相も変わらず暑いですが、熱中症には皆さま十分お気を付けください。
私は寝つきが悪い程度でなんとか済んでいますが、早くこの暑さから解放されたい………。
また、感想ありがとうございます!
読者がいると実感できる感想は、本当に励みになります。
「すみません、朝早くから」
「いいさ、5時には起きてる。ほれ、そこにあるのが全部楽譜だよ」
登校前、仁科楽器に邦楽祭で弾く曲を調べる為、前日に連絡を入れていたのだ。
「わっ、すごいたくさん……」
「邦楽祭用に弾く曲を探しに来たんだろう?」
「はい、いつも箏関連は鳳月さんに頼ってばかりだし、久遠君やみんなも凄く頑張ってて……。それに、――先日神崎君と弾いた『龍星群』で変な感じを覚えてしまって」
「変?」
言うべきかどうか悩んだが、神崎君がお世話になっている
「神崎君が弾いたのは十三弦でした。楽譜にない音を、終始変なタイミングで弾いてくる。一緒に弾いている僕たちでさえ、リズムや音を何度もつられて間違えました」
「――孝介の奴、最初から弾きおったな」
額に手を当てて、ため息を吐く静音を見ながら『それに、』と武蔵は言葉を続ける。
「実康くんと来栖さんは怒ってました。水原君は苦笑いでしたし、堺君もなんとも言えない顔をしていたのを覚えています。でも――、鳳月さんが信じられないような顔を、久遠君が拳を握りしめながら神崎君を見ているのを見て思ったんです。僕たちには分からなかったけど、二人には神崎君の演奏に感じる物があったんじゃないかって」
実際、あの演奏の後で怒っていた二人を止めて久遠君が言った一言。
『いつか、絶対に俺らと一緒に演奏したいって言わせてやる』
「――だから、僕も部長としてもっともっと頑張らないとって思いまして」
「真面目だねぇ。孝介のことはおいておいても、あんまり肩に力入れすぎるんじゃないよ? 源の孫にそんなこと言われたら、孝介もすぐに部活を辞めるということはしないだろうさ」
棚の扉を開けながら静音が楽譜を何枚か出す。
「ところで、やりたいのは現代曲と古典のどっちだい?」
――――――――――
ハロハロー。
今日は過ごしやすい気温で、とても機嫌がいい神崎です。
現在、職員室で滝浪センセーに邦楽祭のことについて聞きに行ってそのまま部室に向かっているところ。
前方から来た他校の制服を着た女子二人とすれ違ったが、見学かなと思ってスルーする。
部室棟から来たってことは、来年に入学する子たちの部活見学だと思う。
熱心な中学生がいたもんだ、うんうん。
とかなんとか考えている内に部室の前に到着。
しっかし、俺の演奏の後って絶対文句が出るんだけど――イケメン男子の一言には驚いたなぁ。……本当に驚いた。
「お疲れ様でーす」
部室に入ると、机の周りに全員が集まっていた。
「お疲れ様、神崎君」
「何をしてるのです――って、楽譜ですか?」
美人少女の手に『久遠』と書かれた懐かしい楽譜がある。
他にも机の上に二冊の楽譜が置いてあった。
「『久遠』……ですか? それと、そっちには『石筍』に『四重奏』も」
『石筍』と『四重奏』は、大会でもよく弾かれるメジャーな曲だから特に変なところはないが、『久遠』は別だ。
俺が小学生の時、
「邦楽祭で弾く曲ですか?」
「そうよ、何か文句ある?」
ギャル娘が睨みながら俺に反論してくる。
「ありませんよ? 俺には関係ないですら。それで、演奏するのは『四重奏』ですか?」
「いや、『久遠』でいくことに決まったよ」
マジかよ。
『久遠は』、一コト、二コト、三コト、一七弦の四重奏で奏でられる。途中途中で、パートがAとBの二つに分かれる所はかなりの難所だ。
俺と弾いた『龍星群』を抜きにしても、あの全校朝会。三人組のタイミングの危うさを見れば、とてもじゃないが弾けるとは思えない。
「随分と難しい曲をチョイスしたんですね。頑張ってください」
「あれ、神崎君この曲知ってるの?」
「まぁね、小学生の時に弾いてたし」
可愛い系男子、ギャル娘の反応が普通なんだよ?
