空は青く晴れ渡り、並木道には桜の花が綺麗に咲いている。道を行くほとんどの人間が、どこかせわしなく、そしてどこか浮かれた様子で歩いている。
春。始まりの季節。なんて言っても、16年も繰り返しているとそのありがたみも殆どない。ただ、俺も少しは期待している。それはこの春から高校生になるからだ。そのせいでいつもより15分も早く家を出てしまった。たった15分だろって?言っておくが、中学までの俺からしたらこれでも大躍進なんだぞ?
「そろそろですね」
「いやー春ですねー。空気が気持ちいです♪」
「のんきですね君は。マスターにとっては重要な日なのですよ?」
なんて会話が俺の左右でかわされてはいるが、俺は特にそれに答える訳でもなく歩き続ける。と言うよりは答えることに抵抗がある。なぜなら、傍から見ると俺は一人だからだ。だが、俺の左右には確かに意志を持った生命体が存在している。一応言っておくが俺がイタイ人だとかそういう話では無い。いや、その方が幾分マシだったのだが。
「むー。いいじゃないですか。みんなで外に出るのは久しぶりなんですから」
俺の右を歩く……というか浮いているのは白いローブに身をつつみ、白い髪をした少女。その顔はかなり整っており、スタイルもいい。多分俺と同年代の男子100人に聞いたら100人が美少女と答えるだろう。
「だからと言って、緊張感のかけらもない。少しは気を引き締めてください」
左にいるのは青いコートの様な服をまとい、頭には何とも形容しがたい形のかぶとを被る、金髪の青年。これも俺と同年代の女子にきいたら全員がイケメンだと答えるだろう。
さて、流石にこんだけ左右で騒がれると朝のさわやかなムードがぶち壊しだ。俺はいったん路地裏に入り大きくため息をつく。
「どうしましたか、マスター?」
「ほら,ソードマンががみがみうるさいからマスターもつかれてるんですよ」
「……お前たち、わざわざ出てこなくてもデッキは俺の鞄に入ってるから、引っこんでくれないか」
俺をマスターと呼ぶ二人、そして俺の言葉から分かるとおり、この二人は人間じゃない。では何か、ときかれれば『精霊』と言うのが正解だ。『遊戯王デュエルモンスターズ』というカードゲームの、カードの精霊なのだ。女の方はサイレントマジシャン、男の方はサイレントソードマン。どちらも俺のデッキに入っているモンスターだ。だが、精霊と言うのはどこにでもいる訳ではない。むしろ俺もこの二人以外に精霊を見たことはないのだ。そもそも、こいつらが俺の目の前にいるこの状況こそが異常なのだ。なぜならここはアニメでも漫画でもない、れっきとした現実世界なのだ。精霊どころか幽霊すら存在が不確定なこの世界にはデュエルディスクもソリッドヴィジョンも存在しない、それどころかカードゲームってのは陰キャの遊びという認識が一般的だ。
「しかしマスター、今日は大事な入学式、私たちも同席せねば……」
「いや、いいから。むしろお前らの席ねーから」
サイレントソードマン、俺はソードマンと呼んでいるこいつはかなり生真面目で、しっかりしているのだが俺に対してあまりに過保護すぎて正直うざい。
「大丈夫!席なら私が魔法で増やしちゃいますよ!」
「それやるとお前、レベル4に戻るんじゃないのか?」
「うぐっ」
サイレントマジシャンのことは基本的にサイマジと呼んでいる。こいつは天然と言うか能天気というか、いつも突拍子の無いことを言ってくる。正直めんどくさい。
「それよりマスターそろそろ行きましょう。予定より5分遅れています」
そしてこの二人がマスターと呼ぶこの俺、武藤ハルカはどこにでもいる普通の高校生……だったらいいのだが、精霊が見えてる時点で普通じゃないよな。あ、ちなみに名前から誤解されるけどれっきとした男です。
「お前らがデッキに戻るならここを動く」
「ぐ……流石マスター、巧みな会話運びです。恐れ入りました」
ソードマンは悔しそうな顔をしながら鞄の中のデッキケースへと姿を消す。
「ほら、お前も」
「はーい」
サイマジもしぶしぶと姿を消す。二人の気配が完全に消えたところで俺は路地から出て、再び学校へと向かった。
