「一体どうなってんだ!なんか変な球体に武藤もあのサイレントマジシャンたちも、みんな包まれちまったぞ!」
「武藤君……」
「ちっ、俺の出番を奪いやがって……」
スフィアフィールドの下ではそんな会話がされていた。
先行 ハルカ LP8000 手札5枚 デッキ35枚 エクストラデッキ 15枚
後攻 ミス・ドリーム LP8000 手札5枚 デッキ35枚 エクストラデッキ15枚
ターン1
「俺の先行!」
いつものデュエルとは違い、フェイズ移行はデュエルディスクが行ってくれるので俺は何も言わずにメインフェイズに入る。
「手札から召喚僧サモンプリーストを召喚!」
デュエルディスクのモンスターゾーンにサモプリのカードを置くと、俺の目の前の空間が光りだし、何もない空間からカードのイラストと同じ姿をしたサモンプリーストが出現する。これは竹田の研究しているソリッドヴィジョンとは似て非なるもの、いうなれば実体化だ。
「サモンプリーストは召喚時、守備表示になる!そして手札のマジックカード、サイレントバーニングを捨てることで、デッキからレベル4のモンスターを特殊召喚する!」
遊戯王OCGの環境なら、灰流うららなどの手札誘発が飛んでくる可能性のあるタイミングだが、『このデュエル』にはそもそもそれらのカードは存在しない。
「現れろ!黒き森のウィッチ!」
ウィッチもサモプリ同様、実体化する。
「現れろ!沈黙を伝承するサーキット!アローヘッド確認!召喚条件は、闇属性モンスター2体!俺はサモンプリーストと黒き森のウィッチをリンクマーカーにセット!」
俺の言葉と同時に空中に矢印のついた四角い物体が出現し、サモプリとウィッチが黒い光となって右下と左下の矢印に吸収され、赤く点灯する。
「サーキットコンバイン!現れろ、リンク2!見習い魔嬢!」
デュエルディスクのエクストラデッキゾーンから排出された見習い魔嬢のカードをエクストラモンスターゾーンに置く。
「リンク素材となったウィッチの効果!デッキから守備力1500以下のモンスターカードを手札に加える!俺はDDクロウを手札に!」
宣言と同時にデッキの真ん中らへんからカードが排出され、DDクロウのカードは俺の手札に加わる。普段ならエフェクトヴェーラー辺りをサーチしたいところだが、それもかなわぬ願いだ。
「さらに墓地のサイレントバーニングを除外し、デッキから沈黙の魔術師サイレントマジシャンを手札に加える!」
再びデッキからカードが排出される。
「さらに、手札から神樹のパラディオンを見習い魔嬢のリンク先に特殊召喚!」
これで俺の場には魔法使い族と戦士族のモンスターが一体ずつ。
「……いくぞ!俺は見習い魔嬢をリリース!沈黙をつかさどる白き魔術師よ!わが声に応え、世界に優しき光を灯せ!特殊召喚、沈黙の魔術師サイレントマジシャン!」
見習い魔嬢が白い光となって消滅し、その場所に白い魔法陣が展開される。
そして魔法陣から先ほどデッキに入っていったサイレントマジシャンが現れる。精霊状態の時とも実体化している時とも違う、デュエルの中での彼女はいつもより数倍頼もしく見える。
「さらに、俺は神樹のパラディオンをリリース!沈黙をつかさどる煌々たる剣士よ!
