この音は、ただ君の為に。   作:月の城

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 以前投稿したのはいつですか?
A.……半年前です。


 早めに書き上げると言っていたのは誰ですか?
A.……私です。


 理由は何ですか?
A.仕事に必要な資格を落としてしまい、次がなかった為です。


 完結するつもりはありますか?
A.原作の「この音とまれ!」が続く限り完結しません。――生意気言ってすみません。


14話

 

「―――じゃあもう一回、さんはいっ」

 

 

 タカタカタダッ。

 

 

「ぐあっ、また!」

「何度やっても上手くいかないね……」

 

 朝練をした日の放課後、一昨日と同じような光景が繰り広げられている。

 でも、その時と違ってギスギスした感じはしない。

 むしろその反対で……。

 

「おいメガネ、お前俺の音にかぶってくんじゃねーよ!」

「久遠君こそ、ちゃんと一定のリズム刻んでよ!」

「あ゛!? てめぇが―――」

 

 

 どんっ。

 

 

「これメトロノーム。持ってきたから今日からこれ使って」

「――ありがとう鳳月さん」

 

 熱くなりそうなタイミングで、美人女子がメトロノームをイケメン男子と眼鏡君の間に置く。

 タイミングを取るという点では確かに最適かもしれない。あまりやりすぎると、他のパートにも引きずってしまうから頼りすぎもよくないけど……。

 今の二人なら、丁度いいか。

 

「め、めとろ……? 何だこれ?」

 

 イケメン男子がメトロノームの針を触ると、一定のリズムを刻みながらカチッ、カチッと音が鳴る。

 

「これでリズムを体に叩き込もう」

「すげぇかっけー!! 最終兵器じゃん」

 

 美人女子が部室内で練習している他の人たちを見回していると、それに気付いた眼鏡君が声をかける。

 

「何か気になることあった?」

「あ、いえ。みんなに一通り手を教えてから、最近は自分の練習をしていたのでどんな感じかなと」

 

 

 シャン、シャン、ザー、タララララン。

 

 

「ふぃーっ、少し分かってきたかも!」

 

 イケメン男子と眼鏡君の練習中も聞こえてきたわけだけど、さすがに無視できない。

 テンポが独特過ぎるというか、なんというか……。

 

「水原君、手はともかくリズムがかなりあいまいみたい。十六分音符から四分音符になるところとか、注意した方がいいかも。

「? ……? しぶおんぷ?」

 

 目が点になっている天然君を見かねたのか、眼鏡君が楽譜を広げて説明を始める。

 

「水原君。ほら、こことかかな。ここまで十六分音符で、次の小節で四分音符に変わるんだ。この二つのリズムが違うのは分かる?」

「あっ、うんうん! こっちは音符が縦にぎゅっとなってるから速く弾いて、こっちはそうじゃないからゆっくりと弾けばいいんだよね?」

 

 音楽の知識がない状態だったらその解釈で全然問題ないんだけど、大会で弾こうとしているんだったらその認識だけではちょっと甘い。

 

「……うん?」

「まあ、間違っては……ない……?」

「何言ってんの、お前?」

 

 眼鏡君と美人女子は、すでに当たり前になっているからそんな反応になるよな。

 イケメン男子も同意するかと思ってたけど、違うんだ?

 

「でも、ただ適当に速く弾いたりするんじゃなくて、えっと基本のテンポがあって……」

「? ……?」

「お前も何言ってんの?」

「そういや俺もリズムとかよく分かんねーな」

 

 ごめん、イケメン男子は完全な感覚派だったか。そりゃ分かるはずもない。

 

「サネとヒロ先輩は分かる?」

「まぁ、……何となく分かっけど……」

「説明できないわ」

 

 確かに説明するのは難しい。

 こればっかりは何度も弾いて、聴いて理解するモノだから。

 

「えっと、じゃあこういうのはどうかな? ここに四つの区切られた道があります」

「あ、箏の楽譜と一緒!」

「四分音符はお父さん。お父さんは一区切りを一歩で行けるので、四歩で道を渡れます。これが基本のテンポ」

 

