未熟な点もありますが、ぜひ一読お願いします。
プロローグ ~逸話の創まり~
子供の頃、約束をした。
大人になったら結婚しよう。
幼い時期にありがちな、思春期に入った頃には黒歴史となるであろう、そんな約束。
この約束は、願望は叶うこともあるだろう。
だが、叶わないことだってあるはずだ。
僕は後者だ。
身分が違いすぎた。
何せ、相手は一国の姫様。
けど僕は、一年を通して畑を耕している農民。
避暑地として僕の住んでいる村近くの湖を選んだ王様は、村へ訪れた。
そのとき、僕は彼女と出会った。
小さかったけど、よく覚えている。
まるで、人形のような容姿だった。
王様は僕を見ると、「娘と遊んでくれるかな?」と言ってきた。
僕は迷わず「うんっ」と返事をした。
それから一週間、毎日僕たちは遊んだ。
そして滞在最終日の前夜、僕とお父さんとお母さんは王様に晩餐のお誘いを受けた。
そこで、僕は彼女と約束をした。
それから時は十年経った。
国中はお祭り騒ぎだ。
何故なら、姫様が隣国の王子と婚約したからだ。
僕は約束をしっかりと覚えていた。
きっと彼女は忘れたのだろう。
だが、それも当然のことだ。
そう、自分に言い聞かせた。
身分が違うのだ、と。
叶うはずがないのだ、と。
僕はそこで、諦めた。
未練を残さないように、恋人をつくった。
しかし、それから二年が経った頃、ある事件が発生した。
婚礼前の姫様を、何者かが誘拐した。
それを聞いたとき、僕は一度諦めたはずの想いが蘇ってきた。
助けたい。
そうすれば、僕のことをまた見てくれるかもしれない。
僕は装備を整えた。
装備といっても、稲を刈るときに使う鎌より少しだけ大きい物だ。
それ以外は、普通の布の服だ。
家族や恋人に見つからないように村を出た。
彼女を捜す旅に出てから、一週間が経った。
未だに彼女は見つかっていないらしい。
だが、犯人の尻尾は掴めたらしい。
それは有名な女盗賊で、さらに言うなら僕の遠縁の女性で、昔よく遊んでもらっていた。
だから僕の足は自然と、二人の秘密基地へと向かっていた。
それから二日経って、ようやく秘密基地についた。
そこに、彼女は居た。
遠縁の女性も、一緒にいた。
彼女は、僕のことを覚えていた。
約束も、覚えていた。
昔話に励んでいると、草の根を掻き分ける音が聞こえた。
端的に言うと、僕はこの国の騎士につけられていた。
僕の所為で、彼女と女性が捕まってしまう。
彼女は、勝手に婚約させられて、女性に誘拐してもらったらしい。
それを僕の所為で台無しにしてしまう。
無我夢中で僕は鎌を振り回した。
二人が逃げる時間を稼ぐために。
気付くと、血塗れの鎌を持った、返り血に濡れている僕と、首から上がない身体が五体横たわっていた。
殺してしまった。
けど、彼女たちが逃げられたならそれでいい。
きっと僕は捕まって、殺されてしまうのだろう。
僕の足は、彼女たちを追うのではなく、その逆。
城のある王都へと向かっていた。
その日から王都へ向かう途中、何人もの騎士を殺した。
そして王都に着くと、何十人もの騎士が僕に襲いかかってきた。
僕はそれらを、当然のように殺していった。
ある騎士がそんな僕にこう言った。
『この死神めッ!』
死神、か。
だが、僕はそんなことは気にせず、城へ歩を進める。
城へと繋がる広場の前に人集りができていることに僕は気付く。
そこには捕縛されている女性の姿があった。
捕まってしまったのか。
さらに、その後方には腕を縛られて隣国の王子に腰を抱かれている彼女の姿もあった。
僕は歩き続ける。
処刑台の前で立ち止まり、僕に話し掛けてきた大男の首を一閃する。
何が起きたのか、民衆が理解するまでに時間がかかった。
一人の騎士が僕の名を叫ぶと、その民衆は蜘蛛の巣のように散った。