戦いの狼煙とともに戦場を希望で満たせ!特殊召喚、沈黙の剣士サイレントソードマン!」
神樹のパラディオンの姿が消えた後、その場所に空中から一本の剣が舞い降りてくる。そして、まばゆい光とともに出現し、その剣を引き抜くのはサイレントソードマン。いつも横にいる彼が、今は俺の目の前で俺とともに戦ってくれるのが、とても安心する。
「サイレントマジシャンの攻撃力は、手札一枚につき500ポイント上昇する。俺の手札は2枚!」
サイレントマジシャン 攻撃力2000
「俺はこれで、ターンエンド!」
ハルカ LP8000 手札2枚 フィールド 沈黙の魔術師サイレントマジシャン 沈黙の剣士サイレントソードマン
ターン2
「私のターン。ドロー!」
「スタンバイフェイズ、サイレントソードマンの攻撃力は500ポイントアップする!」
サイレントソードマン 攻撃力1000→1500
さて、ミス・ドリームのターンだが、俺の場の2体のサイレントモンスターたちは一ターンに一度魔法を無効化する。そして手札には墓地利用を阻害するDDクロウ。フルモンなどではない限り初動に魔法カードを使うデッキは少なくないし、墓地を使うデッキも同様だ。
「1ターンで沈黙の魔術師と剣士を並べ、こちらの魔法、墓地の利用をけん制するとは、見事なタクティクスね。ほめてあげるわ」
「……」
「確かに、私のデッキは魔法カードを多用するデッキだからその2体の存在はかなり厄介なのよね」
「なぜ俺に手の内を明かす?」
なぜか自分のデッキの特性を惜しげもなく話す彼女に対し、当然の疑問をぶつける。
「それは……手の内を知られていようがあなたは私には勝てないからよ!」
「何……?」
「たとえ魔法の発動を禁じるサイレントコンビだろうと、その効果を発動できなければ意味はない。私は手札から魔法カード、冥王結界波を発動!」
ミス・ドリームがディスクに魔法カードを挿入するのと同時に、スフィアフィールドの内部が闇に包まれる。
「冥王結界波だと!」
「このカードはこのターンの相手へのダメージを0にする代わりに、相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。そして、このカードの発動に対して相手はモンスターの効果を発動できない!」
闇の空間から突如青い波動が放たれ、それはサイマジとソードマンに直撃する。
「きゃあああ!」
「くっ、こ、これは……」
波動はそのまま縄のように変化し二人の体を縛り付ける。
「サイマジ!ソードマン!」
「そして私は手札からサイレントウォビーをあなたのフィールドに特殊召喚!」
「俺のフィールドにだと?」
「サイレントウォビーの効果であなたはカードを一枚ドローし、私は2000ポイントライフを回復する」
ミス・ドリーム LP8000→10000
冥王結界波の無効効果は発動時に存在するモンスターのみに有効なので、このサイレントウォビーの効果は問題なく通る。
「そして私は手札からヒーローアライブを発動!ライフを半分払い、デッキからE・HEROを特殊召喚する!」
奴のデッキはHEROデッキか。そして、さっきつかった周囲を凍結させる能力からして、エースモンスターはおそらく……。
「私はE・HEROエアーマンを特殊召喚!」
ミス・ドリームLP10000→5000
「エアーマンの効果発動!デッキからHEROを手札に加える。私はV・HEROヴァイオンを手札に、そして召喚!」
エアーマンにヴァイオン。強力なHEROが2体も……。
「ヴァイオンの効果でデッキからシャドーミストを墓地へ。そしてシャドーミストの効果によりデッキからE・HEROオーシャンを手札に」
「……」
「そしてシャドーミストを墓地から除外しヴァイオンのさらなる効果発動!デッキから融合を手札に!そして、現れなさい!正義を貫くサーキット!」
先ほど俺が出したものと同じ四角の輪が現れる。
「召喚条件は、戦士族モンスター2体!私はエアーマンとヴァイオンをリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!聖騎士の追想イゾルデ!」
