現実世界で遊戯王!   作:たけぽん

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17. 伝説って?

 

 

「はい、リンゴ切れたわよ武藤君」

 

皿に盛ったリンゴを真崎が俺に渡してくる。

ミス・ドリームとの戦いから一カ月がたった。あのデュエルで体に相当のダメージを負った俺は7月半ばのこの時期まで街の大きな病院に入院している。デュエル中は気にしていなかったが、肋骨が数本折れていたり、両腕が打撲していたり、他にも体の至るところがボロボロだった。

それでも、この一カ月で絶対安静は解かれ病院内では多少自由に動けるようになっていた。

 

 

「真崎先輩、別に毎日見舞に来なくても、俺は死にませんよ?」

 

つまようじを刺したリンゴを口にしながら、ベッドの横の椅子に座る真崎に話しかけるが、彼女の表情は曇ったままだ。

 

「それは……。ほ、ほら、万が一ってこともあるじゃない?」

「一カ月たってから万が一も何もないでしょ」

「そ、そうだけど……」

 

真崎の聞きたいことは分かっている。あの日、屋上で起きた井上やミス・ドリームとの戦いについて、彼女は知りたいのだ。誰だって、目の前であんなわけのわからないことが起きれば詳しく知りたいのは当然だろう。

だが、言ったところで彼女がさらに困惑するのは目に見えている。

 

「……そういえば、武藤君のご両親はお見舞いには来たの?この病室、見舞客が私と五和君しか来てないように思えるんだけど?」

「両親は、俺に関心がないので」

「そ、そうなの……。えっと……」

 

これ以上ここにいても俺が何かを話すことはない。それは真崎も分かっているはずなのに、彼女は尚も会話を続けようとする。

だが、当然話題はないので病室には沈黙が訪れる。

 

「……」

「……」

 

俺は無言でリンゴを食べ続ける。

最後の一個につまようじを刺した時、病室にノックの音が響いた。

 

「……どうぞ」

 

俺の声に、病室の扉がガラガラと開かれる。

 

「やあハル君、元気かい?」

「お前、入院患者にそんなこと聞いて元気ですって返ってくると思うか?」

 

入ってきたのは白衣をまとった長身の男。だがそれは医者ではなく竹田だった。

 

「やれやれ、入院しても、その頭の固さは治療不可能らしいねえ……ん?」

 

竹田の視線が、真崎に向く。

 

「あ、あの……、お医者様ですか?」

「……、ああ、君がこの前ハル君をデートに誘った女の子か!」

「で、デートじゃありません!というか、あなたは誰なんですか!」

「なんだよハル君も隅に置けないなあまったく!」

「話し聞いてますか!?」

「先輩、こいつの発言は大体適当なんで気にしないでください」

「ひどいなあ、まったく」

 

竹田はへらへらと笑っているが、真崎は今にも怒りを爆発させそうだ。

 

「先輩。ちょっと売店でお茶買ってきてもらってもいいですか?」

「え?あ、うん。わかったわ。ちょっと待っててね」

 

真崎はバッグから財布を取り出し、早歩きで病室を出ていく。

 

「……さて、邪魔もいなくなったね」

「初対面の相手を邪魔呼ばわりとか、お前本当にどんなハートしてんだよ」

 

俺は苦笑いするが、竹田はそれを意に介せず、いつも通りの表情で口を開く。

 

「大体の状況は先週くれた手紙で把握してるよ。大変な目にあったらしいね」

「大変ってか、危うく命を落とすところだったけどな」

「ついに『向こう』から、こちらへのアクセスが可能になったわけだ」

「……みたいだな」

「今のところ、HERO使いの女の子と放火魔以外は接触してきてないんだよね?」

「ああ。だが、アクセスが可能になっているのなら、他にもいるかもしれない」

 

竹田はふむふむと顎をなでる。

 

「それで、君はどうするんだい?奴らと戦うの?」

「……わからない。この前は真崎や他の人の命がかかってるから応戦したが、本来なら俺は消えるべき存在だ。奴らに抵抗する権利があるかすら怪しい」

「どっちつかずってわけだ」

「まあ、そうなるな」

「……退院はいつごろになりそうだい?」

「来週には一旦帰宅できる」

「それじゃあ、落ち着いたら新科学研究所に来て。手紙に同封されていた『アレ』の解析は終わってるから」

「……了解だ」

「今日はそれを伝えにきたんだ。それじゃあ僕は売店でバナナでも買って帰るよ」

 

ひらひらと手を振り、竹田は病室を去っていく。

俺は最後のリンゴを口に入れゆっくりと咀嚼する。

 

「マスター。逃げた方がいいんじゃないですか?」

 

無音の病室に唐突に聞こえたのはサイマジの声だった。先ほど真崎が座っていた席に腰かけ、俺に問いかける。

 

