とある聖杯の強能力者   作:兵庫人

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とある聖杯の説明

 七月某日。

 

 人口の八割が学生である学園都市にある教育機関のほとんどは、この時期に一斉に夏休みに突入する。その為、道行く学生達はこれから夏休みをどう過ごそうかと考え表情を輝かせているのだが、そんな中で疲れ切った表情をした二人の青年の姿があった。

 

 片方は青と黄のジャージを着ている黒い髪と浅黒い肌の青年、猪坏灯仙。

 

 もう片方は白と黒のシャツを着ている白い髪と白い肌の青年、一方通行。

 

 どちらも学園都市でトップクラスの実力を誇る聖杯と超能力者なのだが、現在の彼らは精神的に疲れ切っており、足を引きずるように太陽が沈みかけた学園都市の街を歩いていた。

 

「……おい」

 

「……何?」

 

 一方通行が歩きながら灯仙の顔を見ずに話しかけると、灯仙も歩きながら一方通行の顔を見ずに聞き返す。

 

「昼間の聖杯戦争のことだがなぁ……」

 

 聖杯戦争。

 

 英霊の力と記憶を宿した能力者、聖杯同士を戦わせることで英霊の力を解析する学園都市が秘密裏に行なっている研究。灯仙と一方通行は今日の昼にその聖杯戦争を行なっており、それが二人がここまで疲れている原因であった。

 

「うん。今日の聖杯戦争が何?」

 

「あの時戦った聖杯……中身は何だ? どんな間抜けな英霊を入れたらあんな馬鹿でタチが悪い聖杯が出来上がるんだぁ?」

 

 灯仙に話しかける一方通行の声は心から呆れ切っていた。

 

 今日の昼に灯仙と一方通行が参加した聖杯戦争は、学園都市が準備を整えたものではなく、偶然発生したものであった。

 

 今回戦った聖杯は英霊の力も記憶も目覚めていない低能力者(レベル1)の女学生であったが、交際していた彼氏の浮気現場を目撃したことがきっかけで英霊の力と記憶に目覚め、そのまま暴走をしてしまった。そして偶然現場の近くに一緒にいた灯仙と一方通行の二人に、学園都市から暴走する聖杯の女学生を速かに鎮圧してほしいという依頼が来たのである。

 

 こうして灯仙と一方通行は聖杯の女学生と戦うことになったのだが、その聖杯の女学生は暴走しているのにも関わらず、あまりにも多彩な特殊能力を発現して、そのせいで中々決着がつかず二人はここまで疲労することになったのだ。英霊の力と記憶に目覚めて暴走した原因が原因だけに、散々苦労させられた一方通行が不機嫌になるのは仕方がないことだろう。

 

「ええっと……。あの女学生に宿っている英霊は魔女メディア。ギリシャ神話に登場するとある国の王女で、神々から魔術を習った凄い伝説があるけど、同時に悪質な結婚サギにあった伝説もあるみたいだね。自分を騙した男の為に自国の国宝を盗んだり、自分の弟を殺したり、猟奇殺人の実行犯になったりして、それで最後は異国の地で一人寂しく死んだらしいよ? ……信じていた男に裏切られたって点ではあの女学生と同じだね」

 

「けっ、くだらねぇ……。てか、魔術だぁ?」

 

 灯仙が学園都市から自分の携帯に送られてきた聖杯の女学生に宿っている英霊の情報を読み上げると、一方通行は吐き捨てるように言ってから怪訝な表情となる。それから二人は無言で歩いていたが、しばらくすると再び一方通行が灯仙に話しかける。

 

「おい。お前やあの女を始めとする聖杯が、並行世界から英霊の力と記憶を遺伝子情報に取り込んでいるのは納得できねぇが理解している。それで魔女の英霊がいる以上、並行世界に魔術なんてものがあるのも分かった。そこで聞くがこの世界にも魔術はあるのか?」

 

「あるよ」

 

