現実世界で遊戯王!   作:たけぽん

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8. 今度の日曜、暇?

出会いの季節、春。特に確固たるソースがあるわけではないが春という季節は4月に始まり、5月が終わるころには終わっているというのが共通認識なのではないだろうか。すなわち、今日から始まる6月には出会いもクソも何もないのだ。6月ともなればもうみんな新しい生活に順応し、春にできた仲間たちと過ごしていくのだろう。うちのクラスでも、当然のようにそれぞれのグループが朝っぱらから楽しく会話している。

俺を除いて。再三言っているが、俺は別に友達に飢えているわけでもないし、グループで集まるやつらを見下しているわけでもない。

だが、俺がクラスで孤立しているという状況は事実だ。

 

「よお、武藤!いつもに増して生気のねえ目だな!」

 

そんな俺に話しかけてくる人物は一人しかいないので、俺はけだるげにそれに応じる。

 

「五和。お前毎朝俺に話しかけてくるとか相当狂ってるぞ」

「なんだよー。クラスで孤立している友人を気に掛ける優しいクールメンに向かってよお」

「優しいのかクールなのかはっきりさせないとキャラがぶれて裸で走り出す羽目になるぞ」

「あー、GXのやつか!俺ちょうど昨日その話タツヤで借りてみてたわー」

 

などと言いながら五和は俺の前の席に腰掛ける。毎朝こいつに席を占領される前の席の人に同情しつつも、俺は耳からイヤホンを外す。

 

「それで、今日は何の用だ?」

「あーそうそう!今度の日曜日にみんなと新しくできたショッピングモールに行こうって話になってよ。一緒に行かねーか?」

「嫌だ。てかみんなって誰だよ。おれそんな名前のやつ知らないぞ。むしろクラスで名前知ってるのお前だけだし」

「相変わらず卑屈だなあお前は。4月からずっとクラスの集まりに誘って断り続けられる五和お兄さんの身にもなれっての」

「じゃあ、誘わなければいいだろ」

「いやあ、俺としてはクラスのやつらと一緒に出掛けて困り果てるお前をあざわら……助けてやろうと思ってな!」

 

こいつ今あざわらうって言おうとしなかったか?

 

「何万回誘われても俺はいかない」

「いや、そんなこと言わずに……」

「そういえば、あれから遊戯王部には行ったのか?」

 

面倒なので強引に話題を変える。

 

「行ってるよ!毎週水曜日は遊戯王部の日だよ!」

 

そういえば昔はアニメ水曜にやってたなあ。

 

「でもさ、真崎先輩に何度挑んでも勝てねーんだよ!」

「そうなのか?」

 

真崎とは一度しかデュエルしていないから一概には言えないが、俺の中では五和のほうが強いように感じる。

 

「デッキは何使ってるんだ?」

「そりゃあ、お前とやった時に作った芝刈りクリボーだよ!でもさあ、全然芝刈りが引けねーんだよ!」

「まあ、60枚中の2枚だからな」

「そうだよ、でもさあ、ドローカードを使って引きに行ったら芝刈りで落とせる枚数が減るだろ?どうすりゃいいかなー」

 

そこでホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り、同時に担任が入ってくる。

 

「やべ、先生きた。じゃあ武藤、またな!」

 

五和は足早に自分の席に戻り、他の生徒たちもすぐに着席した。

 

「おーし、席ついたなー。そんじゃホームルームを始めるが、その前に今日は転校生を紹介するぞー」

「転校生?」

「えー、まだ6月なんですけどー」

「かっこいい男の子だったらいいなー」

 

唐突な転校生の話に教室はざわめくが、担任の咳払いで静まり返る。

 

「よーし、入れ―」

 

担任の言葉に応じて教室に入ってきたのは小柄な女子生徒。腰くらいまである黒髪。スカートの丈はひざ下まであり、見たかんじだけで言えば真面目な女子、という感じだろうか。

その女子が黒板の前にたつと、担任が黒板にチョークでその名前らしきものを書きだす。

 

「えーっと、遊城ユメコさんだ。はい、自己紹介よろしく」

「はい、先生。えー皆さんおはようございます。ご紹介に預かりました遊城ユメコです。一日でも早く皆さんと仲良くなるのが目標です!よろしくお願いしますね」

 