「逃げるって、どこへだよ?」

「それは、分かりませんけど、またいつデュエルを挑まれるか分からないじゃないですか!この前のデュエルで、今のマスターでは戦いに耐えきれないことは明らかですよ!」

「そんなに警戒しなくても、奴らもすぐには襲ってこないさ」

「え?」

「確かにあのデュエルで俺の体はボロボロだが、勝利したのは俺だ。こっちの実力を再認識した以上、向こうも策なしに俺の前には現れない」

 

それに、ミス・ドリームはデュエルで勝つことに意味があると言っていた。それはつまり万全じゃない状態の俺をリアルファイトで倒すことは本意じゃないということだ。

 

「ほら、真崎が戻ってくる前にそこどいとけ」

「……分かりました」

 

ふてくされながらサイマジは姿を消す。

 

「……」

 

サイマジに言った通り、今すぐにやつらが俺を狙ってくることは無い。だが、その状況がいつまでも続くわけじゃない。いずれは向こうも行動を再開し、またあのデュエルをしなければいけなくなるはずだ。

さっき竹田に話した通り、素より俺は奴らに歯向かう気は一切ない。しかし、真崎や五和たちのように無関係の人間の命を盾にされれば戦わざるを得ないし、俺という存在が死ぬということはそんなに簡単なことでもないのだ。

 

……少し、外の風にあたってくるか。

 

俺はベッドからゆっくりと降り、まだ少し痛む体をゆっくりと動かし病室を出て、他の病室の前を横切りフロアの真ん中のエレベーターに乗り込む。

エレベーターには俺以外の客はおらず、俺は一階のボタンを押して壁に寄り掛かる。エレベーターが下降するのと同時に俺はミス・ドリームとのデュエルを思い出す。

あのデュエル、決着した時のライフ差だけ見れば俺が優勢だったように見えるが、デュエルの中身としては俺はほぼ防戦一方だった。次々に繰り出される融合モンスターに対しモンスターを守ることで手いっぱいだったし、ラスト3ターンはドローしたカードがたまたまその場に適したものだっただけだ。

虹クリボーも、熱き決闘者たちもデッキに一枚しか投入されておらず、ダブルアップチャンスも、本来はタスケルトンなどとの兼ね合いを想定して入れてあったカードで、熱き決闘者たちとのコンボはそれこそただ運がよかっただけだ。

そして、やはり向こうと俺とでは実体化したモンスターの攻撃への耐性がまるで違う。

今の俺では耐え切れないといったサイマジの言葉は間違っていないのだ。

そして、気になることがもう一つ。なぜ、一度力を失った井上のヴォルカザウルスが復活していたのか。本来なら、一度力を失ったカードは二度と覚醒することは無い。つまり、向こうにはその不可能を可能にする技術があるということだ。

そんなことができる人物を俺は一人しか知らない。

だが、あの人はもう……。

 

『一階でございます』

 

俺が顔をしかめていると、エレベーターのアナウンスが到着を告げ、扉がゆっくりと開く。

そのまま一階のロビーを素通りし外へ出る。とはいえ、入院患者の俺が自由に行ける範囲は病院の敷地内のみ。だから俺は駐車場の近くの大きな木の下のベンチに腰掛ける。

今日はそこまで気温も高くなく、涼しい風も吹いている。俺はそれを全身で感じるように大きく息を吸って、吐く。それだけで、重苦しい気分が少し楽になる気がした。

小さく伸びをして、なんとなくポケットの中のカードを取り出す。

 

「熱き決闘者たち……か」

 

このカードがなければ俺はおそらく負けていた。つまり、真崎に誘われていなければ今頃は生きていたかも怪しいってことだ。

そして、店長はこのカードは今の俺にとって大切な意味があると言っていた。

俺はとてもじゃないが熱き決闘者なんて呼べるものじゃない。俺がデュエルに熱くなったことが全ての元凶だったのだから。

ミス・ドリームもおそらくは、それに巻き込まれた人物なのだろう。だから彼女は、俺に対し憎悪を向けていた。

……やはり俺は、自分の罪と向き合うべきなのだろう。

 

「熱き決闘者たち」

「……!」

 

唐突に背後から聞こえた声に驚いて肩を震わせる。ゆっくりと振り返ると、そこにいたのは俺と同じくらいの背丈で、黒い髪に赤いメッシュの入った青年だった。この情報だけだと不良にからまれたようにしか見えないが、青年の表情はとても穏和なもので、ただまっすぐ俺の手元のカードを覗きこんでいる。

 

「えっと……?」

「……、あ、ご、ごめんなさい!珍しいカードだったからつい気になって、やめてください、暴力反対!」

「いや、なにもしてねーよ。冤罪だろそれ」

 

あたふたとあわてふらめく彼がの姿がおかしくて、俺はすこし口角が上がってしまう。

 

「あ、あはは、だよねー」

「……君も遊戯王やるのか?」

 

その言葉があまりにも自然と口から出たことに、数秒たってからものすごい違和感を感じた。ついさっきまでデュエルに対してネガティブな思考を巡らせていたというのに、なぜ出会ったばかりの人物にこんなことを聞いたのだろう。

