパートナーとテーブルをはさんだ向かい側の席に座ると「彼」の顔を見る。

 

 灯仙の向かい側の席に座っているのは、白と黒のシャツを着た、髪も肌も白い少年。

 

 白い少年の名前は一方通行(アクセラレータ)

 

 学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)の第一位。学園都市に在籍している全ての能力者達の頂点に立ち、運動量、熱量、電磁波等を初めとするあらゆる力の向き(ベクトル)を操作する能力者。

 

 それが学園都市が選んだ聖杯一一八号、猪坏灯仙の聖杯戦争におけるパートナーであった。

 

「これが今回の対戦相手だ。目を通しておけ」

 

 一方通行はそう言うと一人の学生、今回の聖杯戦争で戦う聖杯のプロフィールが書かれた数枚の書類を灯仙の前に置く。書類を受け取った灯仙は、店員を呼んで料理の注文をしてから書類の内容に目を通す。

 

 書類に書かれていた聖杯は、灯仙よりも一学年上の男子生徒であった。

 

 元々は異能力(レベル2)の身体強化能力者という判定であったが、最近になって急に大能力者(レベル4)まで能力が上昇して、更には「何も無い場所から槍のような武器を取り出す」能力まで発現させたらしい。そしてこの聖杯は以前から素行に問題があったらしく、能力が上昇してからは「訓練」と称して無能力者(レベル0)から強能力(レベル3)に戦いを仕掛けて、すでに二十人以上の重傷者を出している。

 

「なぁ、笑えるだろ? 急に増した力にはしゃいでいるだけじゃなく、自分より格下にしか喧嘩を売れない悪党の風上にもおけねぇチキン野郎だぁ。コイツだったら気兼ねなく聖杯戦争ができる」

 

 書類に書かれていた聖杯の情報を読み終えた灯仙に、一方通行は心から楽しそうに話しかける。一方通行は最初、聖杯戦争にはあまり乗り気ではなかったのだが、今では灯仙以上に聖杯戦争を楽しんでいた。

 

 一方通行はこの世界にある全ての世界の力の向きを操作して、指一本触れるだけで相手を殺すことができる強力な能力者だ。しかし元々「別の世界の力」である英霊の力を使う聖杯に対しては完全に通用せず、これまでの聖杯戦争で一方通行が「ほんの少しだけ本気」を出しても一人の死者は出ていなかった。灯仙には一方通行が能力を使っても死者が出なかったことに心の奥底で「安堵」を覚え、それを感じ続けるために聖杯戦争に参加しているように見えた。

 

 しかし思った感想をそのまま伝えても、本人は絶対に認めようとしないだろう。だから灯仙は別の言葉で聖杯戦争を望んでいる一方通行を指摘する。

 

「戦闘狂」

 

「ああ? 何言ってやがる? 自分だけいい子ちゃんぶっているんじゃねぇぞ」

 

 灯仙の言葉に一方通行は彼の目を見て言う。

 

「俺もお前も。今より強くなる為に、上質なサンドバック欲しさで聖杯戦争に参加しているんだろうがよ?」

 

 一方通行の言葉に間違いはない。灯仙も一方通行も、今以上に能力を使いこなすための実戦訓練として聖杯戦争に参加していた。

 

 聖杯戦争に参加した聖杯とそのパートナーには聖杯毎に「実験に協力した報酬」として多くの金銭が学園都市から与えられているし、戦績が良くなればそれなりの権限も認められる。しかし灯仙も一方通行もそんなものには興味なかった。

 

 学園都市の頂点に立つ超能力に、学園都市でトップクラスの英霊の力。それらの上にはどんな世界が広がっているか見てみたい。

 

 それが灯仙と一方通行が共通する聖杯戦争に参加目的で、二人がパートナーとなった理由であった。

 

「俺達はもう充分すぎるくらい強い力を持っていながら、更にその『先』を欲張ってこんな馬鹿馬鹿しい戦いに自分から首を突っ込んだ間抜けな悪党なんだよ。それを忘れてんじゃねぇぞ」

 

「分かっている。忘れていないよ」

 

「……ならいい」

 

 一方通行の言葉に灯仙が返事をして、それに一方通行が頷いたところでファミレスの店員が二人の料理を運んできた。その後、二人は聖杯戦争の打ち合わせをしながら食事をとり、食事を終えるとすぐに会計を済ませてファミレスの外に出た。

 

「さて、それじゃあ聖杯戦争に征こうか? 『共闘者(マスター)』」

 

 ファミレスを出た灯仙が自分の隣に立つ一方通行に声をかける。

 

 マスター。

 

 それは本来の聖杯戦争では英霊を召喚した魔術師の呼び名で、この学園都市の聖杯戦争では英霊の力を宿した聖杯と共に行動する能力者のことを指す。

 

「ああ」

 

 灯仙にマスターと呼ばれた一方通行は、灯仙を彼の名前でも「聖杯一一八号」という登録番号でもない、彼に宿っている英霊の力が関係している異名で呼ぶ。

 

「行くぜ、『騎乗兵(ライダー)』」

 

 そして聖杯の少年と超能力者の少年は、聖杯戦争に参加するべく夜の闇へと向かって行った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。