この音は、ただ君の為に。   作:月の城

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月日が変わりもう9月。

雨が降っても、次の日も雨か曇りじゃないと蒸し暑い日々が続いて頭が働かない作者です。

区切り重視の結果、いつもより文字数も少なくなってしまいましたが、少々独自展開になりました。
賛否両論あると思われますが、かなり先の展開で必要になると思われますのでこのまま進みたいと思います。


11話

 タッタタタン、ジャラララン。

 

 

 これだと一コトより強いか。

 最初から。

 

 

 ――――ターン、タンジャララララン。

 

 

 今度は二コトと合わない。

 …………難しいな、この曲。

 

 イケメン男子たちが『久遠』を演奏すると言っていた翌週の土曜日。

 待ち合わせ場所でもあるカフェの一角で、ある曲の音合わせをしていたが中々に難航している。

 

 知り合いから頼まれた曲で、聴いてみていい曲だったので引き受けたのだが、これは本気で集中しないと秋までに終わんない。

 

「ごめんごめん、遅れちゃった」

 

 後半が駄目なら、いっその事最初からやり直すか?

 前半からの流れで、後半も似たような感じで行こうとしていたけどそれだと厳しいか。

 

「もしも~し?」

 

 いや、むしろ後半の弾き方を全て変えるか? メインにも合わせてそこから……。

 

 飲み物を飲もうと手を伸ばしたら、さっきまでそこに置いていたコップがどこにもない。

 変だと思って目線をノートから上げると、いつの間に来ていたのか泣き黒子(ほくろ)が左目の下にある爽やかな男がニコニコしながらこちらを見ていた。

 

 つか、今飲んでるの俺の頼んだ飲み物じゃねぇか。

 

「やっと気付いてくれた。久しぶりだね孝介!」

「悪い、曲に集中してて全然気付かなかったわ。久しぶり、そして飲み物を返せ桐生」

 

 イヤホンを外してノートを閉じてカバンに仕舞うと、奪い取った飲み物を飲む。

 ……ほとんど残ってねぇし。

 

 

 桐生(きりゅう)桜介(おうすけ)

 

 

 俺と同じ箏を弾く男性奏者で、確か箏では強豪と言われている明陵高校に進学していたはず。

 本来ならイケメン男子たちと一緒に、急遽組まれたという合同勉強会の方に行く予定だったのだが、桐生が神奈川に来るから会おうという連絡があってこっちを優先したのだ。

 

「それにしても今日は楽しかったよ、友達がいっぱいできたし」

「へぇー、どっか遊びにでも行ってきたのか?」

「うん? 合同勉強会で姫坂側から追加で呼びたいって頼まれた時瀬? だっけ。そこの筝曲部に男子がいっぱいいたんだよ! いやぁ、とてもいい人たちだった」

 

 あっぶねー。

 今日の合同勉強会って、明陵高校も入っていたのか。姫坂女学院しか聞いていなかったから、ノコノコと今日行っていたら面倒な事態は避けられなかった。

 

 

 ナイスだ、桐生。

 

 

「確かに、あの連中とはお前仲良くなれそうだな」

「なんで孝介が彼らを知っているの?」

「俺もその時瀬高校の筝曲部員だから」

 

 あ、店員さん。レモンティーお願いします。

 空のコップを渡して注文すると、机の上にあった俺の右手をガシッと桐生に掴まれた。

 すぐに振りほどくが、今度は身を乗り出して俺の肩に手を乗せてくる。

 

「なんとなく予想着くけど……その手邪魔」

「ずるい、僕とも一緒に弾かせてよ(・・・・・・・・)!!」

「違ぇーから」

 

 あ、レモンティーどうも。

 さて、目の前のこいつにどう説明したものか。

 

「でもでも、中学ですぐに部活を辞めたのに高校でまた筝曲部に入るなんて、よっぽど周りが(うま)いんじゃないの?」

「一人別格なのはいるな。でも他はてんで駄目、合わせる価値すらないよ」

 