 

「うん。僕も遊戯王が大好きさ!いつかいろんな国を巡って出会った人たちと遊戯王を通じて友達になるのが夢なんだ」

「デュエルで友達、か……」

「そうそう。デュエルをすればみんな友達になれるって、それだけが僕に残されたものなんだ」

「残されたもの?」

 

なんだかその言い方が妙に気になってつい聞き返してしまったが、なんだか深刻そうな言い方だし、初対面でそこまで踏み込む権利もないのではないだろうか。

 

「……悪い、配慮が足りなかった。言いたくないなら言わなくていい」

「ううん、僕の方こそ初対面で気を使わせちゃって……。こんなこと言うとヘンかもしれないけど、なんだか君とは初めて会った気がしなくてさ」

「そうか……。俺は武藤ハルカ。君は?」

 

なんだろう。いつもなら見ず知らずの相手に快く名乗ったりしないというのに、彼の言うとおり、俺も彼に対して初対面以上のものを感じていた。

 

 

「僕は、真月タケル……だと思う」

「だと思うって、自分の名前じゃないか」

「あはは……、実は僕、記憶喪失なんだ」

「え?」

「隣、座っていいかい?」

 

その言葉はつまるところ、これから彼が言った記憶喪失についての話しをしたいということだろう。別に聞くこと自体は構わないが、だからと言って俺がそれをどうにかできるわけでもない。

それなのに、気づけば彼に隣を促していた。

 

「4ヶ月くらい前になるのかな、太平洋を航海していた豪華客船がシステムの不具合で沈没したんだ」

 

そのニュースは俺も新聞で読んだため知っている。かなりの大事故で乗組員ふくめ数百人の人が犠牲になった大事故だが、船が海底の回収不可能な領域まで沈んでしまったため調査は難航していると。捜査チームが集めた情報を加味したところ、システムの不具合以外に起こりうる原因がなく、消去法でシステムが原因だという結論にたどり着いた。

 

「僕はその事故に巻き込まれ、気づいた時には近くの島に流れ着いていた。要するに数少ない生存者の一人なんだ」

「……そうなのか」

 

確かに、その事故での生存者は10名ほど存在している。真月がその一人だというのなら、事故に巻き込まれ、それが原因で記憶喪失に陥ったということなのだろう。

 

「島民に発見された時の僕は全身ボロボロで、瀕死状態だった。けど、事故の調査の重要参考人として、国の特別措置でこの病院で治療を受けていたんだ」

「だが、お前は記憶喪失なんだろ?保険証か何か残ってたのか?」

 

その問いに真月は首を横に振る。

 

「僕の手元には身元を証明するものは何もなくて、僕を探す家族や知人もいなかった。ただ、一通の手紙だけが残っていて、その受取人の名前が今僕が名乗っている真月タケルなんだ」

「手紙になにか手掛かりはなかったのか?」

「ううん。手紙の中身は簡素なもので、あとはカードが一枚同封されていただけだった」

「カード?遊戯王のカードってことか?」

「うん」

 

真月はポケットからデッキケースを取り出し、一枚のカードをこちらに見せる。

 

「……ハネクリボーか」

 

遊戯王GXの主人公、遊城十代が使っていた羽の生えたクリボー。戦闘ダメージからプレイヤーを守る能力で十代のピンチを何度も救ってきたモンスターだ。

 

「その、こんなこと言っても頭がおかしいと思われるだけなんだろうけど、このカードには……」

『くりくりー』

 

真月が言いよどんでいると、彼の足元に茶色い毛玉のようなものが現れた。毛玉には小さな羽のようなものがついており、不安そうにこちらを見ている。

 

「……」

『くりい?』

「え?も、もしかして武藤君……」

「見えてる」

 

俺の言葉に、毛玉の正体であるハネクリボーと真月は目を丸くする。

 

「驚いた……、僕以外に精霊が見える人がいるなんて!い、いつから見えるようになったんだい?」

「まあ……、生まれつき、かな」

「そうなんだ!もしかして、君を好意的に感じるのは精霊が見える能力が僕らを引き寄せたからなのかもしれないね!」

 

真月は嬉しそうにしているが、むしろ驚いているのは俺の方だ。精霊を認知する能力を、まさか普通の人間が持っているなんて前代未聞だ。

詳しく事情を聞きたいが、記憶喪失の相手から有益な情報が手に入るわけもない。

だが、俺はもっとこいつのことが知りたい。

 

「なあ、真月。お前退院したら行くあてはあるのか?」

「ええっと……退院後に行くところがなければ政府の管理下の施設に世話になることになってるけど」

「なら、行くとこがあればいいんだな?」

「え?それってどういう……」

「いいところを知ってる。すこし散らかってるけど家賃の心配もない。まあ、狂った大学生との同居が嫌じゃなければだけどな」

 

苦笑する俺に対し真月はただ首をかしげるだけだった。

 

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