現実世界で遊戯王!   作:たけぽん

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もう9月ですが、作中ではまだ6月です。登場するカードの種類やリミットレギュレーションはそっちに合わせてますのでご了承ください。


9. へえ~、デートかよ

そして日曜日。セットしたアラームを3回ほどスヌーズにしてから起きた俺は、いつもよりゆっくりと朝食をとり、身支度を済ませ、適当に必要そうなものを入れたカバンを肩にかけ家を出た。初夏というのにふさわしく、道を行く人々はだんだん軽装になっている。俺にとっても16度目の夏。だからと言って特に心が躍るわけではない。

 

「思ったより早くついたな……」

 

真崎に指定された時間より15分ほど早く、俺は駅前広場にたどり着いてしまった。休日というだけあって、広場にはたくさんの人がいる。中には俺のように誰かと待ち合わせをしているらしい若い男女がちらほらいる。朝からご苦労なことだ。

俺は約束通り、広場の中央の時計の下に立ち、教室にいるときのように音のないイヤホンを耳につける。

 

「あ、おーい、武藤君!」

 

が、右耳にイヤホンを付けたところで向こうから走ってくる真崎の姿が見えた。

俺は少しため息をつきながらもイヤホンを外し、ポケットにしまう。

 

「ごめん、まった?」

 

少しばかり息を切らす真崎は、そんな社交辞令を投げかけてくる。

 

「いえ、全然。てか、先輩早いですね。まだ15分も前なのに」

「そ、それは!誘っておいて遅刻なんてしたら悪いと思っただけよ!」

「そうですか。それじゃあさっさと行きましょう」

「ムードのかけらもないわね……」

「ムード?」

「なんでもないわよ!ほら、行きましょ!」

 

なぜか不機嫌になる真崎のすこし後ろをついていこうとすると、彼女は立ち止り、一層不機嫌な表情をする。

 

「どうかしましたか?」

「あのさ、武藤君って私のこと嫌いなの?」

「は?」

「入学式の日もそうだったけど、無愛想だし、今も隣じゃなくて斜め後ろ歩こうとしたし」

「無愛想なのはいつもだと思います」

「自分で言うんだ……」

 

まあ、それもそうだが、五和や竹田からもよく言われるし、客観的に見て俺は無愛想なのだろう。

 

「じゃあ、無愛想なのは置いといて、なんで隣歩かないの?」

「休日に俺と一緒に歩いてるところを見られたら先輩の評価が落ちるかと思って」

「……!そ、そんなの気にしなくていいのに。別に一緒にいるところを見られようが、私は全然気にしないわ」

「そうですか。じゃあ、隣歩きます」

 

正直、隣を歩く意味もメリットもゼロなのだが、これ以上めんどくさい話にせっかくの休日を割かれるのも嫌なので、俺はさっさと真崎の横に移動する。

 

「先に言っとくと、俺、先輩のことは嫌いじゃないですよ」

「え!?そ、それって……!?」

「興味がないだけです」

「ちょ!何よそれ!変な期待しちゃったじゃないの!」

「期待?」

「な、何でもないわよ!」

「そうですか。じゃあいいです」

「はあ、こんなんでで今日一日大丈夫かしら……」

 

真崎のつぶやきは特に意に介せず、俺は黙々と歩き続ける。このペースならショッピングモールまではあと5分もせずにつくだろう。

 

 

「そういえば、武藤君は新しい禁止制限見た?」

「ああ、リンクロスが死にましたね」

「やっぱりハリファイバーからの展開が強すぎたわよね、あれ」

「ハリが死ななかっただけありがたいんじゃないですか?」

 

そういえば、この前五和とデュエルしたときにやったリンクロスからのオシリス召喚ももうできないのか。あのコンボ、ブルーDとかも出せるからソードマンのデッキに入れようと思ってたのに、やっぱりデッキってのは思いついたらすぐ作るべきだな。

新しく公式が出した遊戯王ニューロンのアプリなら簡単に構築できるし、アイデアをストックしておく意味でもインストールしておくか。

 

「まあ、そうね。ハリファイバーが消えると解体しなきゃいけないデッキがたくさんあるし」

「そもそもハリファイバーのせいで禁止になったカードの方が多いんで個人的にはそっち返してほしいです」

 

ゴウフウとかスチームとかバルブとか。

 

