七月二十日(1)
『ぎゃあああーーーーー!?』
「っ!?」
七月二十日。夏休み初日ということで、目覚ましを切り、冷房の効いた部屋で長めの睡眠をとろうと思っていた
「な、何だ今のは? ……上条君か?」
灯仙は辺りを見回して、今聞こえてきた声が隣の部屋からだと気づくと、それだけで大体の事情を理解した。
灯仙の隣の部屋には、彼と同じ学校のクラスメートで友人の上条当麻という男子高校生が住んでいる。彼は少し考え足らずで喧嘩っぱやいところを除けばとても気のいい人物なのだが、どういう訳か非常に運が悪いのだ。
夏の暑い日に自動販売機で冷たいジュースでも買おうとしたらホットのコーヒーが出てくる、またはその逆なんて序の口。ただそこにいるだけで大なり小なり不運が上条の所だけにピンポイントでやって来て、その不運のレベルは前世で何かしらの罪を、それこそ神様の顔を全力の拳で殴るくらいの罪を犯したのではないか、と思いたくなるくらいであった。
だから先程の悲鳴も、また上条の元に何らかの不幸が訪れた結果なのだと灯仙は結論付けると、ベッドの隣にあるデジタル式の時計に視線を向ける。時計は丁度今日の日付と同じ、七と二十の数字を映していた。
「七時二十分か……。もう一眠りしようかな。……ん?」
灯仙がぼんやりと時計を見ながら呟いたその時、玄関のチャイムが聞こえてきた。こんな朝早くに一体誰だろうと思いながら彼が扉を開けると……。
そこには、学生寮の通路で土下座をしている先程話題に出た男子高校生上条当麻と、その土下座をしている上条の背中を見つめている純白の修道服をきたシスターの姿があった。
「……」
全く予想外の光景に灯仙は無言。
「……」
土下座をしている上条も無言。
「……」
上条の背中を見つめている純白のシスターも無言。
実際の時間にしたらほんの数秒だが、灯仙達にはその沈黙の時間がひどく長く感じられた。そしてこの空気すらも死んでいるような場で、最初に行動を起こしたのは灯仙であった。
「……」
「っ! 待って、お待ちになって灯仙さん! 無言でドアを閉めようとしないで上条さん達を助けてください!」
灯仙が何も見なかったことにして無言でドアを閉めようとすると、それを察知した上条がまるでバネ仕掛けの人形のように飛び上がり、手と足を今まさに閉ざされようとしていたドアの隙間に滑り込ませる。そしてそのまま涙目で懇願してくる上条を憐れに思った灯仙は一つため息を吐くと、彼と純白のシスターを自分の部屋へと招き入れるのであった。
これは彼を初めとする何人もの人間と、そして世界の