***
入学式はつつがなく行われ、新入生たちは配属されたクラスへの教室へと移動した。俺のクラスは1年A組。席は窓際とまではいかなかったが列の中では一番後ろだ。取りあえず携帯にイヤホンをさして耳に付ける……がとくに曲を聞くわけではない。ただこうしていれば話しかけられる確率が格段にさがる。別に進んでボッチになりたい訳でもないが、どうしても今すぐに友達が欲しいわけでもない。そういうわけで、イヤホンで耳をふさいだままそれとなく周囲の様子を伺う。見たところ男女比は男子の方が多い、あとは……知らん。そもそも誰とも話さずに得られる情報なんてこれが限界だ。もういいや、寝よう。周りで連絡先を交換したり、さっそく告白して撃沈したりするクラスメイトたちから意識を切り離し、俺は眠りに就いた。
「なあなあ」
5分もしないうちに俺の意識は現実へと引き戻された。それは前方から聞こえた声のせいだった。仕方なく起き上がりイヤホンを外し、そちらへと視線を移す。それは俺の前に座っていた金髪の男子の声だったようだ。おかしいな、さっき確認した時は俺の前の席は別の奴だったような気がするんだが。
「なに聞いてたんだ?」
金髪は屈託のない笑顔で俺に話しかけてくる。
「何も聞いてない」
「なんじゃそりゃ?じゃあなんでイヤホンなんか?」
「こうしてると教室で話しかけられる確率が減る……まあ乱数調整だな」
「らんすーちょーせー?なにそれ、英語?」
しまった。こんな事言っても陽キャには通用しないのか。何か別の事言わないと……。
「なあ、お前遊戯王ってやってた?」
だが金髪はすぐに話を繋いでくれた。めっちゃいい奴じゃんこいつ。
「遊戯王か。小学校の時くらいにかなり流行ってたよな」
当たり障りのない解答をする。実際ここ数年人と遊戯王をしたことはない。だから俺の返事に嘘偽りは一切ないのだ。
「だよなー。ブラックマジシャンとかさ、後なんだっけ、神のカード……だっけか。あの赤い竜なんていったけか」
「オシリスの天空竜だな」
「そうそれ!あれの赤いカードもってたんだよなあ」
「ゲームの付録の奴か」
「そうそう!お前詳しいのな」
「……まあな」
この金髪はどういう意図で俺に遊戯王の話をしてくるのだろうか。ひょっとしてこいつ、高校デビューってやつか?いや、それにしてはコミュ力が高い。一朝一夕でこうはならないだろう。
「それで、遊戯王がどうかしたのか?」
「なんかさ、この学校、遊戯王部ってのがあるんだと。初心者大歓迎って言ってたからい一緒に行く奴探してたんだよ。お前、どう?」
遊戯王部。そんなのが部活として成立するのか。どうやって実績残すんだ?ショップ大会を総なめにするとかだろうか。とはいっても、部活、ねえ……。
「すまん。俺は特にその部には興味がない」
すこし、具体的に言うと5秒くらい考えてから断ることにした。
「えーマジか~。まあ俺も単にちょっと懐かしくなったからってだけだししゃーないか。他のやつ当たってみるわ」
そう言って金髪は立ち上がる。
「あ、そうだ。俺、五和ダイゴ。お前は?」
「……俺は、武藤ハルカ」
「そっか。また暇な時話そうや。そんじゃな~」
そう言って金髪は入り口近くの自分の席へと戻って行った。
そこからは至って普通。担任が入ってきて寒いギャグを交えて自己紹介。そして生徒たちが出席番号順に自己紹介する。終わったらオリエンテーションをして帰りの挨拶。どこでもやるような普通のホームルームだった。
***
そして放課後。とはいっても入学式は午前登校なので、まだまだ日は高い。新入生たちは、各自家に真っすぐ帰宅するもの、できたばかりの友人と早速カラオケにいくもの、部活動を見に行くものに分かれ、さっさと教室を出て行った。
俺はと言うと、何をするわけでもなく、誰もいない教室で自分の席に座ったまま宙を眺めていた。
「暇そうですね、マスター」
いつの間にか鞄から出てきたサイマジが俺の隣から声をかけてくる。
「……出てきていいって言ってないぞ」
「だって、ずっと鞄の中にいても面白くないんですもん」
「ソードマンは?」
「瞑想してます」
「いつも通りだな」
「マスター、さっきの五和さんの誘い、どうして断ったんですか?」
「興味無かったんだよ」
「誰かと遊戯王ができるチャンスだったのに」
「いいんだよ、やらなくて」
「でも……」
そこから先の言葉を遮るように俺は鞄を持ち席を立つ。サイマジもそれをみて諦めたのか、大人しく後ろをついてきた。
「帰ったら何しますか?」
が、大人しかったのは教室を出るまでだった。沈黙の魔術師とは何だったのか。
