第6ターン
「俺のターン。ドロー」
これで俺の手札は7枚。そのうち相手にも公開されているのは、デスガイド、スカラマリオン、フラジャイルアーマー、ラギットグローブの4枚。後の2枚と今引いたカードは虎尾も確認のしようがない。
「墓地の沈黙の剣の効果発動。このカードを除外し、デッキからサイレントソードマンモンスターを手札に加える。俺は沈黙の剣士サイレントソードマンを手札に」
「お待たせしました。マスター」
手札に加えたカードから、ソードマンの声が脳内に届く。だが、基本的にソードマンやサイマジがデュエルの内容に口を出すことは無い。デュエルは1対1の真剣勝負。俺がそう決めているからだ。
「サイレントソードマンか。さっきからLV3がちらちら見えてたが、確かに戦士族テーマの幻影騎士団とは相性いい。なかなか考えられたデッキじゃねーの」
「……あんた、デュエル好きなんだな」
「はあ?なんだよ、急に心理フェイズか?」
「いや、率直な感想だ。最初のターンで俺がサイパラを出したとき、周囲のやつらはそれをあざ笑ったが、あんたは何も言わなかった。むしろ俺がサイパラをどう使うか、そんな好奇心を強く感じた。それに、あんたのプレイからはまるで無邪気な子供のようなものを感じたしな」
「てめえ、俺を馬鹿にしてんのか?」
「いいや。逆だよ。本来遊戯王ってゲームの前じゃみんな子供であるべきなんだ。デュエルが好きって気持ちを素直に抱けるのは子供にしかできないからな」
「……なるほどな。確かにそうかもしれねえ。なら、てめえもデュエルが好きなんだな」
「それは……どうだろうな」
「なんだよ?違うってのか?」
「……ゲームを再開しよう。俺のターンのメインフェイズだったな」
手札に加えたソードマンからいったん注意を外し、その隣のカードをプレイする。
「手札から、幻影騎士団ラギットグローブを召喚。そして墓地のダスティローブの効果。このカードを除外し、デッキからサイレントブーツを手札に加える」
「ならばトラップ発動!キャッチコピー!相手がデッキサーチをしたとき、俺もデッキからカードを手札に加える!俺が選ぶのは、鬼神の連撃!」
鬼神の連撃。あれは自分のエクシーズモンスター一体の素材をすべて取り除き、2回攻撃を可能にするカード。確かにこれもリードブローと相性のいいカードだ。だが、今フィールドにいるリードブローの素材はゼロ。ならば奴が次に打つ手は……。
俺の思った通りのことをしてくるとしたら、今の手札では防ぎようがない。
ならば……。
「闇の誘惑を発動。カードを2枚ドロー。……手札からフラジャイルアーマーを除外する」
「へへ、なんかいいカードは引けたか?」
「俺は手札からサイレントブーツを特殊召喚。そしてラギットグローブと共にエクシーズ召喚。幻影騎士団ブレイクソード」
「来やがったか……」
「ラギットグローブを素材にしたことでブレイクソードの攻撃力は1000ポイントアップする。そしてブレイクソードの効果。素材を一つ取り除き、俺の場の明と宵の逆転と、あんたのリードブローを破壊する」
これで向こうにモンスターはいない。あるのは伏せカードのみ。だが、次のターンのことを考えると少しでもダメージを与えておきたい。
「バトル。ブレイクソードでダイレクトアタック」
虎尾LP8000→5000
攻撃は通ったか。ということはあいつの伏せカードは召喚反応でも攻撃反応でもないということか?いや、さっきみたいに忘れてるだけの可能性もあるが……。
「メインフェイズ2。ブレイクソードをリリースし沈黙の剣士サイレントソードマンを特殊召喚。カードを3枚伏せてターンエンドだ」
「おおっと!エンドフェイズ、トラップカード、エクシーズリボーン発動!墓地のリードブローを特殊召喚し、このカードをエクシーズ素材にするぜ!」