サーキットから二人の女性が現れる。片方は金髪、もう片方は銀髪。
「イゾルデのリンク召喚成功時の効果で、デッキからE・HEROフォレストマンを手札に!そして魔法カード、融合を発動!」
今度は空中に青とオレンジの混ざった色の渦が現れる。
「私が融合するのは手札のオーシャンとフォレストマン!深海を守護する英雄よ、森を駆ける英雄よ!いま正義の名のもとに大義をなせ!融合召喚!E・HEROジ・アース!」
「ジ・アースだと!?」
出現したのは白いボディの戦士。自身の効果も相まって戦闘では絶大なパワーを誇るモンスターだが、そもそもこのターン俺が受けるダメージは0。一体どうするつもりなのか。
「そしてイゾルデの効果!デッキから装備魔法カード、最強の盾、フェイバリットヒーロー、アサルトアーマー、ネオスフォースの4枚を墓地へ送り、デッキからエアーマンを特殊召喚!」
くっ……エアーマンの効果にはターン1の制約がない。
「エアーマンの効果でデッキからE・HEROリキッドマンを手札に!」
「サイレントマジシャンたちの効果が使えていれば……」
ヒーローアライブを通さざるを得なかったことがこの連続召喚を可能にしている上に、ジ・アースもイゾルデも俺のモンスターの攻撃力を上回っている。
「私は手札から、ミラクルフュージョンを発動!フィールドか墓地の融合素材モンスターを除外し、E・HEROを融合召喚する!」
再び青とオレンジの渦が現れる。
「だが、この瞬間!手札のDDクロウを墓地に捨て効果発動!相手の墓地のカードを一枚除外する!俺は……オーシャンを除外!」
「水属性を除外してきたということは、私の次の一手を読んでいたようね。……でも、甘いわ!私は速効魔法、手札断札を発動!互いの手札を2枚墓地に送り、同じ枚数ドローする!」
「なんだと!?」
「私は手札のリキッドマンともう一枚を墓地へ!さあ、あなたも墓地へ送りなさい!」
「くっ……」
俺はサイレントウォビーで引いたカードともう一枚の手札を墓地へ送った。
「そして、互いに2枚ドロー!」
「ミラクルフュージョンは効果解決時に素材となるモンスターを除外する……」
「そう、つまり今墓地へ送ったリキッドマンも素材にできるのよ!私は墓地のリキッドマンと場のエアーマンを除外し融合!水圧を操る英雄よ、風を導く英雄よ!いま正義の名のもとに大義をなせ!融合召喚!E・HEROアブソルートZERO!」
現れたのはミス・ドリームと同じ仮面とマントを身に付けた長身の戦士。E・HEROの中でも最強レベルの強さを持つモンスター。
だが、俺が感じたのはそんなカードとしての強さではなく、モンスターから放たれる圧倒的なプレッシャー。それは井上のヴォルカザウルスと同じ類のものだが、それよりもさらに上位の力。
そして俺は、同時に先週の授業中に見た夢を思い出す。
あの真っ白な空間で俺に対し鋭い殺意を向けていたのも、このアブソルートZEROだったが、これは偶然だろうか。
いや、俺の本能が、経験が、偶然などではありはしないと告げている。
「あら、アブソルートがそんなに怖い?」
「なに……?」
「見てみなさいよ、自分の手を」
俺は自分の手元を見る。手札を持つ左手は、確かに震えている。
俺はそれをごまかすように右手で抑える。
「……さっさとデュエルを進行しろ。それともターンエンドか?」
「打たれ弱い人に限って相手を煽るのよね。まあいいわ。続けましょう。融合素材として除外されたリキッドマンの効果!カードを2枚ドローし、1枚捨てる!」
これで向こうの手札は3枚。俺は2枚。だがそれ以上にフィールドのモンスターの攻撃力の差が大きすぎる。冥王結界波によりこのターンのダメージはないが、場にジ・アースとアブソルートZERO。不味い展開だ。
「いくわよ!バトルフェイズ!ジ・アースでサイレントマジシャンを攻撃!アースインパクト!」
その攻撃命令に従いサイマジに向かって突進してきたジ・アースの姿が一瞬で消える。