にこやかな表情でお辞儀する遊城に、クラスの男子たちが盛大に、そりゃあもううるさいくらいに盛大に拍手をする

 

「えーっと、席は……武藤の前が開いてるな」

「え?」

 

俺は自分の前の席を見つめる。全く意識していなかったが、そういえばここに五和以外の人物が座っていることは無かった気がする。

 

「ここ、元から空席だったのか……」

 

そうこうしているうちに遊城は俺の前の席に着席する。と、同時に彼女は俺の方へ振り替える。

 

「どうも、遊城です。よろしくね」

「……ああ、まあ」

 

たいして面白い言葉が見つからなかったので俺の返事も大したものにはならなかった。遊城もさして気にするわけでもなく、黒板の方に視線を戻した。

俺もそれと同時に深い眠りの世界に落ちていった。

 

***

 

気付けば俺は全く知らない場所に立っていた。周りは一面氷張りになっており、足元には俺の姿が鏡のように映っている。

 

「……なんだ?ここ」

 

状況は分からないが、取り合えず歩き出す。本当にどこまでも広がっているし、氷があるのに少しの寒さも感じない。流石にこのままここに居続けたらそのうち気が狂いそうだ。

 

「おーい、サイマジ、ソードマン、いるかー」

 

いつもならこちらから呼びかけることなどないのだが、なぜか俺は二人を呼んだ。

だが、俺の声は空間に木霊するだけで、サイマジもソードマンも姿どころか声さえ聞こえない。

 

「本当にどこなんだここは……」

 

ため息をつきながらも歩き続けると、前方に人影が見えた。

 

「人……?」

 

よくわからないが、誰かがいるならこの状況を脱する糸口になるかもしれない

俺は足早にその人影の方へと向かう。

近づいてみると、そこにいたのは白いローブの魔法使い。俺がよく見た人物だった。

 

「なんだ、いたのかサイマジ。ここはいったいどこなんだ?」

「……」

「またお前の魔法が失敗したのか?」

「……」

「てか、ソードマンは?」

「おい、黙ってないで答え……!」

 

俺がサイマジの肩をゆすろうと手を触れた瞬間、彼女の姿は、まるで氷のようにひびが入り、粉々に砕け散った。

 

「お、おい!どうなってるんだ!?」

 

戸惑う俺の後ろから、再び氷にひびが入る音がした。振り返ると今度は半径10メートルくらいのひびが地面にできており、それがものすごい勢いで砕け散る。

 

「な、なにが……!?」

 

そこに立っていたのは、青白い体に、白いマフラーのような装飾品を付けたモンスター。こいつは確か、E・HEROアブソルートゼロ。昔からヒーローデッキの中核を担う強力なモンスターだ。だが、なぜこいつがここに?

 

「ミツケタゾ……、サマヨエルタマシイ……」

 

そんな短い言葉を話したと思った矢先、アブソルートゼロが、こちらに右手をかざす。

それと同時に、足元に冷たい感触がした。

 

「……な、なんだこれは!」

 

それは俺の足元を包む氷だった。その面積は徐々に広がりだし、だんだんと俺の体全体を包み始める。

 

「や、やめろ!放せ!」

 

それに底知れぬ恐怖を感じた俺は必死にもがくが、だんだんとその力も弱まり、俺は完全に氷に包まれた。

 

 

***

 

「……!」

 

次に俺が目を覚ました時、聞こえてきたのは数学の授業だった。額に流れる汗をぬぐい、顔を上げると、いつもの教室の風景がそこにはあった。時計を見ると、まだ2時間目が始まったばかりだ。

 

「夢……?」

 

あれが、あのリアルな恐怖と闇が夢だったというのか?ならあの時、砕け散ったサイマジは……?