「なるほど、そういう考え方もあるのね」

「良くも悪くもって感じですよあのカードは」

「なんだか、武藤君って遊戯王のことになると……」

「うわああああ!ど、どいてどいてー!」

「は?ぐわっ!」

 

真崎の言葉をさえぎって突っ込んできた人物が、いきなり俺の後ろから衝突してくる。俺はなんとか倒れないように足を踏ん張り姿勢を維持するが、衝突してきた後ろの人物が無残にも倒れる音がした。それと同時になにかが辺りに散らばる音も聞こえる。

 

「いててて……、ご、ごめんなさい!」

「いや、こっちこそ」

 

じわじわと痛む背中をさすりながら振り向くと、小学校低学年くらいの背丈の男子が尻もちをついていた。

 

「あはは……。って、あー!俺のカードが!」

 

少年はぶつかったときに散らばったであろうカードをあわてて拾い集める。ぶつかってきたのは向こうだが。よけられなかった俺にも責任はある。なので謝罪の意味も込めて足元のカードを拾い集める。

 

「あ、ありがとう!」

「こっちには12枚あった。枚数足りてるか?」

「えっと……いちにいさんしい……うん!足りてるよ!」

「そうか」

 

なんとなしに拾ったカードの一枚をめくってみる。

 

「破壊竜ガンドラか……」

「あれ、お兄ちゃん遊戯王知ってるの?」

「ああ、まあな」

「そうなんだ!俺も一カ月くらい前に始めてさ!頑張ってデッキ組んだんだ!そのガンドラのカード、すごくかっこいいでしょ!」

 

少年はにっこり笑う。

 

「ガンドラかー、それじゃあこれが君の切り札なの?」

 

隣から真崎も俺の手元のガンドラを覗きこむ。

 

「うん!でも、友達には一度も勝てなくて……」

 

すこし視線を落とす少年。確かに、無印ガンドラ単体だと今の遊戯王ではあまりアドバンテージを取ることはできない。効果発動にライフ半分を要求するし、破壊して除外というのも破壊耐性の多い現代遊戯王からすると向かい風だ。

 

「そうねえ、無印ガンドラって使いづらいし……」

「やっぱりそうなのかな……」

「いや、そんなことはない」

「え、武藤君?」

 

意外そうに俺を見る真崎を尻目に俺は鞄の中の調整用カードの箱からカードを一枚取り出して、拾ったカードとともに少年に渡す。

 

「お兄ちゃん、これは?」

「このカードをデッキに入れてみるといい。きっと君のガンドラを助けてくれる。ただ、使いどころが難しいから、よく考えて使うんだ」

「え、でも、あったばかりのお兄ちゃんからカードもらっても、俺、返すものないよ?」

「大丈夫だ。俺はそんなカード36枚もっているよ」

「36枚も!?すげー!」

 

あ、このネタ今の小学生には通じないんだ。ジェネレーションギャップってのを肌で感たぜ……。

 

「ありがとうお兄ちゃん!俺、このカード入れて友達とデュエルしてみるよ!」

「ああ。だが再三言うが使いどころが難しいから……」

「それじゃあね!ばいばい!」

 

俺の言葉を最後まで聞かずに少年は駆け出していく。

 

「……まあ、使ってみればわかるか」

「武藤君、何のカードを渡したの?」

「ちょっとしたエンターテイメントカードですよ」

「え?エンタメ?スマイルワールドでも渡したの?」

「ま、それはさておきさっさとモールに行きましょう。外暑いですし」

 

俺はさっさと歩きだす。今日はサイマジもソードマンも珍しく姿を見せないため、必要以上に疲れることもないので、俺もすこしばかり気を楽にできる。

……というか、あいつらと出会ってからいつも気を張りすぎていた気もしなくはないが。

 

 

***

 

「うげえ……」

 

ショッピングモールにたどり着いた俺は開口一番にうめき声を上げる。

それもそのはず、日曜の朝っぱらからモールには人、人、人。まあ、日曜だから人が多いのはわかるにしても、流石に開店直後の九時過ぎからすでにこの人口密度は意味不明だ。

唯一の救いは外の暑さに反比例するクーラーの風の涼しさだろうか。

 

「武藤君、大丈夫?」

 

しょっぱなからうめき声なんてあげた俺を心配してか、真崎が顔を覗きこんでくる。

 