その民衆に紛れて女性を逃がし、城内へと逃げようとする王子を追う。
城門が閉まる前に潜り込み、斬りかかってくる騎士を、逆に斬り捨てる。
その間にも奥へ奥へと、彼女を連れて王子は逃げていく。
そして、王の間に入った途端、僕はさらに怒りを覚える。
彼女は驚愕の表情に顔を染め、涙を流し始める。
王様と王妃が、柱の一つに縛り付けられている。
堪忍袋の緒が完全に切れた僕は、王子の首に鎌を突き付ける。
すると、王子は命乞いをしてきた。
『国の半分をやる』
その言葉に、僕は迷わず鎌を振り切る。
けれど、その刃は王子の首を斬ることはなく、別の刃に防がれていた。
圧倒的なオーラを放つ男に、僕は苦虫を噛み潰したような顔をした。
それを見て、何を勘違いしたのか、相手は武器をしまい、隙を見せる。
その隙を当然の如くつき、男の首を刈る。
心理戦には向かない質だったようだ。
そして僕は最期に彼女に一言告げる。
『僕は、貴女を愛しております。それ故、今すぐこの男の首を刈り、貴女の幸せを手に入れて差し上げます。幸せになってね、姫様』
その言葉を言うが早いか、僕の持つ鎌は禍々しいほどのオーラを放ち、男の首を刈る。
それは魂を殺す力。
それは魂と肉体を完全に断ち切る刃。
それは使用者の魂を糧に発動する諸刃の剣。
男が絶命すると同時に、僕の魂は鎌に吸収される。
こうして、僕は短い人生に幕を下ろした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「これが、この地方に伝わる御伽噺じゃよ」
「御伽噺にしては怖すぎるだろ・・・・・・」
「なに、御伽噺というのは本来恐ろしい物なのじゃよ」
俺の名前はクロス・フェザリーノ。
とある農村に住んでいる農家の息子だ。
今日、16歳の誕生日を迎えた。
この村では16歳の誕生日に、村の長老からこの話を聞くのが掟だそうだ。
何でも、この話の主観である人物がこの村の生まれだそうで、つまり本当にあった話というわけで。
何とも恐ろしい話だが、今から千年以上昔の話ということなので、その当時は王都からこの農村への供給の一切が断たれたらしいが、今はその面影は残っておらず、そこそこは賑やかな村だ。
それに、かつてはここら辺の地方の風習であったこの行事は、今はこの村だけでしか行われていない。
まあ、あまり意味のないことだと思うし、俺が長老になった折にはこれを無くそうと思う。
そこまで生きられるかが問題だが。
取り敢えず、この話を聞き終わった時点で、俺は立派な男になったということらしい。
「まだ童貞じゃがな」
そう、俺はまだ童貞だから・・・・・・─────────────
「って!どどどど童貞ちゃうわいっ」
何を言ってるんだこの婆さんはっ!
ど、童貞は関係ないだろっ!
それはまあ、置いておこう。
「歳の近い娘が近くに居らんくせに、童貞じゃないわけなかろう」
置いておこう!
この話を聞いて何をしろというのか。
実際は何もないらしいが、一種の暗示らしい。
安静に暮らしたくば、この男のような無茶はするな、ということだ。
そ、それに歳が近くなくても、村には独り身のお姉さんや、あと少しすれば成熟するであろう年下の女の子だっているから。
童貞卒業だって、近い未来にできるからっ。
「ふむ、全身から童貞臭が溢れておる。そんなではおなごは近付いてこんがのぉ」
「ほっといてくれええええええええええええ!!!!」
叫びながら長老の家を飛び出す。
そして、逃げるように懐かしの我が家に逃げ込む。
そんな俺を静かに見送った長老は、凍てつくような面持ちで呟く。
「ぬしは呪われた血族。あの男が旅立つ前に、恋人に身籠もらせた赤子の末裔」
村中に響き渡るほどの声で泣き叫ぶ男に向けて、力強く呟く。
「決して、繰り返してなるものか・・・・・・!」