「いつもどおり」
「竹田さんのところですね」
「そうだな」
そこからはサイマジの話を適当に聞きながら玄関を目指し、階段を下り、廊下を歩き、角でまがり、階段を下り、階段を上がり、廊下を歩き、階段を上がった。つまりどういうことかというと……。
「迷ったな」
「迷いましたね」
この学校、やたら敷地が広くて玄関までの道のりがさっぱりわからない。壁にかかっている案内板を見るとどうやら一番奥の部室棟まで来てしまったようだ。ともあれ、案内板のおかげでどうにか帰れそうだ。
「……ん?」
案内板から目を離し歩き始めた矢先、一枚のカードが落ちていることに気付いた。裏面からして遊戯王カードのようだ。拾ってみる。
「これは……虹クリボーか」
「あ、可愛い!」
サイマジがはしゃいでいるが、俺はふと気になったことがあった。
「虹クリボーって、シクレアあったっけ……」
俺が知っている虹クリボーは確かスーパーレアとノーマルだった気がするが、手元のカードはシークレットレアの加工がされていた。
「なあ、これ、偽造カードか?」
聞いてみたがサイマジは首を横に振る。
「いえ、これはれっきとした公式のカードです」
カードの精霊が言っているのだから疑う余地もない。ってことは、エラーカードか何かだろうか。
そう思っていると、近くの教室の扉が開いた。
「んーつかれた……」
中から出てきたのはこの学校の制服をきた女子。上履きの色からして1年生ではない。
「ん?」
その女子生徒は俺の存在に気付くと、首をかしげた。
「えっと……」
俺もどうしていいか分からずにいると、彼女は俺の手元に視線を向ける。
「君、ひょっとして入部希望者?」
「え?」
「いや、ほらそれ、遊戯王カードでしょ?」
彼女は俺の持っている虹クリボーを指差す。しかし入部希望者とは?
俺が疑問に思っていると、教室から愉快な話声が聞こえてきた。
「だーかーら、あの伏せはミラフォだっつってんだろ!」
「底知れぬ絶望の淵へ、沈めえ!」
「MATTE!これは事故だあ!」
そのどこかで聞いたセリフを聞きながらドアの上のプレートを見て状況を理解する。
「ああ、ここが……」
ここがさっき五和が言っていた『遊戯王部』だったのだ。
***
「ようこそ遊戯王部へ!」
「ウェーイ!」
強引に誘いこまれた部室の中で、唐突に歓迎会が始まった。
「ちょっとみんな落ち着いてよ」
バカみたいなテンションの歓迎に思わず苦笑いを隠せずにいると、さっきの彼女が周りを静め、口を開いた。
「こんにちは。わたしは真崎キョウコ。2年生で、この部の部長です」
「はあ……」
「そしてここは遊戯王部。みんなで楽しく遊戯王をする部なの」
周りを見渡すと、本棚には遊戯王の漫画や関連書籍が所狭しと並んでおり、他にも長机の上にはカートン買いしたであろう大量のボックスが置いてあった。これで遊戯王部じゃなかったらギャグだ。
「えっと、あなた1年生よね?名前は?」
「武藤ハルカです」
「武藤君ね。えっと、何のデッキを使ってるの?」
「え?」
唐突な質問に我ながら間抜けな声を出してしまった。
「真崎、こいつ初心者なんじゃないのか?」
真崎の隣に座っていた男子生徒が俺のほうを見ながら言う。
「島田君。あっていきなりこいつ呼ばわりは失礼よ」
「しゅ、シュイマシェーン」
真崎の威圧に島田と呼ばれた生徒は縮こまる。それを見た周りの男子も震えあがっている。
よく見ると、この空間で女子は真崎しかいない。オタサーの姫ってやつだろうか。
「えっと、それで武藤君は遊戯王やったことないの?」
「いや、そういうわけでは……というか俺は入部希望者じゃ……」
「あー復帰勢ね。じゃあルールとかは一通り分かるんだ」
肝心なところは聞かずに真崎は何かの用紙にメモしていく。
「うん。わかったわ。それじゃあこの用紙に名前を書いてくれれば入部成立よ」
そう言われて差し出された用紙は、当然入部届けだった。備考欄に『復帰勢』と書かれている。
「いや、だから俺は……」
「いーじゃないですかマスター。入っちゃいましょうよ♪」
教室内をふわふわと浮かびながら眺めるサイマジが能天気にそんなことを言ってくる。
「すみません。俺、遊戯王部には興味が……」
「なるほど!ただでは入らないってことね」
「へ?」
「だったら、デュエルよ!」
なにが、『だったら』なんだ?接続詞って知ってる?