 

俺は慌ててカバンからデッキケースを取り出し、サイマジに語り掛ける。

 

『おい、サイマジ!いるか!』

「はーい!なんですかマスター!」

 

すぐに精霊状態のサイマジが姿を現す。それにほっと胸をなでおろし、デッキケースをカバンに戻す。

 

『何でもない。戻れ』

「えー、なんですか自分からよんどいて!」

 

ぶつくさ言いながらも、サイマジはデッキに戻っていく。

 

「なんだったんだ、今のは……?」

 

体を動かしたわけでもないのに襲ってくる猛烈な疲労感に、俺は再び机に突っ伏し眼を閉じるが、授業が終わるまで俺の意識が夢の世界に旅立つことは無かった。

 

***

 

「はい、今日の授業はここまで。日直」

「起立!礼!」

 

日直が号令をかけるのと同時にチャイムが鳴る。結局、数学の時間から一睡もできず俺は珍しく授業に耳を傾け、気づけば4時間目が終わり、たった今昼休みに突入した。

 

「おーい武藤!昼めし食おうぜ!」

 

そんなブレイクタイムに俺に話しかけてくる五和は、俺の表情を見て首を傾ける。

 

「どうした武藤?なんかやつれてね?」

「……別に。珍しく授業に参加したら疲れただけだ」

「そう?まあいいけどさ」

「ユメコちゃーん!お昼食べよ!」

 

俺の前の席の遊城の周りにはクラスの女子たちが群がっている。

 

「あ、ごめんなさい。お昼休みに行くところがあって」

「えー、残念」

「また今度誘ってくださいね」

 

遊城は女子たちに頭を下げてから席を立ち、足早に教室を出て行った。

 

「遊城、すげー人気だよな。転校初日だってのにさ」

 

俺の視線が遊城に向いていたのを見てか、五和が呟く。

 

「休み時間には男女ともに群がってたのに、男子を危険視した女子が男子を切り離すほどだからな」

「なんだよ。お前いっつも机に突っ伏してんのによく見てんな……。あ!まさか恋か!それでやつれてんの?」

「馬鹿馬鹿しい話すんな、馬鹿がうつる」

「馬鹿を風邪みたいにいうな!……って、誰が馬鹿だ!」

 

ギャーギャー騒ぐ五和は無視して俺は椅子から腰を上げ、ゆっくりと教室を出る。

が、教室のドアを開けた俺の目の前に立つ人物と目が合い、俺は即座にドアを閉める。

 

「おい、武藤!昼飯の話が……。どした?教室出るんじゃねーの?」

「それはどうかな」

「いや、答えになってねーだろ……」

 

すぐに俺の閉めたドアが勢いよく開く。

 

「ちょ、ちょっと武藤君!何で閉めるのよ!」

 

なぜ閉めたかと聞かれれば、その人物に関わりたくないからなのだが、その人物である真崎キョウコは仏頂面でおれを睨む。

 

「あー!真崎先輩!」

 

俺の代わりに五和が盛大に反応する。

 

「あら、五和君。こんにちは」

「どうしたんですか先輩?もしかして、俺をランチに誘いに……」

「いや、それはないわ」

「へぐう!」

 

大げさに胸を押さえて膝をつく五和。こいつはかなり真崎にご執心のようだ。

 

「武藤君、あなたに用があるのよ!」

「俺は先輩に用はないです」

「いいから、ちょっと来なさい!」

 

真崎は俺の手を引っ張り、教室から引っ張り出す。

 

「あ、武藤!てめー、ずるいぞ!」

 

後方で五和が文句を言っていたが、それに答える前にぐいぐいと引っ張られ、俺は階段の踊り場まで連れてこられた。

 

「さて、久しぶりね。武藤君」

 

真崎とあったのは入学式の日にデュエルをしたあの一度きりで、それ以降は廊下ですれ違ったことさえない。てっきり俺を遊戯王部に勧誘するのはあきらめたと思っていたのだが、もしかしてまたデュエルを申し込んでくるのだろうか。

 

「武藤君。あなた五和君とはかなり仲がいいのね」

「いえ、ぜんぜん」

「五和君が誘ったらカードショップにも行ってデッキ構築のアドバイスまでするのに私の誘いは断って、ワンキルかましてくのね?」

「何の話ですか?」

「あなたも知ってるだろうけど、五和君は毎週うちの部に来るからあなたの行動は筒抜けなのよ?」

「えっ」

 

五和のやつ、勝手にべらべら喋りやがって……。

 