 一方通行の質問に灯仙は即答する。

 

 聖杯にとって英雄の歴史を学ぶ事は、自身に宿る英霊の力を伸ばすのに有効な手段である。その為、英霊の力と記憶に目覚めた灯仙は自分の英霊の歴史だけでなく他の英霊の歴史も学び、その過程で本来学園都市では存在を隠されていた魔術の存在を知った。

 

「この世界にも魔術はあるよ。この世界の魔術師達は僕達能力者『才能がある者』と同じ存在になる為に、科学とは別の方法で異能を操る方法を作り出した。それが魔術」

 

「俺達と同じ存在にねぇ……? わざわざこんなクソったれな存在になりたがるなんて、ご苦労なことだぜ」

 

 灯仙の説明に一方通行は興味無さそうに言い、それを横目で見て灯仙は苦笑を浮かべる。

 

「興味無さそうだね? まあ、僕達能力者には魔術が使えないから別にいいんだけどね?」

 

「ああ? それってどういう意味だ?」

 

「今言ったように魔術とは能力者でない人間が異能を操る方法だ。それで能力者とそうでない人間は、なんて言うか身体の『回路』が違うみたいで、能力者が魔術を使おうとすると身体の回路が暴走して最悪死んでしまうらしい。だから一度でも能力開発を受けた人間は超能力者(レベル5)でも無能力者(レベル0)でも能力者であることには変わりないから魔術は使えないってこと」

 

 能力者が魔術を使えない理由を説明する灯仙だが、それを聞かされても一方通行はまだ納得できていない顔で質問をする。

 

「だったらあの聖杯の女は何だ? 聖杯ってのは確か『原石』と同じ天然の能力者のはずだが、あの聖杯の女に宿っているのが魔女の英霊なら俺達に使った能力は魔術になるんじゃねぇのか? 何で能力者が魔術を使っても回路が暴走しねぇ?」

 

 原石。

 

 それはこの世界に五十人程しかいない「天然の能力者」のことである。

 

 学園都市にいる能力者のほとんどは灯仙の隣にいる一方通行も含めて、投薬や生体暗示等で頭の中を作り変えて能力を発現できるようになったのに対し、原石は生まれながらに能力を発現できる下地を持って周囲の環境や自らの経験のみで能力を発現させた。

 

 そして原石と聖杯は似て非なる存在だ。生まれながらに能力を発現できる下地を持っているという点は同じだが、原石の能力を発現させたのは周囲の環境や自らの経験という「この世界にある要素」で、聖杯の能力を発現させたのは英霊の力と記憶という「別の世界から来た要素」という違いがある。それが原因なのか、聖杯は原石よりもはるかに多くの数が確認されているのだが、能力の開発が原石以上に困難であった。

 

 その為、英霊の力の解析と開発方法の模索を目的に、学園都市は聖杯戦争という実験を行なっているのだ。

 

「ああ、そのことか。これは僕も……というか学園都市もよく分かっていないみたいなんだけど、僕達聖杯は英霊の力と記憶を再現する能力者だ。だから魔術師の英霊の力を発動させても、それは『魔術を使用した』のではなくて『魔術が起こすのと同じ現象を発現させた』だけだから回路は暴走しないんだって」

 

「……そうかよ。つまりお前達聖杯ってのはつくづくとんでもねぇ存在ってことだな」

 

 本人もよく分かっていない様子の灯仙の説明に、一方通行は理解するのをやめてそう返した。しかしこれには灯仙も何も言い返すことができなかった。

 

「まあ、いい。そんなことより腹が減ったぁ。ファミレスに行くのも面倒だし、『アイツ』の家に行くぞぉ」

 

 一方通行はそう言うと、知り合いの家があるとある学生寮に向かって行き、その後を灯仙は内心で一方通行が口にした「アイツ」、ウニのような髪型をした友人に合掌をしながらついて行った。

 

 

 

 そしてこの行動が、この世界の運命(Fate)を加速させることになる。

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