「おお!あれは真崎部長の103の技の内の一つ、『答えはデュエルの中でしか見つからない』だ!」
え?なに?どういうことだ?
「武藤くん、君の顔には遊戯王がしたいって書いてるわ。でも今更復帰しても新しいカードには勝てないとか思ってるのよね?」
「え、べつにそんなことは……」
「それならデュエルしましょう。デュエルで私が勝ったら入部。それで決まりよ」
もう何を言ってもこの状況は変わらないような気がする。事実、島田を始めとした部員たちはせっせとテーブルを片付けているし、真崎も鞄からデッキケースとプレイマットを出している。
「ささ、マスター。デュエルですよ♪」
サイマジがにこにこしながらテーブルの方へと向かっていく。だが俺はできればやりたくない。さっさと竹田のところでも行っていつも通りの日常を送りたい。
「さ、武藤君。準備できたわよ」
「いや、ほら、俺デッキ持ってないんで……」
「大丈夫よ。初心者用におためしデッキもあるから」
「最近のカード知らないんで……」
「むー」
なんとか回避しようとする俺にいら立ったのかサイマジがこちらまで近づいてくる。そして俺の鞄を持ち上げ……逆さに振った。
「お、おい!」
一瞬の出来事だったので他の連中には何かのはずみで鞄が落ちたようにしか見えなかっただろう。ただ問題なのは、鞄から俺のデッキケースが落ち、中身が散らばったこと。それは当然、真崎にも見えているだろう。
「あれ、なんだ武藤君デッキ持ってるじゃない。じゃあそれでやりましょ」
詰んだ。ここで俺がカードを持っていることがばれた以上、もうこのノリを覆すことは不可能だ。俺はがっくりとかたを落とし、散らばったカードを拾い……テーブルについた。
それを見たサイマジは少し驚いた様子でこちらを見る。お前がやれって言ったんだろうが。
「よし、それじゃお互いのデッキをカット&……」
「真崎先輩」
「え?なにかしら?」
「先輩はデュエルで勝ったら俺に入部しろって言ってるんですよね?」
「え?それはまあ、そうだけど?」
「じゃあ、俺が勝ったら入部しなくていいんですよね?」
「え?」
俺の返事にギャラリーはざわめく。それもそうか、復帰勢ってことになってる俺が仮にも遊戯王部部長に勝つつもりって言うのはいくらなんでもおかしいわけだし。
「凄い自信ね……」
それにこたえるわけでもなく俺は真崎のデッキをカットして渡す。
「それじゃあカットも済んだし始めましょう」
「……はい」
「「デュエル」」
第一ターン
先攻 真崎キョウコ ライフ8000 手札5枚 デッキ40枚 エクストラデッキ15枚
後攻 武藤ハルカ ライフ8000 手札5枚 デッキ40枚 エクストラデッキ15枚
「私のターン!」
最新のマスタールールのため、当然先行はドローなし。真崎の様子を見ながら俺は自分の手札を見る。……まあ、大丈夫そうだな。
「私はマジシャンズロッドを召喚」
真崎の出したカードによって真崎のデッキタイプは少なくとも『ブラックマジシャン』であることは決定した。
「マジシャンズロッドの効果でデッキからテキストにブラックマジシャンと書かれたカードをサーチするわ。私は黒の魔導陣を手札に」
いいスタートだ。ブラックマジシャンデッキはあの魔導陣がキーカードになってくる。それをサーチするマジシャンズロッド。初動としては悪くない。
「そしてそのまま黒の魔導陣を発動。デッキトップを3枚めくり、永遠の魂を手札に加える」
永遠の魂、そして場には魔導陣。これはほぼ確実に次のターンでブラックマジシャンが来るな。
「カードを一枚伏せてターンエンドよ」
第2ターン
「俺のターン、ドロー」
さて、あの布陣。黒の魔導陣はブラックマジシャンが召喚されるとターン1でこちらのカードを除外してくる。さらに伏せられたであろう永遠の魂は毎ターン手札か墓地からブラックマジシャンを特殊召喚するカード。つまり、このターンほぼ確実に俺のカードは一枚除外される。正直真崎の初動は理想的すぎる。だからこそ……
「つまんねえな……」
「ん?何か言った?」
「いえ、なんでもありません」
思わず口に出た感想を誤魔化しつつ、俺はドローカードを確認する……って、は?