「五和がなんて言ったか知りませんが、俺は遊戯王部に入る気はありませんよ?」

「別に、あなたが入りたくないのに無理に誘うつもりはないわ。それじゃあ楽しくないだろうし」

「じゃあ、何の用ですか?」

「日曜日。午前9時に駅前広場の時計の下」

「は?」

「日曜日。午前9時に駅前広場の時計の下」

「……早口言葉ですか?」

「違うわよ!次日曜日に付き合えって言ってるの!」

 

唐突な誘いに、俺は意味が分からず首をかしげる。

 

「だから、日曜日に付き合って……って何度も言わせないでよ!」

 

真崎は恥ずかしさを打ち消すように声を荒げる。

 

「いや、なんで俺が……」

「日曜日に新しくできたショッピングモールの中のカード屋がオープンするのよ」

 

ショッピングモール。確か五和がクラスの連中と行くと言っていたな。そこにカード屋が開くのは全く知らなかったが。

 

「それで?」

「そのカード屋に男女で行くと、プロモカードがもらえるのよ!」

「へえ」

「だから、プロモカードの為に……」

「嫌です」

「そ、即答!?」

「一緒に行く男が欲しいなら遊戯王部のやつ誘えばいいじゃないですか。俺である必要性を全く感じません」

「私だって部の男子を誘ったわよ!でも、なんかみんな遠慮しあって結局誰もOKしてくれなかったのよ!」

 

あー。まあ、遊戯王部の男子たちは女子と二人で出かけるのをすんなり了承できるようには見えないしな。

 

「じゃあ、五和でいいじゃないですか。あいつも日曜日にショッピングモール行くって言ってましたよ」

「……その、五和君はちょっと……」

 

どうやら五和の押しが強すぎて真崎は苦手意識を持ってしまったらしい。どんまい、五和。

 

「だから、お願い!」

「いや、ことわ「いいですよ!」」

 

俺の言葉にかぶせるように了承の言葉が発せられる。驚いてあたりを見渡すと、天井近くに浮かぶサイマジの姿があった。

 

『お、おいサイマジ!なに勝手に……』

『ふんだ。さっきの仕返しです!』

『お前なあ……』

「ありがとう武藤君!それじゃあさっき言った通り日曜の午前九時に駅前広場の時計の下ね!」

「い、いやちょっと!」

 

俺の言葉など聞かずに真崎は階段を駆け上がっていく。

 

 

「……まじかよ」

 

 

***

 

「あっはははは!ハル君が女の子とデートだって?これはノーベル賞ものの出来事だねえ!」

 

放課後、新科学研究所に訪れた俺の話を聞いて竹田は大笑いしながら机の上の将棋盤に駒を打つ。

 

「……言うんじゃなかった」

「いやあ、そんなに怒らないでよ!ふふふ……」

「……王手」

「え?うわ、詰んだ……」

「馬鹿みたいに笑ってるからだ」

 

俺は将棋盤の隣に置いてあるカップを手に取りアイスコーヒーでのどを潤す。

 

「そういえば、あの虹クリボーはどうなった?」

「ああ、そうだ。その話をまだしてなかったね」

 

竹田はまだ笑いをこらえながら駒を箱にしまい、ゆっくりと立ち上がり研究に使っているスペースへ向かう。

工具や機械が乗っかっている机をかき回した後、竹田はこちらへ戻ってくる。その手には俺が以前渡した虹クリボーのカードがあった。

 

「いろいろ調べてみたんだけど、まず、このカードの加工がハル君たちにシクレアに見えるって現象。たくさんの機材でこのカードを映してもやはり僕にはスーレアにしか見えない。同じような現象があるかネットや文献で探したけど、それもなかった」

「やっぱり俺の目がどうかしてんのか?」

「断定はできないけど、精霊であるサイマジちゃんも同じように見える以上、やっぱり普通の文献は意味をなさないんじゃないかな」

「そうか」

「ただ、これを見てほしいんだ」

 

竹田は再び机に向かい、そこから先ほど使っていた将棋盤ほどの大きさの機材を持ってくる。

 