伏せカードの正体はエクシーズリボーンだったか。これでまた破壊耐性のあるリードブローと戦うことになるわけだが……。
ハルカ 手札 4枚 フィールド 沈黙の剣士サイレントソードマン 伏せカード 3枚
第7ターン
「俺のターン!ドロー!」
「スタンバイフェイズ、サイレントソードマンの攻撃力が500ポイントアップする」
「たしかそいつは一ターンに一度、魔法カードの発動を無効にするんだったよな?」
「ああ」
「なるほどねえ。なら、こいつはどうだ!魔法カード!カップオブエース!」
「なんだと……」
カップオブエース。あれはコイントスをして表が出れば自分が、裏が出れば相手が2枚ドローするカードだ。要するに二分の一で強欲な壺を打てるわけだが、なぜBKにそのカードが?今までのターンでやつが使ったカードの中にもギャンブルカードやそれをサポートするカードは見えていないのだが。
「驚いているみたいだな。言っとくが、俺は運ならだれにも負けねえ!生まれてこの方じゃんけんで負けたことはねえし、アイスのあたりを連続で15回引き当てて店から出禁を言い渡されたほどだ!」
突然の豪運宣言。だが、確かにこの状況下でカップオブエースを引き当てたのはこいつの運に他ならない。
「さあ、サイレントソードマンの効果を使うか?」
かといってこいつの言った武勇伝を丸ごと信じるかと言われれば微妙なところだ。ブラフかもしれないし、本当かもしれない。今の駆け引きさえ確率は二分の一だ。
「さあ、どうすんだよ!」
「……その効果はスルーだ」
仮にカップオブエースが失敗すれば俺の手札は2枚増えるし、やつの手札にある鬼神の連撃を警戒したほうがいいだろう。
「なら、いくぜえ!運命の、コイントス!」
虎尾はポケットから100円玉を取り出し、数字の書かれている方を指で示す。そちらが表だと言いたいらしい。……本当は逆だけど、突っ込まないでおこう。
「おらああああ!」
虎尾の指からはじかれたコインは俺たちの目線くらいの高さまで舞い上がり、そのまま重力に従いテーブルに落ちる。結果は……。
「よっしゃああああ!表だあああ!」
「……!」
まさか、本当に二分の一を当てたというのか?にわかには信じがたいが、結果は覆らない。
「カップオブエースの効果で俺は2枚ドローするぜ!」
まずいな。これであいつの手札は3枚。しかも今引いた2枚のカードは正体不明。俺が前のターンに伏せたカードで対応できるのだろうか。
「いくぜ!俺はさらにハーピィの羽箒を発動!手前の魔法罠をすべて破壊だ!」
流石にそれを通すと俺の場には攻撃力1500のサイレントソードマンだけになってしまう。それはまずい。
「サイレントソードマンの効果。羽箒を無効にする」
とりあえず、コレで向こうの手札は2枚。流石にこのターンで死ぬことは無いだろう。
「かかったな!俺は手札からカップオブエース発動!」
「……えぇ」
俺はもう呆れるしかなかった。つまり虎尾はさっきのカップオブエースで2枚目のカップオブエースを引き当てたということらしい。はっきり言って意味不明だぜ。
「再び運命のコイントス!」
再びコインが宙に舞い、テーブルに落ちる。結果は……。
「おらあああ!表だ!」
「……まじかよ」
「それにより、2枚ドローするぜ!そして、三枚目のカップオブエース発動だあああ!」
なんなんだ一体。積み込みか?今回用いたテクニックはストリッパーか?
「おい、ソードマン」
不正ではないかを確かめるためにフィールドに出ているソードマンに話しかける。
「いえ、マスター。信じられないかもしれませんが、彼のデッキにも、コインにも不正はありません」
まじかよ。こいつもうBKよりラッキーストライプ使ったほうがいいんじゃないのか?