「クリクリ~」
なにか聞こえたような気がする。いや、聞こえたとしてもクリクリ~じゃ分かんねーよ。てかなんでこのカード俺のデッキに入ってんの?
俺が引いたカードはさっき廊下で拾った虹クリボーだった。だが、あのカードはポケットに入れたはず。そう思いポケットに手を入れると、虹クリボーのカードは影も形もなかった。
「え~と、マスター?実はその……」
隣にいたサイマジが俺の方を申し訳なさそうに見てくる。やっぱりお前の仕業か。そう言えば以前も入れた覚えのないカードが入ってたな。あれはたしか、モリンフェン……。
まあ、今回に限って言えば全く使えないカードじゃないだけマシか。
「……手札からマジシャンズロッドを召喚」
「マジシャンズロッド……私と同じブラックマジシャンデッキってことね」
「マジシャンズロッドの効果でデッキから魂のしもべをサーチします」
チェーンもないようなので俺はデッキを手に取り魂のしもべを手札に加える。
「え?魂のしもべ?」
効果処理が終わった後、真崎が間抜けな声を上げる。
「どうかしました?」
「いや、武藤君、復帰勢よね?」
「まあ、そうですね」
「ロッドはともかく魂のしもべって最近のパックのカードなんだけど……」
「カードは拾った」
「いや、5dsは見てたとしても……んん?」
尚も首をひねる真崎は無視して俺はプレイを続行する。
「手札のマジシャンズソウルズの効果発動。デッキからブラックマジシャンを墓地に送って、このカードを墓地に送る効果を選択します」
「ソウルズって……。もう意味不明なんだけど……」
「チェーンは?」
「……無いわ」
「それじゃあソウルズの効果でブラックマジシャンを墓地から特殊召喚します」
「それならここでトラップ発動!永遠の魂!」
「よっしゃ!これであの一年のブラマジは除外だぜ!」
大声を上げる島田だったが、真崎がそれをにらむと即消沈した。
「ゴホン。これで私は手札から……!」
「ライフを半分払って、手札から罠カード、レッドリブートを発動します」
「え?」
「相手が発動した罠カードを再セットし、相手はデッキからトラップを一枚伏せる。その代わり、このターン相手はトラップを発動できない」
ハルカLP8000→4000
「手札からトラップ!?」
「手札からトラップだって!?」
「手札からトラップなんて……すごい!」
周囲の部員たちがアニメのセリフを引用しているが、あんまりやるとだんだん寒い感じがするからやめていただきたい。
「先輩。トラップ、伏せますか?」
「くっ……デッキからマジシャンズナビゲートをセットするわ」
「やべえ!部長のマジシャンコンボが完全に封じられた!」
「でも、今セットしたマジシャンズナビゲートも強力なトラップだし、次のターンで……」
「ばかやろう!なにフラグ建ててんだ!」
この人たちはいつもこんなノリなのか?燃費の悪そうな部活だな。
「それじゃあ、ここで魂のしもべを発動します」
「デッキからテキストにブラックマジシャンかブラックマジシャンガールと記されたカードをデッキトップに置くカードね……」
「ここで置くとしたら、やっぱり黒・魔・導だよなあ?」
「そうだな、そうすればレッドリブートでセットされたカードともども部長の魔法罠を破壊できるし」
まあ、普通のブラマジデッキならそういう選択肢もあるが、俺のデッキにはそのカードは入っていない。
とはいえ、この雰囲気で俺の欲しいカードを選択すると一気にしらけそうな気もするんだが……。
一応、隣にたたずむサイマジの表情をうかがう。俺の次の行動を知っているこいつがどんな反応をするか、それを判断基準にしよう。
「さあ、マスター!やっちゃいましょう!」
……まあ、そうだよな。どんな形であれデュエルに手を抜くことは許されない。
「デッキから黒魔導の執行官をデッキトップに置きます」
「は?」
「え?」
「ひょ?」
その場にいた部員全員が拍子抜けしたように呟く。まあ、このカードが収録されたストラクチャーデッキもトーナメントパックもすでに遥か過去のものだし、当然と言えば当然だろう。
「ちょ、ちょっとテキストを確認してもいいかしら?」
「はい、どうぞ」
俺は真崎にカードを手渡す。それを受け取った真崎はじっとカードのテキストに目を通しだした。