「これは?」

「僕が作ってるソリッドヴィジョンシステム7.5だよ。この機械のディスプレイの四角い枠に遊戯王カードを設置すると、コピー機みたいにカードのイラストを読み取って横についているレンズからソリッドヴィジョンを投影できるようになってる」

「すごいな、もうそこまで進んだのか」

「いや、今まで一回もソリッドヴィジョンは投影できなかったんだ」

「おい……」

「でも、この虹クリボーをセットすると……」

 

竹田は機械に虹クリボーをセットする。すると機械が作動し、黒いディスプレイの下で光が点滅する。それは確かにコピー機のように虹クリボーのカードを読み取る。すると側面のレンズからまぶしいほどの光が放たれる。

 

「うわっ……」

 

あまりのまぶしさに俺は思わず目をつむる。

 

「くりくり~」

「……?」

 

ゆっくりと目を開けた俺の視界に移ったのは、元気よく飛び跳ねる虹クリボーの姿だった。

 

「なんだと……?」

「驚いたかい?これが我が新科学研究所の努力の結晶!ソリッドヴィジョンさ!」

 

その姿は、精霊状態のサイマジやソードマンとも違い、まるで実体を持っているかのような姿だ。まさにアニメや漫画のソリッドヴィジョンそのままと言えるだろう。

 

「まじかよ……」

「えっへん!……と言いたいんだけど、さっきも言った通りソリッドヴィジョンが投影されるのはこの虹クリボーだけなんだ。ほかにも5000種類くらい試したんだけどね」

「つまり、この虹クリボーが特別ってことか?」

「そうなるね。とはいっても、どう特別なのか、それがわからないんだ」

 

わからない。このカードはいったい何なんだ?精霊の宿るカードなのか?だが、この虹クリボーの精霊の姿は見えない。あるのはソリッドヴィジョンとして表れているものだけ。

 

「おっと、そろそろソリッドヴィジョンは消すね。この装置、馬鹿みたいに電力消費するから、5分も持たないんだ」

 

竹田がディスプレイからカードを外すと、ソリッドヴィジョンもすぐに消えた。

五分しか持たないのなら、たとえほかのカードが読み込めても実用可能になるのは遥か先だろうし、竹田の研究はまだまだ続くみたいだ。こいつ、大学の単位は大丈夫なのか?

 

「じゃあ、俺はそろそろ帰る」

 

虹クリボーのカードを受け取り、アイスコーヒーを一気に飲み干してから俺は床に置いてあるカバンを拾い上げ、玄関で靴を履く。

 

「あ、そうだハル君。もしデュエルすることがあったらその虹クリボー、使ってみてくれないかな?」

「え?」

「このカードが何か特別な力を持っているなら、デュエルをすれば発見できることがあるかもしれないだろ?」

「……なるほどな。まあ、機会があれば使ってみるよ」

「うん。それじゃあまたね。あ、日曜日のデートの結果報告もよろし……」

 

竹田の最後の言葉が終わる前に俺はドアを閉め、階段を降り始める。新科学研究所の建物から出た俺は、ふとデッキケースから虹クリボーを取り出す。あいつに日曜日のことを言ったのだけは本当に間違いだったが、この虹クリボーに関しては少なからず進展があった。竹田が実験に使った5000種類ものカードがソリッドヴィジョンにならず、この虹クリボーがソリッドヴィジョン化した理由。それは竹田の言う通り何か特別な力がこのカードに宿っているからだ。

 

「あの、マスター……」

 

隣に現れたサイマジが表情を曇らせながら話しかけてくる。

 

「この虹クリボー、もしかしてマスターの過去に関係が……」

「……そうかもしれないし、違うかもしれない。今の俺にはそれを確かめるすべもない。 なら、気にするだけ無駄だ」

「そう……ですか」

 

サイマジは残念そうに俯く。

それと同時に、俺は背後から何かさっきのようなものを感じた。

 

「……!」

「ど、どうしたんですかマスタ―?」

 

勢いよく振り向いたが、俺の後ろには新科学研究所の建物があるだけで、人はおろか、ネズミ一匹いなかった。

 

「……なんでもない。帰るぞ」

「は、はい」

 

――この時の殺気。気のせいだと思ったそれは、すでに俺たちの運命が大きく動き出していることを示唆するものだった。

 

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