「あー、はい。まあ、死にはしないです」

「なんで死と隣り合わせ前提なのよ……」

「先輩の言ってたカードショップって何時開店ですか?」

「えーと……10時からね」

「ええ……まだ50分近くあるじゃないですか。それなのになんで九時集合にしたんですか……」

「い、いいでしょ別に!善は急げよ!」

 

どういう善を急いでるのかは全くわからないが、早く来たということは逆説的に帰る時間を早くしても文句は言われないだろうし、それで手を打とう。

 

「先輩。まだ時間があるのなら俺、トイレ行ってきます」

「え?ああ、そう。じゃあ私そこのベンチで待ってるから」

「了解です」

 

真崎に軽く会釈して、俺は入り口近くの男子トイレに入る。

とはいえ、別に催してるわけじゃなく、単に顔を洗いたかっただけだ。あまりの暑さに汗噴き出して気持ち悪い。

洗面台の前に立ち、蛇口をひねるとひんやりとした水が流れ出す。ああ、まさに神の恵み。ライフが500ポイントくらい回復しそうだ。

すぐに水を手のひらにためてばしゃばしゃと顔を洗う。4回くらい繰り返してから、ポケットのハンカチを取り出し顔を拭く。

これで大分さっぱりした。真崎のところにもどろう。

 

「くりくり~」

 

と、思った矢先にそんな声が聞こえた気がした。周囲を見渡してみるが男子トイレには俺しかいない。聞き間違いだろうか。暑くて頭がうまく回ってないのかもしれないな。30秒くらい黙ってみたがそれ以降は何も聞こえなかったので、俺は今度こそ男子トイレを出る。

 

「なーなーねーちゃん。俺と遊ぼうよ~」

 

出て早々馬鹿みたいにでかい声が聞こえてくる。その声は、真崎の座るベンチの周辺から、というか真崎に話しかけているであろうドレッドヘアの男のものだった。

どうやらこれがナンパというやつらしい。初めてみた。

 

「おいねーちゃん、聞いてるのかい?」

「……」

 

その男をガン無視する真崎が偶然こちらの方へ視線を向ける。

 

「あ、武藤君。やけに早かったわね」

 

こちらの存在を認識されてしまった以上、もう一度トイレに戻るわけにもいかず、俺は仕方なく真崎の方へと歩み寄る。

 

「はい。まあ、顔洗ってきただけなんで」

「そう。あ、そうそう。開店まで時間あるしそこのスタバで休憩しない?付き合ってくれてるお礼に奢ってあげるわ」

「あー……じゃあ遠慮なく」

「おいまてやコラ!」

 

意図的にスル―していたのだがそれが余計に怒りを買ってしまったらしく、ドレッドヘアが会話に割ってはいる。

 

「おい、お前!このねーちゃんとはどういう関係だ!?

 

「えーと……まあ、今日は付き合わされてるだけです」

 

ありのままの事実を伝える。

 

「な、なに!付き合ってるだと!お前みたいなさえない奴がこのねーちゃんと!?」

「いや、俺もあんまり気のりはしてないんですけどね」

「気乗りしないのに付き合ってんのか!?何様だてめえ!」

「え?」

 

なんか会話がかみ合ってない気がするんだが。俺が困惑している間にドレッドヘアはどんどん鼻息を荒くする。

 

「おい、てめえ、悪いことは言わねえからこのねーちゃんは俺に渡しな?痛い思いはしたくねえだろ?」

 

どうやらここで真崎を引き渡さないと痛い目に合わされるらしい。それは嫌だ。嫌すぎる。だが、この男の発言には思うところがあった。

 

「なあ、あんたはなんで先輩にナンパなんか吹っ掛けたんだ?」

「ああ?そりゃこのねーちゃんが気に入ったからよ!それ以外に何がある?」

「気に入ったからとか、渡せとか、まるで人を物扱いしてるみたいだが、そんなんで仮に俺が引いたとして、二人で楽しく過ごせると本気で思ってるのか?」

「む、武藤君?別に私はこいつの発言なんて気にしてないし、さっさとスタバに……」

「言うじゃねえかてめえ。つまりお前はねーちゃんを渡す気はねえってことだな?」

「まあ、そうだな」

「なら、さっきの言葉通り痛い目見てもらおうじゃねえか!」

 

その言葉と同時に、男の瞳の奥がわずかに赤く光った気がした。そして、それを裏付けるように男から大きな圧が周囲にのしかかる感じがする。

 