「……なるほど。通常魔法を使うたびに1000ポイントのバーンダメージが入るのね。わかったわ。ありがとう」
手元に戻ってきたカードをデッキっトップにおいて、俺は次の行動に移る。
「魂のしもべのもう一つの効果。このカードを墓地から除外して、互いのフィールド、墓地のブラマジ、ブラマジガール、守護神菅モンスターの種類につき一枚ドローします」
フィールドには俺のブラマジが一体。墓地には該当するカードはないので俺はさっきデッキトップにおいた黒魔導の執行官をドローする。
「フィールドのブラックマジシャンをリリースして、黒魔導の執行官を特殊召喚します」
「ここから毎ターン、通常魔法を使うたびに1000ダメージ……痛いわね」
「手札から、トゥーンのもくじを発動します」
「え?トゥーン?」
「デッキからトゥーンと名の付くカードを手札に加えます。選ぶのは、トゥーンのもくじ」
「な、なるほどね。そのカードを連打してダメージを稼ぐって戦略なのね……。でも、そうはいかないわ!手札から幽鬼うさぎの効果発動!このカードを墓地に送って黒魔導の執行官を破壊するわ!これでダメージはこの一回きりよ!」
「おお!手札誘発!」
「レアコレで再録された優秀なカードだな!」
幽鬼うさぎか。まあ、確かに優秀なカードなんだが……。
「えっと、その幽鬼うさぎは発動できません」
「え?」
「幽鬼うさぎの発動条件は効果の発動ですが、黒魔導の執行官の効果は永続効果。つまり、発動する効果ではないんです」
「え、そ、そうなの?」
「そうです」
真崎はポケットからスマホを取り出し、操作しだす。おそらくwikiを確認しているのだろう。まあ、このカードはまだテキスト整備される前のカードだから、字面だけじゃ判断できないからな。
「……確かに、永続効果って書いてるわね……」
「それじゃあ、ゲームを再開します。俺がトゥーンのもくじを発動したので、黒魔導の執行官の効果で1000ポイントのダメージです」
真崎LP8000→7000
「今サーチしたトゥーンのもくじを発動し、最後のもくじを加えます。そして1000ダメージ」
真崎LP7000→6000
「最後のトゥーンのもくじを発動。でっきからトゥーンブラックマジシャンをサーチ。そして1000ダメージ」
真崎LP6000→5000
「闇の誘惑を発動。カードを2枚ドローして、トゥーンブラックマジシャンを除外」
真崎LP5000→4000
「グリモの魔導書を発動。デッキからセフェルの魔導書を手札に」
真崎LP4000→3000
「セフェルの魔導書を発動。手札のヒュグロの魔導書を見せて、墓地のグリモの効果をコピーし、ルドラの魔導書を手札に」
真崎LP3000→2000
「ルドラの魔導書を発動。手札のヒュグロの魔導書を墓地へ送って2枚ドロー」
真崎LP2000→1000
「ヒュグロの魔導書を発動。黒魔導の執行官の攻撃力を1000ポイントアップ」
真崎LP1000→0
「……負けたわ」
「ありがとうございました」
一応礼儀として挨拶をしておく。教室内で言葉発するものはもういなかった。完全な沈黙だ。まあ、後攻ワンキルなんてかまされたらこうなるよな。
「えっと、それじゃあ俺はこれで失礼しま……」
「すごい……」
「え?」
「すごいわ武藤君!こんな華麗なプレイ、初めてみたわ!どうしてもあなたが欲しくなった!」
真崎は俺の手を握りぶんぶんと振る。それを見た周りの生徒たちも駆け寄ってくる。
「すげーな武藤!」
「ホントに復帰勢かよ!」
「こりゃうちの部に革命が起きるぜ!」
そんな中、島田だけは面白くなさそうに椅子に座ったままだった。
「武藤君、どうかな、うちの部に入部してくれないかしら。あなたがいたらきっと楽しいわ」
「よかったですね!マスター」
サイマジも万歳して喜んでいる。
だが、俺はこのままこの部に入部するつもりは無いのだから、しっかり伝えておいた方がいいだろう。
「真崎先輩。俺はデュエルに勝ちました。それなら約束通り入部に関しては俺の意思で決めていいんですよね?」
「あ……」
「あ」
「あ」
「あ」
真崎を含め全員がやっと思い出してくれたようだ。
「そうだったわね……それじゃあやっぱり……」
「ええ、俺はこの部には入部しません」
俺がそう言った時、一番悲しそうな顔をしていたのは、サイレントマジシャンだった。