「上だ!サイマジ!」
一瞬の間でジ・アースはサイマジの上空に移動していた。
「う、うう……」
だが、結界波に抑えつけられているサイマジは身動きが取れない。
そのまま上空からたたきつけられたジ・アースの拳によってサイマジは光の粒子となって破壊される。
「サイマジ!ぐ、ぐああああああ!」
ジ・アースの攻撃の余波が俺の体に直撃する。とっさに防御体制こそとったが、ダメージは甚大だった。
「マスター!」
俺を心配し、結界波を振りほどこうとするソードマンだが今の彼のその力はない。
「そう、たとえダメージは0でもこのデュエルはプレイヤーの、文字通りライフを削る。はたして『その体』はどこまで耐えられるかしらね」
「ぐっ……。サイレントマジシャンの効果発動!デッキからサイレントマジシャンLV8を特殊召喚する!」
俺のデッキから光が放たれ、フィールドにサイマジが舞い戻る。
「さっきはよくもやってくれましたね!でも今の私の攻撃力は3500!あなたのモンスターじゃ――」
「それはどうかしら。まあ、あなたは後回しにして……イゾルデでサイレントウォビ―を攻撃!」
二人のイゾルデがにらみを利かせると、サイレントウォビーは逃げるようにフィールドから消滅する。
「そして、アブソルートZEROでサイレントソードマンを攻撃!」
不味い、この攻撃を通せば俺のモンスターは『メインフェイズ2で』全滅してしまう!
「いけ!フリージング・アット・モーメント!」
「俺は墓地の、タスケルトンの効果発動!このカードを除外し、攻撃を無効化する!」
アブソルートZEROが攻撃態勢に入る直前に黒い豚のモンスターが現れ、膨らみ始める。
「墓地から……なるほど、さっきの手札断札を逆手に取ってきたということね」
そして膨らんだタスケルトンの体が風船のように吹き飛び、中かららその骨が現れ、吹き飛んだ風船がアブソルートZEROの視界をさえぎり攻撃を中断させる。
「私はバトルフェイズを終了する」
「さて、メインフェイズ2だが、ジ・アースの効果を使うか?」
「どういうことですか、マスター?」
きょとんとした顔でこちらへ振り向くサイマジ。
「ジ・アースはE・HEROをリリースすることでその攻撃力を自分にプラスする効果がある。そしてアブソルートZEROはフィールドを離れた時相手のモンスターを全滅させる強制効果をもつ」
「???どういうことですか?もうバトル終わってますよ?」
「つまり、ジ・アースでアブソルートZEROをリリースすることで能動的にこっちのモンスターを全滅させられるってことだ」
「えええ!私、また破壊されるんですか!?」
「そうしたいのだけれど、あなたのフィールドには沈黙の剣士が残っているのよね」
ミス・ドリームは肩をすくめて見せる。
「そうだ。お前のねらいは2体のHEROの攻撃でサイレントコンビを破壊し、その効果で出てくるLV8とLV7をアブソルートZEROとジ・アースとのコンボで破壊し俺のフィールドを更地にすることだった。だが、タスケルトンの効果で沈黙の剣士はフィールドに残った。先ほどのコンボを発動すれば俺のフィールドにはサイレントソードマンLV7が残る」
「そしてLV7となった私はフィールドの魔法カードすべてを無効化する。魔法カードでモンスターを融合させるお前のデッキの動きは今度こそ停止するのだ」
だが、ミス・ドリームは一切の焦りを見せない。
「確かに、タスケルトンのせいで私の狙った戦術はとれなくなった。でも、それがなんだというの?ジ・アースの効果を使わずとも、アブソルートZEROは場を離れればあなたのモンスターを全滅させることに変わりないわ。つまり、あなたのプレイに制限が生まれていることは歴然とした事実」
「……そうだな」
「焦らなくても、あなたの敗北はすぐにやってくるわ。私はカードを2枚伏せてターンエンド」
ミス・ドリームの足元に裏側のカードが出現する。
ミス・ドリームLP5000 手札1枚 フィールド 聖騎士の追想イゾルデ ジ・アース アブソルートZERO 伏せカード 2枚