「三度目の!コイントス!……当然正位置!2枚ドロー!」
これで手札が4枚。それだけあればもはややりたい放題できるだろう。
「俺は手札から、スイッチヒッターを召喚!墓地からグラスジョーを蘇生するぜ!」
これで再びレベル4のBKが2体。
「この2体でエクシーズ召喚!こい!2体目のリードブロー!」
フィールドにリードブローが2体並ぶ。
「そして、鬼神の連撃発動!今召喚したリードブローの素材を二つ使い、二回攻撃の権利を与える!」
そして、素材が2つ無くなったことで攻撃力が3000まで上がるわけだ。
「そしてもう一枚、鬼神の連撃発動!」
「……」
「もう一体のリードブローの素材をすべて取り除き、二階攻撃可能に!そして攻撃力アップだ!」
これで場には攻撃力3000のリードブローが2体。更に両者とも2回攻撃が可能。
だが、俺の伏せカードを使えば……。
「行くぜ、バトルフェイズ!一体目のリードブローで攻撃だ!」
「トラップ発動!幻影霧剣!リードブローの攻撃と効果を封じる!」
「そいつは読んでたぜ!速攻魔法、コズミックサイクロン発動!ライフを1000払い、霧剣を除外する!」
「永続カードは効果解決時にフィールドに残っていなければ不発になる……」
「そのとおり!さらに墓地での効果も使えねえってわけよ!」
虎尾LP5000→4000
「バトル続行!サイレントソードマンを粉砕!」
ハルカLP6400→4900
「マスター!」
俺はソードマンの声に無言でうなずく。
「沈黙の剣士サイレントソードマンの効果!戦闘で破壊されたとき、デッキからサイレントソードマンLV7を特殊召喚する!守備表示!」
攻撃表示にしてオネストを警戒させる手もあったが、やつがそこまで考えてくるかわからないので守備表示を選択する。
「無駄無駄ぁ!もう一体のリードブローでサイレントソードマンを粉砕するぜ!」
「マスター、ご武運を!」
サイレントソードマンのカードは墓地へ置かれる。だが、やつのリードブローは2体とももう一度攻撃を行うことができる。2体分食らえば俺のライフはゼロだ。
「いくぜ!まずは一体目のリードブローでダイレクトアタック!」
「……!トラップ発動!パワーウォール!」
「な、パワーウォールだと!?」
「デッキからダメージ500につき一枚カードを墓地へ送り、戦闘ダメージをゼロにする!俺は6枚のカードを墓地へ!」
「……だが、まだもう一体リードブローが残ってるぜ!行けえええええ!」
「む、武藤君!」
この一撃を食らえば俺のライフは風前の灯。そして虎尾のデッキが普通のBKじゃないことが分かってる以上、次のターン以降なにかバーンカードが飛んでくるかもしれない。
そうだ、この何が起きるかわからない感じこそが、遊戯王だよな。アニメや漫画で俺たちが見た、限界ぎりぎりの攻防。
でも、俺は負けない。そのための布石は既に打ってある。
「墓地の、光の護封霊剣の効果!このカードを除外し、相手の直積攻撃を封じる!」
「な、なにいい!」
「そ、そうか!武藤君はさっきのパワーウォールであのカードを墓地へ送っていたんだ!」
「まあ、見えてたけどな」
「ああ、見えてたよな」
そこで俺と虎尾は顔を見合わせ、虎尾は大きな声で、俺は小さく笑った。
「あはははは!いやー、聞いたかよ今の溝口のセリフ!アニメかよ!って思わず笑っちまったぜ!」
「まったくだ。パワーウォールの処理の時に俺もあんたも護封霊剣が落ちたのを確認してたのにな」
「ちょ、ちょっと!ひどいよ2人とも!せっかく熱いデュエルになってきてたのにさ!虎尾くんだって『な、なにいい!』とかリアクションしてたくせに!」
「ノリだよノリ。その方が面白いじゃねーか!」
再びげらげら笑う虎尾だったが、数十秒くらいで笑いを止め、俺の方へ向き直る。
「そういやまだ聞いてなかったな。お前、名前は?」
「俺は、武藤ハルカ」
「そうか、俺は虎尾ギン。武藤、お前の言う通り、さっきの俺たちはまるでガキみてえだったな。たかがカードゲームに熱くなって、アニメみたいな演技までしてよ」
「そうだな」
「でも、遊戯王ってゲームの前じゃみんなガキ同然ってのも真理だよな。俺は今楽しいぜ。『あの人』とデュエルしてる時みてえにな!」
「そうか」
「けっ、相変わらず愛想のねーやつだな!まあ、それはいいか!俺はバトルフェイズを終了してターンエンドだぜ!」
虎尾 手札0 フィールド リードブロー(攻撃力3000) リードブロー(攻撃力3000) 伏せカード なし
第8ターン
「俺のターン、ドロー」
