この音は、ただ君の為に。   作:月の城

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休みの日でも何もしたくない日々が続いてたら2カ月が経過していました……。

すいません、本当にすみません。

まさか、小節を読もうという気力すら出てこないとに内心驚きつつ、最近また続きを書き始めた次第です、はい。

次の話は……早めに書き上げる……予定です。


13話

 

 改めてみんなで無謀な目標を掲げ、次の朝から本格的な練習が始まった。

 

「姫坂のいる位置がここだとして、僕たちの今の位置はどの辺だと思う?」

 

 一冊の大学ノートを七人(・・)が囲み、ノートに『姫坂』と書いて丸く囲むと武蔵がその場にいるみんなに問いかける。

 

「どこって……ま――……この辺じゃねぇーの? 百歩譲って」

「えー、もうちょっと上じゃないの?」

 

 愛が『姫坂』の文字から10㎝ほど下に小さな丸を書くと、光太から疑問の声が上がる。

 それを見て、武蔵はすっと立ち上がり部室の入口まで歩いて行き、ドアの前でしゃがんで地面を指差す。

 

「いや、この辺。自分のレベルもよく分かっていないレベルだからね」

 

 一瞬の静寂が生まれ、青筋を立てた愛が武蔵のネクタイを掴む。

 

「てめぇ、ふざけんなよ。バカにしてんのか?」

「まさか! まずはちゃんと現状把握しないと」

 

 武蔵の言葉に、実康たち三人組が意気消沈した。

 

「お……俺らってそこまでレベル低かったのか……。『龍星群』、結構いけてたと思ったけど……」

「おお、鳳月さんもいんのに……」

「上手くなったと思ってたのに……」

 

 

「『龍星群』は、気持ちと勢いで技術面をカバーしてたとこが多いし、鳳月さんに大分ひっぱってもらってたからね。でも、それじゃ全国では通用しない。『そろえる』、『合わせる』。全国では出来て当たり前(・・・・・・)のことが僕たちはまだ出来てない。―――というか」

 

 

 真剣な武蔵の雰囲気が霧散して肩から力が抜けると、表情ものほほんとした感じになる。

 

「まだそれ以前のレベル、っていうか……」

 

 三人組の脳天にクリティカルヒットする鋭利な言葉により、実康たちは倒れた。

 

「た……たけぞー先輩。なんか刃が鋭く……」

「そんなひどかったのか、俺ら……」

 

 その様子を近くで見ていた姫呂は、武蔵の認識を天然のSとした。

 

「あ、やっ……ごめん……。とにかく! まずは今の自分たちの実力と課題を明確にしよう」

 

 それを心配そうに見ていたさとわに気付いた愛が釘を刺す。

 

 

「おい、鳳月。言っとっけど、お前俺らに合わせよーとか思うなよ?」

「え?」

どいつもこいつも(・・・・・・・・)、お前と俺らのレベルがどーのこーの言ってっけど、お前ぜってー俺らに合わせーよとすんな。100%全力で弾けよ」

 

 

 思わぬ言葉に虚を突かれた顔をしたさとわだが、すぐにいつものすまし顔に戻る。

 

「当たり前でしょ。なんで私が手を抜かなきゃいけないのよ、やるからには本気でやるわよ。むしろ私、これからさらに()に行くつもりだから追いつけなくて泣いたりしないでよね」

「んだとコラ! てめーなんぞ瞬殺してくれるわ!!」

「やれるもんならやってみなさいよ」

 

 自分の場所で起きていたことが終わったと思ったら、今度は別な場所で起きている言い合いに武蔵と姫呂は目が点になる。

 

「なんでそこがライバルになってんの?」

「まあ、いいじゃん」

 

 

 

 そんな時にふと溢した光太の一言。

 それが、後に自身の首を絞める結果になることを今の光太は予想だにしなかった。

 

 

 

「そういえば、鳳月さんが姫坂と同じかそれ以上に凄いのは分かってるけど、神崎君は結局俺らと同じぐらいってことでいいのかな?」

「それは……」

 

 武蔵が言葉に詰まってしまうのは、一緒に弾いた『龍星群』とこの前聞いた『久遠』だけしか知らないからだ。

 

