その日の夜、結の部屋にマシュが訪ねて来た。
「結さん。少し話したいことがあるのですが…よろしいですか?」
オドオドと、しかし何かを決意したような顔をしていた。立香から聞いた話では、こんなに細くて優しそうなマシュは戦いで大きな盾を振り回し、敵を薙ぎ払っているのだとか。人は見かけによらないものである。結はマシュを部屋に招き入れた。
「結さんは…先輩から全て聞いたのでしょうか?」
「あぁ、うん。『空白の一年』のことでしょ?マシュちゃんも…デミ・サーヴァント?っていうので、いつも守ってくれてたって言ってたよ。」
「はい、先輩と一緒に…。
先輩は私が死にそうになった時、ずっと手を握ってくれていたんです。
それで私は救われました。特異点でも、先輩がたくさん助けてくれました。私は先輩のサーヴァントとして、精一杯守って来たつもりです。
…でもメンタル面は。守れたのでしょうか?負担を掛けてしまっていたのでしょうか?」
マシュは泣きそうな顔になって言う。きっと初めて立香が泣いているところを見て動揺しているのだろう。その原因が自分にあるのでは無いのかと。立香に聞いた通りマシュはまだまだ子供なのだ。友達を傷つけたのではと怯える子供。立香に聞くのには勇気が足りなくて、結に相談してきたのだ。立香のことをよく知る結に。
「うーん、りっちゃんはマシュちゃんがいたからこそ頑張れたんだと思うけどなぁ。」
結の言葉にマシュは意外なことを聞いたと言うように、目を見開く。
「私としてはりっちゃんがマシュちゃんの前でカッコつけようとして、無理しているように見える。」
「や、やはり私のせいで先輩は無理をしてしまっていると言うことなのですか!?わ、わたしのせいで…」
結の言葉にマシュはあわあわと自分を責め、結は言い方を間違えたかと焦る。
「いやいやそういうことじゃなくて、無理をしてでもマシュを支えたかったんじゃないかな。辛くても苦しくてもマシュがいたから頑張れたんだよ、きっと。」
りっちゃんは強がりだからね、と結はマシュに語りかけた。結としてはそれで心配かけたらダメだと思うのだが。
マシュは立香との思い出を振り返る。確かにマシュの前ではいつもかっこいい先輩だった。マシュのことを1番に考えてくれていた。私を頼ってくれた。つまり…
「なるほど、私は先輩を守れていたのですね!」
ぱあっと花の咲くような笑顔でマシュは喜ぶ。それを見た結はあまりの可愛さにクリティカルヒットをくらい、悶えていた。
ついでに他のサーヴァントとともにみていた立香も悶えていた。
(私の後輩可愛すぎる!!!)
そんな立香に気付かない二人はそのまま話し出す。
「先輩は沢山のサーヴァントの方々に慕われているんです。中にはちょっと過激な方もいて…。」
「あー分かる。わかるよ、マシュちゃん。りっちゃんってば人たらしだから、変な人に好かれるんだよねー。中学の時なんかさ、バレンタインに貰ったチョコに髪が入っててさー。」
「はい、そうなんです!男性にも女性にも重いものを送られてていました!私だって先輩に…」
主に立香の人たらしについて話が盛り上がる。この二人、立香のことが大好きと言う点で非常に似ていた。
「マシュちゃんってば、めっちゃ話わかるじゃん!ねぇねぇ、マシュって呼んでいい?私のことも結でいいからさ!」
「は、はい!ですが呼び捨ては…」
躊躇うマシュに結はぐいぐいと迫る。
「ゆ、ゆい…。」
小さな声で言うと、マシュは初めての感覚に戸惑う。今まで人を呼び捨てにしたことがあっただろうか。なんだか結との距離がぐっと縮まったような気がした。
ドクターはこれを望んでいたのだろうか。同年代の普通の“友達”。カルデアにいるサーヴァントとの関係とは少し違う、不思議な感じ。でも、いやではなくて…。マシュはこの気持ちを大事にしたい、そう思った。
「結〜マシュ〜!!二人が友達になれてよかったよ〜!!」
我慢しきれずに飛び出した立香が二人に抱きつく。いきなり現れた立香に驚きながら結はドヤ顔をしてみせる。
「ふふん、りっちゃん。私はマシュに結って呼ばれた。つまりこれは親友と言っても過言では無い!!」
「な、なにぃ!呼び捨てなんて羨ましい…。はっ!結と親友ということは私とも親友!そしてマシュは後輩でもあるから、私は結の先輩…Win-Winじゃない!」
「せ、先輩?!それは根拠になっていませんよ!ゆ、ゆいと先輩は親友なので…あれ?あってるんですかね???」
とたんに騒がしくなったが、絶賛混乱中のマシュを見て、からかいすぎたと反省した結と立香。
その様子はまさに年頃の少女たちの青春…まあ年齢的にはドンピシャである。
「明日の観光はさ、東京にウィンドウショッピング行かない?マシュの服コーディネイトしたいな!」
「いいねー!久しぶりの東京行きたい!お土産もみんなに買いたいし…お揃いコーデもいいなぁ」
「ウィンドウショッピング??ですか?トウキョウ…もともと江戸だったところですよね。日本の首都ですし…行ってみたい、です!」
結が提案すると、立香はワクワクと、マシュは恐る恐る賛成した。立香がちらりとエミヤに伺うと疲れた顔をして許可が出た。
(買い物か…これを機になにか最新のキッチン道具を買うか。いや、これは…荷物持ちだな。)
生前、買い物に行くといつも荷物を持たされたことを思い出したエミヤはそんなことを思っていた。
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