君みたいに、先日の一件があって本人たちを前にしてそんな態度でいられるなんて……天然? うん、次から天然君でいこう。
「だったら弾いてみてくれよ、俺ら誰も聴いたことがない曲なんだ」
君もか、イケメン男子。
そもそも、俺が満足に弾ける『久遠』はその楽譜に
でも、この前の『龍星群』でも……しょうがない。
「一度だけならいいよ、一コトでいいかな?」
持っていた荷物を置くと、箏の前に座り調弦をして爪をつける。
「一コトって難しいんでしょ、あんたに弾けるの?」
「弾くだけなら問題ないですよ、質は大分落ちますが」
そう弾くだけなら問題はないのだ。
ジャララジャララジャララジャララ。
出だしの音を弾きながら、考えてしまう。
ここにいる人たちは、何故俺が部室にいることに文句を言わないのか?
まぁ、突っかかってくるギャル娘はいるが、一緒に怒っていた長髪ボーイが今日は俺の演奏を真剣な眼で聴いているのが気になる。
それだけでなく、おデブと天然君もじっと聴いていれば、イケメン男子は目を吊り上げてるのか? とにかく凄い目付きで俺の手元を見ているのを感じる。
俺だったら、初日にあんなことがあれば嫌悪感がにじみ出るもんだと思うんだけど、それが全くないし…………本当に変な人たち。
ジャララララン。
弾き終わって一息つくと、イケメン男子と美人女子以外の全員がまばらではあるが拍手をする。
「本当に弾けたんだな。疑って悪かった」
「途中早すぎて、目が追いつかなかったぜ」
「なんで本気で弾かないんだ?」
「どうしてそんな演奏したんですか?」
同時。
イケメン男子と美人女子が異なる発言をしたが、お互いに見ることもなく真っ直ぐに俺を見て来る。
美人女子が突っ込んでくるとは予想できたけど、まさかイケメン男子もとは――予想だにしなかった。
「鳳月さんは分かるけど、まさか久遠君もか」
「あぁ! 俺だとなんかあんのか!?」
「ないよ、意外だってだけ」
周りを見る限り、この二人以外は言っていることがよく分かっていないようだ。
「ちゃんと楽譜の通りに弾いたはずだから問題ないと思ったけど?」
「音程なんて知らねぇよ、まだ楽譜を見てねぇし。ただ、この前の『龍星群』で感じた何かが今回はなかった」
視線を美人女子に向けて理由を聞こうとしたが、俺はそれをとても後悔した。
「確かに音は合ってたと思う。でも、以前の『龍星群』と違って
――はっきりと言ってくれる。
自分でも分かっているからこそ、他人に指摘されるとなおさら来るものがあるというのに。
「確かに、今の演奏だとそういわれても仕方がないか。だったら、こうしよう。小学生の時に弾いていた『久遠』、それを君たちが『久遠』を
「なんだ、また条件かよ」
「俺の弾く『久遠』は、何も知らない君たちに聴かせてしまえば変に先入観を持たせてしまうし悪影響が出る。だったら、自分たちで練習して曲想もしっかりとしたものが出来上がって聴いた方が感じ入る物があると思うよ?」
「じゃあ、練習しよう!」
話の会話の終りに、ギャル娘が大きな声で叫ぶ。
「生意気なあんたに、いちいちあれこれ言われるのも癪だわ。だったら、あっと驚く演奏聴かせてやるんだから覚悟しなさい!!」
「おうよ! 神崎だけじゃねぇ、あいつらもギャフンと言わせてやるぜ!!」
「そうだそうだ!」
よく分からないまま、俺を置いてみんな練習し始めた。
あいつら? っていうのが誰か分からないけど、ここにいる人たちは本当にブレない。
美人女子主導で各パートに振り分けて練習しているみたいだし、ギャル娘も初めて会った日にしていた付け爪も先日会ったときに外していた。
今まで会ったどの集団とも違うから――やり辛い。
一時間後
イケメン男子たち四人が死屍累々のお通夜状態なのを見て、そりゃそうだろうなと少し笑ってしまった。