 バッグの中から音楽プレイヤーを取り出して、桐生の前に置く。

 

「この前、試しで部員と一緒に弾いた『龍星群』が入ってるから聞いてみなよ?」

「本当に!? 孝介の演奏が聞けるなんて今日は本当にいい一日だ、出来れば生で聞きたかったけどそれは今度の楽しみに取っておくよ」

 

 桐生が胸ポケットからイヤホンを出して、コネクタを俺の音楽プレイヤーに繋ぐと目を閉じて聴き始める。

 桐生も俺ほどじゃないけど、一度集中してしまえば周りの音が気にならないタイプだ。

『龍星群』が終わるまでの約七分間、俺は肘をついて外の景色を見ていた。

 

 

 

 

 コトッ。

 

 

 音がしたので視線を桐生に向けると、笑っていた表情が一変して笑みが消えていた。

 

「一七弦を弾いているのが孝介の言う別格の人か。それ以外は申し訳ないけど、基礎すら出来ていない。これじゃあ『龍星群』じゃなくて、それに似せた偽物だね」

「そっ、この実力で俺が一緒に弾くと思う?」

「う~ん、確かに孝介の演奏だと曲にすらならないかな。でも、それならなぜ部活に入ったの? 大会に出るだけなら、部活に入らなくても今まで普通に出てたじゃん」

 

 やっぱり、そこを突いてくるよな。

 

「俺が部員になる前、この人たちが『龍星群』を演奏していたのを初めて聞いたとき、あまりのバラバラさに驚いた。一人が際立って上手いけど、他の人は触ったばかりのような初心者ばかり。途中でリズムもおかしくなるし、音の強弱も変。…………でも、終盤の一コト」

「あ~、最初はずれていたけど後半にリズムが変わった」

 

 

 

 

「久しぶりに鳥肌が立った(・・・・・・)

「!!?」

 

 

 

 

 そう、鳥肌が立ったのは一年前の全国筝曲コンクールで聴いた『――――』。

 それを最後にここ最近は全然そんなことはなかった。

 なのに、粗削りなイケメン男子が鳴らした一音。

 

「桐生に聞いてもらった曲ではそんなことが起きなかったけど、確かに一度はその音を聴いたんだ。だったら、まぐれでももう一度聞きたくなる」

「…………だから入部したって?」

 

 無言で頷くと、桐生が大きなため息を吐く。

 

「僕としては孝介が部活に入って嬉しい反面、練習とはいえ一緒に弾いた時瀬高校の部員たちに嫉妬を覚えるよ」

「桐生と弾くのは全然構わないよ」

「じゃあ!?」

「でも、お前が周りを引っ張って上手く個性を出させようとしたところで、お前の高校の部員の中に俺と一緒に弾ける人が何人いる?」

 

 その言葉に黙り込む桐生。

 全国常連、それも上位のだ。

 そんな高校でさえ、俺と弾くのを嫌がる人は大勢いる。

 

 事実、俺の名前で推薦を持ってきた高校もあったけど、実技試験の演奏で弾いたら簡単に落ちた。

 桐生のような人が稀なのだ。

 俺が誰かと本気で演奏するっていうのは、高校を卒業するまでないのかもしれないな。

 

「でも、僕は諦めないよ。孝介と一緒に弾く機会はまだあるんだ。その時に絶対笑わせてやるんだから!」

「はいはい、期待しないで待ってるよ」

 

 俺が苦笑いしながら適当に返すと、向こうも頬を膨らませて『本気なのに』と(こぼ)していた。

 

 その後は最近の近況だったり、雑談をしながら夕方まで過ごしていたがゆっくりできた週末だったとだけ言っておく。

 

 

 

 つか、あいつに飲まれたレモンティーの代金請求するの忘れてた。

 今度、会った時絞める!!

 

 

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