 楽譜にない音を弾いてほとんど(・・・・)滅茶苦茶だった『龍星群』。

 片や、楽譜通りに普通に弾けていた『久遠』。

 

 相反する二つの演奏だけでは判断がつかない。

 そんな中、口を開いたのはいつも通りの二人。

 

 

「ムカつくけど、俺らよりはずっと上手いと思う」

「断定は出来ませんが、恐らくコンクールでも上位を取れるレベルだと思います」

 

 

 愛だけの言葉だけでは信憑性が薄いが、さとわが肯定したことで信用性が一気に跳ね上がる。

 

 

「その理由を聞いてもいいかな、鳳月さん?」

「私も聞きたいかな、鳳月ちゃん」

 

 

 周りが次々とその理由を鳳月に聞きたがるが、同じようなことを言った愛も鳳月の言葉が聞きたいのか黙ったままだ。

 

「神崎君が部室でしているのは、弾き方を変えて繰り返し同じ箇所を弾いているだけです。これだけでは何がしたいのか分かりませんが、彼の演奏を聴いた三回(・・)。それを踏まえると、なんとなくですが分かったことがあります」

「三回?」

 

 武蔵の言葉にさとわが頷く。

 

「部室で弾いた『龍星群』、『久遠』。そして、仁科さんの楽器屋で偶然聞いた曲です」

「そうか、そういえばそうだ」

 

 さとわがノートの近くに置いてあるペンを持つと、武蔵にノートを借りていいか聞いて了承を得たので姫坂と書いてあるページに書き始める

 

「分かりやすい順で書いていきましょう」

 

 ノートの下の方に『久遠』と書き、姫坂の文字の下に『楽器屋』の文字を書く。

 そして、ノートの中央に『龍星群?』と入れてペンを置いた。

 

「私の所感になりますが、こんな感じになると思います」

「確かに、ノートの中に書かれてる時点で俺らより上手いってのは納得がいくけどよ? ばあちゃんの家で弾いていたあれがそんなに凄いのか?」

 

 実康の言葉に堺と光太がうんうんと頷くとそれに答えたのは、さとわではなく愛だった。

 

「何の曲かは知らねぇけど、あれに比べれば俺らは……俺らは…………まだひよっこだと思う」

 

 余程言いたくなかったのか、後半は歯ぎしりをしながら絞り出すように言った。

 

「あなたがそこまで分かってるなんて珍しいじゃない」

「ああ゛!? 喧嘩売ってんのかお前!?」

 

 愛の両肩を実康と堺が押さえて止めているのを見ながら、さとわが続きを話す。

 

「何の曲かは私も分かりません。でも、あれは最初の一音で分かりました。ノートには姫坂の下に書きましたけど、どういった曲か分かれば――」

 

 『楽器屋』の文字を丸く囲み、姫坂の文字の上まで矢印を引っ張る。

 

「姫坂の練習で聞いた『二つの個性』、あれよりも評価は上がるかもしれません」

 

 さとわの言葉にどよーんとした空気が3人組にのしかかる。

 それを見かねたのか分からないが、武蔵が声を上げる。

 

「だったらさ、今日の放課後に神崎君が来たら聞いてみようよ。いつも何の曲を練習しているのかさ」

「そうだな。つか、なんであいつ朝練来てねぇんだよ!」

 

 今さらな話題に、愛がまた怒り出す。

 思い出されるのは昨日の放課後。

 壁に各々(おのおの)が一文字ずつ書いた目標を壁に貼っていたのを見ていた時だ。

 

 

『俺、朝起きるの苦手なんで朝練はパスします』

 

 

 部活としては強制ではないため強く言えないが、それでも部室内の空気が凍ったのは確かだ。

 当然の如く愛や姫呂が怒ったけれども、最後まで意見を変えることはなかった。

 

「でもさ、一度だけだったけどまた神崎君と一緒に弾いてみたいね!」

 

 昨日のことを思い出していた一同の中、光太の言葉が部屋に響く。

 

「たりめーだ、絶対に土下座させて一緒に弾くって言わせてやる」

 

 そんな感じで武蔵とさとわ以外がやる気に燃えている中、二人はその状況を見ながら同じことを思っていた。

 

 

 

 まずは自分たちが弾けるようにならないと駄目なんじゃないか? と。

 

 

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