「っ!これは……」

 

だが、その圧を感じているのは人があふれかえったこのモールの中で俺一人。ほかの客は何食わぬ顔でショッピングを続けている。

そして、この圧、というより力に俺は憶えがあった。それと同時に脳裏に浮かぶのは二度と思い出したくない記憶のかけら。

まさか……こいつは……。

 

 

「マスター!」

 

その力を察知したのか、サイマジとソードマンが姿を見せる。

 

『どういう状況ですかマスター!』

『見ての通りだソードマン。確証はないが、もしかしたらこいつは……』

『とにかく、こんなところで『アレ』を始めるわけにもいきませんし、何とかしましょう。行きますよソードマン!』

 

サイマジの提案にソードマンが頷く。

 

『『はあっ!』』

 

掛け声と同時に二人は両手をかざし、ドレッドヘアへ向ける。するとすぐに、奴のはなつ力を跳ね返すような波動が放たれる。

二つの力は大きく反発したが、やがて互いに打ち消しあうように消滅した。

 

「な、何だ?なんで『アレ』ができねえんだ!?」

 

ドレッドヘアは大きく動揺する。

 

「おい」

 

その矢先に俺は宣誓するように口を開く。

 

「デュエルしろよ」

「え?」

 

真崎が間の抜けた反応を示す。まあ、今の一連のやり取りは彼女には見えていないのだろうし、当然か。

 

「デュエルだと?何言ってんだお前?」

「あんた、遊戯王やってるだろ?先輩を俺からひきはがしたいのなら遊戯王で勝負だ」

 

正直、こいつが今すぐさっきの力を出せないことは知っているのだが、それが俺の危惧するものならさっさと解決するに越したことはない。

 

 

「お前、超能力者か?なんで俺がカード持ってるってわかった?」

「……感じたんだよ。デュエリスト特有の殺気ってやつをね!」

 

流石に言い訳としては苦しいか。だが、こちらのことを察知される前にデュエルに持ち込みたい。

 

「いいぜ。相手してやるよ。カードゲームで勝てばねーちゃんを好きにできるなんてローリスクハイリターンだぜ!」

「決まりだな」

「ちょ、ちょっと武藤君?私何も言ってないんだけど―」

「場所はどうする」

「そこのフードコートでいいだろ」

「なるほどな、朝飯前ってのはこのことか!」

 

くそ寒いギャグは無視して、俺はフードコートへの数メートルを進む。

 

『マスター。本当にやるのですか?確かに今すぐには危険はないですが、向こうの情報をもっと集めてからの方が……』

『何言ってるんですかソードマン!向こうが動けないうちにつぶしちゃった方が絶対いいですよ!』

『今回ばかりはサイマジの言うとおりだ。奴が俺たちと『同種』ならデュエルで勝てばおそらく……』

『……わかりました。従います』

 

二人との会話を終え、テーブルに着く。向こうもすぐに向かい側に座る。

俺は鞄からデッキケースと電卓を取り出し、デッキを取り出してシャッフルする。

 

「おい、なんかあそこで遊戯王やるらしいぜ!」

「ちょっと見てくかー」

 

すぐに俺たちの周囲にはモールのカード屋の開店を待っていたであろう人物たちが群がってくる。

 

「デュエルの前に、一応名乗っておこう。俺は武藤ハルカ」

「武藤ねえ……、俺は井上カズマだ」

 

名乗り終わったところで俺たちは互いのデッキをカットする。

 

「先行後攻はどうするよ?」

 

その言葉に、俺はデッキケースからサイコロを二つ取り出す。

 

「ダイスで勝負か。いいぜ」

 

俺の渡したダイスを受け取った井上はにやりと笑う。

 

「「運命のダイスロール!」」

 

ほぼ同じタイミングで投げられた二つのダイス。俺のは赤、井上のは青。木製のテーブルの上で甲高い音を上げながら転がるダイスが動きを止める。

 

「4」

「5だ!」

 

ダイスは井上の勝ち。これで先行後攻の選択権は奴にわたってしまった。

 

「それじゃあ……後攻をもらうぜ」

「何?」

 

先行絶対有利の遊戯王であえて後攻を取るだと?考えられる理由はいくつかあるが……。

慎重にゲームを進めた方がよさそうだな。

 

「どうかしたかよ?」

「……なんでもない。始めるぞ」

 

「「デュエル!」」

 

 

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