 なるほど、絵でタイミングとかを教えようとするのか。

 片耳につけていたイヤホンを外して、俺も眼鏡君の説明をしっかりと聞く。

 

「八分音符はお母さん、お母さんはお父さんより歩幅が狭いからお父さんと並んで歩くにはお父さんが一歩進む間に二歩進まなくてはなりません。そして、十六分音符は子供。子供はさらに歩幅が狭いから、お父さんが一歩進む間に四歩進まないと一緒に歩けません」

 

 ……間違ってはいない。間違ってはいないけど……、その表現の仕方だとー―。

 

「だから十六分音符はただ速く弾くんじゃなくて、お父さんの一歩にぴったり四歩で追いつけるように合わせなくちゃいけない。速すぎたり、遅すぎたら一緒に並んで歩けないからね」

 

 イケメン男子と三人組が少し俯いて静かになると、眼鏡君も彼らの様子が変なことに気付いたようだ。

 

「あ゛……逆に混乱させ……」

 

 

 

「「「十六分音符……!!! けなげすぎんだろう!!!」」」

 

 

 

 

 だよね、この表現だとロクデナシの父親と必死な子供という図になってしまう。

 

「それに比べ四分音符、ろくでもねぇ父親だな!」

「自己中すぎんだろ!!」

「子供がこんな必死に追いかけてんのに少しぐれー待ってやれや!!」

「たけぞー先輩、俺がんばる!! 親子がバラバラにならないよう必死にがんばるよ!!」

「う……うん! がんばれ!」

 

 親父を越えてやろーぜとか聞こえて来るけど、越えたら駄目だから。

 さて、俺も戻るか。

 イヤホンを挿そうとすると、天然君がいつの間にか目の前まで来ていた。

 

「神崎君はいつもイヤホンしてるけど何聞いてるの?」

 

 急に何?

 つか近いわ、天然君。

 

「――いろいろ。今は知り合いに貰った曲を聴いてるけど」

 

 イヤホンを片耳に挿して一音鳴らすが、天然君の離れる気配がない。

 両耳に挿してないから入れない(・・・・)とはいえ、ここまで近くにいたら集中できないわ。

 

「質問には答えたけど、何?」

「一緒に練習しようよ!」

「ねぇーから」

 

 前に『久遠』を弾けるようになったらもう一度合わせると言ったのに、その前に一緒に練習? 

 しかも、一緒に大会に出ないのに練習するとか時間の無駄でしかない。

 

「気が散るからそこ退()いてくれる? あまり時間無いし、君たちに構ってる余裕ないんだよね」

「ちょっと、そこまで言わなくてもいいじゃない!」

 

 ギャル娘が立ち上がり睨んでくる。

 はいはい、お邪魔虫はいなくなりますよ。

 

「――お互い練習にならなさそうですね、今日は先に帰ります」

 

 片付けて荷物を取ると、さっさと部室を後にする。

 周りが何か言っていた気がするが、両耳にイヤホンしてたから何言ってるかまでは分かりませんよ。

 

「……少し早いけど、ばっちゃんの家に行って通しで弾いてみるか」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「なんなのよあいつ!」

「練習って言ってたけど、今日も1音ずつ鳴らしているぐらいだったよな?」

「そうだな」

「邪魔しちゃったかなぁ」

 

 姫呂と三人組が騒いでいると、ターンと箏の音が響き渡る。

 

「愛?」

「俺たちが『久遠』を弾けるようになったらあいつは一緒に弾くって言った。だったら、そん時に言いたいことを言えばいい。今の俺たちじゃ、何言っても伝わらないと思う」

 

 そう言った後、再び楽譜と格闘を始めるのを見て四人も練習に戻る。

 それを見ていたさとわが愛に向かって笑みを浮かべると、近付いて一言。

 

 

 

「そこ、間違ってる」

「んが!」

 

 

 


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