これで俺の手札は5枚。フィールドには伏せカードが一枚、モンスターは無し。対する虎尾は手札と伏せカードこそないが高攻撃力のリードブローが2体。ライフは互いに4000近く。つまりあの2体のリードブローを何とかしないとやつのライフは削れないわけだ。
「俺は手札から魔界発現世行きデスガイドを召喚。召喚成功時、デッキからレベル3の悪魔族モンスターを効果を無効にして特殊召喚する。彼岸の悪鬼グラバースニッチを特殊召喚」
「レベル3が2体か」
「俺はデスガイドとグラバースニッチでエクシーズ召喚。幻影騎士団ブレイクソード」
「だが、そこからダークリベリオンにつないでも俺のライフは残るぜ?」
「……俺は伏せカードを発動。異次元からの埋葬。除外されているモンスターの中からダスティローブ、ラギットグローブ、フラジャイルアーマーを墓地に戻す」
「何?それを使わなくても墓地にレベル3の幻影騎士団は2体いるんだぜ?」
疑問を募らせつつも、虎尾の目はキラキラと輝いている。心の底からデュエルを楽しんでいる目だ。俺も、『かつて』はこうだったのにな……。
「俺はブレイクソードの効果発動。素材を一つ取り除き、ブレイクソードと、リードブロー一体を破壊」
「ちっ……やるな」
「そしてブレイクソードが破壊された場合、効果発動。墓地から幻影騎士団2体を特殊召喚し、レベルを一つ上げる。俺が選択するのは、クラックヘルムとフラジャイルアーマー」
「な、なに?レベル4の幻影騎士団を蘇生するのか?」
「特殊召喚した2体はレベルが上がりレベル5となる。そして俺は、この二体でエクシーズ召喚。現れろ、RRエトランゼファルコン」
「レイドラプターズ……だと?」
「そして墓地の剣の煌きの効果。エトランゼファルコンをリリースし、このカードをデッキトップに置く」
その俺のプレイに溝口も、不良集団も、対戦相手の虎尾さえもがポカンとしている。確かに、盤面だけ見れば俺のフィールドは空っぽなわけだし、召喚権も使っている。今の挙動は理解不能なのが普通の反応だ。
「行くぞ。俺は手札からRUMソウルシェイブフォースを発動。ライフを半分払い、墓地のRRモンスターを蘇生し、ランクが2つ上のエクシーズモンスターにランクアップさせる」
ハルカLP4900→2450
「ランク7のRRを出す気か……?」
「いいや、このカードはランクアップする先のモンスターにRRの指定はない。つまりランク7なら何でも出せる。俺が出すのは……覇王烈竜オッドアイズレイジングドラゴン!」
「オッドアイズだと!?」
「オッドアイズレイジングドラゴンの効果。エクシーズモンスターを素材にしたこのモンスターのエクシーズ素材を取り除き、相手フィールドのカードをすべて破壊。一枚につき攻撃力が200ポイントアップする」
「俺の場にはリードブローが一体……。こいつが破壊されてレイジングドラゴンは攻撃力3200になるのか」
「そして、オッドアイズレイジングドラゴンは、一ターンに2回攻撃できる」
「……俺にはリバースカードも手札も、墓地から使えるカードもない……。終わりか」
「バトル。レイジングドラゴンで2回ダイレクトアタック」
虎尾LP4000→800→0
「負けたぜ……」
虎尾が膝を地面に着く。周りの不良たちもそれに戸惑っているが、俺は構わずにデッキを片付け、テーブルを離れる。
「俺の勝ちだ。これで俺は殴られずに済むんだよな?」
「ああ……。デュエルの結果だからな……」
「そうか」
俺はそれだけ言って河川敷から立ち去ろうと歩き始める。
「おい、武藤!」
だが、それを引き留める声は虎尾だった。
「一回勝ったくらいで調子乗んなよ!次はぜってー俺が勝つからな!覚えてやがれ!」
「……次があればな」
一度止めた足を再び動かし、俺は今度こそ河川敷を後にする。
「いいデュエルでしたね、マスター」
精霊状態で隣を歩くソードマンが語りかけてくる。
「まあ、な」
「カップオブエースを3回連続で当てる豪運。そしてデュエルを楽しむ姿勢。彼とはまたデュエルすることがあるかもしれませんね」
「そうかもな」
それにしても、今日だけで2回もデュエルをすることになるとは、これから先が思いやられるな……。
「……おい、ソードマン。今何時だ?」
「午後6時32分48秒です」
「卵、今から買って帰って飯作ったら何時になる?」
「あ」
「あ、じゃねーよ……」
「これは、しばらくうるさいでしょうね、彼女」
「やれやれ……」
***
――ハルカの家
「もー!マスター!ソードマン!晩御飯まだですかー!早く帰ってきてくださいよー!」
この後卵を買って帰ってきたハルカたちはサイマジに小一時間問いただされたらしい。